───黄昏の館───
「【ジャガーノート】か、ダンジョンの抗体にして災厄…先に話は聞いていたが本当にあんなモノが存在するとはな…」
「存在が知れただけでも良かったよマリーには後で礼を言わなきゃね…」
「【火炎石】のような特殊な物を使わなければ、冒険者個人では魔法の破壊力以外では現れる可能性はほぼ皆無だというのに…魔道士の天敵みたいな奴だったな…つくづく『ダンジョンの悪意』というものは意地が悪い」
「或いは反射しきれなそうな広域魔法に巻き込めば通用する可能性もあるじゃろうが…」
「あの速さと反射の性質を考えるとリスクが高い…あの意外に低い耐久力を思えば、ベートや僕、アイズが足止めして、横合いからガレスやティオネ、ティオナが叩くのがベターかな、勿論出現させないことがベストだけどね」
「当然アイズは魔法禁止だろうが…大丈夫か?」
「また…魔法が効かない相手…マリーやアルフィアさんだけで充分なのに…モンスターにまで…ブツブツ」
アイズはまたもや自慢の【魔法】が通用しなそうな相手の出現に苛立っていた。というか最近多すぎだろう。
ベートの魔法も似たような方向性だったし。
未だに勝機の1つも見えない才禍の2人に加えにっくきモンスターにまで。ベートは当然のことあの2人もほぼ味方のようなものなのでまだいいが。
「というかあの酒場にいたらしい金髪エルフは誰が相手にするんだ?ババアどもは呑気に喜んでいたが、他にいる3人のエルフ共もアレと同格以上なんだろ?」
「はあ」
はあである。アレと戦うとか本当にため息しか出ない。心情的にやりにくい団員のほうが多いのに、実力でも負けているのだ。
「リヴェリア、今からでもあの4人の内1人くらい引き抜けないのかい?レフィーヤもフィルヴィスだけでもなんとか…」
「無理だな」「無理です」
「だよねえ…取り敢えず言ってみただけだよ…」
フィンも判りきっていることをつい聞いてしまう。その程度には参っている。
「フィルヴィスさんは今でも私のことを親友と想ってくれていますが…直接の恩人であり、普通の友人として接してくれるマリーのことを滅茶苦茶慕っています…
向こうのファミリアと関係のないところで一時的に力を借りるくらいならともかく、【ヘスティア・ファミリア】そのものを裏切ることは絶対に有り得ません」
「だろうな…一応形式上は私を敬ってくれてはいるがマリーのことはそれ以上に敬っているし慕っている。特にフィルヴィスを救ったことが大きいのだろうな…
あんなの、【
神ヘスティアもよく慕われている、結束は固い、当然のことだが戦うことになれば私でも普通に攻撃されるだろう」
ちなみにリューとフィルヴィスはかなり仲が良い。
暗い過去を持った者同士何かと馬が合う。
「チッ」
ベートは気に食わなかった。
既に自分だけが
そして今話題に挙がっているエルフ共も紛れもない強敵だと言うのに、後ろに控えるレベル8以上の3人の女と比べると前座のオマケでしかないということも、だ。
というかなんであの
そう言えば、そもそも自分も道化の眷属だったな…まだ触り程度の話題とはいえ盤外からのことまで考慮しなければならない現状が情けない。
「正面から叩き潰してやればいい」と言えればどれだけ楽か。戦いもせず尻尾を巻いて逃げるのは負け犬以下だが、
絶対に勝てない相手に挑んで無様に蹴散らされるのは唯の自殺志願者だ。今回ので増えたであろう向こうの
そいつらですら主力ではないのだ。小粒の雑魚共はまだまだこちらの方が質も数も上だろうが、逆に言えばもうそのあたりしか勝っていないとも言える。
脇を固めるレベル6も下手をすれば質と量でこちらを上回られ兼ねない。
というかフィン達の見立てでは、正面からマトモに総力戦したらあの3人の内の2人だけでこちらが全滅し兼ねないという戦力評価だ。
かつてのゼウス・ヘラ達を知る者らの言葉だ。今より大分弱かった頃とはいえ。恐らくそう間違った見立てではないだろう。
「2人の才禍」というのが本当にどうしようもないらしい。業腹だが
魔法の引き出しの多さと万能性はともかく、個人の戦闘力としては【静寂】も大差ないらしい。その本来の戦法も、得意魔法も。
あんなのが2人もいて未だに貪欲に戦力を求め、向上心を失わずに鍛え続けているとか、そのあたりの姿勢は尊敬出来るのだが…
本当に何と戦うつもりなんだか…黒竜か。かつての仇敵を産み出した大元にして元凶、当然自分としても殺したい対象ではあるのだが───
本当の標的は黒竜で、その準備段階として、ついでのように【
だがフィン曰く「【
その上から目線も腹が立つ。まあもし自分達が無関係だったなら【フレイヤ】の連中がぼこぼこにやられるのは最高の見世物だとは思うのだが。
「私が…」
「リューさんとは私が戦って…みたい」
「「「は?」」」
「「「アイズ!?」」」
「お前兎野郎と戦いたいって言ってたじゃねえか…」
「うん、ベルも譲る気ないけど…昔あの人と戦って決着が着かなかったこと思い出した…」
「「「はあ!?」」」
「お前いつの間に、そんなことを…」
「確かお互いを
「はいはーいじゃあアタシがアルゴノゥト君と戦ってみたーい!」
「ダメ…ベルは…私の」
「じゃあ俺が───」
「ベートさんはもっとダメ…
「なんでだ!?」
ガチめの殺気を乗せてアイズがベートを睨む。
「まあどのみち向こうの方からも『ベルの相手は是非アイズに』って指名が来てるから…その他は各々個人でやってくれ」
───
ジャガノートを討伐した後はそのまま引き返した。キリのいい50階層まで潜って休んでも良かったのだがあんまり深く潜りすぎて
例のイモムシ共に鉢合わせたら面倒だからだ。【サタナス・ヴェーリオン】とは相性が良いとは思うのだが、少人数過ぎて手が足りなくなる可能性がある。
それに【幸運】のお陰でドロップアイテムが多く荷台がいっぱいだ。竜の壺とかの超危険地帯はレベル6以上の団員だけで行ったほうがいいだろうし。
そうしてトラブルもなくすんなり帰還した。
「いやー儲けた儲けたぁ!宝石樹稼ぎはちょっとやり過ぎちゃってたから変化を付けられて良かったわー普通なら運搬が大変なオリハルコンも荷台のお陰で沢山運べたし!」
いくつかの取引をバベル前で待っていたリリとリュディに任せ、ホームに帰還する。
そうして充分に休息を取った翌日に、豊穣の女主人で打ち上げをする。
ジャガノート戦は豊穣の女主人の店員達にも見せていた。
そこらの冒険者には見せたくなかったので、店を一時的に閉めてもらって、だ。
あの戦いぶりを視ていたのなら皆もリューさんを安心して送り出せるだろう。
「それでは遠征の成功と、リューさんの冒険者完全復帰とリリと春姫とベルとアーシェのランクアップを祝って」
「「「「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」」」」」
ヴェルフとリュディとリューさんもランクアップしようと思えば出来るのだが、まだアビリティが上がる余地があるのでお預けだ。
アストレア様もゲストで呼んでおいた。私もミアさんと一緒に料理を作りまくって準備に貢献した。今日は店員らも総出でお祝いなので貸切状態だ。
「いやーしかしリューもやるもんニャーあんなはえーバケモンを内側からドッカーンって…凄かったニャー」
「なんでクロエさんは上から目線なんですかね…」
「マリーも更に速かったしやるもんニャー流石ミャーの後輩」
後輩って…まあここでは確かにそうなんだけど…というか凄いなこの
この危機感のなさでよく裏の仕事なんて出来てたな…ああ、こんなだからミアさんにとっ捕まったのかもな…
リューさんは「しょうがないなあ」みたいな感じだが、他の3エルフ達の眼が険しくなっている。
「安心したよ、リューが上手くやれてそうで、アンタがいるならそうそうくたばることもないだろうし、ね
他の連中の個々の実力も【ロキ】の連中と同等以上にも見える、纏まりもある良いファミリアだ…あのバカどもにも見習わせたいくらいさ」
ミアさんが私に話しかけてくる。
「良いと思ったならミアさんもまたやってみませんか、冒険者。ミアさんなら大歓迎ですよ」
「バカ言ってんじゃないよ第一もうそんな歳じゃないさ、アンタもみすみすおっ
「そう言ってもらえるのは嬉しいですし、私は構わないですけど”それ”おばさまの前では言わないでくださいよ?絶対に面倒臭いことになりますから…」
「ハハッアイツに溺愛されているってのはホントなんだねえ!昔のアイツはいっつも顰めっ面か仏頂面で何が楽しくて生きてんのか理解んなかったよ」
「1回見たっきりだったが、妹らしき娘と居た時だけは別人みたいに穏やかに微笑んでいたんだけどねえ…」
「お母様…」
「そうだ、確かにアンタらみたいな白髪だったよ」
まあそんな感じだったんだろうな…今でも私達姉弟と居る時だけは結構笑顔で居てくれるのだが、ジジイも居た時は大体そんな感じだった。
「相変わらず騒がしいのは苦手なのかい…坊主もランクアップしたってのに来ないじゃないかい」
「『お前らのペースでいちいち祝っていたらキリがない』だ、そうです。まあ私が
「ハハッあんたならそう遠くないんだろうねえ…楽しみだよ」
「いつだったかアリーゼ達が『黒竜退治』を口にしていたことがあったわね、貴方達なら夢物語じゃないところまできているのかもね」
私達の会話を横で聞いていたアストレア様が口を挟む。
「アストレア様もやり切った感出していないで、新しいファミリアを強く大きくしてくださいね?ダンジョンが失くなったら暇を持て余した神々が何をしでかすか判んないんですから…
その時にかつての【アストレア・ファミリア】のような確かな力が一つでも多いほど悲しむ人々が減るんですから、ね」
「『ダンジョン喪失後』…貴女はもうそこまで見据えているのね…」
「よくダンジョンを生物のように神様達例えているじゃないですか…生物ならそのうち死ぬのが道理でしょう?」
「ええ、そうね…その通りだわ…」
「それに今回の面子には最低レベル8くらいは目指してもらわないと」
(ベルは勿論10くらいだけど)
「ねえさぁ…ん」
「情けない声出してるんじゃないのっ、貴方は私と共に人類の最前線に立つんだから、まだまだこれからよっこのままだと私とおばさまの2トップになっちゃったら皆に恐がられ易くなっちゃうわよ、それでもいいの?」
私のイメージは大分良いのだが【静寂】を知る者からすれば彼女が2人いるような錯覚を覚えるだろう。その程度には私達の容姿は似ている。
さてレベル6とは紛れもなく世界的強者である。
少し前まではレベル7が最強で、6と言ったら「準最強」と言っても過言ではなかった。
まあ【
現在の頂点は8(本当は9)、ここまできてようやく「【ゼウス・ヘラ】の頃に追いついた」と言えるだろう。
だが私達は「その先」を目指さなければ「終末」を乗り越えられない。時代は逆行していると言えるがそれだけでは足りないのだ。
春姫やアミッド先輩のような特殊なポジションでなければ、私が前線で戦う純粋な戦闘員に求める最低レベルは7だ(春姫達は最低3)
脇の連中でも7以上は欲しい。最大戦力になるであろう私達は10以上だ。9が率いて無様に敗走したのだからそこを目指すのは当然だろう。
またこの先私達以上の世代が現れるとも思えないので、「ダンジョン完全攻略」も当然目指す。
バロールが過去に【単眼の王】と呼ばれ、地上に進出していたことがあることも考慮すれば、三大クエストの討伐対象もいずれかの未踏階層の階層主なのだろう。
そいつらを連戦でも再び乗り越えられる地力が必要だ。まあだからこの場で水を差すようなことはこれ以上言わないが、「レベル6」とは
私からすればまだまだ入口に立った程度だ。ヘルメスあたりの言葉を借りれば「ようやく【英雄候補】にエントリーした」といったところだ。
レヴィスはイレギュラーみたいなもんだし、私とおばさまも存在自体が反則のようなものなので、私達3人抜きで現在の力量での【ロキ・フレイヤ連合軍】を蹂躙出来るくらいには強くなって欲しい。
ロキ・フレイヤも私とおばさま抜きのウチに勝てるくらいは目指し続けて欲しい。私達がいるとこちらが勝って当たり前なので、やり過ぎるつもりはない。
匙加減が重要だ。直近にすることになるであろう
後者の時は流石に私達3人も普通に参戦するつもりだ。私が出てもレベル差の暴力が酷くなるとは思うのだが、ぶっちゃけ私は客寄せみたいなものである。
旧時代の、最強の象徴の1人のおばさまやぽっと出のレヴィスが暴れるよりも、私やベルが活躍してこそ「新時代の象徴」になれるだろう。
だからベルがレベル6になるまで待ったのだ。5のままだと微妙な活躍に成り下がりそうだったから。出し惜しみしても勝てる程度の相手には未だ春姫を晒す気はない。
リューさんとリュディもランクアップして、レベル6が4人揃ったらまずは【フレイヤ】を落とすことになるだろう。
その時は私のここでの仕事も終わり今、眼前でリューさんやベルに楽しそうにお酌をしているシル・フローヴァの正体も白日の下に晒されることになるのだろう。
ベル君のアルフィアの呼び方
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おばさん
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お義母さん