橙かわいい
満月の夜の橙
橙。
姓は(まだ)ない。
黒猫であり、五十数年生きる化け猫。
そして、賢者の式の式でもあり、ほんの少しだけ特殊な可愛らしい猫ちゃんである。
橙は主である八雲藍に拾われて以降、彼女の下で一人前の式となるべく修業の日々を送っている。
修行の内容は、符術や妖術の勉強や身体能力の向上のために格闘術や実戦など様々。
妖怪としてまだ幼い橙には未だ厳しく感じてしまうが、それでも前日の自分よりも強くなっている感覚はあり、確実に修行の効果は出ていた。
——毎日が楽しい……幸せだなぁ。
そんな言葉を心の中で漏らしながら、橙は今日もまた笑顔で
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幻想郷のどこかにある更地にて。
夜空に浮かぶ月を見上げながら橙は瞼を閉じて月の優しい光を浴びながら、心の中でふと感じた幸福な気持ちを漏らす。
今宵は満月。
いつもよりも強く濃い月光を浴び、妖力が高まっていき体の底から湧き上がっていく感覚を抱く。
その恩恵は肉体に変化を促し、常に存在する橙の二本の尾とは別に妖力で構築された四本の半透明な尾が生え、それぞれがゆらゆらと左右に動き出す。
続けて、四本の妖力の尾——“幻尾”が生え終わると同時に橙の目元と頬には紅い隈取りが浮き上がる。
六尾の化け猫、これぞ本来の橙の姿。
満月の魔力によって引き出された、普段は紫と藍によって妖力の大半を体の奥底に封じ込められているため見せることはできない橙の真の姿である。
「にゃは♪」
全身に妖力が満ち満ちる。
一晩限りの全能感に橙は思わず笑みを漏らしてしまう。
「「「「「グルルルゥゥッッ!!」」」」」
濃密な妖力に惹かれたのか、ハイになっている橙の周囲をいつの間のか集まっていた低級の妖怪や妖獣たちが揃って囲んでいた。
彼らも満月によって普段以上の妖力を身に纏っている。
しかし、知能がかなり低い彼らは橙とは違い、身に余る
「んー? あ……ふふふ……あはははッ。いいよ、遊ぼっかッ!」
小妖怪たちの存在に気付いた橙は臆することなく逆に不敵の笑みを浮かべる。
そして、正面に掲げた両手に妖力を込めて十指の爪を強化し、鋭利な深紅の妖爪へ変化させて周囲へ見せて、構える。
それは弾幕を扱うための普段の構えとは違う、
「ふふーん♪ 今宵の橙はねー……すっっっっごく、強いよッ! にゃーッッ!!」
高らかにそう言いながら地を蹴って妖怪と妖獣の輪の中へ飛び込んでいく。
今夜、行われたのは、月の魔力に抗うことができない未熟者の化け猫と小妖怪や小妖獣たちによる小競り合い。
博麗の巫女や魔法使い、大妖怪や神々は特に見向きもせず、また里の人間たちに至っては知る由もない。
そんな小規模で血生臭い祭りは夜が明けるまで続き、昂る気持ちと妖力のままに蹂躙して回った橙は多色の返り血で全身を彩ってマヨヒガへと帰還するのだった。
普通の二本の尻尾とは別に妖力でできた四本の尻尾がある六尾の化け猫ver.なのが本気の橙でした。
妖力で構築された四本の尻尾のイメージは純狐の紫色の尻尾?みたいな感じでお願いします。
普段は幼く未熟なため六尾分の妖力(全力)に肉体が耐えれないが、満月のバフで今宵だけ全力を出せる……そんな設定だったりします。
封印されてるのも肉体を守るためです。
尻尾の数だけ強く、そして式も良くできるみたいなので将来性がある感じを目に見える形で表したかった。