原作よりちょっと強い橙の小話集   作:望月エト

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 今(原作最新作)の小話一話目。
 GL要素&マイナーカプ有りです。とくに後者はフラン好きの読者様はご注意下さい。
 +αは普段以上に「こういうのが見たい!」を形にしたものです。


今の小話
友と過ごす宴会+α


 

 ある夜の宴会にて。

 会場は博麗神社の境内。

 最初はグチグチと文句を言っていた霊夢も酒が回った今はすっかり上機嫌になり、魔理沙や早苗たちと一緒にワイワイ騒ぎ散らかしている。

 いつも通りの宴の場。

 八雲一家として訪れた橙もまた会場の一角で肴として用意された紅葉鍋を摘まみながら酒をあおっていた。

 

「……」

「ふー……ふー……あむッ。ん~♪ おいし~♪ これ、おいしいね、橙!」

 

 お猪口を傾ける橙の隣で取り皿の溶いた卵に絡めた鹿肉に舌鼓を打つ少女——フランドール・スカーレットが八つの結晶が下がった一対の枝のような翼を羽ばたかせながら友人へ感想を告げる。

 普段の宴会ならば橙は藍と共に紫の傍に控えて慎ましく過ごす。

 だが今宵の宴会では特別に紫から許可が下りたため、フランの誘いに乗って喧騒から離れて会場の隅で友と二人っきりで酒を飲み交わしていた。

 少しだけ真実を語ると、紫が出した許可はレミリアを経由してフランが賢者へ今夜の宴会中は橙と一緒に過ごせるように“お願い”したのだった。

 

「はふ……んッ……うん。美味しいね!」

 

 そんな経緯を知らない橙は美味な鹿肉に頬を緩ませながらフランの感想に同意の言葉を返し、伏せていた二本の尻尾を無意識にそれぞれ左右に動かす。

 

「あ」

「ん?」

「忘れてた。今日は橙と一緒に呑もうと思って、お姉様のワインセラーから美味しそうなのを何本か盗ってきたんだった」

 

 フランは「いっけなーい」と言った表情でそう言うと人差し指で小さく円を描く。

 その動作によって宙に魔法陣が展開され、それが低速で下りていくと一本のワインボトルと二個のワイングラスが御座の上に現れる。

 

「じゃじゃーん♪」

「わッ、高そうなワイン……これ幾らするの?」

「あはは♪ 別に値段なんて気にしなくていいよ。どうせお姉様が口コミとか雑誌の評価とか見て適当に買ったヤツだからさ」

(うーん……レミリアさん、不憫!)

 

 などと心中で憐憫の言葉を漏らす橙だが、取り皿に入れておいた白菜を頬張る彼女にはフランを咎める動きはない。

 友の姉に対しては本当に可哀そうだなとは思う。

 ただ目の前には普段は呑めない高級酒。

 それを吞むことができる折角の機会なので、心の中でレミリアに謝罪をしてから今回はフランの善意に甘えようと思う橙だった。

 

(うん……怒られたら、同罪だけどフランに全部擦り付けよっと!)

「じゃあ、飲もう。鹿肉の鍋って聞いてたからそれに合うワインにしたんだ~」

「へー」

「あ、コルク抜くやつ忘れちゃった……ま、いっか。橙、お願い。斬っちゃって?」

 

 ワインオープナーを忘れてしまったフランだが、特に困った様子は見せずにワインの口を橙へ向ける。

 

「いいの?」

「どうせ全部飲んじゃうでしょ。スパッとお願い」

「まぁ、そうだよね。りょーかい」

 

 橙は了承すると右手の人差し指を親指で強く抑え込み、親指を離すと同時に爪を伸ばして放った鋭い爪撃でボトルの首部のコルクが収まっている部分だけを斬り飛ばす。

 フランが持つボトルの断面はとても綺麗であり、注ぎやすいように斜めに切断されている。

 

「ありがと。さ、飲もっか。私が注いであげる。はい、橙。グラス持って」

「うん……わぁ、良い匂い。フランはこのワインは呑んだことあるの?」

「前に一回ね。お姉様が美鈴と一緒に呑んでてさ、そこに途中から混ざって呑んだの。それでおいしかったから今日も持ってきたってワケ」

 

 そんな会話を交わしながらフランは自身のグラスにワインを注ぐと、ワイングラスを置いて手に持つグラスを橙の方へ向ける。

 

「折角だし、乾杯しましょう?」

「そうだね。じゃあ……」

 

 フランから宴らしい提案を受けた橙もまた自身のグラスをフランの方へ向けると同時に友と微笑み合う。

 

「「かんぱーい♪」」

 

 仲良く声を合わせた乾杯の挨拶と共にグラスをそっと合わせ、キンッという薄く響く乾いた音を耳にしながら橙とフランはワインを口にする。

 このワインは全体的に果実味が豊富であり、酸味は穏やかだ。

 樽香もしっかり効かせているのだろう。濃厚で甘味をとても感じられ、すき焼き風味の紅葉鍋に良く合うであろう味わいである。

 

「わ、美味しい……ちょっと前に紫様に呑ませてもらったワインは酸っぱかったけど、これは凄く甘くて飲みやすい!」

「橙の口に合ったみたいで良かった」

 

 美味しさから猫耳と尻尾を激しく動かしながら更にグラスをあおぐ橙をフランは満足そうに見つめて自身も二口目を口に含む。

 前回呑んだと同じ味だが、友と呑んでいる状況は家族と一緒に呑んだ時とは異なる満足感を与えてくれる。

 素直に言えば、幸せ。

 橙と一緒に過ごすこの時間がフランには言葉に表せない多幸感を抱いていた。

 

「ホントだ! このワイン、今日の鍋と凄く合う! めちゃくちゃ美味しいよ、フラン!」

「でしょ? うふふ♪」

 

 ワインと鍋を堪能して良い笑顔を浮かべる橙。

 そんな友の姿を堪能し、自身もまた笑みを浮かべるフラン。

 変わった化け猫と吸血鬼の二人で過ごす楽しい宴の時間はゆっくりと過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 宴会の翌日。

 紅魔館の地下室、フランの自室にて。

 

「~♪」

 

 フランは自身のベッドの上で座り込み、上機嫌に鼻歌を奏でながら大きめの木箱の中を整理していた。

 この木箱はフランが美鈴に頼んで作ってもらい、パチュリーに教わった施錠魔法と防護魔法を施したフランの宝箱。

 これを知っているのは先に挙げた二名だけ。

 姉であるレミリアや咲夜、小悪魔などには教えていないため彼女たちは木箱を知らないのである。

 ただ、美鈴とパチュリーが知っているのは木箱の存在だけであり、その中身は持ち主であるフラン以外に知っている者は誰もいない。

 フランは紅魔館の住人たち……家族が大好きだ。

 48()5年も暗く冷たい地下室に閉じ込められてきたが、それはもう赦している。

 だが、心を許すそんな家族たちにもフランは己の宝箱の中身を明かすことはない。

 理由は、純粋に教えたくない、ただそれだけ。

武骨な木箱の中身はフランにとっては正真正銘の宝物であり、また思い出でもあるのだ。

 

●▲●■▼◆

 

 木箱の上に片手をかざして開錠の呪文を唱えると、魔力光が淡く光った後に木箱の蓋が自動で浮いてその中身が露わになる。

 そこに納められていたのは、写真や猫のぬいぐるみ、ハンカチ、ボロボロな妖術用の札や赤色の針など、多種多様で纏まりのないモノばかり。

 否、実はこれらには一つの共通点がある。

 それはベッドの隅に置かれた木箱の蓋に掘られた小さな【橙】という一文字。

 そう、この木箱には橙に関する……フランが橙から貰ったり、一緒に過ごす中で使ったものが納められているのだった!!

 

「昨日のグラスはここに仕舞いましょ。ふふ……また橙コレクションが増えたわ♡」

 

 咲夜の宴会で使用した二個のワイングラスを箱内の開けたスペースに仕舞い、フランは満足そうに呟く。

 グラスの片方には赤と金のリボンで装飾されており、どうやら橙が使ったグラスはこちらのようだ。

 

 ついでに幾つかのアイテムの詳細を説明しよう。

 まずは写真。これは一枚ではなく二十三枚が細いリボンで一束に纏められている。一番上の写真は橙の修行中の写真であり、汗を流しながら十を超える式神と戦っている姿が納められている。ただ明らかに盗撮である。出所は某鴉天狗だろう。

 次にぬいぐるみ。それは黒猫であり、一体化された緑の帽子から覗く耳にはプラスチック製の金の輪が装着されている。明らかに橙がモチーフにされた一品だ。

 次はハンカチ。質の良い白地にスカーレット家の紋章が刺繍されている高級品。だが、よく見れば赤黒い染みが見受けられ、これは橙の血液である。これは修行中に頬に負った切り傷を抑えた際に付着したものであり、橙は洗って返すと言ったのだがそれを巧く躱して手中に収めた経緯があるヤバい代物だ。

 最後は纏めて、札と赤色の針。これはフランと初めて出会った吸血鬼異変の際に橙が実際に使用し、フランの体に振るわれた凶器である。自身を痛めつけた道具だが、橙との最初の思い出を感じるということで異変後に気付かれないうちに回収したのだった。

 

 フランは写真を一通り見た後にぬいぐるみを手に取り、ギュッと抱き締めながらベッドに横になる。

 

「橙。私の初めての友達。私の狂気を受け入れてくれた……私の手を握ってくれた、運命の相手……」

 

 ぬいぐるみを抱いたまま艶のある声で呟きながらフランは静かに瞼を閉じ、橙のことを思い浮かべる。

 昨夜の宴会でも見た笑顔の橙。

 修行や藍から任された仕事を一生懸命こなす橙。

 マヨヒガの縁側で猫の姿になって日向ぼっこをしながら気持ちよさそうに眠る橙。

 そして初めて会った、まだ友達になる前に見た、負傷し血だらけになりながらも無表情で持てる力と技術を残さず使用して自分と全力で戦う六尾(本気)の橙。

 フランは橙が好きだ。

 化け猫と吸血鬼とか、種族の違いなんてものはどうでもいい。

 橙の様々な姿を見て更に好きになった。

 顔も声も匂いも、橙の全てが好きで、彼女が使った物や場所にまで魅力を感じてしまう。

 

——やっぱり、欲しい! 橙が、橙の全部が欲しいッ!!

 

 瞼を開けて叫ぶと同時に濃密な妖力が狂気と共にフランの体から漏れ出す。

その衝撃は凄まじく、フランが寝転がるベッドから四方へ広がって置かれていた数少ない家具や壁をぐちゃぐちゃに破壊してしまった。

 

「あぁ……ダメ……ダメよ、フランドール()……橙は物じゃない。橙は大事な友達……落ち着かなきゃ、落ち着きなさい……すぅ……はぁー……」

 

 フランは暴走するギリギリの所で踏み止まることができたようで、ぬいぐるみを離した両手で顔を覆って昂ぶりを収めるべく深呼吸を行う。

 しかし、なかなか収まらないようで指の間から覗くフランの深紅の瞳は深呼吸をした後も妖しく煌めいたままだ。

 

「……橙……私のお月様…………好き。大好き……いつか、私自身の力で狂気を制御できるようになったら、この気持ちを橙に……」

 

 顔を両手で覆ったままフランは自分で定めた想い人への告白するタイミングを口に出して確認する。これによって心を強く持ち、死なない身でありながらも必死に湧き出た妖力と狂気を体内へ押し戻す。

 月は妖怪にとって大事な存在。

 特に吸血鬼にとって月は命並みに重要なものであり、あれに向ける感情はそこらの妖怪などよりもかなり大きい。

 フランはそんな月を橙の別の呼び名に用いた。

 それは吸血鬼の中では最上級の敬称であり、冗談で使う吸血鬼はいない。

 橙への並々ならぬ好意がフランにその呼び名を付けさせたのだ。

 

「絶対に……伝えるんだからッ」

 

 フランの力強い覚悟の言葉は荒れ果てた無機質な地下室に薄く反響し、誰にも聞かれることなく徐々に静かになっていくのだった。

 




 これに繋がる吸血鬼異変の【過去の小話】はいつか……いつか書きます。
 吸血鬼異変中に、橙VSフランがあった世界です。
 好きな絵師様の作品を見て書きたくなった橙フラです。
 〖橙→?→←♡×100←フラン〗なイメージで御座います。フランちゃんは重い。
 橙は前話で書いた異能で狂気を吸収できるので、なんかこう……フランと上手く出会えた感じだと思ってください!

 作者がちょっと持病で辛くて過去の小話が書けないかもと思ったので、書きたかった橙フラを先に少しだけ書きました。
 なので急に新しい章ができたり、時系列が現代に飛んだりしてしまいました。
 申し訳ございませんでした。

 ここまで読んでくれてありがとうございました!
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