近界 某所
虫の鳴く音だけがあたりに響く小高い丘陵の上、日はとっくに沈みすでにその丘を照らすのは頼りない月明かりだけになった時間。黒と緑を基調とした服装をした女性と男性、2人が地面に伏せながらその眼下に見える町を見下ろしていた。
町は中世ヨーロッパを彷彿とさせる石造りの家が建ち並び、中心部には周りより大きな建物が1つ。この町の領主でも住んでいるのだろうか。いずれの建物にも明かりはほとんどなく、そのことが町人を初めとする多くの人が眠りについたことを示している。そして、町を囲うように数メートルの城壁が建ち、その上にはかがり火とともに歩哨が立ち町の外からの害意に注意を払っていた。
「いろいろ調べたけど、なかなか兵士の練度は高そうだね。」
そう男性がつぶやく。
「そうね。でも、戦いに行くわけではないし問題ないでしょ。昨日までの潜入調査で領主の情報や町人の民度についても調べたけど、こっちの世界にしてはなかなかだったし、あれなら交渉もうまくいきそうよ。少なくとも、以前のようにはならなさそうね。」
女性がそう返すと、男性は違いないと相づちを打つ。
「さぁ、そろそろ撤収の時間ね。レッドチームと合流してさっさと帰りましょ。」
すると女性は通信の向こう側と会話を始める。
「レッド、ブルー。」
少しおいて、返答がくる。
「ブルー、こちらレッド。どうぞ。」
「現在、時刻フタサンマルマルをまわった。予定通り、作戦は現時刻をもって終了し、遠征艇へ帰還する。ブルーはこのままSP(スカウトポイント 偵察位置)の丘を下りそちらに合流する。ついては、そちらから見て丘の方向、友軍、誤射注意。」
「レッド、了解しました。」
通信が終わり男に目で合図を送ると女は丘を下り初め、男もそれに続く。
「HQ(ヘッドクォーター、本部)、こちらアル1。現在時刻をもって、予定通り作戦を終了、帰還する。」
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偵察班構想。
それは、近界民から人々を守るボーダーの成立初期に提案された部隊構想の1つ。侵攻してくる近界民に対し、主力部隊が接敵する前に該当の敵に接触、位置や規模、構成などを報告する部隊として考案された。設立当初はそういった、いわゆる専門家の班がいくつか考案された。しかし、設立当初のボーダーは人員が少なく、そのような事に回せる人がいなかった。少し余裕ができてから再検討されたものの、必要性に疑問が呈されたことから、結局偵察班を初めとした考案された部隊が、実際に組織され運用されることはなかった。
しかし、近界への遠征が決まると偵察班に類する部隊が必要となってきた。何せ、近界は地球人にとって全くの未知の世界だからだ。気候、地理、植生、言語、民族性、国家体制、何をとっても分からない世界。おまけに大規模侵攻では民間人に多数の死傷者が出たことから同じ倫理観を持っているのかも怪しい。そういった世界に遠征するに当たって、本隊より先行して、気候・植生・地形といった周辺環境の評価が可能な部隊が必要とされた。
そしてその後すぐに、その任務内容はさらに拡充され、敵勢力などの脅威の評価またはその排除に到るまで行うことができる、そんな部隊が設立された。その結果、設立されたのが先行偵察部隊(Advance Reconnaissance Unit)である。英単語の頭文字ARUから、アルと呼称されるこの部隊の任務は多岐にわたる。
1.遠征地周辺の地形と植生の偵察と評価。
2.部隊より先行しつつ地形・植生・気候の偵察、評価。
3.近界民の勢力内での潜入、情報収集。
4.本隊戦闘時の助攻。
5.目標に対する特殊作戦。
これらの任務を遂行するためアルの隊員は豊富な知識と高い戦闘能力を持つ。地図のない世界に行くに当たって、現在地を太陽や周辺の地形から読み解く高い空間把握能力。地形図の作成やそれを評価するための測量学や地質学など初めとした専門知識。動植物の生態に関わる生物学。敵勢力下での潜入、情報収集のための、変装や話術、心理学。
敵に感ずかれることなく、作戦を遂行するだけの戦闘力。夜襲や水中からの潜入、などの特殊な条件に対応するための知識と訓練。
アルは一般的なボーダー所属の隊と違い、現代の軍隊や特殊部隊に近い隊なのだ。
そしてこの隊は間違いなく、ボーダー一の精鋭である。
と、もしもそんな部隊がワールドトリガーの世界にあったらの話。
次回はそのもしもの世界をもう少し深いところまで覗いてみよう。
勢いに乗って書いた作品です。
変なこと一杯書いてると思いますが、どうぞ許してください。