おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第16話

 

とある昼過ぎのこと。

マダラは早く終わった任務からの帰り道、通りの奥から歩いてくるカカシとサスケの姿を見つけた。

中忍試験であるが、ナルト達第七班は無事第二の試験を突破している。

向こうもマダラに気付いたようで、三人とも同時におっと顔を上げた。

 

「タジマさんじゃないですか、奇遇ですね」

「おっさんか」

「……カカシとサスケか」

 

サスケのおっさん呼びに、口をムッと閉じる。

サスケが第二の試験で変な輩に目をつけられたことは、ナルトから聞いている。試験中は何とかその相手を撒いたそうだが、いつまた狙われるかわからず、カカシがほぼ付きっきりでサスケの側についているそうだ。

第三の試験を一ヶ月後に控えており、予選を突破したナルトとサスケは各々来る本戦に備え修行をしていた。

サスケはカカシが見ることになったそうで、ナルトについてはマダラが時間に余裕がある夜に修行をつけている。

最近二人の修行をマダラが見てはいたが、二人が本戦で当たった際に手の内を知られていては、戦う二人にとっても面白くないだろう。カカシもサスケに伝授したい何かがあるようにも思えたため、マダラは本戦までの期間の修行については、サスケの判断に任せていた。

その結果、カカシに教わることになった。

カカシがそういえばと、思い出したように口を開く。

 

「タジマさんて、体術も得意なんですか。サスケの動きが前よりも良くなってて驚きましたよ。予選じゃ皆、下忍になったばかりの子があそこまで動けるとは思わなかったって、口を揃えて言ってましたよ」

「そうか。サスケは筋が良いからな、まだまだ鍛えれば良くなるはずだ」

「だってよ、サスケ。良かったなぁ、褒められて」

「っ、からかうな!」

 

カカシの手がスッとサスケの頭上にかざされる。

サスケは頭を撫でようとするカカシの手をばっと振り払ったが、両耳が赤い。

カカシは振り払われたことは気にも止めず、ニコニコとサスケを見下ろした。

 

「アンタこそ余裕こいてていいのかよ。今の俺達なら、てめぇから簡単に鈴を取れる気がするぜ」

「ハハハ、それはどうだろうなぁ。今度やってみるか?」

「鈴取り……ああ、千年殺しのやつか」

「タジマさん?」

「ナルトにやっただろう。こう……寅の印を結んだヤツだ」

「! それは」

 

マダラは、今でも時折ナルトが練習している千年殺しの印を真似た。

時々ナルトの組手の相手をすると、繰り出そうとしてくるのだ。よっぽどカカシに仕返ししてやりたいらしい。

悲しいことにマダラはナルトの動きを何度も見ているうちに、どうすれば最低限の動きで相手の背後に回り込みしゃがんで寅の印を突き出せるか理解できてしまった。

自慢したくはないが、ナルトより上手くできる自信はある。

この歳まで生きて覚えた新しい体術が千年殺しとは、人生何があるかわからない物だとマダラは自身の目の良さを恨んだ。

カカシは隠されていない右目を大きく見開くと、マダラを見ながらワナワナ震え始める。

 

「タジマさん……まさかあなたも、千年殺しの使い手だったとは」

「違うが⁉︎」

「おっさん……はぁ」

 

カカシの言葉にマダラは全力で否定すると、カカシの横にいるサスケがくだらないと言いたげな様子でため息をつく。

 

「まあまあ、そんな否定しないでくださいよ。そうだ、せっかくのご縁ですし……」

 

カカシはゴソゴソとカバンを漁ると、一冊の本をマダラに差し出した。

カカシの手元に目を落とすと、そこには男が女を追いかけている絵が載った本があった。

マダラが本の題名を読み上げる。

 

「イチャイチャ、パラダイス? 悪いがこういう本は」

「そう言わないでくださいって。タジマさんと俺の仲じゃないですか。騙されたと思って、さぁ……ねえ?」

「なんの仲だ。そもそも俺はこういう物は読ま」

「ナルトとサスケの師匠仲間、ですよね俺達。読んでみてください、後悔はさせません」

「おい止めろ、カカシ。おっさんの顔見ろよ」

 

サスケが首を振りながら、カカシを止めようとする。

本のタイトル、そしてカカシが持ち歩いている本ということから、彼が普段読んでいる官能小説のシリーズであることはわかる。

マダラは本を見据えた後、眉間に皺を寄せ軽蔑したような目でカカシを見るが、その視線を意にも介さずカカシはもう一度ずいっと本をマダラに差し出した。

 

「タジマさん、是非」

「……わかった」

「カカシ止め、おっさん⁉︎」

 

渋々本を受け取ったマダラを、サスケは信じられないといったように驚いた表情で見上げた。

マダラとて受け取りたくはなかったが、サスケに言われても強く勧めるあたり、カカシにとっては良い小説なのだろう。

マダラとカカシも、マダラは今のところナルトの保護者でも師でもあり、また波の国に同行したことからも、唯の他人という間柄ではない。

これもまた、カカシなりの歩み寄りの仕方なのかもしれない。

ナルトの面倒を見ている担当上忍からの好意を無碍にするのもと思い、仕方なく受け取ったのだった。

 

マダラは本のタイトルを周囲に見られないよう、忍具をしまっている鞄の中に丁寧に入れた。

サスケの黒い瞳が、じとーとマダラに向けられている。

 

(……サスケからの視線が冷たい)

 

 

 

 


 

 

帰宅したマダラは、ダイニングのイスに座るとカカシから借りた本を手に取り表紙を眺めていた。

『イチャイチャパラダイス』、マダラが元いた時代では目にすることがないような題名だ。

目を通すか通すまいか悩んでいると、外から足音が聞こえ玄関扉が開かれた。

 

「おっちゃーん、ただいまー。昨日言ってたエロ仙人連れてき……ん? んん?」

「……」

「……おっちゃん、それって」

 

ガチャリと開けられた玄関扉に、マダラは本を片手に添えながらナルトの声がした方を振り返った。

ナルトの視線は手元の本に注がれている。

表紙にカバーはしておらず、小説のタイトルがそのまま曝け出されているのをナルトが認めると、あっと口を開け指をさした。

 

「あー!ソレ! カカシ先生とおんなじ! おっちゃんも読んでたのかよ!」

「ちが」

「散々カカシ先生のこと言っといて! 自分も読んでるってば!」

「違う、これはカカシが」

「別に、おっちゃん? 読むなとは言わねーけどさ? でもさ、せめて隠して欲しいなァ」

「だから違うと言ってるだろうが。これはカカシのだ、馬鹿が」

「え、カカシ先生の?」

 

マダラはカカシから薦められたのだと言うと、ナルトはフーンと信じていなそうな声音で頷いた。

マダラとナルトのやり取りを眺めていた来客が、わざとらしく咳払いをする。

その声にナルトは人を連れて来ていたことを思い出し、慌てて家の中に入れるとやっと玄関扉を閉めた。

マダラは本をテーブルに置くと立ち上がり、来客をじっと見据えた。

近頃ナルトは昼にこの男と会っており、男の方がナルトの同居人について興味を持ったこともあり、ナルトに会わせてもらえないかと言われたマダラが連れてくるよう言ったことを思い出す。

顔に隈取をした長い白髪の壮年の男で、火影のヒルゼンよりは歳下だ。

男はマダラが置いた本をチラリとみると満足したような表情を見せると、すぐに真剣な表情でマダラを見つめ返した。

 

「わりィ、エロ仙人。紹介するってばよ。この人が俺のおっちゃん」

「おっちゃん、のォ……ワシは自来也だ。お前さんの名を尋ねても?」

「タジマだ。最近ナルトが世話になってるらしいな……温泉街で」

 

大きな巻物を背中側に提げた顔にイボのある男は、名を自来也と告げた。マダラはマジマジと自来也を眺めると、カカシから借りた本をそっとテーブルにあったチラシで隠した。

マダラと自来也の間で互いを探るような視線が飛び交い、間に挟まれたナルトはなんだなんだと二人をキョロキョロと交互に見上げている。

自来也はマダラの隠した本に目を移すと、むふーと鼻から息を出し笑った。

 

「いやぁ、こんなとこにもワシの読者がいたなんてのォ!」

「……は?」

「なァに、隠さんでもいい! ワシは読者を選んだりはせん!」

「……なんの、話だ」

 

マダラは目を細めると、正気かと疑うような眼差しを自来也へ向けた。

自来也はこの場を茶化そうとワザとそう言ったのだが、マダラには素直に受け取られたらしい。違うと言い返そうとするマダラに、照れんでもいいと笑い返す。

豪快に笑う自来也であるが、内心はマダラのことをひどく疑っていた。

自来也はナルトの出自については、里で伏せられていることについても知っている。

ナルトの両親とは知己であり、父親の方は弟子の一人でもあった。

ナルトがおっちゃんと呼ぶ男だがこれまで一切面識もなく、またナルトの父方にもそのような親戚や知り合いがいたというのも聞いたことがない。容姿は全く似ておらず、ナルトとは赤の他人であることは容易に推察できた。そして謎に感じる既視感に、自来也は胸の内で唸る。

 

(過去に会ったことがあるわけではないが、こやつ何処かで……いや、そんなはずはない。里内に一人を除いて『うちは』はおらんはずだ)

 

あの事件があってなお他に生きている者がいれば、生き残りであるサスケ以外に名を聞いていても良いはずだ。

うちはの人間でない可能性もあるが、何でもない人間がナルトの、九尾の側にいるはずもないと、自来也は思考を巡らす。

そして自来也の頭の中では、ある光景が思い浮かべられていた。

初代火影と、彼と相対するように建てられた大きな石像がある終末の谷。なぜか目の前の男の容姿が、あの初代火影の向かいに建てられた石像に酷似しているように思えた。

 

(髪と瞳の色のせいか、どうもうちはのモンにしか見えんのォ。ナルトは知っておるのか)

 

自来也はにこやかに笑うふりをしながらナルトをチラリと見た。

ナルトの様子からして、関係は悪くなくむしろ良好そうである。

警戒心が全くないところからも、ナルトもある程度は事情を知っていそうだ。

誰がなんのために住まわせているのか、自身の師でもあったヒルゼンの計らいなのか。

自来也の名を聞き、その歳の忍で特に反応も示さないのも珍しい。

 

(……ナルトは此奴に師事しとるらしい。アカデミーを卒業したにしてはチャクラの練り方が荒いと思ったがなるほどのォ、『タジマ』か)

 

ナルトが隠した本の上に乗るチラシをめくろうとするのを、マダラが素早く手で押さえ阻止する。

スパンと手のひらごと押さえられたナルトは、びくりと肩を震わせた。

 

「うわぁ⁉︎ おっちゃん、そんな必死になんなくてもいいじゃん!」

「うるさい」

 

二人の自然な会話に、普段からそのようなやり取りが繰り広げられているのだろうと想像できる。

自来也は『タジマ』という男の存在を怪しんだが、言い合う二人の様子にそれは杞憂だったかと、胸の内に沸いた疑念をかき消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんで、ナルトのあのお色気の術だがのォ、お前さんが教えとるのか?」

「お色気の術だと? ……ナルトォ、使うなって言ったよなァ?」

「わ! わわ! おっちゃんにはこれ内緒なんだってばよ、エロ仙人‼︎」

 

賑やかな奴らだと、自来也は思った。

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