おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第17話

夜風に吹かれながら、マダラは演習場の辺りに散らばるクナイと手裏剣を拾い集める。

ナルトも近くの茂みに入り、遠くへと飛んで行った忍具を集めていた。

 

今日は月明かりの綺麗な夜である。

目を凝らさずとも、周囲の光景ははっきりと目に映った。

中忍試験後のナルトとの夜間の修行も、これで何日目だろうか。

ナルトがガサガサと草をかき分け広場に戻ってくる。

片付け終わったのを確認すると、二人は家路についた。

夜であるため、二人は静かに歩きながら里の中心部へと向かう。

本戦の日は近い。ナルトの対戦相手は日向ネジというらしく、日向一族の少年と当たることがわかった。

かつて戦乱の世で、うちは一族は千手一族と刃交えることが多かったが、全ての敵が千手の人間であったわけではない。マダラも他の一族と交戦したことはある。

日向一族の白眼といえば周囲を見渡せる視界とチャクラ経路の透視等が有名ではあるが、それを活かした体術にも秀でている一族だ。

宗家の子どもは時々ナルトの様子を物陰から伺っていた同期の日向ヒナタという少女であるらしいが、本戦では彼女の親戚に当たる少年、日向ネジと対戦する。

体術に秀でた日向一族相手にナルトの今の実力で勝負になるかは、正直のところ難しいという回答にはなってしまうだろう。

ナルトとて修行は真面目にこなしているが、元々の感覚の差なのか、後から面倒を見始めたサスケの方が圧倒的に覚えが早い。写輪眼でマダラの動きを見ていることもあるが、自身の動きにうまく落とし込めている。だが、ナルトの諦めの悪さは人一倍であるとマダラは思っている。諦めない心意気と粘り強さがナルトの強みでもあった。

 

帰路に就きながら、もう少しで家に着くという頃だ。

微かに空気の揺れる音がした。

マダラの長年の感が、謎に焦燥感を駆り立てる。皆が寝静まった静かな夜に、微かだが普段では聞きなれない音が聞こえた気がした。瓦礫の崩れるような、何かが削れるような音だ。

マダラが不自然に立ち止まると、ナルトがどうしたのかと振り返る。

 

「おっちゃん? どったの?」

「……ナルト、お前は先に帰ってろ。おい、いるだろ」

 

マダラは建物の影で真っ暗になった路地に向かい呼びかけた。そこにはマダラの監視役の忍がいる。

監視役の男はゆっくりと姿を現すと、路地の方を振り返ったマダラと顔を見合わせる。数人いる担当の監視役のうち、マダラより数個歳上の男だ。

ナルトといる時にマダラが監視役を呼びつけるのは滅多になく、ナルトもいまだマダラに監視が付いていたのかと現れた男に驚き目を見開いた。

マダラは監視役の側に歩み寄り、耳元に顔を寄せると小声で囁いた。

 

「嫌な気配がする。お前はナルトを家まで安全に送り届けろ、いいな」

「な、俺は貴方の監視役だ。離れるわけにはいかない。それに嫌な気配とはなんだ」

「フン、気づきもしないか。俺と人柱力、優先すべきはどちらかわかるだろう。お前も里の忍ならな」

「それは」

「少し見て回るだけだ、すぐに戻る」

「タジマ、何を。おい! 行ったか……たく、火影様に大目玉を喰らうのは俺だけじゃないんだぞ」

 

マダラは屋根の上に跳躍すると、一気に駆け出し姿を消した。

監視役は見えなくなったマダラの姿に、行ってしまったと少し顔色を悪くさせながら片手で頭を抑える。

そんな監視役にナルトが真剣な顔で声を掛けた。

 

「なぁ、監視役のおっちゃん」

「なんだ、うずまきナルト」

「大丈夫だってばよ。おっちゃん、ちゃんとすぐ帰ってくるって。じいちゃんとの約束破ったことねぇだろ?」

「波の国は……まあ、あれは仕方ないか。そう、だな。とりあえずうずまきナルト、帰るぞ」

「おう」

 

監視役は歩き出したナルトの後をついていく。

マダラの言う嫌な気配とは何か、それだけが気掛かりで、監視役は早く戻ってこいと願うのであった。

 

 

 

 

 

マダラは夜の里を駆ける。

物音の聞こえた方へと屋根を伝いながら、そしてある程度近づくと身を隠しながら向かって行った。

里には現在、他里の忍が中忍試験のために多く入り込んでいる。

例えば何かを企てている者がいたとして、里の中に怪しまれずに侵入するのにもってこいな状況は今以上にないだろう。

サスケを狙う怪しい輩、ナルトが話した第二の試験の人物も気掛かりだ。

 

(……狙いはサスケか? それだけではないはずだ。一大行事に合わせて来ずとも、少数精鋭を向かわせればサスケ一人くらいいつでも狙えたはずだからな)

 

中忍試験に合わせて行う理由があるはずなのだ。

狙いは木ノ葉の里自体か。ナルトを狙っていない辺りは、尾獣が目的ではないのがわかるが一体何のために。

戦が止んだかと思えば、所詮は仮初めの停戦であったか。

誰の目にも見つからぬ様、マダラは慎重に目的地へと向かっていく。

この辺りは国境の近くだ。今この辺りにいるのは、里外からの参加者で泊まっているものくらいであろう。

徐々にチャクラの反応を感じ取れ、数十メートル先で何やら影が動くのが目に入る。サッと建物の影に隠れ、マダラはゆっくりと気配を殺しながら人影の元まで距離を詰めた。

すぐ上の屋根で、忍が二人……否三人対峙している。

微かに聞こえる会話は、緊迫した雰囲気を醸し出していた。

 

(この中忍試験、何かあるとは思ったが。上にいるのはネズミを張っていたうちの忍か? 暗部ではなさそうだな。それで、そのネズミ共は)

 

マダラが会話を盗み聞こうと耳をそばだてた時、スラリと刃物の流れる音が聞こえた。誰か抜刀したか。

人が走る音と、すぐに聞こえたくぐもった声。

敵意が込められたチャクラを感じたマダラは隠れるのを止め、たまたま修行道具の中に紛れ込んでいた煙玉を屋根に向かって放り投げた。

そして瞬時に瞳の色を切り替えながら駆け上がる。

 

 

「誰だ!? なんだ、ゲホッゲホッ」

「クッ、まだネズミが! な!? これは、写り……」

 

敵はマダラの存在に気づいていなかった様で、灰が舞う中マダラは二人に幻術を掛け足止めすると、負傷した木ノ葉の忍の肩に右腕を回し支えこの場から立ち去った。

耳元で荒い息遣いと困惑した声が聞こえるが、それを聞いて足を止めるわけにはいかない。

二人同時に『探っていた木ノ葉の忍を始末した』という簡単な幻術をかけはしたが、他に間者がいればこの忍の排除に失敗したとすぐに知られるだろう。

 

(あの額当ては砂と木ノ葉だ。砂隠れの忍といた木ノ葉の男、アイツは何者だ)

 

白髪の眼鏡の青年、木ノ葉隠れの額当てをしていた。

里の中に間者がいる。

彼らの目的とは何なのか、ヒルゼンはすでに気付いているのか。

 

「あ、なた、ケホッ……誰ですケホッ、ゲホッゴホッ」

「黙っていろ、舌を噛むぞ。このまま火影邸まで行く」

 

担ぎ触れたところからは、じんわりと湿った熱が自身の服に滲んでいくのがわかる。

マダラも深手を負った者を担ぐのは初めてではない。

この出血では一刻を争うだろう。

里の中心部に入ると、マダラはあえて人目につきやすい通りに移動する。監視役と別れた場所は、ナルトの家にも近い所であった。

監視役の男はナルトを早々に送り届けた後は、マダラの捜索に当たっているはずだ。

今頃監視役からヒルゼン宛に、マダラが言いつけを破り単独行動を行なっていると連絡が行き、他の担当者らにも知らされ数人がかりで探されている頃合いか。

誰でもいいからさっさと自分を見つけろと、マダラはわざとらしく月光の下を駆けた。

その甲斐あってか、すぐに先程別れた監視役の男と鉢合わせることができた。

 

「タジマ! やっと戻って…… ハヤテ!? タジマどう言うことだ、何があったんだ」

「火影邸まで運ぶ、詳しい話は後だ。お前は医療班を集めろ、あまり時間はないぞ」

「後で聞かせろよ。医療班には分身を向かわせる。お前一人じゃ説明出来ねぇだろ」

 

マダラは普段暗い色の服を着ているが、ハヤテと呼ばれた男の血が担いだ側にはベッタリと付着し、濃い血の匂いもする。

ハヤテの様子ではもう説明出来るほどの余裕はない。マダラだけでは、火影邸に控える暗部に余計な疑いをかけられる可能性があるだろう。

監視役は手際良く分身を作り出すと、火影邸とは別方向に向かったのを確認し火影邸へと駆け出す。監視役の後に続きマダラも火影邸へと再び走り出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

日中、自来也のいる温泉街へ向かおうとナルトが歩いていると、後ろからカカシに声をかけられ振り返った。

 

「よ、ナルト。タジマさん帰ってきた?」

「おはよーカカシ先生。それがさ、まだなんだってばよ」

「そうなのか。そろそろ読み終わる頃かと思って、続きを持ち歩いてたんだが」

 

会えないもんだねと、カカシは言葉を続けた。

そもそも読んでいるのかすらわからないとナルトは思うが、黙っておいた。

カカシは片手にイチャイチャパラダイス中巻と書かれた小説を手にしながら、残念そうに肩を落とす。

マダラだが、あの夜に別行動をとってから五日経っても家に帰ってきていない。

連絡係の忍から少々事情聴取やらで時間がかかっているとは聞いたが、そんな何日もかかるのだろうかとナルトは少しずつ心配を募らせていた。

いつもの様に修行を終え家路についていたというのに、マダラが突如冷静な眼差しで遠くを見据え始めたのにはナルトも一瞬腹の底が冷える思いがしたものだ。

 

「じいちゃんと何話してンのかな……」

 

ナルトの呟きは、小さく空気に溶け込んでいく。

一羽のカラスが空を舞い、ナルトとカカシの足元を影が過ぎ去っていく。

ナルトはカカシの目が口元に向けられていたのも気付かずに、空を見上げた。

 

 

 

ナルトとカカシがそんなやり取りをした日の夕方、ナルトが自来也の元から帰るよりも早くアパートの階段を登る人影があった。

五日ぶりに外に開放されたマダラである。

眉間に皺を寄せ疲労の色を滲ませながら階段を登る。

 

(月光ハヤテという男がなかなか目を覚さないせいで、五日かかった……)

 

ヒルゼンの元に辿り着いた後、監視役が危惧していた通り案の定というべきか、火影邸に控えていた暗部らにマダラは囲まれた。

すぐに治療が必要だと伝えるも、疑り深い彼らはそう簡単には前を開いてはくれず、監視役が説明している間にヒルゼンが現れなければハヤテの治療が間に合わない可能性があった。

ハヤテについては一命を取り留めることはできたが、何故怪我を負ったハヤテをマダラが連れていたのか、そして何故その場に居合わせたのかと尋問されているうちに、こんなに日数が経ってしまっていたのだった。

 

最後の段を上がり、鍵を取り出しながら玄関扉に向かう。

ふとドアノブに紙袋が提げられているのが見えた。

 

「ん?」

 

マダラは鍵を開ける前に紙袋をドアノブから取り、中身を覗き込んだ。

 

『イチャイチャパラダイス 中巻』

 

表紙の感じからして、新品である。

マダラは誰の仕業かすぐに理解した。

 

(カカシだな!)

 

小説のほかに一枚の紙が添えられており、手に取り読み上げてみた。

 

「……続きが気になると思うので届けに来ました。あれはタジマさんに差し上げたものなのでそのままお手元に……どうぞ……はたけカカシ」

 

マダラは目頭を抑えると、大きく息を吸いゆっくりと吐き出したのだった。

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