肩を落とし沈む柱間に、棺から出ようとした状態のまま固まる二代目火影の扉間、扉間を見下ろしたまま黙るマダラに、さてどうしたものかと彼らを眺めるヒルゼン。
大蛇丸は穢土転生の術で師であったヒルゼンを驚かせるつもりでいたのだが、驚いているというよりもただ困っているだけの様子なヒルゼンに、名を離れたところから呼んだ。
「呆けてる場合じゃないですよ、猿飛先生。予想外の乱入はありましたけど……貴方にはこれから歴代の火影達と戦ってもらうのですから」
「大蛇丸。よりにもよってお二人を穢土転生で口寄せしおって」
ヒルゼンのぼやきに、動きを止めていた扉間が再び動き始めのそりと立ち上がる。
「ワシらを穢土転生したのは貴様か」
「ええ。ご自身の作った術で蘇るなんて、どんなお気持ちですかね二代目火影様」
扉間は大蛇丸の言葉に黙り込む。
状況的に大蛇丸が里かまたはヒルゼンを襲いに来たことは違いなく、その大蛇丸に呼び出された兄の柱間や自身は里にとっては敵側であると扉間は判断ができた。
扉間は大蛇丸ではなく、今度は傍に立つマダラに意識を向ける。
マダラだが、先程から困惑と恨みのこもった色の眼差しで扉間を見ていた。扉間は複雑な思いが絡まったマダラの視線を受け止めながら、思考を巡らせる。
(コイツは本当にマダラか。この見た目にチャクラは穢土転生ではない。マダラは兄者が確かに殺したはずだが……その格好といい、貴様は里で何をしている)
扉間にとってマダラなど、勝手に里を出て行ったかと思えば九尾を引き連れ襲いに来るような男だ。
なぜ死んだはずのマダラがいるのか、扉間にとっては理解し難い。
エプロン姿でだんごと書かれたのぼりを持っているのも、扉間の持ち得るうちはマダラの情報と何一つも結び付けることができなかった。
ただ一つわかる事といえば、ヒルゼンがマダラがいることに焦る様子もないことから、二人が敵対関係にないという事だ。
少なくとも今この場では、マダラが里の敵ではないのは確かな様である。
ヒルゼンがマダラを彼の父親の名で呼ぶのも何か理由があり、マダラには名を伏せなければならない事情があるようだ。
(サルのやつ、マダラと里で何をしていた)
マダラは穢土転生体ではない。
ヒルゼンもマダラには敵意を見せていない。
今のマダラの姿も、まるで里で暮らしているかのようだ。
扉間は穢土転生で大蛇丸の支配下の中、思考だけを巡らす。
マダラの気配が死者の物でないとするのならば。
このマダラが、そもそも兄の柱間に殺されていないのだとすれば。
(マダラの穢土転生に対する反応が薄いーーもしや知らないのか。穢土転生の術が開発された時、まだマダラは里にいた。なら、術を知る前のいずれかの時代のマダラが今の里に呼び出されたか)
扉間はある仮定に辿りつく。
どこかのマダラが時空間忍術の類に巻き込まれ、今の里にいるのだと。
だがマダラが生前何かの術に巻き込まれたということは聞いていない。
いつぞやのマダラが治めていた頃のうちは一族の中で内密に処理された可能性もあるが、少なくとも扉間は誰からもその話を聞いていなかった。
扉間がマダラについて考える中、大蛇丸は己が目的を果たすべく行動を進める。
印を組みながら、大蛇丸はヒルゼンを見て口の端を上げた。
「ナルトくんのおじさんも、なかなか手荒いわね。吹き飛ばされてなければ、初代の方ももう少しマシに制御出来たんだけど……仕方ないわ。さあ先生、覚悟は出来ていますね」
「っ! タジマ、初代様も二代目様も穢土転生じゃ!用心せい!」
語気を強めるヒルゼンに、マダラは柱間と扉間に意識を集中させる。
いつのまにか生気を取り戻した柱間と扉間は真っ直ぐに立ち、顔を上げヒルゼンの方に向き直った。
柱間はヒルゼンが発したタジマという名に、制御下になければ首を傾げていたであろう程に不思議そうな声色で喋り始める。
「猿飛、あまり会ったことが無いから顔を覚えていないのかも知らんが、アイツの名前はタジマでは……む。なるほどな、穢土転生とは厄介な術よ。スマンが上手くかわしてくれ猿飛」
「『タジマ』、か。おいタジマ、サルの援護に回れ。術者が解かない限りワシらは止められん」
「それが穢土転生か、ざまァないな扉間。お前なら解術の印くらい知ってそうだがな」
「ワシらは大蛇丸の制御下にあるせいで自由に動けん。貴様に頼むのは癪だが……」
苦々しく紡がれていた扉間の声は、話すうちにどんどん小さくなっていく。
先に柱間の方が、ヒルゼンに向かい走り出した。
扉間の方はというと、近くにいるマダラに向かいくるりと身を反転させ胸元を掴もうとした。だがマダラはのぼりを柱間の方に投げながら扉間の攻撃を避けると、伸ばされた腕を掴み反対に扉間を投げ飛ばした。
扉間と距離ができるなり、マダラはすぐにヒルゼンを狙う柱間の元へと駆け出す。
マダラは大きく息を吸い、腹に力を込めた。
「柱間ァ!」
「!」
ヒルゼンに重い拳を振りかざそうとしていた柱間に、マダラは素早く印を結ぶと口元に引き寄せ火の玉を飛ばした。
ヒルゼンはマダラの手元を見るなり何の術かを判断し、地面を蹴ると術を避けた。
火遁 豪火球の術
マダラの放った豪火球は真っ直ぐに柱間へと向かっていく。
柱間は飛来する豪火球を横に大きく避けると、足踏みし体勢を整えた。
術から退避したヒルゼンが、マダラに大きく声を張り上げる。
「タジマ! ワシは良い、大蛇丸を止めねばお二人も止められん!」
「大蛇丸はお前が相手をしろ、柱間と扉間は俺がやる。弟子の尻拭いくらいは師匠のお前がするんだな」
「……すまん」
マダラの言葉に、ヒルゼンの瞳が僅かの間伏せられる。
次にヒルゼンが目を開けた時には、覚悟の色が瞳の奥には宿っていた。
ヒルゼンは黙って頷くと柱間とマダラの脇を通り過ぎ、大蛇丸の元へと向う。
マダラはヒルゼンと入れ違う様にして背後に向かってくる扉間の気配に気付くと、観覧席で取ってきていたクナイを後方に投げた。クナイの弾かれる音が聞こえると、同時にマダラは結界の境目の近くまで跳び間合いを取ると柱間と扉間ーー二人と対峙する形を作る。
マダラの前に柱間と扉間が並び立つ。
「……よお、柱間」
「やはりマダラか。お前、こんなところで何をしている。穢土転生ではなさそうだが」
「俺はお前と違って死んでないからな。この里にいるのも事故みたいなものだ」
会話の途中であるが、柱間がマダラに向かって走り出す。
柱間は会話は出来るものの体の動きに関しては主導権はなく、攻撃の手は止められそうに無いようだ。ヒルゼンとその仲間のマダラを倒せとでも命令されているのだろう。
「まさか俺も、里の敵になる時が来ようとは。マダラ、まるであの時とは逆だな」
「……」
柱間の言うあの時とはいつのことだろうか。『あの時』が、マダラが里を急襲しに来た時のことを指すのであれば、今のマダラには経験のないことであり柱間の思いを指し図ることはできない。
マダラは柱間の言葉に、肯定も否定もしなかった。
(……柱間はよく喋るな)
扉間の方は戦い始めてからは言葉を発しておらず、柱間よりも強く制御がされているようだ。
柱間の重い拳の一撃を、マダラは片手で防御しながら話を続ける。
また殴りかかろうとする柱間の腕を、マダラは今度は両腕をガッチリと掴むと止めた。
すぐ近くで扉間が屋根を駆ける足音が聞こえるが、構うことなくマダラは柱間と会話をし続ける。
「ダメだのう、全く体が言うことを聞かん。それでマダラ、死んでいないとはなんぞ? お前はあの時、俺が確かに……」
「その話は今はいい。で、聞きたいんだが、お前が覚えてる範囲で俺が急にいなくなったことはあったか」
「急に? マダラお前、里から出て行ったではないか」
「出て……あー、いや、それよりも前の話だ」
柱間はマダラに両腕を掴まれながら何の話だと言いたげな声音で、ないと思うがと呟いた。
記憶を振り返っているのか、柱間の口から今のマダラにとっては身に覚えのない思い出話が溢れる。聞いてみればどれも楽しげなものばかりである。
「おいおい、どうせお前のことだから扉間に政治関連は任せきりだったんだろうが……まあ、無いなら無いでいいがな」
「酷いぞマダラ。本当ならお前にも……マダラお前、何か様子が違うな?」
「! どけ、柱間」
すぐそばで扉間がチャクラを練り印を結ぶのが見えた。
こんな水気のない場所で、扉間から龍の形を模した水の塊がマダラに向かって解き放たれる。
マダラは柱間を遠くに蹴飛ばすと、素早く術を発動させた。
扉間が発動した水龍弾の術を、火遁の炎で打ち消していく。辺りは蒸気のせいで霧がかかっていく。
(弱い。扉間の術はこんなものだったか。柱間といい、生前と比べるとかなり劣化しているな)
霧の中扉間の気配が迫るのを感じ、マダラは近くに落ちていたのぼりを拾い構えると、迫り来る扉間に向かい正面を容赦なく突いた。
だが手応えはない。
「避けたか……が、上だな」
マダラは素早くのぼりを上へ振り上げると、マダラに飛びかかろうとしていた扉間の胴を鋭く突いた。
のぼりの先から重さが伝わり、霞んだ視界の中扉間の姿をマダラの目は捉える。
穢土転生体のため痛みは感じないのか、突かれた扉間の表情が歪むことはない。
ふとマダラは、背後で覚えのあるチャクラの反応を察知した。
(これは……柱間! こんな場所で!)
棒を使い扉間を柱間の方へ飛ばすと、マダラはのぼりから手を離し身体にかけると急いで印を結んだ。
柱間も扉間も穢土転生で本来の能力と比べると術も体術も威力が落ちてはいるが、大蛇丸と対峙するヒルゼンに流れ弾が行かぬ様注意しながら相手をするとなると、マダラも動ける範囲に制限はあった。
がたがたと屋根が揺れ、周囲で太い木の枝が屋根を突き破り生え、マダラに向かって先端が伸ばされていく。
(木遁……下手を打てば屋根が崩れる)
マダラは喉元にチャクラを込める。
穢土転生体の柱間と扉間ごと燃やすつもりでチャクラを練ると、勢いよく術を放った。
柱間の術とマダラの炎がぶつかり合う。
木遁 樹海降誕
火遁 豪火滅却
木遁の枝に着火した炎は、術の勢いもありどんどん燃え広がっていく。
灰が辺りを舞い始め、結界内の視界はどんどん薄暗くなっていった。
マダラは写輪眼に瞳を切り替えると、見通しの悪い視界の中、捉えた動く影に向かい走り出す。
先に捉えたのは扉間の姿で、マダラはポケットに残っていたクナイを投げると扉間が避ける動作をしたタイミングで、万華鏡写輪眼で強い幻術をかけた。
チャクラを乱された扉間の動きが鈍る。
(幻術はいけるか、物は試しだな)
瞳を見た扉間の動きが鈍った瞬間を見逃さず足を引っ掛けると、屋根の上に倒れかかった扉間の胴を、のぼりで鎧のない方から体重をかけながら強く突き刺した。
屋根の上に縫い留められた扉間は、もがくこともせず倒れたまま呆然とした表情でじっとしている。
扉間の動きを止めたと思ったのも束の間、マダラの足元が盛り上がり、ひび割れた屋根から木の枝が伸びた。
柱間の木遁だ。
柱間を止めない限りは、結界の内側限界までこの枝は伸び続けるだろう。
どんどん上へと押し上げられていくマダラは、器用に伸びる枝の隙間を縫って滑り降りると、写輪眼で捉えた柱間との間合いを詰めた。
チャクラが瞳に集中する。
「こっちを見ろ、柱間ァ!」
戦場で写輪眼を見ろと言われて見る忍などいるものかと思うが、柱間はかつての友であるマダラの言葉に、大蛇丸の制御の中でも動ける範囲で首を動かし、疑いの念も持たずその瞳を覗き見た。
マダラの赤い瞳と、柱間の瞳が交差する。
その瞬間、柱間の見ていた視界はぐるりと回り、景色は白く変わった。