おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第22話

 

夕焼けの日が、足元に長い影を落とす。

柱間はいつの間にか、公園の入り口に立っていた。

生垣の奥に、軋んだ音を響かせながらブランコが揺れているのが僅かに見える。

 

(これは……マダラがかけた幻術か)

 

幻術の中だからか、動きを制御されていた現実世界とは反対に、自由に動かせる手足に柱間はほうと息を吐いた。

試しに公園の中にでも入ろうかと思い足を踏み出すと、突如足元で何か小さな物がぶつかる衝撃を受ける。

それはちょうど、幼かった孫の綱手が走り寄ってきた時のものに似ていた。

 

「おっと」

「うわぁっ! イッテテ ……ん? おっちゃん誰だってばよ?」

 

柱間の足元で、金髪の子どもが尻もちをつきぐらぐらと頭を揺らしている。

柱間は転んだ幼子に膝を折り目線を合わせると、見上げる幼子の目線が自身の目よりもずっと高い位置に向けられているのに気が付いた。

後ろを振り向くとそこには、エプロン姿ではなくうちは一族の装束に身を包んだマダラが立っていた。

少しばかり表情はムッとしている。

 

「誰がおっちゃんだ、ガキ」

「あ! クソガキじゃねぇってば! 俺はうずまきナルトだってばよ!」

「いや、クソガキまでは言ってないだろ……うずまき?」

 

まるで柱間の姿など見えていないかの様に、二人は話し始める。

 

(これはどんな状況ぞ。しかし、先程この少年とぶつかった気がしたのは思い込みだったか……驚いたな、幻術も色々な使い道があるものだ。それにしても、マダラは何故この光景を見せる)

 

うずまきナルトと名乗った幼子の服をよく見ると、不自然に砂埃がつき汚れていた。マダラの視線は、ナルトの顔だけでなく着ているシャツから足元までを辿る。

公園にはナルト以外の子どもの姿は見えず、まだ日も沈みきっていない時間帯にしては遊び場だというのに周囲に人影はなかった。

一人で薄汚れるまで遊んでいたというのだろうか。

ナルトは汚れたズボンを叩きながら立ち上がると、謝りながらマダラに誰なのかと尋ねた。ナルト曰く出口に走り出すまでは誰もおらず、いつの間にか目の前に現れたマダラにぶつかってしまったそうだ。

だからぶつかったのはわざとではないのだと、ナルトは恐る恐ると言った様子で謝罪の言葉を口にする。柱間はふと、ナルトの小さな手がぎゅっと履いているズボンを握ったのと、そして心なしか見上げている瞳も不安そうに揺れているのに気づく。

 

(マダラはちと厳つい顔付きだが……この様子はそれとは違いそうだな)

 

「だからその、おっちゃん」

「……おっちゃんじゃないマダラだ。うちはマダラ」

「え、マダ、マダラのおっちゃん?」

「だからおっちゃんじゃ……はぁ、もうおっちゃんでいい」

 

なかなかおっちゃん呼びから直さないナルトに、マダラが折れた。

柱間から見て、マダラの声音からするにぶつかられたことには怒ってはおらず、ただナルトに調子を狂わされ反応に困っている様であった。

しゃがんだまま柱間はナルトと同じ様にマダラを見上げ、あることを思う。

 

(なんだかマダラが若い気がするんだが……あの日切り結んだ時よりも、まるで同盟を結んだ頃にどこか近いような……むむむ)

 

幾分か若い気がすると、柱間は小首を傾げる。

柱間が疑問に思う中、マダラとナルトのやり取りは続く。

 

「あのさあのさ、おっちゃんて忍者なの?」

「いきなりだな。まあ忍だが」

 

警戒心が溶けてきたのだろうか、名乗ったマダラにそんなことを尋ねるナルトは目の前の男がどんな人物なのか全く知らないらしい。

マダラが怒っていないことを悟り、そして話を聞いてもらえそうだと思ったのか、ナルトはマダラが忍であることを知るなり少し表情を明るくさせると瞳を輝かせた。

 

「あ、あのさあのさ、おっちゃん」

「……?」

「オレってば、忍者になりたくて。一人で修行してんだけどわかんないとこだらけで」

 

ナルトの呼吸の間隔が早まっている。

緊張しているのだろうか。

 

「でも、いつか火影になんだ! あそこにオレの顔岩を作るんだってばよ!」

 

話を続けるナルトに困惑するマダラを見て、柱間は無意識に表情を緩める。

この幻術内の光景は、実際にマダラが体験したことなのだろう。

話を聞いてもらえたナルトは気を良くしたのか、元気よく公園から通りに出ると奥を指差した。

マダラがゆっくりとナルトの後を追い公園を出ると、ナルトが示す先を見て目を見開いた。柱間もマダラの隣に並び立つと同じ方に顔を向ける。

マダラから息を呑むような音が聞こえた。

目に映ったのは、四つ並んだ顔岩であった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

木遁の動きが止まった。

マダラの万華鏡写輪眼をしっかりと捉えた柱間は、ぼんやりと突ったったまま動かない。

のぼりの棒を刺された扉間も、屋根の上からじっと動かず空を見上げ続けている。

屋根を突き破り生えた大きく伸びた枝から、はらりと木の葉が揺れ落ちた。ひらりと空を舞った木の葉はマダラの足元に落ちる。

マダラは戦闘で汚れたエプロンの裾を叩きながら、ヒルゼン達の方を見遣った。

 

(柱間も扉間も暫くは動けないだろう。あとは向こうだが)

 

ヒルゼンの方もあらかた落ち着いたのか、屋根の上に倒れる大蛇丸の上にヒルゼンが跨っているのが見える。

視界の端で動く影が増えているのに気づき、マダラはチラリと結界の外に視線を動かしてみると、周囲には木ノ葉の忍が集まり出しているのがわかった。

会場内を暴れ回っていた音忍や砂隠れの忍達を制圧し終えたのだろう、集まった忍達は結界の周りをぞろぞろと囲い始める。

結界を張っていた音忍達にも焦りが見え始め、祈る様な形相で大蛇丸とヒルゼンの戦いの行く末を見守っている。

マダラは動かない柱間を一瞥すると、ゆっくりとヒルゼン達の元へ歩みを進めた。

近付くマダラの気配に気づいた大蛇丸は、倒れた状態のまま笑みをこぼす。

 

「まさか弱体化してるとはいえあの二人を抑えるなんてね。それにその写輪眼、フ……フフ、猿飛先生も大事な部下達に隠し事をするだなんて、随分と人の悪い」

「……大蛇丸、結界の外を見るのじゃ。もうこれ以上無駄なあがきはよせ」

 

大蛇丸が穢土転生の術で呼び出した初代と二代目火影は、マダラのかけた幻術により使い物にならなくなっている。

マダラの赤い瞳を見た大蛇丸は、まるで諦めたかの様に両手をだらりと屋根の上に投げ出した。戦意は薄れているようだ。

今の大蛇丸に、柱間と扉間を相手して無傷でいられる様な男とヒルゼンの二者を相手にすることはかなり分が悪い。

ヒルゼンは大蛇丸に投降を促す。

 

「もう止めるのじゃ、大蛇丸。お二人の穢土転生を解け」

 

ヒルゼンの言葉の後、屋根が僅かに揺れる感覚がすると涼やかな風が結界内に吹き込んだ。

空の色が明るくなる。どうやら結界が解かれたようだ。物見やぐらの上に集まった木ノ葉の忍に、音忍らが負けを悟り自ら結界を解いたらしい。

待機していた暗部らに、音忍達は捕らえられていく。

だが必死に抵抗を続けた音忍の一人と、木ノ葉の暗部のフリをしていた忍のもう一人が暗部の手から逃れた。

逃げた彼らを追い、集まっていた忍と暗部が何人か屋根から去る。

 

「火影様ご無事ですか! この、大蛇丸め! 観念しろ!」

「火影様ー!」

 

残った音忍を他の暗部の忍達が取り囲みながら縛り上げると、同時にヒルゼンを呼んだ。

ヒルゼンは暗部の呼びかけには応えず、まっすぐ大蛇丸を見下ろし続けている。

集まって来ている忍の中にはカカシやガイの姿もあり、カカシが柱間と扉間に近付こうとしているのに気付いたマダラは振り返ると、彼の名を呼びその行動を制した。

 

「やめておけ、カカシ。穢土転生体に無闇に近付くモノじゃない。何が起こるかわからん。特に扉間からは離れておけ」

「……タジマさん、その写輪眼は」

「今は黙っていろ」

 

カカシの物言いた気な視線がマダラに向けられる。

柱間と扉間が動き出した時に備え目はそのままにしていたが、流石にこの人数に万華鏡写輪眼のことが知られると面倒だと、マダラはカカシの前で瞳を切り替えた。カカシにとっても見慣れた、夜の闇を写した様な黒色がマダラの瞳に戻る。

不意に、柱間の方から何か声が聞こえた。

マダラは今度は柱間の方を振り返ると、目元は虚なままだが口の端が僅かに上がっているのが見え、術中に笑い声をこぼし楽しそうな様子の柱間に眉間に皺をよせた。

 

(笑ってるのか? 幻術の中で何してるんだか……)

 

マダラは柱間に今の自身の置かれている状況を知ってもらおうと、この時代に来た時の記憶を見せることにしたのだが、そんな怪しい笑みを浮かべられる程の物はないはずだと、マダラは口元を引き攣らせる。

柱間の様子は気になるものの、マダラはヒルゼン達の方へ視線を戻した。

大蛇丸を新たに駆けつけた四人の暗部で囲み、ヒルゼンは暗部の中に混ざり静かに大蛇丸を見下ろしていたかと思えば、やがてやけに落ち着いた口調で暗部達に指示を下した。

 

「大蛇丸。お前をここ木ノ葉で、ワシの手で封印する。初代様と二代目様もじゃ。皆、大蛇丸を捕縛せよ」

「「「はっ」」」

「……クッ、フフ、その選択がいつかアンタの足元を掬うことになるわよ、クソジジイ」

「言うておれ」

 

暗部らによって構成された術で、大蛇丸の手足が封じられていく。

ぐるぐると縛る様な模様が大蛇丸の腕や足に絡まる様に浮き上がる。もう自由に身動きを取ることはできないだろう。

大蛇丸は抵抗もせず、大人しく暗部達に捕縛された。その表情はまだどこか余裕がある。

縛られた音忍達と共に暗部により連行されていく間、マダラの側を通った大蛇丸は絡みつく様な視線をマダラに向けながら屋根の上から去った。

通り過ぎる際、ぞわりと全身を撫でられるような感覚に見舞われたマダラは、不快そうに僅かに顔を顰めた。

 

(一体何がしたかったんだ、大蛇丸とやらは。結局、柱間と扉間はどうする)

 

今は幻術にかけられ大人しくしているが、柱間はともかく扉間の方はいつ解かれてもおかしくはない。そう長くは持たないだろうことはマダラは理解していた。

どうするのか尋ねようとマダラはヒルゼンの元へ移動しようとするが、目の前に立ちはだかる様にして現れた狐面の忍に、マダラはキツく睨んだ。

 

「邪魔だ。そこをどけ」

「火影様! この男は危険です。先日のハヤテの件といい、ただの下忍にしてはおかしすぎます!」

「……弟子だけじゃなく、部下の面倒も見きれていないようだな」

「火影様になんてことを言うんだ!」

「よい、下がれ。タジマは大丈夫じゃ、何も問題はない」

「火影様⁉ ですがただの下忍が初代様と二代目様を抑えられるはずがありません!」

「ワシが問題ないと言うておるのじゃ。気にせんでよい」

 

マダラの強さに疑いを持つ暗部は、ヒルゼンの言葉に下唇を噛みながら引き下がった。

納得のいかない様子で、暗部は深く息を吸う。

砂隠れの忍に大怪我を負わされたという月光ハヤテを助けたのは、下忍になったばかりの団子屋に立つこの男だという。

男には常に木ノ葉の忍が側についていた。ごく数名が選別され、この数年間ずっと監視の任務に当たっているそうだ。

忍の人材不足が言われる中、他の重要度の高い任務がある中で、十分な戦力となる実力者の忍が彼とともに団子屋で働き、子どもがする様な任務をこなしている。

なぜ男の側に忍を置かなければならないのか。違和感を覚えない方がおかしなものだろう。

ただの下忍が、ハヤテを襲った砂隠れの忍を撒けるはずがない。

ただの下忍が、初代火影の柱間や二代目の扉間に勝てるはずがない。

男の齢でその強さを持つのなら、短くない忍人生のなかで一度も名を耳にすることがなかったのはどうしても解せないことであった。

納得はいかないまま、鬱陶しそうな表情で見据えるマダラに暗部は道を譲る。

拳を握りしめる暗部の横を、マダラは素早く通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

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