おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第25話

 

「里を抜ける前、お前は俺にあるものを見せた」

「それがうちの神社にある石碑のことか」

「ああ。程なくして、お前は里を抜けた」

 

未来に来てからすっかりと見ようとも思わなくなった石碑の存在に、マダラはそういえばそんな物もあったと、今は立ち入り禁止区域となっているうちは地区のことを思い出した。

 

(ここの俺は、また違う解釈の仕方でもしたか)

 

写輪眼でなければ読めぬあの石碑は、うちは以外の人間が解読することは叶わぬ物だ。石碑に書かれた意味を紐解いたこの時代の死んだマダラは柱間と袂を分かった。

そして一人里を抜けた後、マダラは里に九尾を伴い襲撃しにやってきた。里を狙ったにしては場所が離れており、その場所まで柱間だけを誘き寄せたようにも思えたが。

柱間の説得もむなしく、最終的に柱間が取ったという選択を、マダラは静かに耳を傾け受け止めた。

 

「俺には終ぞ、お前がーーいやマダラが得た新たな夢というのを知ることはなかった。やっとの思いで作った里という繋がりを断ってしまえる程の夢を、決意を、俺は知らなんだったのだ」

「九尾も引き連れてったのに、あっけなく俺はお前に負けたってわけか。理由が知りたけりゃ、死んだ俺を穢土転生でもして吐かせればよかっただろうに」

 

落ち着いた調子で話す柱間に、マダラはただ冷静に思ったことを発した。

マダラの問いに対して、扉間が口を開く。

 

「お前を穢土転生することはできん。解の印を知っているからな」

「ほう、それなら使わないほうが賢明だな」

「ああ。術についてはサルから聞いただろう。口寄せ契約を解除された場合、里で無限のチャクラを持つお前と争いになる可能性があることを想定すれば、無闇に穢土転生の術は使えん」

「のおマダラ、お前には今の里がどう見えてる」

「今の里か?」

 

柱間の目が、マダラをじっと捉えている。

族長という重荷がない今、守るべきだった一族もわずかにサスケやその兄を残し滅んだこの未来で、里をどう思っているのか。

柱間の真剣な問いに、いざ問われると返答にマダラは悩んだ。

柱間の話を聞いても、マダラにはここの自身が起こした出来事について理解を示すことは難しかった。柱間と死闘を繰り広げる必要性は、どこにあったというのか。里にあった資料でしか見たことはないが、柱間とマダラの戦った地は終末の谷と呼ばれ、マダラのいた形跡の殆どを消してきた木ノ葉であるが、過去の出来事の繰り返さぬよう戒めるかのように二人の巨大な像が建てられている。

マダラは柱間の問いに答えようと、この里に来てからのことを振り返った。

出てくるのは、この数年間振り回されてきたナルトとの記憶ばかりだ。

 

『おっちゃん、今日組手でサスケに勝ったんだってばよ!』

『そりゃよかったな』

 

『おっちゃん、今日さ、イルカ先生がさ!』

『はいはい』

 

『俺も今日から忍者だってばよ!』

 

『ラーメンがいい! 今日一楽行こうってばよ!』

 

『ぎゃー! おっちゃん怖えってば! おっちゃん振り切れとか無理言わねーでほしいってばよ!』

 

『行くぞサスケ! くらえ、おっちゃん! 木ノ葉体術奥義ー!』

『ーーフッ、甘い』

『ぎゃーーーーーー‼』

『……チッ、ナルトはだめか』

『次はお前だ、サスケ』

 

この木ノ葉で過ごした日々は、今までに無いほど穏やかであったようにも思う。

大きな戦もなく、ただ密かに里で過ごすだけの退屈な日々を迎えるのだろうと思っていたマダラは、ナルトを通し関わりを持つようになった人々のことを思い、こんな日常も悪くはないと感じていた。

マダラは柱間の問いに答えはしなかったが、その表情やチャクラが穏やかなものであると見た柱間は表情を緩めると満足したように頷いたのだった。

 

マダラが柱間達と話をしていると、部屋の扉が数回叩かれる音が響いた。

ヒルゼンが外に向かい声を張ると、若い男の声が返ってくる。

 

「火影様。先程のタジマの件ですが、何やらまた広まっております。その件で火影様にお会いしたいと言う者が」

「ワシにかの。……タジマ、すまぬがワシは席を外させてもらうぞ」

「なかなか誤解は解けぬものぞ……すまんの猿飛……」

 

がっくりと肩を落とした柱間を尻目に、ヒルゼンは軽く頭を下げると部屋から出ていった。

外で監視役は待機しているが、部屋の中には三人だけが残され沈黙が落ちる。待機している監視の忍だが、普段マダラをここに連れて来た監視役ともう一人だけであり、連絡をしに来た男がヒルゼンを連れて行き部屋を離れて行くと三人は話を再開した。

 

「俺の噂については一度お前らが訂正したっていう話だが……」

「ああ、ワシとサルでな」

「柱間の失言だが何人に聞かれた」

「さ、三人ぞ。面をしていたから、顔は見ていないが。マダラ、気になることでもあるのか」

「……屋根の上で俺の前に立った暗部がいた。前から俺については疑っているような口ぶりだった」

 

中忍試験の日のこと、ヒルゼンの側に行こうとしたマダラの前に立ちはだかった忍がいた。他の忍らも過去の火影二人を抑えたマダラのことを疑っていない訳ではないだろうが、それを表立って行動に示す者はいなかった。

あの場で体が動くということは、以前からマダラのことを、そして可能性の一つとしてヒルゼンのことを疑っていたということが考えられる。

里内でマダラのことを知っている人間は多くはない。ヒルゼン含む一部の上役と、監視役の任に着いた忍だけだ。

いきなり里に現れた上、火影の近くにいるマダラの存在を疑問視する者がいることにはなんら不思議なことはない。だがマダラのことを言いふらして何かメリットがあるかと言われると、下っ端には何もないはずだと考えを巡らせる。

単純に人柱力や火影の側に見知らぬ男が付いたのが気に食わないのか、はたまた自身の待遇に不満を持ちヒルゼンに対し燻る何かを抱えていたのか。

 

「いつになっても厄介ごとは尽きないな……」

 

マダラはヒルゼンの出ていった扉の方に視線を配ると、向こう側に控えている監視役のチャクラの気配を読んだ。

いつものマダラの監視役だ、彼から敵意はカケラも感じられない。ヒルゼンに対しても、命令には従順に従っている。噂を故意に流しているのは火影から重要な任を解かれた忍の仕業か、それとももっと別のところか。

 

(ナルトと同居し始めてすぐの頃だ。アイツらは急遽俺の監視役に就かされたと言っていた。ナルトの境遇については詳しくは知らなかったようだが……思えば里の他の住民と比べればナルトに対してあまり気にする様子はなかったな)

 

うちはマダラを監視せよという重大任務を前に、元から里にいたナルトのことを一々気にかける余裕がなかっただけかも知れないが。

 

(……俺とナルトの両方それぞれに忍を付けて監視する必要はない。人員の無駄だ。実際、アイツらの他に暗部やらが付いていた気配はなかった。ならば、火影直々に人柱力の監視を任されていた忍が、ある日急に任を解かれたのだとすれば)

 

任務に優劣を付けるなど意味のないことだが、人柱力の監視となれば里の命運を握る重大な任務の一つとなるだろう。他人の思いなど計り知れぬが、仮にそれに誇りを持っていたのだとすれば突如現れた男に任務を奪われ不満を持つことは仕方ないだろう。

里を崩壊させようと企む弟子がいたかと思えば、多くの部下を持ちその部下からも疑われるなど、ヒルゼンも苦労が絶えぬものだとマダラは憂うのだった。

里の忍達は情に厚いと思えば、妙に疑り深いところがある。この里で過ごしている中で、マダラはうんざりする程それを感じていた。

個人やその周りだけを守ろうとし、それを成すためならば他者を傷つけることも厭わず貶める。まるで守るためならば、周りが無事であるためならば、何かを切り捨てることも、その手段も厭わないかのように。

 

「猿飛のガキもお前の弟子だったな、扉間。この里はお前の意思が良く受け継がれてるとつくづく感じるぞ」

「嫌味か」

「む。喧嘩はよすんぞ!」

 

柱間が二人の間に割って入る。静かな睨み合いが続いた後、マダラは鼻で扉間を笑い飛ばした。

柱間や扉間は、今や里にとっては死んだ過去の人間だ。起ったことを悔いようが嘆こうが、彼ら亡き後、今の里に至るまでの選択をしてきたのは次代の忍達である。

過去に戻れぬ間、マダラにとって里とはただの仮の住まいだ。

里の、ナルトやサスケ達の平穏が保たれるというのなら、ヒルゼンの行う策にあまり手出しや口出しはすまいと、一定の線引きはしていた。

 

「マダラ……」

 

柱間の声がこだまする。

目の前のマダラは柱間の知るマダラではあるが、だが最後に言葉を交わしたあの日とはまた違った、深い感情の色を持った眼差しを宿しているように思えた。

 

 

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