おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第26話

 

広めの会議室に集められたカカシやガイは、大勢の忍らの前で手を後ろに組み立つヒルゼンを静かに見据えた。

彼らがここに集められたのは、ナルトの同居人についてある噂が流れたせいだ。

手慣れた様子で穢土転生で蘇り操られた初代火影と二代目火影を無力化した『タジマ』について、『うちはマダラ』であるという噂が広まったのだ。

 

(うちはマダラは、確か初代様達と同じ世代の人だ。タジマさんのことを気に入らない誰かが、穢土転生のお二人にちなんでそれっぽい人物に当てはめたんだろうな)

 

タジマについてカカシも疑った事はあるが、ナルトが警戒心を抱いていないことや真面目に任務をこなしている様子といい、ヒルゼンからの信頼はあるようで、カカシは彼の存在を疑うことをやめていた。

カカシの担当している第七班の彼らとも比較的友好な関係は築けており、ナルトが『おっちゃん』と呼び慕っていることからもこれ以上疑うだけ無駄だと判断した。

頑なにタジマのことを話そうとしないナルトに違和感はあれど、里にとって彼は敵ではない。

それに今や同じ本を読む同好の士である。

 

「ゴホン。ここに皆を集めたのは、今出回っている噂についてじゃ。同じ里に住まう者としてあらぬ噂を流すのは良からぬこと。彼奴もまた一人の里の忍として、日々任務をこなしておる」

「ですが火影様、ただの下忍にしては実力が見合っていないのではありませんか。暗部でもないようですし」

「そうだ」

「……もっと他の任務も受けさせるべきでは」

 

一人の忍がヒルゼンに意見を述べたことで、ヒソヒソと周囲で戸惑いの声が上がる。

その中でもカカシは、ざわつく周囲とは違い真っ直ぐにヒルゼンを見続けていた。

カカシの視界の端で、長い髪を下ろしたくのいちが手を挙げる。

 

「火影様、よろしいでしょうか?」

「なんじゃ」

 

彼女は任務遂行中に砂の忍に襲われたハヤテの恋人であった。

 

「あの人が『うちはマダラ』かどうかは、今の我々には重要なことでしょうか」

 

彼女の声に、先程までヒソヒソと話していた忍達は静まった。

仮にマダラが蘇りタジマとして過ごしていたとして、これまでに何か里に対して不利益を被るようなことが起こったかといえば、寧ろ月光ハヤテの救出であったり大蛇丸の襲撃では敵方の制圧をしたりと、貢献している面の方が大きいだろう。

 

「彼のような忍が今まで無名だったことは気にはなりますが、遥か昔に死んだ者の名を使い噂を流して里中の忍の不安を煽るような事は、我々にとって、里にとっても意味のないことだと思います。騒ぐだけ無駄かと」

「夕顔の言うとおりじゃの。皆も気になるのなら、彼奴はよく商店街の先にある団子屋で働いておる。団子の一つでも買いに行ってみれば良かろうて」

「だんごののぼり持ってたよな」

「本当に団子屋にいるのか……」

「なんで団子屋に……」

「団子屋の婆さんが指名してるらしいぞ」

「大体マダラとか生きてるわけないしな」

 

一部まだ納得の行かなそうな表情を浮かべる者はいるが、捕らえた大蛇丸の逃走を手引きした忍が里内に潜んでいる可能性や、まだ他にも砂隠れと今後の関係についての協議が控える中で、噂に踊らされている暇はない。

この場では皆それぞれ反応は違えど、『うちはマダラ』の噂については杞憂であると話は終わらせられたのだった。

解散した後、ヒルゼンに言われた団子屋へ目指そうとする者もいる中、カカシはしばらくその場から動かずにじっとヒルゼンが立っていた場所を眺め続けた。

タジマに対する疑いは完全に晴れた訳ではない。ヒルゼンはタジマがうちはマダラであるということについては、はっきりとは否定していない。

カカシはこの場に現れなかったタジマの監視役の一人を思い出し、胸の内にわずかな違和感を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

ヒルゼンによる再度の説明の後、『タジマ』が『うちはマダラ』であるという噂話については一旦の収束を見せた。

部下に不信感を抱かせたことについてコミュニケーション不足から来るものだと判断したヒルゼンは、暗部や他の火影塔に務める忍ら一人一人と面談を行うことに決めた。

穢土転生で呼び出されていた柱間と扉間だが、口寄せ契約を解除しており、あとは各々浄土へ還って貰うだけだ。

ヒルゼンの方も会合やら面談やらとまた慌ただしくなり、噂も落ち着いたことによりマダラは呼び出されることが少なくなると、またいつものように任務をこなしていった。

ナルトより早く起き、素早く身支度を済ませると夜見張りをしていた監視役が入れ替わるのを気配で感じながら団子屋へ向かう。

今日もマダラは店に来た客の注文を取り、団子を焼いていく。

日が沈み始める頃には仕事は終わり、残った団子を包まされるとそれを片手に帰路に就くのだ。

団子の包みをぶら下げながら、マダラはナルトと住むアパートの階段を登る。

部屋の明かりがついているのが見え、複数人の覚えのあるチャクラの気配を感じ取る。

 

(……サスケとサクラか?)

 

最近は任務後もすぐには帰らず、次の中忍試験に向けての作戦会議やらをしているのだとか。

マダラが玄関扉の鍵を回し開けると、三人とも同時にマダラの方を振り返った。

 

「あ、おっちゃん!」

「あ、おっさん」

「あ、タジマさん」

 

重なった声の後に、ばらばらにおかえりとお邪魔していますの言葉がその後に続いた。

 

「今日は何してるんだ」

「実はさ、今日はカカシ先生の件でさ」

「カカシの?」

 

ナルトはマダラの前まで駆け寄ると見上げ、自身の顎の辺りを触りながら説明を始める。

 

「俺らカカシ先生の顔見たことないんだってばよ。そんで前からだけど、どうにかして見れないかと思っててさ」

「あの口布でも引っぺがそうと三人集まってるのか」

 

うんうんとナルトが頷く。

思えば波の国で寝食を共にしたが一度もあの布の下を見たことがなかったとマダラは思い返す。

ナルト達はカカシを一楽に連れて行ったり茶を勧めたりと色々と試したそうなのだが、いつのまにか完食しており布の下を拝めないでいるのだとか。

 

(なるほどな。無理に剥がすような物でもないが……サスケやサクラも乗り気な辺り、相当気になってるようだな)

 

マダラがまたどこか食事に連れ出せばいいだろと言うと、ナルトは俯いてしまう。

ナルトのガックリと肩を落とした様子に、つい最近再会した落ち込みグセの酷い男の姿を思い出す。

 

「なぜ下を向く」

「……カカシ先生に奢るお金もうねぇんだってば」

 

教え子に奢らせるな、とマダラは眉間に皺を寄せた。

その様子では、任務で得た報酬をかなり使ったようだ。

ナルトは修行で使い込み傷んだクナイの買い替えやら、背が伸びて必要になった衣類やらを購入していたら手持ちが少なくなったそうだ。

依頼料は貰ってはいるものの、低ランク任務で得られる報酬では頻繁に外食など贅沢はできまい。

 

「……ナルト。お前らは明日も任務か?」

「うん任務だけど。どったの、おっちゃん」

「明日全員一楽に連れて行ってやる。明日俺はずっと家にいるからナルト、任務が終わったら分身か何か寄越せ」

「一楽⁉︎ いいの⁉︎ 聞いたかサスケ! サクラちゃん! 明日はチャチャっと任務片付けようぜ!」

「え、私達まで良いんですか!」

「おっさん大丈夫なのかよ。むしろ俺達で出した方が」

 

明日は一楽だと言うと、元からラーメン好きのナルトだけでなくサスケやサクラまでもが嬉しそうな様子を見せた。

カカシの布の下を拝めるチャンスが来たと喜ぶ彼らを尻目に、マダラは手洗いを済ませると今しがた貰ってきた団子を皿にあけるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日昼過ぎのこと。

早々に任務を終えた第七班の四人とナルトの影分身を連れたマダラは一楽の前で落ち合った。

七班の面々とマダラが合流すると、影分身は音を立てて消える。

ナルト達が真っ先に一楽の暖簾をくぐり、その後にマダラとカカシが続いた。マダラは素早く左端の席に向かう。

 

「どーも、今日はありがとうございますタジマさん。……ナンデみんな真ん中開けてんの。え? 俺が真ん中?」

「良いから早く座れよ、次の客が来るだろ」

 

サスケの容赦ない言葉がカカシを刺す。

 

「俺端でもよかったんだけどな」

 

渋々という様子でカカシは空いている真ん中の席に腰を下ろした。

席だが、左からマダラ、ナルト、カカシ、サクラ、サスケの順に並んでいる。

食べるものは皆決まっており、注文をし終えると程なくしてラーメンは提供され、ナルト達が声を揃えいただきますと言うのを片側で聞きながらマダラも手を合わせると割り箸を割った。

マダラはあまりカカシの布の下というのを気にしていなかったものの、ナルト達が騒いでいると何となく気になってしまい、ラーメンを啜る動作もいつもより静かになってしまう。

ナルト達はというと、今か今かとカカシの手が口布にかかる瞬間を待ち侘びており、箸を持ったまま動きを止めていた。

そんなに見られていてはカカシも気付くだろうに。

 

「お前ら食べないの? 麺伸びるよ?」

「た、食べるってばよ!」

「ああ、そう」

 

カカシの言葉に端に手をつけ始めたナルトは急いでラーメンを食べ始めた。サスケとサクラも同じく麺を啜り始める。

ナルト達の視線が外れたこともあり、カカシの手も動きようやく食べ始めるようだ。

テウチは作業中のようで、マダラ達には背を向けている。

ナルト達の話から、カカシの食事時間はあっという間だそうだ。始めの一口を見逃せばもう見られないかもしれない。

マダラはカカシの手元に集中した。

 

(ここだと位置が悪いな。少しでも指が布に触れるのが見えたら椅子を蹴って教えてやれたんだが)

 

ラーメンを啜りながらマダラはカカシの動きに目を向けていると、麺が伸びるとナルト達に言いながらまだ一切口をつけていないカカシが何やら狼狽始めた。

 

「え。ちょっと、え? タジマさんとサスケ? 怖いんだけど」

「チッ さっさと食えよカカシ」

「ねえ俺先生だよ。それよりラーメン食べるのに写輪眼いるの? 何を見てるのよ」

「え、サスケくん写輪眼?」

 

サクラがラーメンに落としていた視線を上げると、サスケの方を振り向いた。

マダラはというと、カカシの言葉に何もなかったかのように目を逸らし、またラーメンを啜り始める。カカシは知らぬふりをしているマダラの方をじとりと見遣ると、先程見た赤い瞳がいつもの色に戻っていることを確認する。

カカシは最近またナルト達が布の下を見ようと色々と作戦を企てているのには気づいており、今の様子から今回一楽に誘ったマダラもグルであることを悟った。

 

(……両側から写輪眼って、ここラーメン屋だよね)

 

もっと有意義な使い方をして欲しいとカカシは頭を抱える。

早くラーメンを食べたいところだが、見られているのを分かっていて食べ始めるのも何だか恥ずかしい。カカシはどんぶりの上に乗るナルトのうずまき模様を見つめながら、箸をつけるかつけまいかをぐるぐる悩んでいた。

そんな時だ、背を向けていたテウチが正面を向くと、マダラにいつも一緒にいる相方は今日はいないのかと尋ねてきた。マダラは相方と言われ一瞬片眉を上げたがすぐに誰のことか気付くとテウチの問いに答える。

テウチが言う相方とは監視役の一人のことだと思われ、任務終わりに何度か共に一楽に来たことがあったため、その彼のことを尋ねているのだろう。

 

「あいつは非番だ。久々に温泉でも行くんだと」

「あのおっちゃん今日温泉行ってんの? 温泉かぁ……エロ仙人まだあの辺ウロついてんかな」

 

テウチに話しかけられたマダラと、その会話に釣られたナルト達がカカシから目を逸らし前を向く。テウチに聞かれた監視役の男だが実際に休みであり、温泉に行っていることも間違いではない。昨日団子屋から帰る際に、明日行きたいと肩を回しながら言っていた。夢は温泉巡りだと、お前さえ里の外にもう少し出やすかったらあちこち行けたのにと文句を言われた。連れて行くつもりらしい。

テウチと話していると、箸の置かれる音が聞こえた。

皆「あ」と思った時には遅く、一斉に真ん中を振り返るとカカシのどんぶりが空になっているのが目に入る。

マダラはカカシの食べる速さになるほどと、これではナルト達が食事に誘っても見られないはずだと胸の中で頷いたのだった。

 

 

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