おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第29話

足元に小さな影が三つ、地面に落ちている。

里の商店の並ぶ通りをナルトとサスケ、サクラの三人はゆっくりと歩いていた。

後ろで手を組みながら、サクラが世間話をする様に二人に語りかける。

 

「ねえ二人とも、この噂話聞いたことある?」

「なぁにサクラちゃん、ウワサ話? 何の?」

 

喉が渇いたと、水筒の蓋を開け歩きながら水を飲んでいたナルトが、サクラの何気ない問いに横に少しばかり顔を向ける。

 

「なんかね、忍の人たちがカフェで話してるのを聞いて。うちはマダラがいるっていう噂なんだけど」

「ブーーーーッ、ゲホゲホッゲホ、ケホ」

「え⁉︎ 大丈夫ナルト⁉︎ 変な方向きながら飲むからよ、もう……サスケくんは聞いたことある? 次の町内会の出し物じゃない? っていのとかは言ってるんだけど」

「……さあな」

 

ナルトはサクラから聞こえてきた言葉に、違う穴に水が入りかけ盛大にむせた。

何故ここでマダラの名が出るのか、動悸がするナルトはサクラ達を見れず明後日の方を向きながら適当に答える。

 

「し、しし知らないってばよ」

「何でそんなにどもってるのよ、ていうかどこ見てるの。そもそもあんた誰かわかってる?」

「そ、それくらい知ってるって!」

「へえ、意外。サスケくんならわかるけど、ナルトも知ってるのね」

「し、知ってるってばよ。初代のおっちゃんと里作った人だろ!」

「う、うん」

「え、サクラちゃん? ……あれ?」

 

ナルトの答えにサクラが目を瞬かせる。

サクラはナルトが知っていたことに驚いたが、アカデミーでの歴史の授業で触れた内容とは少し違ったナルトの答え方に少しばかり小首をかしげた。

教科書には火影に関する内容は詳しく載っていたが、共に木ノ葉の里を創設したとされるマダラの方についてはあまり触れていなかったはずで、授業中よく居眠りやイタズラをしていたナルトがそこを覚えているとは思わなかったのだ。名前だけは出てきたものの、解説するイルカがサラリと流したうちはマダラの名前をナルトが覚えているとは思えず、サクラは少し違和感を感じる。

 

「うーん、合ってるのよ、合ってるんだけど……ナルトが知ってたのに驚いちゃった。どちらかといえば載ってたあの石像の方が印象に残ってると思ってたから。意外と授業の内容覚えてるのね」

「あ、あはははは、あー、うん! 覚えてる! 覚えてるってばよ!」

 

ナルトはなんとか笑って誤魔化そうとする。

授業で深くは触れていないことは何となく覚えているが、教科書の内容よりも実際にマダラから聞いた話の方が印象に残っており、もしサクラに細かく尋ねられたら習っていないことまで言ってしまいそうだ。

初代火影の柱間と当時うちは一族の長だったマダラが手を取り里が起きる事になったが、サクラがナルトの答え方に違和感を抱く様に、里の歴史からマダラの存在というのは殆ど消されていた。アカデミーで教わっていない内容を答えるのはまずい。

商店が立ち並ぶ通りを、サクラを間に挟みながらナルト達は歩く。

変に慌てている様子のナルトに、サスケもおかしなものを見るかの様な目をナルトに向ける。サクラの何気ない問いに対するナルトの反応が大き過ぎる。サスケはナルトを見ながら変な奴だと胸の内で思う。

 

「サ、サクラちゃんその話はもうさ、やめようって」

「あ、あそこにいるのってカカシ先生とタジマさんじゃない? 昼間から二人でいるのって珍しい」

「え、え⁉︎ おっちゃん⁉︎ ナンデいんの⁉︎」

「おっさんだって里に住んでんだからどこにいたって良いだろ、ウスラトンカチ」

 

サクラが視線を向ける通りの先には、角を曲がり現れたカカシとマダラの姿があった。サクラの声よりも、ナルトの大声に気付いたマダラとカカシの足が止まり二人が振り返る。

サクラとサスケは未だあたふたしているナルトを置き、先にマダラ達の元へと進んで行った。

 

「カカシ先生! タジマさーん!」

「よっ。まぁた三人揃って、本当に仲が良いねお前らは」

「お前らか。で、ナルトはあんなとこで一人で踊って何をしてる」

「なんか一人であたふたしだして。でもいつもの事ですから」

「……まあ確かにな」

「ああー! 酷いぜサクラちゃん! それにおっちゃんもさ、納得すんなってばよ!」

 

どたどたと腕も振り回しながらナルトが走り、サクラ達に追いついた。

むすっとぶすくれた表情でナルトがマダラを見上げると、いつもの暗い色の瞳と目が合った。

 

「カカシとおっさんは何してたんだ」

「んー、散歩かな」

「おっさん二人でかよ」

「まあ良いじゃないのサスケ、たまには二人で散歩してたって。ねえ、タジマさん」

 

カカシが笑みを浮かべながらサスケにそう言うと、釈然としないのかサスケは暇なら任務にこいよと胸の内で思う。

近頃のカカシは第七班の担当上忍として任務に同行をしていなくもないのだが、数日に一度は別件でカカシ個人に任務が入るせいで常に付いて回れているわけではなかった。

 

「なあに、サスケは。俺がいないと寂しいってこと? 悪いな、明日は行けるからさ」

「ち、ちがう!」

「サスケ〜、素直になれってばよ」

「黙れ、ウスラトンカチ!」

「そんじゃ、俺達行くところがあるから。明日は十時に門の前で集合なー」

「え、もう行っちまうのかよ、カカシ先生とおっちゃん」

 

じゃあねと手を振るカカシにナルトが尋ねると、カカシはそうだと頷く。

ナルトは夜中にマダラがカカシと何かしていることは知っており(ごねたら教えてもらえた)、今二人が特に何か任務をしている様子でもないことから、それ関連のことだろうと一人納得する。

足止めするのも悪いとサクラが言い、ナルト達はカカシとマダラと別れた。

カカシとマダラの向かう先は里の外の方らしく、ナルトたちとは別方向へ歩みを進めていく。

 

「カカシ先生達、どこ行くんだろうね」

 

サクラのつぶやきに、ナルトもサスケもカカシ達の後ろ姿を振り返り見た。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

カカシとマダラは、里の外れの方へと向かっていた。

寂れた通りを二人で黙りながら進む。

一度家々が途絶えたかと思えば、暫く歩くと二人の前に門が目の前に現れた。門には立ち入り禁止の線が張られ、また手入れがされていないのか、辺りには雑草が乱雑に生え寂れた様子を醸し出している。

規制線が貼られた門を器用にマダラはくぐるとカカシも後に続いた。

 

二人が訪れていたのは、今や住む人のいなくなったうちは地区であった。

マダラがこの時代の木ノ葉の里に来て以来初めてこの地に足を踏み入れたが、仮にも長だった人間であり多少はこの景色に思うことはあるかも知れないと思っていたのだが、やはりというか特になんの感情も湧いてくることはなかった。

ただ思うとするのなら、千手やそれに連なる者達の支配下に置かれた結果さして遠くもない未来で、この景色もなるべくしてなったのだといったところだろうか。千手とうちはが手を取り合ったとはいうが、やはり所詮は千手側に形だけ迎合されたという方が正しかっただろう。柱間は手を取り合ったなどうちはと千手が対等であったかのように語っていたが、当時の戦力や戦績からしてうちはは劣勢を強いられており、対等であると思っていたのは柱間だけであっただろう。

すべての一族の者が里で過ごす日々を受け入れることができればよかったのだろうが、それなりに歴史もあり高い誇りを持つ人間が多い一族である。我慢を強いられていると、うちはが他族から蔑まれているとそう感じていた者はマダラのいた頃より後になっても常にいたのだろう。内政に関わる人間に一族の者が少なければ、そう感じる者が出てもなんら不思議ではない。

マダラが元々いた時代でも、ほとんど千手側が取り仕切るようになった政に関し嫌な顔をする者は少なくはなかった。だが時が経つにつれ徐々にだが声を上げる者もいなくなり、里での日々を受け入れる者の方が増えていってはいた。

土と砂利を踏む音が響き、あたりの静けさを強調させる。

周囲を見渡しながら歩いていたカカシが沈黙を破り、マダラに話しかけた。

 

「タジマさん、うちは地区で立ち寄りたいところがあるって言ってましたけど、どこに向かってるのか聞いても?」

 

カカシもうちは地区に足を踏み入れるのは初めてではないが、最後に来たのも例の事件があった時くらいでありしばらくぶりであった。

里にいなかったはずのマダラがあまり迷う様子もなくある場所を目指そうと向かっており、カカシは少しだが違和感を覚える。

 

(タジマさんのことを疑うのは止めようとは思っていたけど、この人絶対里にはいたでしょ……)

 

それが幼少の頃のことかは知らぬが、里外にいたにしてはうちは地区の地理には詳しそうである。

カカシがそんなことを思っている傍らで、マダラはマダラで違うことを考えていた。

 

(確か位置的にこの通りをまっすぐ行けば、いけるはずなんだが……)

 

迷っていなそうに見えて実際は少し道に悩んでいた。

どの通りを今歩いているのかを知っているというよりかは、大体の位置を捉えられているだけである。

カカシの目がどこに連れて行かれるのかと不思議そうにマダラを見据えており、マダラは通りの奥を見遣ったまま答えた。

 

「南賀ノ神社だ」

「なかの……ああ、南賀ノ神社ですか」

 

南賀ノ神社といえば、うちは一族の氏神を祀っている神社だ。なぜそんなところへ連れて行こうとしているのだろうかとカカシの中の疑問の種は大きくなる。

今日のカカシは火影室に呼び出されたかと思えば、先に火影室にいたマダラと二人である場所へ行ってこいとヒルゼンに言われ、どこで何をするのかを尋ねる間さえ与えられずにただマダラについて歩いていた。

ナルト達に会うまでにおおまかな場所だけは聞いていたが、人通りのある場所で話すような内容ではないためその後は追求せずついて歩いていた。

うちは地区への立ち入りについてだが、ヒルゼンの許可あってのものなのだろう。

 

「どうして南賀ノ神社へ?」

 

マダラが後方へ少しばかり目配せするが、すぐに視線を前に戻す。

 

「……ここならお前しかいないしな、まあいいか。そんな顔をしなくても、カカシお前にある物を見せてやろうと思ってな」

「ある物?」

「それはついてからの楽しみだ」

 

フッと息を吐き笑うマダラにいまいち状況がまだ飲み込めていないカカシは、疑問は抱いたままマダラの後をついて行った。

マダラが南賀ノ神社へ向かう理由は、一度石碑の内容に目を通しておきたかったのもあった。カカシに読ませたいものがあると言えば、ヒルゼンは特に疑うことなくマダラのこの地区への立ち入りを許した。つい数年前までは近寄るなと言っていたというのに、今ではだいぶ気を許しているらしい。

 

(今一度石碑の内容を確認したい。カカシに見せると言えば、簡単に許可が降りると思ったがその通りだったな)

 

多分こっちの方だった気がすると、時々左右を確認しながら進むマダラに、カカシは一抹の不安を抱えながらひたすらついて歩いていた。

 

 

 

 

 

南賀ノ神社に辿り着くと、カカシはマダラに地下へと連れられた。

篝火を灯し、階段を降りた先でカカシはマダラに見せられた物を静かに見下ろす。

石碑である、それも古くからあるような。

 

「タジマさん、これは」

 

これは何かとマダラに聞こうとしたカカシは、隣に立つマダラの瞳を見て言葉を止めた。

いつの間にか異なる模様の写輪眼へと変容していたのだ。

 

「写輪眼……」

「カカシ、これはうちは一族に代々伝わる石碑だ。お前も左目でこの石碑の文字を読んでみるといい」

「左目で……」

 

スッと左目を隠していた額当てを上げ、カカシは石碑の文字に目を通す。ただの古びた文字が刻まれただけに見えていた石碑が、写輪眼を通してだと不思議と読み解くことができた。だが、一部読めぬところがあり眉間にシワを寄せる。

 

「……これ、は」

「読めたか」

「タジマさん、この目は、まさか」

「その目で読めるところまでは読んだようだな。ああその目で、その新たに開眼した写輪眼で九尾を操ることができるようになる。火影が俺にお前のその目について指導するよう頼んできたのは、そのためだ」

「九尾を……っ、ならあの時の事件は」

「事件? ああ、十三年前のことか。詳しくは知らんが、可能性はあるだろうな。里内部の者による犯行か、外部の者によるものかはわからんが」

 

カカシは額当てを元の位置に戻すと、深呼吸を繰り返した。

もしものことなど想像したくもないが、今後ナルトの身に何かあり九尾が抜かれ暴れることがあれば、カカシは必ず前線に立たされその目を使うことになるだろう。それをヒルゼンは考えており、なぜか生き残っているうちは一族の者にカカシの指導を託している。それも監視付きの者に。

里内にいなかったと言っていた男が、なぜこの石碑の存在を知っていたのか。たまたま事件があった日に里にいなかっただけの可能性もあるが、事件を起こしたイタチが彼程の存在を見逃すとも思えない。

カカシは恐る恐るマダラの姿を横目で見やると、石碑をじっと見下ろし読んでいるところであった。

通常の写輪眼とは違う赤い瞳が、松明に灯った炎の色を反射し揺れている。

 

「タジマさん、どうしてあなたはこの石碑の存在を知っていたんですか。里にはいなかったんですよね」

「そうだな、『ここ』にはな」

「あなたは、火影様と何を考えてるんです」

 

沈黙の間が流れる。

部屋の中を照らす炎の明かりが、二人の影をゆらめかせる。

 

「タジマさん、教えてください。何か隠していますよね」

「……話してもいいが、お前に聞く覚悟があるのならな」

 

石碑を眺めていたマダラは顔を上げると、瞳を戻さずそのままカカシと向き合った。二人の視線が交差する。

 

(覚悟……タジマさんは話す気でいる。今日のこの機会を逃せば二度と聞けないかも知れない)

 

カカシは恐れずにマダラの瞳を見つめたまま、はっきりと頷いた。

この男がナルトの前に現れ、監視を付けられながら過ごしている理由をついに知ることができるかもしれない。そして、なぜサスケや里を抜けたイタチ以外にうちは一族の人間が里内に存在するのか、その疑念についても晴れるかも知れない。

まっすぐ見据えるカカシに、マダラは口の端を少しだけ上げると小さく息を吐き笑った。

 

「お前は俺に心を開きすぎたな――、もし戦場で写輪眼を見ることがあれば今のように見るものじゃない。カカシ」

「っ」

 

クラリとめまいがカカシを襲う。幻術だ。

全く警戒心を抱いていなかったことから、あっさりとマダラのかけた幻術にカカシはかかった。

ぐるりと視界が回転した後、真っ白に染まった視界にカカシは幻術の中で苦い顔をする。

 

(やられた――)

 

そう思ったのもつかの間。

 

「隠していることを話せ、だったな」

 

背後からマダラの声が聞こえたカカシは、急いで振り返る。目の前には先程までの姿とは違い、どこか民族的な装いの姿でマダラが立っていた。襟元が広く開いた暗い色をした丈の長い着物は、サスケがよく着ている服を思わせる。うちは一族の装いであるかの様だ。

 

「タジマさん、その格好は」

「話してやろう、そんなに知りたくばな。タジマだと名乗ってはいるが、偽名だ。本当の名はーー」

 

カカシは聞こえてきた言葉に目を大きく見開くと、すぐにまためまいの様な感覚に見舞われ現実世界へと引き戻された。幻術が解かれた途端、どっと汗が吹き出していくのがわかる。幻術にかかる前まで見つめていたマダラの目から急いで顔を逸らし、カカシは床板を眺め視線を上げることができずにいた。

 

(う、そだろ、まさかあのウワサが本当だったなんて。この人が嘘をつくとは思えないし、火影様もタジマさんの正体については隠しているようだった。あの時初代様や二代目様に冷静に対処できてたのも、タジマさんがそうだったからだ。いや、タジマさんは『タジマ』さんじゃないのか本当は。里に居続ける理由は分からないが、というかタジマさんもわかってないみたいだけど、どうしてこの人は俺に修行をつけようと…………あ! チョットマッテ、俺この人から根付取れないとあのイチャパラ貰えないよね……?)

 

幻術の中告げられた目の前の男の正体にカカシは理解が追いつかず思考の渦に囚われていたが、すぐにハッとした表情になると震えそうになる声で小さく言葉を絞り出した。

 

「本当……なんですか、タジマさん」

「里の中でもごく一部の者にしか知られていない。元々こんなに長居するつもりはなかったんでな、ここで下忍生活を送る事になるとは当時は全く考えもしてなかった。後で猿飛の……火影には一言報告はしておけ、俺のことを知ったとな」

「そんな、俺は……」

「そうわかりやすく狼狽えるな。この時代に至るまでに俺が何をしたのかは粗方知ってはいるが、別に今の俺は里に仇をなすつもりはない」

「俺は、俺は……」

「カカシ」

「イチャパラを、この人から奪い取らないといけないのか」

「そうだな、俺からイチャパラ……まて、イチャパラ?」

「出来るのか、俺に……⁉︎」

「イチャパラ……ああ、そうだアレか。俺から根付けを奪えたら渡す予定だったなそういえば。いや、おい、それよりもっと他の反応があるだろうが。そんなにあのイチャパラが欲しいか」

「はい」

「……」

「……」

 

 

床に落ちる二人の影が、ただただ揺らめいていた。

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