おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第30話

 

クナイが弾き返される音が響く。

分厚く空に浮かぶ雲が太陽を覆い隠し、どんよりとした空気が演習場には立ち込めている。

 

雨が降りそうなそんな天気の中、カカシは額に滲んだ汗が滴り目に入る前に乱雑に手の甲で拭うと、眼の前に立つ男をきつく見据えた。

マダラである。

いつもは夜間に行っていたカカシの万華鏡写輪眼を使うための修行であるが、たまには明るい時間にでもやるかと気分転換に朝から始めていた。

周囲の景色がはっきりと見えるのもあり、夜よりは根付を狙いに行きやすくはなったが、反対に見えている物に思考が囚われすぎてしまいマダラからの攻撃を受けやすくもなった。

息の上がっているカカシとは反対に、マダラは両腕を組みながらカカシの次の動きはまだかと待つ。

 

「もう終わりか?」

「……はあ、はぁ、さすがタジマさんだ。写輪眼使ってないんですよね、コレで」

「この程度、使っても使わなくても変わらん」

 

隙をついたつもりで放った術がたまたまマダラに当たることはあったが、難無く受け身を取られるとすぐに体勢を整えるなり眼前に迫って来たのにはカカシは恐怖を覚えた。当たったと喜ぶことなかれ、大したダメージにはなっていないのである。

第七班の教え子達はこの男相手に三人で立ち向かっているそうだが、どんな立ち回り方をしているのかナルト達から情報を得たほうが良さそうだとカカシは思った。

ナルト達三人と合流し、フォーマンセルでマダラの腰にぶらさがる根付を狙いに行ったほうが早く奪えそうである。一対一ではカカシにマダラも集中しており簡単に動きを読まれ、ただカカシの体力が削れるばかりだ。マダラの気を散らす必要があるだろう。

 

(今影分身なんかしたら俺が持たない……術も無理ならもう)

 

カカシはクナイがまだ残っていることを頭の中で数えると、息を整えマダラの方へと飛び込んだ。半ばヤケクソである。どのみち今の状態で敵うとも思っていないため、片手でクナイを取り出し握ると間合に入った瞬間マダラに向かって振り翳す。マダラはそれを避けるとカカシの腕を掴み力強く引っ張った後、カカシの鳩尾を膝で蹴り呻いた所で肩を掴み向きを変えさせ、カカシの身体を正面から地面に押し倒した。

身動きが取れぬ様、カカシの片方の手首を掴み背中側に引っ張り抑え付け、また背中に半ば乗る形で体重を掛け押さえつける。

倒され押さえつけられたカカシは、空気の塊を吐き出す。

 

「カハッ……」

「もうネタ切れか? 今が演習だからいいものを、無闇矢鱈と突っ込むなどお前らしくもない」

(……ム、ムリデショ。ナルト、タジマさんを出し抜けたことあるって言ってたけど、どうやったんだ)

 

どう足掻いてもタイマンでは勝ち目が見えないカカシである。

 

(腕は掴まれてるわ背中から踏まれてるわ……さぁてどうするのが正解かなこの状況で……でも今が一番根付を狙えるチャンスだ。簡単に動けそうにはないけど、すぐそこにある)

 

マダラに掴まれている方の手にあったクナイを奪い取られる。

この状況で抵抗する者も少ないだろう。今は演習であり無理に身体を痛めてまで続ける必要はないが、カカシが諦めたと思われていそうな今が動くには絶好の機会ではあった。

術の乱用と肉弾戦を繰り返し疲労も溜まってきている中ではあるものの、カカシは残った力を振り絞り自由な片手で土を握ると、思い切りぐるりと体勢を変えた。

マダラはまだ動くのかと少しばかり驚いた表情をするが、カカシが体勢を変えると同時にマダラの顔面に向かい目眩しの土を投げる。そして上体を起こし、マダラの掴んでいた手の力が少し緩んだところで袖口に忍ばせていたクナイを取り出し握ると、腕を素早く振った。目の前のマダラを見上げながら、腰の位置に向かって斜めに鋭く切り上げる。

 

「……ほう」

「……ッ!」

 

だが惜しくもクナイの切先は根付のヒモを掠っただけにすぎず、手に入れることは叶わなかった。

マダラがカカシの眼前で膝を折り、カカシの喉元にクナイを当てる。カカシの負けだ。

 

「……はぁ、はぁ……降参です」

「今のは惜しかったな。さて、一旦休憩でも挟むとするか。お前がそろそろ限界そうだからな」

「は、ははは……スミマセン」

 

脱力してカカシは地面の上に伸びた。ぶ厚い雲で覆われ日差しはないというのに、全身で汗をかいている。

少しの間雲を眺めた後カカシはゆっくりと立ち上がり、腰に手を当てながら川の方を眺めるマダラを見た。あまりにも余裕そうな表情に、カカシは生きた時代の差を改めて思い知る。

マダラと柱間の話は神話の様に語り継がれており、戦いの規模は一人の人間同士の戦いの内容とは思えない。また話の規模から遥か昔のことの様に感じるが、彼らが生きていた時代から今まで百年も過ぎていない。ほんの少し前の時代に、彼らは生きていた。

マダラは若くして死んではいるが、それでもカカシの祖父か曾祖父くらいの差だ。現在里を治めている火影のヒルゼンがまだ幼かった頃にうちはマダラは里にいた。

 

「……なんだ、ジロジロと」

「なんだか不思議だと思って、タジマさんがいるのが。あの伝説の忍がいるんだなって」

「お前らにとって俺の存在はあまり良いものでもない様だがな」

「まあ、俺も昔のことはよくわかりませんが。あ、よくわからないと言えば、初代様と地形が変わる程の戦いを繰り広げたとかアカデミーで聞いた時も、よくわかんなかったですけど。初代様はともかくタジマさんもタジマさんですよね、どうしたら山が削れて大地も抉れて谷ができるんです」

「アイツの術の規模ならまあ……なんだその目は、何か言いたいことがあるのなら死んだ方の俺に言ってくれ」

 

マダラは穢土転生の柱間から聞かされた、自身の最期のことを思い出す。

柱間の木遁と友を切り捨て里の未来を選んだ柱間の選択は正しい。それにとやかく今のマダラが言うことはない。

 

「今度見に行ってみますか?」

「ぬかせ、俺が里を出られるとでも?」

「案外簡単に出られるかもですよ。それにタジマさんもそのうち里外任務に駆り出される様になりそうですね、ずっと人手不足が続いてますから」

「どうだかな」

「本当に人が足りてないんですよ」

「前から聞いてはいるが、今もそんなにか」

「でなければ俺も色々兼務しませんって」

「……それもそうだな」

「火影様も、これからどうなりますかね」

「アレが里を治めているのも長いしな。次の候補は見つかっているんだろう?」

 

カカシがポーチから手拭いを出し汗を拭う。

マダラがこの里に訪れるよりもずっと前、九尾の事件があった際に四代目の火影は殉職し、五代目を立てるべきであったところを三代目のヒルゼンがその後を引き継いでいた。

ヒルゼンによる木ノ葉の統治は長い。だがついこの間あった弟子の大蛇丸による木ノ葉襲撃に関する責任、そして年齢もあることから次代に譲るべきだと言う話が出ているそうだ。

ヒルゼンも思うところはあるのか考えてはいるそうで、過去この里に訪れたばかりの頃マダラもさっさと次の世代にでも譲って隠居でもしたらどうだとヒルゼンに言ったことがあるが、「お主が早く帰ってくれれば問題ないんだがの。いつまでおるのじゃ」と反対に文句を言われている。

 

「一応候補は何名か上がっているみたいですけど」

「ならさっさと呼んで次を決めれば良いだろうが」

「それが……自来也様って知ってます? 三忍の、あ、イチャパラを書いてる人なんですけど」

「アイツか。誰だ推薦したやつは」

「タジマさん知り合いですか?」

「ナルトが家に連れてきた」

「そういや一緒にいたっけ。自来也様に声が掛かったんですが、一度断られた様で。自来也様からは綱手様のお名前が出てます」

「ツナデ? 誰だそれは」

「火影様のお弟子さんの一人です。自来也様達と一緒に火影様の元にいたんですよ。今の俺やナルト達みたいな感じですね。タジマさんは綱手姫のことはご存知じゃ……そうか、生まれてないのか!」

「なんだ、いきなり一人で百面相を始めて。姫……なら女か。で、生まれてないとは?」

「初代様のお孫さんなんですよ、綱手様は」

「柱間の孫⁉︎」

 

マダラから大きめな声が出た。カカシはそれに少し驚くが、マダラがわかりやすく取り乱すのも珍しく思わず笑いがこぼれる。

 

「ははっ、そうなんですよ。今は里には居ませんが。上の様子では自来也様か綱手様、どちらかがなる可能性が高いですね」

「柱間の孫か……大丈夫なのか。事件を起こしたのも同じ猿飛の弟子だが。それにカカシ、そんなことをベラベラと喋って良かったのか?」

「まあ火影の代替わりはタジマさんのこれからにも関わってきますしね。ちょうど良い年代で探すとなると、あのお二人だったのかと。この件については後で火影様からもお話はあると思いますよ」

 

マダラは話に出た柱間の孫の存在を思う。

うずまき家の人間を嫁に貰っていたが、孫まで出来ていたとは。柱間の性格のこと、全力で猫可愛がりしていそうだと容易に想像ができた。

孫であの自来也と同期ならば、それなりに歳はいっているだろう。今のマダラよりは歳上なのは違いなさそうだ。

 

マダラは木の根本に置いていた水筒を取りにカカシから離れる。

水筒の他には軽食と、カカシ用のイチャパラが入った鞄を置いている。

腰を屈め水筒を手に取ると、マダラは蓋を開け中身を呷った。程よく冷たい水が、喉を潤す。

 

「タジマさん」

「……」

 

背後から聞こえたカカシの声に、マダラは水を飲むのをやめる。

 

「絶対に貴方からイチャパラを貰いますから。だから、最後まで付き合ってくださいね」

「……言ったな。口だけの男には成り下がるなよ」

 

水筒を口元から下げ、カカシを振り返りマダラは言った。

 

 

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