おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第33話

団子屋に怪しい外套を着た男が二人、席に着き黙々と団子を食べている。ちょうど落ち着いている時間帯であり、客は彼らしかいなかった。二人組を通したのは店先に立ち人通りを眺めていた店主で、注文を取った後はマダラたちに託し奥で休んでいる。

注文分の提供を終えたマダラは片付けをするフリをしながら、テーブル席で団子を楽しんでいる二人組に何度も視線を向けた。

 

(この店じゃ見ない客層だ。それに何となく若い方はサスケに雰囲気が似ている……気のせいか?)

 

団子屋どころか、そもそも里内でも見かけない装いである。

二人組が忍である事は見た目でわかるのだが、彼らの側に武器の様な物が見えることからもただの客ではないことは明らかであった。

マダラは二人の湯呑みの茶が無くなったのに気付くと注ぎに向かう。

黒髪の青年の方と目が合いしばらくの間無言で睨み合っていると、魚の様な見た目をした男がマダラの方へ申し訳なさそうに湯呑みを差し出した。

 

「多めに頂いてもいいですか? 美味しいお茶ですね」

「……ああ、店主のおすすめだ。店の菓子に合う様に選んである」

「…………へ、へえ、随分目利きのいい方なんですねぇ」

「……」

 

団子を持っていった時もそうだが、マダラが喋ると二人とも微かにだが肩を揺らし固まった。青年からの視線がマダラに刺さる。

 

(……やけに見てくるな)

 

出会ったばかりの頃のカカシや自来也にもじっと見られる事が多々合ったため、そんなに自身の見た目が怪しいかとマダラは不満に思う。

茶なら足したぞとマダラは眉間に皺が寄りそうになるのを堪えると、何かあるのかと青年に尋ねた。

 

「すまない、追加をしてもいいだろうか」

 

青年はマダラを見据えながら、落ち着いた声で追加注文をした。

 

「あ、ああ」

「気に入ったんですか? まあでも、今日くらいは良いですかね」

 

マダラはエプロンのポケットから注文用紙を取り出すと、青年の追加分を書き出していった。

 

(みたらしにごまにあんこ、みたらしもう一本追加で……どれだけ食うつもりだ。まあ、いいが……)

 

青年の注文が止まると、種類もある為内容に相違ないか確認するべくマダラは一品ずつ読み上げる。その間、青年と向かいの男は静かにマダラの読み上げる声を聞いていた。

 

「全部で八本、間違いないか」

「ああ。……ところで、団子屋は始められて長いんですか」

「? ……俺はおよそ一年くらいだが、店自体は長いな」

「そうですか。団子、良い焼き加減ですね」

「……どうも」

 

青年の突然の褒め言葉に、マダラは口の端が引き攣りそうになるのを堪えながら小さな声で返した。

注文を取り終えるとマダラは厨房に戻り準備を始める。いささか気になるところはあれど、客は客である。頼まれた本数の団子を焼き上げると、マダラは再び彼らのテーブルに向かいそれらを置いた。

青年の表情は固いが、焼き立ての団子を見るなりすぐに手を伸ばし頬張った辺り、それなりに気に入ってくれているらしい。彼の食べる勢いは止まらない。

彼らが食べ終えた方の皿を片付けるとマダラは厨房へ戻り、次の客が来るのを待つ事にした。

 

 

 

新たな客が現れると、店の前が少し騒がしくなった。持ち帰りの団子を頼んでいるのか、先に来客に気付いた監視役が対応をしている。

ふと、マダラは二人組がテーブル席にいないことに気がついた。金がテーブル上に置かれており食い逃げでは無いのだが、手に取り数えてみると注文分の金額よりもかなり多く置かれている。

 

「……はぁ、探しに行くか」

 

黙って店を出ているあたり、わざわざ釣り銭を取りに戻ることはしないのだろう。

マダラは手早く釣り銭を用意しエプロンのポケット部分にしまうと、店主に断りを入れ姿を消した二人組を探しに行った。監視役が物言いた気な表情でマダラを見てきたが、もう一人監視だけをしている忍がいるため呼び止められることなく視線だけよこされると、マダラは店を飛び出したのだった。

 

 

 

なかなか二人組を見つけられず、マダラはいつのまにか店からだいぶ離れた所まで探しに来ていた。商店街からも外れ、里の中を流れる川の側まで来ていたマダラは諦めたようにため息をつくと、揺れる水面の向こう岸を眺める。このまま探し続けるのも良いが、あの二人組が見つかるとも限らない。そろそろ店に戻ったほうが良いだろう、そう思っているとマダラは馴染みのある気配を感じ後ろを振り返った。両手を短パンのポケットに突っ込みながら、サスケがマダラの後ろに立っている。

 

「おっさん、何してんだ。エプロン付けてるし」

「サスケか。客が金を置いて帰ってな、探していたところだ。お前は一人か?」

 

サスケはこくりと頷いた。

暇しているのか共に探してくれるそうで、サスケはマダラにどんな客だったのか尋ねる。だがマダラは客の特徴を伝えようとして、開きかけていた口を結ぶと思案する表情を浮かべた。

 

(……あの二人、ただの客じゃないのは確かだ。サスケを巻き込まないほうが良いだろう)

 

マダラが不自然に黙ったのを、サスケが訝しげに見上げてくる。

 

「いや、もうどこに居るかもわからん。気持ちだけ受け取っておく」

「そうかよ、おっさん。……! なんだ、今の音⁉︎」

 

突如、爆ぜるような音が二人の耳に届いた。微かに感じるチャクラの反応といい、里内で戦闘でも始まったのか。

サスケが音の聞こえた方に走り出したのを、マダラは即座に追いかけると肩に手をかけ引き止める。

 

「待て。一人で行ってどうするつもりだサスケ。お前一人で何が出来る」

「っ、なんだって良いだろおっさん。もし他に気づいてる奴がいなかったらどうすんだよ」

 

マダラの手を振り解き、サスケが再び走り出す。放って置けない性格なのは修行の相手をしている時の様子から分かってはいたが、こう人の言うことをあまり聞かないのは元々なのか。マダラはやれやれと首を振りながらサスケの背中を追う。

音のした方に近づくにつれ、水面に立つ人影をマダラ達は視界に捉えた。太刀を背負った大きな男と、たまに見かけるカカシの友人らが対峙している。

 

(……あれは猿飛のところの……あとは中忍試験の会場で見た奴らだな。やはりあの客、只者ではなかったか……もう一人はどこだ)

 

マダラが周囲を見渡すと、サスケや自身がいる通りの奥にカカシの後ろ姿が見えた。その向こう側に、少し陰になってはいるが団子屋にいた青年の姿も見える。

マダラとサスケの気配に気付いたのだろう、カカシが声を張り上げた。

 

「ッ! タジマさんですか⁉︎ サスケを連れてここから離れてください‼︎ 早く!」

 

カカシのただならぬ様子に、マダラはサスケのすぐ側まで駆け寄ると細い手首を掴んだ。掴まれたことに驚いたサスケの肩がびくりと揺れる。

サスケの位置からはカカシの背中で向こう側に立つ青年の姿がよく見えなかったが、走り寄る際にマダラには青年の顔がハッキリと見えた。良く知った模様に、カカシが大声を出した理由を悟る。

 

(……写輪眼か、なるほど。サスケを遠ざけたいということは、もしやあれがイタチか?)

 

「なんッ! 離せよ、おっさん!」

「カカシの言う事を聞いてここは退くぞ」

「……サスケか?」

「ッ! この、声、痛ッ、離せよ! イタチだ、アイツは俺が‼︎」

「お前が行ったところでカカシの邪魔だ」

「それは……でもイタチが、なんでアイツがここに居る!」

「落ち着けサスケ」

「っ……」

 

マダラに強く手首を掴まれているサスケは諦めずにカカシの向こう側にいる青年ーーイタチが見える位置まで駆け出そうとするが、マダラに力強く引っ張られると動きを止められた。

 

「サスケ、周りを見ろ」

 

マダラの低くも力強い、咎めるような声音がサスケの胸に沈む。

サスケは一気に昂った感情が冷めるのを感じると、イタチの前に今の自身が飛び出したところで何が出来るのかと胸の内で自問を繰り返した。確かにマダラの言う通り、掴まれた手首を振り解けもしない己に、イタチを相手に一人で敵うというのか。

 

「愚かだな、サスケ。己の力量もわからず、感情のまま動くなど……弱い、弱いな」

「ッ、あん、たに……何がわかんだよ。いつもいつも自分は何もかもわかってるかのように澄ました顔で。 あんたは、いつも……いつも……! 里を出たあんたに今の俺の何がわかるんだ!」

 

マダラが掴んでいる手首から、サスケが震えているのが伝わってくる。サスケの中にあるのは、怒りと寂しさが入り混じった複雑な感情なのだろう。

マダラはサスケを掴んだ手の力は緩めず、カカシの奥に目を向けながら少しだけサスケを自分の元に引き寄せるともう一度名前を呼んだ。

 

「サスケ」

「……おっ、さん」

「おいカカシ、そこにいるのはサスケの兄弟か」

「……そうです」

 

カカシの肯定する声に、サスケが俯く。マダラが握っていない方の手が硬く拳を握っている。

落ち着いてきているとはいえ、今のサスケは冷静さを欠いている。サスケやカカシ達から聞いた話でしかマダラはイタチのことを知らないが、イタチは天才と呼ばれる中でも最も優れた忍なのであろう。マダラが耳にした情報だけでも、油断はならない相手であることは確かである。

 

「サスケ、勝手に動き回るなよ。話をする時間は作ってやる」

「!」

 

サスケはパッと顔を上げるとマダラを見た。サスケの表情にはまだ焦りのような色が浮かんではいるが、先程よりは目付きは鋭くなく柔らかい。

もう大丈夫だろうと、マダラはサスケを掴んでいた手を離すと軽く手首を回し、イタチがよく見えるよう半歩横にずれた。

久々に見たサスケ以外の同族である、二つ揃った三巴の赤い瞳を見るのはいつぶりか。

 

「団子屋の方、やはり忍でしたか。サスケとはどんな関係で?」

 

イタチの感情の読めない声が、マダラにそう尋ねる。

 

「……面倒見てるガキの一人だ」

「そうなのか、サスケ」

「……もうアンタには関係ないだろ」

「……そうだったな」

 

マダラはサスケをイタチの写輪眼から隠すように背中側に来るよう促すと、これから取るべき行動を考えた。イタチの相方であるもう一人の大男は、川面でカカシの友人らが対処している。相手の実力がどれ程のものかいまいち測れない所ではあるが、厄介なのはイタチの方であろう。カカシもいくらマダラとのイチャパラ争奪戦で鍛えているとはいえ、相手は写輪眼の扱いに慣れたうちは一族の人間であり、且つ天才とも呼ばれる実力者のイタチだ。まだ万華鏡写輪眼を活かせていないカカシでは、イタチの相手は厳しいに違いない。特にイタチは幻術も優れていると聞いている。

 

(……どうにかサスケがイタチと話をする時間も作りたいが、向こうが乗り気かわからんな)

 

マダラにはイタチが暁という組織に入った経緯はよく理解していない。サスケからしてもイタチの一族皆殺しの件については、まさか兄がそんな愚行に出るとは思わなかったと語っている。突然気が狂ったとかでなければ、サスケの思い出話からあの惨劇の日の行動にはイタチの姿が到底結び付けられず、マダラは違和感を覚えるのであった。サスケ一人を生き残らせる必要が何処にあるのか。

感情を殺し表に出さぬようにするのも忍ならば当然のことではあるが、それでも今もイタチの様子はやけに落ち着いており、サスケを気にかけながらマダラのことを探っているように思えた。経緯はどうであれ里に残した唯一の弟が、殺し尽くしたと思ったうちは一族のような見た目の男と関わりがあると知ったのならば、気になら無いはずがないだろう。

 

(……サスケを使えばイタチの真意も見えるか?)

 

イタチにサスケを殺すつもりが無いのであれば、マダラがサスケに手を出すフリをすれば動揺を誘えるかもしれない。その隙をついて幻術でもかけ、イタチの動きを止めてしまえばいい。

ただ懸念すべきことが一つだけあった。カカシはマダラのことを知っているためどう戦おうが勝手にカカシが合わせてくれるだろうが、サスケは違う。サスケから見たマダラは、ナルトと一緒に暮らしている下忍らしくない下忍のおじさんという認識であるはずだ。会ったばかりの頃に同じ一族の人間かと問われたことはあるものの、今では修行相手のおっさんであり、今ではサスケも疑うことはなくなり、うちはの人間であるとは考えてもいないだろう。

不意に、イタチが瞳を伏せるとぎりぎりマダラにも聞こえる声量で呟いた。

 

「タジマ、か」

「何か言いたげだなうちはイタチ」

「……いや」

 

マダラの名前を呟いたイタチは変わらぬ表情のまま、まるで思い浮かんだ考えをかき消すかのように小さく首を横に振る。

 

(マダラの噂に、団子屋の男ーータジマか……マダラとタジマ、偶然か? いや、まさかな)

 

里に出回っているうちはマダラの噂に見知らぬ一族の人間に似た男。そしてその名がマダラの前族長の名と同じであることにイタチは不安を抱く。里に来る前に耳にした噂と何か関連があるのではないかと。だが臨戦体制の今、イタチは気を取り直すと写輪眼できつくカカシ達を見据えたのだった。

 


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