おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第34話

 

マダラの顔の横をクナイがかすめる。

イタチが投げたクナイは遠く飛んでいき、奥で金属音を微かに鳴り響かせた。

マダラはクナイに構うことなくイタチを追い続ける。扉間のようにマーキングが付いているのであれば変わってくるが、ただのクナイであることはイタチが投げる瞬間に見極めていた。ただの飛び道具に構うなど無駄な事はしない。

相手はカカシですら直視するのを躊躇するイタチであるが、マダラは何も臆することなくイタチの前に躍り出た。

 

静かな川の横の道で、赤い双眸とマダラの黒い瞳が鋭く交差している。

 

 

 

(面白い。噂は伊達ではなかったというわけだ。この時代に生まれたのが本当に惜しいな、イタチは)

 

イタチと拳を交えながら、マダラはイタチの動きに笑みが浮かびそうになるのをこらえた。

どんなに写輪眼の瞳力が優れていようが、その能力を活かせるだけの体の基礎が成っていなければ意味がない。それについてはイタチの技量は申し分なかった。天才忍者と言われるだけの実力はあるようだ。

イタチを試してみたいところではあるが、マダラの目的はイタチをいたぶることではなくサスケとの約束を果たすことにある。どうにかしてイタチを足止めし、話ができるよう事を運ばなければならない。

 

 

一方サスケであるが、イタチと話す時間を作ってやるというマダラの言葉を信じ、動くなと言われた通りにマダラとイタチの戦いを少し離れたところから見守っていた。加勢に行きたい思いはあれど、マダラに何ができるのかと言われたように、今のサスケに彼らの間に入れるような隙は一向にわからなかった。

 

イタチとの交戦の流れで、マダラが川の方へと降り立つ。イタチも川の方へ降り、マダラを追う。マダラが水面に立ち体勢を整えるわずかな瞬間、イタチは素早く印を結びマダラに向かい火の塊を放った。

 

火遁 豪火球の術

 

轟々と炎がマダラを照らし、周囲の川の水を蒸発させ視界を白くさせる。

 

(ここで豪火球の術か……届いてすらいない。ただの牽制だな、これは)

 

マダラ一人を狙うのであれば、逃げ場のあるこんな開けた場所で豪火球の術など大きな術を使う必要はない。

炎の影に隠れたのをいいことに、マダラは瞳にチャクラを込めた。

イタチからはマダラが豪火球の術に飲まれたかのように見えていた。すぐに発生していた蒸気の霧の中から影が見えると、イタチは術を切り上げ後ろへと跳び距離を取る。

霧の中からマダラがイタチを捕らえようと腕を伸ばしながら飛び出した。

写輪眼でイタチはマダラの動きを見切ると、すかさず幻術で暗闇の中に閉じ込めようと目元にチャクラを込める。しっかりとイタチとマダラの目が互いを直視し合う。掛かったーーとイタチがそう思った瞬間、写輪眼を通した視界に違和感を感じ取る。そしてマダラの顔を見たイタチは目を見張ると、幻術が無駄であることを悟り中断した。

 

「……!」

 

ほんの一瞬であるが、イタチの視界には赤い二つの光が見えていた。気付かないうちに乱されていたチャクラの流れをイタチは整える。

マダラから急ぎ距離を取ると、イタチはここで初めて表情を少し苦そうに歪めた。イタチの中で、団子屋の男の認識が完全に怪しい人物へと変わった瞬間であった。この男は普通の忍ではない。

 

「……なんだ、幻術は止めたのか」

「何を。先に俺に、貴方が幻術に掛かったと誤認識させる幻術を使ったでしょう?」

「……フッ、さすがに騙されんか。お前は戦いに慣れているな」

 

イタチとマダラの静かな睨み合いが続く。

ここでマダラは辺りを軽く見渡した。サスケの側にカカシが移動しているのを確認し、遠くの川面ではヒルゼンの息子のアスマという男とカカシのライバルだと言う暑苦しい男が協力し戦っているのを視認する。あちらはあちらで互いの戦力差を測っている様子であり、本気は出していないのか戦闘の規模は大きく無く、特に助太刀が必要そうにも見えない為マダラは放っておいても良さそうだと判断する。

マダラはイタチに視線を戻すと、両腕を組み少し顎を上げながら目を細めた。

 

「さて、俺は釣り銭を渡すべくお前らを探していたんだが……サスケがお前と話したがっていてな」

「サスケが? 話だと? 今更話すことなど俺たちにはない。何を語らうと言うのか。力のないただの愚かな子どもだ、構う必要があるとでも」

「…………そうか、なら」

 

イタチの返答にマダラは目を閉じると息をゆっくりと吐き出す。

イタチがサスケにマダラとの関係を尋ねる程には心配しているのは既に隠しようがない事実なのだが、イタチの中では先程の件は無かったことなのか誤魔化し続けるつもりのようであった。本当にどうでもよければサスケがマダラと知り合いであろうが、何がサスケの身に起ころうがイタチには痛くも痒くもないことであるはずだ。マダラとの関係を確かめる必要はない。

 

「そうまで言うのなら……」

「……?」

「俺がどうしようが、文句は無いだろう?」

 

「タジマさん!? なに、を、グッ。サ、サスケ……」

「カカシ? ……ッおっさ⁉ グアッ」

 

突如イタチの耳に、カカシとサスケのくぐもった声が届いた。

 

「⁉︎」

 

安全地帯にいたはずの彼らだが何が起こったのか、仲間の危機に慌てる様子もないマダラからイタチは視線をそらすと声が聞こえた方を振り返った。

川の上ではカカシが苦しそうに地面に倒れうめいており、そのすぐ側ではイタチの前にいたはずのマダラがサスケの側に移動していた。そしてマダラからは青く光る骨の鎧の様なものが出現しており、サスケの襟元を掴み上げている。息が苦しいのか、サスケは必死に青い腕の中でもがいていた。

 

(あれは、まさか須佐能乎かーー⁉︎ やはりあの男、噂の――!)

 

イタチは自身の側の、マダラがいるはずの方を振り返るがそこにはもう姿がなかった。戦っている間に分身と入れ替わっていたのだろう。今サスケの側にいるのが本体であることをイタチは理解する。

そしてサスケを掴んでいるのが何かをイタチは悟ると息を乱し、初めてここで冷や汗を流した。

 

「……サスケッ」

「うちはイタチ。てっきり、サスケを生かしているのは両目を利用するためとでも思っていたが、俺が思っていたよりもお前は考えなしのようだな。使えないガキなんぞ残さず、さっさと殺してしまえばいい。生かしておけば、いずれサスケはお前の前に立ち塞がるだろう」

「ぐっ、おっさん……ヤメッ」

「……あなたは、サスケをどうするつもりだ」

「お前がサスケをどうでも良いと言うのなら……俺が利用しても何も文句はあるまい?」

 

マダラがほくそ笑みながらそう言うと、イタチの方から痺れるような空気が肌を刺してくるのを感じ取った。マダラは横目でチラリとイタチを見る。イタチの赤い瞳を視界にとらえた瞬間、マダラはサスケを茂みに控えている監視役の方へ投げ飛ばした。草の上に転がされたサスケは起き上がるなり茂みにいた男に驚いたが、団子屋で見かけた事がある男であることに気付くと無視し、小声でマダラに向かって悪態をついた。

 

「……ッつ……くそ、おっさん本気で掴みやがって。雑すぎんだよ」

 

サスケはマダラに掴み上げられる直前のことを思い返す。

イタチと戦っているはずのマダラが突如背後に現れ、サスケとカカシにこう言ったのだ。

 

「サスケ、お前を使ってイタチを釣る」

 

どうやってと尋ねる間もなくサスケは襟首を掴まれ、宙に浮かされていたのだった。イタチがマダラのことを疑っている事も利用しての作戦であるが、マダラが反旗を翻したのだという状況を作る為に鳩尾を殴られたカカシにはサスケも流石に同情したのだった。カカシのあの呻き声は本物だ。

首の後ろに手を当て、サスケは茂みの中からマダラ達の様子を窺い見た。

マダラの足元には黒い炎が広がっており、逃げ道を塞がれている。先程までサスケを掴み上げていた青い光の鎧のような物はマダラが解いたのか見えない。だがマダラは炎に囲まれているというのに、それでも全く表情は崩すことはなかった。

マダラの異様な程に冷めた目が、黒い炎を見下ろしている。

 

(これは……天照だな。イタチ、開眼していたか)

 

スッと細められたマダラの目は、炎の次にイタチの方へと注がれる。

イタチは目から血を流しながら、マダラをきつく睨み付けていた。写輪眼の模様も変わっている。

 

「……はぁ、と言うことらしいぞサスケ」

 

マダラが先程までの様子とは打って変わって、何事もなかったかのようにサスケに向かって声をかけた。ガサガサと音を立て、サスケが茂みから草を頭に付けながら川沿いの手すりの方まで姿を現す。

マダラとサスケを、そして痛そうに腹を抑えながら立ち上がるカカシをイタチは見上げた。そして見上げながら、イタチは口から小さく「は」と音をこぼした。表情が自然と強張り、余裕が消えていくのを感じる。

 

「さてうちはイタチ、少し眠っていてもらおうか」

 

黒い炎に囲まれながら、マダラはサスケが自身の方を向いていないことを良いことに瞳を切り替えると幻術をかけるべくチャクラを込めた。マダラの瞳に浮かんだ三つ巴ではない模様にイタチが息を呑む。

 

(……あれは、っ!)

 

イタチがハッとしたのも束の間、抵抗も虚しく視界は歪み重くなる瞼に抗えずイタチは意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

水面に倒れ込みそうになるイタチの身体を、カカシが川に降り支える。カカシはイタチの腕を肩に回すと背中に半分乗せるようにして持ち、マダラとサスケがいる道まで戻った。

マダラがかけた幻術に落ちたイタチは穏やかな表情で瞼を閉じているが、端正な顔に流れる血涙の跡が痛々しく見える。

黒炎はイタチが眠る前に解いたのか、マダラを囲っていた炎は暫くじっとしていると全て消え失せた。

 

(炎の位置からして俺に当てたわけではないのはわかってはいたが……イタチめ、かなりの訳ありだな)

 

僅かな時間であったが、交戦したマダラはイタチが本気を出していなかったことには気付いていた。何のために里に来たのかは知らないが、カカシ達に見つかったのも不本意だったのだろう。里まで団子を食べに来たわけではないのはわかるが、戦う意志は元からないように思えた。

 

「タジマさん、とりあえずイタチは捕えましたが……」

「カカシ、お前は向こうの加勢に行くといい。火影の方には茂みにいるあいつが報せているはずだ、直に猿飛のやつも動くだろう。それまでイタチについては俺とサスケがどうにかする」

 

マダラはそう言うとカカシからイタチを譲り受けた。背負ってみると暁の外套に隠されていて外見からは分からなかったが、イタチの身体は思っていたよりも軽い。イタチの歳はいくつだったかと、以前サスケに聞いた話を思い出す。

 

(五つ離れてると言っていたな。ならば十七か十八か?)

 

「おっさん、どこに行く?」

「なるべく邪魔が入らない場所がいいが。あとは簡単に向こうの奴と合流できない場所だとなおいい」

「……なら、心当たりがある。あそこだ……おっさん、付いてきてくれ。俺が案内する」

 

サスケは思い当たる場所があるのか、先を走り出した。マダラはカカシを一瞥するとサスケの後を追う。

 

サスケの後をついて行きながら、マダラは変わる景色に何処へ向かっているのか勘付いた。

 

(うちは地区に向かっているなーー)

 

サスケは脇目も振らず、ひたすら前を走り続けた。

 


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