おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第36話

 

「あれ? サスケとおっちゃんだ。おーい! おっちゃーん、サスケェー! ……て、あれ。サスケなんか元気なくない?」

 

自来也と行動を共にしていたナルトは、前方から歩いて来るマダラとサスケの姿が見えると手を振りながら声をかけた。ナルトの声に自来也も手を振る先に視線をやり、暗い表情で歩いてくる少年の顔を捉える。

マダラはナルトの方を振り向いたが、サスケの目線は地面の方へ下がっており、何も言わずにナルト達の脇を通り過ぎて行こうとする。

 

「えっ、ちょ、ちょいまてってばサスケ。なんか暗いけどどうかしたのか? なんか、今日おめーらしくねえってばよ……?」

「……うるさい」

「え、は⁉ うるさいって、んなこと言わなくても「ナルト」……おっちゃん?」

 

ナルトがサスケを呼び止めようとするのをマダラが遮る。

マダラはナルトを見下ろし小さく首を振り、そのまま放っておけと目で伝える。

歩き去るサスケにマダラは直ぐに後を追いかけると、どんどんナルト達から遠ざかって行った。

二人の後ろ姿を見ながら、ぽつりとナルトが呟く。

 

「サスケ……何かあったんかな」

 

暗い二人の雰囲気に、ナルトは不安を覚えながらも小さくなっていく背中を見送り続けた。

 

 

 

サスケの後をついて行っていたマダラだが、ただ後ろを歩いていたわけではない。

イタチから話を聞いたサスケの動揺は計り知れない。普段なら「おっさんいつも暇そうだな」だとか、「団子屋以外に任務受けないのかよ」やら何かしら言ってくるものだが、神社からずっと俯いたままのサスケの背中から漂う重い雰囲気から、イタチとの対話でかなり堪えている状態のようだった。一人で家に帰すのも気がかりであり、マダラは送っていくことにしたのだった。

イタチの相方についてはカカシ達でどうにかしているはずだ。そのうち神社で別れたイタチも合流し、相方を回収するなりして向こうは向こうでうまく切り抜けるであろう。

 

暫く歩いていると、サスケが一つの建物の前で立ち止まった。ここがサスケの住んでいるアパートらしい。ナルトとマダラが住んでいる所とは違い外観は整っている。

マダラがサスケの家を訪れるのは初めてであるが、思えばサスケは一人暮らしをしているのだと改めて気付く。あの事件があった後、ずっと一人だったのだろうか。

里に孤児は多いが、サスケの孤独感は相当だろう。一夜にして同族は皆死んだのだから。ただの憎しみや喪失感と例えていいものではないだろう。サスケの痛みを理解できる人間は、果たして居たのだろうか。

サスケの扉の鍵を開ける動作はどこか重く、このまま一人で家に置いておくべきかとも悩んでしまう。

ゆっくりと家の扉を開け中に入ろうとするサスケに、マダラは後ろから声をかける。

 

「あまり一人で考え込みすぎるな。後でまた来る。疲れたなら寝るなりなんなり、俺が来るまで暇を潰していろ」

「……うるさい、おっさん。指図すんな」

「っ、……はあ。憎まれ口を叩けるだけの元気はあるようだな。俺は一旦店に戻るが後でまた来るからな、留守にはするなよ、わかったか」

 

そう言い聞かせるとサスケは小さく頷いた後、家の扉を閉めた。

この様子だと食事も摂る気があるか怪しいと、サスケでも食べられそうな物を適当に見繕い持っていくかと団子屋の任務の後のことを考える。

ナルトとはまた違う方向で手が掛かるとは思ってはいたが、サスケが置かれている状況はかなり深刻だ。変な考えでも湧き、いきなり里を出てイタチを追いかけたりしなければいいが。

マダラはサスケの家から離れ、通りの奥を見据えながら脳内で独り言を呟く。

 

(影分身から反応がない……話が長引いているのか?)

 

神社でイタチと別れた後、影分身をヒルゼンの元に向かわせていたのだがまだ術が解かれておらず、話し込んでいるのか。

エプロン着のまま、マダラは団子屋へと歩みを進める。

道すがら、春を思わせる色を纏った少女の姿を見かけた。ナルトの班員のサクラだ。

マダラに気付いたのかサクラがあっと顔を上げマダラを呼んだ。

 

「タジマさんだ、こんにちは。エプロンてことは……お仕事中ですか?」

「まあ、そんなところだな。団子屋に戻る途中だ」

 

カカシは今頃イタチ達の対応に追われており、ナルトは自来也と行動を共にしている。サスケも別行動をしていたことから、今日は元々任務がない日であったか。

マダラはふとあることを思いつき、サクラに尋ねた。

 

「サクラ」

「はい?」

「サスケの好物はわかるか」

「えっ、サ、サスケくん、のですか⁉︎」

「好いてる男の好物くらいは知っているだろう? お前に聞いた方が早いと思ってな。サスケのことについてはお前が一番詳しそうだからな」

「え、え、えーーーー! や、やだタジマさ、や……こんなとこで大声で言わないでくださいって!」

「いや、大声で言ってない」

 

サクラが両頬を押さえ悶え始めた。

ほどほどに人の往来がある通りである。サクラの悲鳴に買い物帰りの主婦らの視線が向けられる。サクラが赤面していることや嫌がっている素振りはないことから特に誰からも咎められることはなかったが、恋する乙女であるサクラにいきなり聞くのは良くなかったとマダラは胸の内で思う。

深呼吸を繰り返すと落ち着いたのか、まだ耳は赤いがサクラがマダラを見上げ答えた。

 

「サスケくん、トマトが好きですよ。あとみんなで出かけた時におにぎり作って行ったんですけど、おかかいっぱい食べてたので、おかかもすきかも……?」

「なるほど。トマトとおかか、な」

「でもタジマさん、急にサスケくんの好きな物なんて聞いてどうしたんですか? ……はっ! サスケくん、風邪でも引いたんですか⁉︎」

「風邪ではないが、かなり気落ちしててな。今日のところはそっとしておいた方がいいだろうが……お前の都合が良ければ明日あたり顔を見に行ってやるといい」

「そう、なんですか。サスケくん……」

 

女の勘は鋭いとは言うが、サスケが不調であることにサクラはすぐ察したようであった。

サクラは少し悩んだ表情を浮かべると、マダラの目を真っ直ぐに見上げた。

 

「タジマさん!」

「?」

「明日暇ですか!」

「時間はあるが」

「私、頑張ってご飯作っていくので、一緒にサスケくんの家に行ってくれませんか! 私一人で行くと、なんで知ってるんだってなるかなぁって」

「別にいいが」

「! ありがとうございます!」

 

サクラはマダラに頭を下げ、明日の集合時間を決めると来た道を戻り始めた。どうやら早速明日の食材を買いに行くらしい。

カカシがチャクラ切れを起こし倒れた時に七班の子どもらで料理を作る事はあったが、あれは三人で作っていたこともありサクラが料理上手であるのかはわからない。だが気にかけて貰える仲間がいるだけでも、今のサスケには助けにはなるだろう。一人でいると、余計に考え込んでしまうものだ。

明日サクラとサスケの家に行くことをナルトが知れば付いて行きたがるだろう。あまり賑やかすぎるのもサスケを疲れさせるだけか。だがナルトも先程すれ違った際に、サスケの様子がいつもと違うのには気付いている。マダラが言わずとも、一人でサスケの家に行く可能性もある。それなら声を掛けておくべきか。

 

サクラと別れ、マダラは再び団子屋へと向かいながらエプロンのポケットに手を突っ込んだ。中から小さな包みを取り出す。渡すタイミングを逃したイタチの釣り銭を、マダラは握りしめながら団子屋への道を進むのであった。

 

 

 

団子屋に着き、のれんを潜ろうとした瞬間のことだ。突然マダラはぴたりと動きを止めた。マダラの脳内に、ある記憶が流れ込む。神社でイタチと別れた後、ヒルゼンの元へ向かわせていた影分身が解かれた影響によるものだ。

共有された記憶に、マダラは団子屋の入口で口の端を引きつらせる。

 

(イ、イタチもいたのか……)

 

どうせ向こうも影分身だろうが、釣り銭を持たせておけばよかったとマダラはイタチと行動が被ったことに口をきつく結ぶと首を横に軽く振った。イタチとばったり再会したのもそうだが、加えて流れてきた重要そうな記憶にスッと表情が落ちるのを感じる。

団子屋で引き続き任務に当たっていた方の監視役からは、戻って来て早々、妙に真顔でいるマダラになんだコイツと変な奴を見る目を向けられたが、影分身から流れてきた情報にそれどころではないマダラは無視を決め込んだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

マダラがサスケを家まで送り届ける少し前のこと。

影分身のマダラはヒルゼンのチャクラを辿り、ある路地にいた。

そしてやって来た路地裏でバッタリとイタチと再会したマダラは、ヒルゼンの咳払いにより気を取り直すと探し人の方を向いたのだった。 

 

「イタチよ、久方ぶりの帰還じゃの。いきなりスマンかったのぉ……まさか攫われることになるとは」

「いいえ、俺の力不足が招いた結果です。火影様、団子屋のこの方ですが」

 

イタチはちらりとマダラの方へ目配せすると、ヒルゼンの方へと近付いた。

ヒルゼンがここにいるマダラを見て特に態度を変える様子もないことから、ヒルゼンと団子屋の男が通じ合っていることを悟る。

 

「里内で出回っている噂について聞きました。噂の人物は団子屋のこの方で違いありませんか」

 

イタチとヒルゼンの視線が交わる。二人の間に落ちる沈黙に、マダラも黙ってやり取りを見守り続けた。

 

「……そうじゃ、と言ったらイタチよ、どうするつもりじゃ」

「どうも何も、どこまで本当なんでしょうか火影様。里は、いえ、貴方は何を考えて」

「イタチよ」

「……」

「一番危惧しているのはサスケのことかの。サスケについては心配することはない。実際に川で守っておったじゃろう、コヤツが」

「首を掴まれていましたが」

「むぅ、だいぶ怒っておるのう……」

 

ヒルゼンのやり過ぎだと言いた気な目がマダラに向けられる。

あれはイタチを引っ掛けるための演技であったのだが、里に守られているはずのサスケが謎の男にあの場で殺されるかもしれなかったと思うと、イタチからすれば気が気でなかっただろう。何故か知らぬ写輪眼を持つ人間が里にいるのだから。

マダラは目を閉じ、須佐能乎でサスケを掴んだ時のことを思い返す。マダラも仮に弟のイズナが生きていた頃に人質に取られるようなことがあれば、何をしてでも助けに入ったであろうと想像する。それがたとえどんな状況であったとしてもだ。マダラには弟を守る機会など、もう二度と訪れないが。

過去にマダラにとって守らなければならなかった一人残っていた弟のイズナのように、今のイタチにとってサスケがそうなのだ。今思えば、よくあの時天照で直に焼かれなかったものだ。実際に天照に当てられていたとしたら、あの場で服を脱いで対処するしか無かっただろう。それも素早く、サスケとカカシの前で。なんと無様な。服を失い、どんな顔で団子屋に戻ればいい。

 

「コヤツは例の日には里にはおらんかったのじゃ。驚いたとは思うが」

「ええ、とても驚きましたとも」

「う、うむ」

「火影様、時間もありませんので。これだけはどうしても確かめておきたい」

「……なんじゃ?」

「新しい風が吹こうとも、今も、これからも約束は変わりありませんね」

「安心せい。ワシもよーく見ておるからの」

 

ヒルゼンの言葉に温かみが宿る。

ここでやっとヒルゼンとイタチの両者の間に漂っていた緊張がほぐれた。

イタチはヒルゼンの返答に満足したのだろう。くるりと踵を返す。ビンゴブックにも載せられ、ある程度忍歴の長い者ならイタチの顔を知らない人間はいない。特に木ノ葉の中では有名すぎる。既にカカシ達に見つかっているが、いつ他の忍にも見つかり騒ぎが大きくなることか。イタチは同じ場所に長居はできない身だ。

 

「イタチ、あの日も言ったように好きな時に戻ってきて良いのじゃぞ」

 

ヒルゼンがイタチの背中に語りかける。

イタチはヒルゼンを振り返らずに、マダラの脇で足を止めた。

 

「……団子屋さん、定期的に鴉を送ります」

「カラス?」

 

マダラの問いに返事も返さず、イタチは姿を消した。かなり一方的である。

ヒルゼンが咳払いをし、イタチが消えた先を眺めていたマダラの気を惹きつける。

 

「……オホン、タジマ」

「……」

「写輪眼を使うなど、一体イタチにどこまで明かしたのじゃ」

「アイツは俺のことを団子屋だと思い込んでいる……とは思うが、里に出回った噂のせいで勘付いてる可能性はある」

「イタチは聡い子じゃからの……」

「三代目」

「む?」

「イタチの、いやイタチとサスケの件だが、お前に聞いておこうと思ってな」

「……内容によるが、言うてみよ」

 

マダラは写輪眼に切り替えるとヒルゼンを見据えた。赤い瞳に睨まれたヒルゼンは臆することなく、毅然とした態度で睨み返す。

 

「俺がお前に幻術を掛けるとは思わなかったか。どいつもこいつも、うちは一族が滅んでから大分危機感が薄れているらしい。特に三代目のお前は『俺』のことを知らないわけでもあるまいに」

「フッ、ワシはお主の事は『お主』しかよう知らんでの。幻術に掛けるなら好きにせい。じゃが掛けるなら程々で頼むの……後で暁のイタチ達が里に侵入した事について、部下達に色々と話をしなければならないのでな。忙しくなるのじゃ」

「……確かにな、そいつは忙しそうだ」

 

写輪眼が脅威であるのはヒルゼンとて変わらない筈だが、好きにしろと彼は言う。その様子にマダラは拍子抜けし、無意識に張っていた肩の力を抜いた。

 

「して、聞きたい事とはなんじゃ」

「イタチの件を全て話せ」

「……ふむ」

 

ヒルゼンはマダラの言葉に、ただ静かに赤い瞳を見返し続けた。

 

 

 

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