おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第41話

 

カカシの胴に絡まる細い腕。赤の長い丈の裾がひらりと揺らめく。喉元に迫るクナイを見据えていたカカシは、地面に倒されていきながら、胴体に感じた衝撃が何かを確認しようと目線を下げた。先程まで倒れていたサクラが、腕を伸ばしながら体全体の体重をかけ押し倒そうとしているのを見た。

サクラに押し倒された衝撃で体勢が低くなったカカシの眼前を、イズナのクナイがかすめていった。写輪眼の赤い瞳が見開かれるのが見えたが、カカシは倒れながらサクラに攻撃の手が及ばないよう抱え込むと地面を転がりながらイズナから距離を取った。

 

「ッ! 動けたのか!」

 

驚いた様子のイズナの耳に、ナルトの声が響いた。

 

「ナイス!サクラちゃん! ーー多重影分身の術!」

 

イズナの眼前に広がったのは、数多の橙黄色の服を着た少年の姿。視界を埋め尽くすナルトの姿にイズナは分身というにはやけに本物に近い実体を持つそれに困惑の色を見せる。

 

(⁉ なんだコイツ……デタラメか!)

 

イズナのクナイを握る手を、服を、足元を、ナルトは身動きを取らせまいと複数体の影分身でしがみつく。このままで掴んでいても戦い慣れしている相手では振りほどかれてしまう。その前に本体とナルトと同時に走り出していたサスケがイズナの体を押し倒しに向かった。

 

「サスケ‼」

「まかせろナルト‼」

「ぐっ」

 

本体のナルトが先に影分身にまとわりつかれたせいで身動きが取れないイズナの足元に向かって全力でぶつかっていく。倒れていくイズナを、サスケは背中側に回るとイズナが抵抗できないようまずは片手を全身を使って塞ぎ、傾いていく方向へサスケも全体重をかけてイズナを押し倒した。ナルトとその影分身、サスケに押しつぶされた状態のイズナは苦しそうに地面に体を付けてうめく。

 

「……っう」

 

ナルトはイズナが動かないようにしっかりと押さえつけながら、声を張り上げて援護を求めた。

 

「おーい! おっちゃんといつもいる人ー! 縄!縄ー! 持ってない? 縄じゃなくてもいいけど、今のうちになにかでこの兄ちゃん縛ってくれってばよ‼」

「あ、ああ‼」

 

ナルトの声に、監視役の一人が動いた。まだ状況が飲み込めていない様子であるが、監視役は持っていた縄でイズナを縛ると手元にあったクナイを回収する。

イズナが抵抗しないのを確認すると、ナルトとサスケはカカシの元に駆け寄った。サクラに背中を支えられながら、カカシは地面に座りこんでいる。

 

「サクラちゃん、ナイスタイミング!」

「サクラ、助かった。俺達だけじゃ間に合わなかった」

「う、ううん、私は。カカシ先生は大丈夫ですか?」

「………」

「先生?」

「ああ。いや、大丈夫だよサクラ」

 

カカシは体に力が入らないのを隠しながら、柔らかく笑みを作った。

担当上忍が動けない中で危機的状況だったというのに、子ども達だけでどうにかしてしまった。そのことにカカシはホッとするような、だが自身の情けなさを実感する。

 

「ホント強くなってるな、お前達は」

「当たり前だってばよ! 俺たち先生もおっちゃんも倒すんだからさ!」

「ナルト、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

ナルトの眩しい笑顔がカカシの視界に輝く。ナルト達はどんどん成長している。カカシは先生として前に立ち続けられるよう更に強くならねばと心に強く誓うのだった。

そしてカカシは自身を心配している三人に囲まれながら、監視役の向こう側にいるマダラの方へ目を向ける。

 

(タジマさん……)

 

その顔は怖いほど無表情で、じっと静かに縛られている青年の方を見ていた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

里に戻ってからのマダラやカカシら第七班の面々はというと、捕らえた青年を引き渡したり火影への報告を済ませたり、フラフラな状態のカカシを木ノ葉病院へ送り届けたり、そのついでに検査を受けたりと慌ただしかった。

彼らがその日任務から開放されたのは、星空きらめく夜もすっかりと更けた時間であった。

即入院となったカカシとは違い、ナルトやサスケ、サクラ、マダラの四人は火影の許可もあることから一度帰宅する事となった。

ナルトとサスケはサクラを家まで送り届け、両親に迎えられたサクラを玄関の扉が閉まる音が聞こえるまで見送ると、そばでずっとついて歩いていたマダラを振り返った。元の時代に戻ってからというもの普段より口数の少なくなったマダラに、ナルトもサスケなんと声をかければいいのか考えあぐねていた。

 

(おっちゃん、絶対あの兄ちゃんのこと気にしてるな……)

(おっさんが静かすぎる)

 

三人はゆっくりとナルトのアパートまで歩みを進める。

体はすでに疲労困憊で帰ってさっさと横になりたいくらいであるが、なぜか先を歩くナルトとサスケの歩みは重かった。

 

 

 

 

 

翌日、カカシを見舞うためアパートを訪れたサクラの言葉にナルトとサスケはうんうんと力強く頷いていた。

リビングのテーブルを囲み、三人が話し合う。

 

「ええー! じゃあタジマさん、いつもの人たちと一緒に普通に任務しにいったの⁉」

「そーなんだってばよサクラちゃん! 俺達昨日戻ったばっかなのに! 昨日まであんな事があったのに! いまごろ団子焼いてんの!」

「き、切り替えがすごいのね……でもたぶん火影様の指示よね? 昨日私達といっしょに里に戻った忍の人、お店でタジマさんと一緒にいるのよく見かけるわ」

「だな。大体あのおっさん共、どういう集まりなんだ。おいナルト、前から一緒に暮らしてたんだ、なにか知ってるだろ。なんでおっさん達が団子屋の手伝いなんかやってる」

「え、えー今更……? あれだよ、ほら、えっとー……おっちゃん俺達より後輩、だし……任務のランク? とかさ 」

「だとしてもあの集団が団子屋にいるのはおかしいだろ。もっと他のことさせた方が有益そうだけどな」

「た、たぶんおっちゃんの趣味もあるってばよ。おっちゃん、甘いの好きだし」

「うん、まあ、確かにタジマさん甘いの好きよね。私もよくお団子お土産にもらうわ」

 

うんうんとサクラが頷く。

サスケもサクラも、詳しくは知らなくとも『タジマ』という男がただの下忍ではないことは理解している。初対面の頃は渋面で近寄りがたい雰囲気に話し掛けづらさがあったが、波の国でのことやサスケとサクラに対してもナルトと同じように接してくれること、想像だにしていなかったがイチャパラを嗜んでいるらしいことから今ではカカシのような側にいてくれる頼りになる大人の一人の認識でいた。

 

「でもやっぱりタジマさんてお団子を焼いてるより、もっと前線で戦ってるようなイメージだなあ」

「ああ、おっさんの趣味とかもっと違うやつだろ絶対に。カカシと一緒にイチャパラは読んでるが」

 

団子焼くのが趣味なのかと、エプロンをかけ店に立つ姿を見慣れた今だからこそナルト達には馴染んだ光景だが、働いているところを見たことがなければ誰も信じるまい。

サクラとサスケが同時に頭を横に振る。

 

「……なあなあサクラちゃん? サスケもさ。それよりも先生のとこ行かね?」

「うん、そうねナルト。そろそろ行こっかサスケくんも」

 

趣味に似合う似合わないもないかと、サクラは心の中で頷くと一足先に玄関の方へと進んだ。

 

 

 

 

 

ナルトの家から三人並んで木ノ葉病院を目指して歩いた。

病院に着くとサクラが受付にカカシの部屋を尋ね、三人は病室へと向かう。カカシは個室を与えられており、三人は扉をノックした後カカシの返事を聞く間もなく部屋に入った。

 

「カカシせんせー!」

「先生、こんにちはー」

「カカシ起きてるか?」

「アラ? 三人揃ってきたの? 元気だなぁ」

 

病室に入るとカカシは本を片手に上体を起こしており、ナルト達が入ってくるや否や振り返ると疲れの色を滲ませながら笑みを浮かべた。昨日の今日で元気そうな子どもらの様子に、カカシは若さという眩しさを感じ目を細める。

ナルトが真っ先にカカシがいるベッドのそばまで駆け寄ると、ベッド脇の机の上に紙袋が置かれているのに気が付いた。

 

「あれ? 俺たちより先に来てたヤツがいる?」

「ああ、それね。さっきまでタジマさん達が来ててね、置いて行ったんだ。いつもの団子屋のおばあちゃんが持って行きなさいって」

「おっちゃん来てたの⁉︎ 先越されてた⁉︎」

「いつのまに……。あの先生、タジマさんだけでしたか?」

「ううん、タジマさんといつもいる人達もだよ。お前らも昨日あったデショ」

「えー! みんな来てたのかよ! おっちゃん達も行くなら言ってくれれば良かったのに」

「まあまあタジマさん達の方は、今日は忙しいだろうから」

「え? おっちゃん達?」

 

ナルトが首を傾げると、カカシは少し離れたところにいたサスケとサクラにちょいちょいと手招きし近くに呼び寄せる。

 

「タジマさん達はいなくなったオレ達の捜索に来ていた。つまり?」

「任務の報告か? けどそれなら昨日済ませてあるだろ」

「あの、カカシ先生? 昨日の人は結局……」

「そうだ、一緒に着いてきたあの男。カカシは何か知らないのか」

「俺はあの後からずっとここヨ? 知ってると思う?」

「なあカカシ先生。おっちゃんなんだけどさ」

 

サスケとカカシの会話を遮り、ナルトが言葉を発する。

静かな声音に、サスケもサクラもナルトの方に視線を向けた。

 

「おっちゃん、ここに来た時どうだった?」

「どうって?」

「なんかこう……いつもより元気無くなかったかなって」

「……タジマさんね。これを置いたらすぐ行っちゃったからねえ」

 

カカシはマダラが団子屋の包みを置きに来た時のことを思い出す。ゾロゾロとへとへと顔の監視役を引き連れてきたと思えば、婆さんからだと告げながら机の上に置かれた。元々長居する気はなかったようで、カカシの顔を見るとじゃあなと一言残して速やかに去って行ったのだ。その時の様子はというと、あまりにも短い滞在だったため普段との違いを比べられるほどのものではなかった。

 

「うーん……おっちゃん今日はいつ帰ってくっかなぁ。どう思う? サスケェ」

「いそがしいつっても、日が暮れる頃には帰ってくんじゃねぇのか」

「かなぁ……おっちゃんたまに帰らないとかあるぜ?」

 

今日マダラが行っている任務が団子屋だけであればいつも通り帰ってくるだろうが、ヒルゼンに呼ばれていた場合帰らないか、帰ったとしてもかなり遅くなることもある。

ナルトはマダラが置いて行った包みをじっと見据えた。

 

(『いつも通り』なら、いいんだけどさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルトたちがカカシの見舞いに行っている間、火影岩を見上げ頭を抱えて絶望する少年と唖然とし立ちすくむ男の姿があった。少年は金髪に赤色のベストを身に纏い、男は全体的に黒を基調とした衣服に身を包んでいる。

少年の方は少しばかり面立ちがナルトに似ていた。

わなわな震えながら少年は、大きく息を吸い込むと口を開け叫んだ。

 

「また顔岩が減ってる……一体なんだってばさー!」

 

ナルトに似た少年の傍らに立つ男は、前髪に隠され片側しか見えない黒い瞳で四つ並んだ顔岩をまっすぐに見据えていた。

 

 

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