里の演習場の隅では、木々の影に隠れながら話し合う二つの人影があった。片方は子どもで、もう片方は中年くらいの大人である。
「うわぁ……オワッタァ。カラスキがどこにも見当たらないってばさあ、サスケのおっちゃん」
「同じ時間に落ちてきているはずだ。俺たちと同様に引っ張られて投げ出されたのなら、その辺に落ちている可能性が高い」
「その辺って、どこに落ちたかもわかんねぇのに、ああああ……カラスキのヤツを早く見つけて未来にもどらねぇと! 」
ボルトと呼ばれた少年は金髪に青い瞳をしており、頬には特徴的な二本線が伸びていた。片方のサスケと呼ばれた男は黒髪でほぼ全身を黒いマントで包み、左目を眼帯で覆っている。男の左腕は肘あたりから下が欠けているが、羽織っているマントがあるせいか一見わかりにくい。
見た目からして二人の歳の差は親子程離れており、それぞれ誰かの面影を纏っていた。
サスケは気を取りなおすと真剣な表情を浮かべ話し始める。
「カラスキの術式がこの時代の何かしらに影響を受けたんだと思われるが……俺たちのように里内のどこかに落とされたはずだ。地道に探すしかないだろう」
「そうかもしんねえけど……というか、今度は俺達いつの木ノ葉の里にきちまったんだってばさ。五代目の顔岩がないってことは、父ちゃんと自来也さん達と会ったときよりも前の時代ってことなのか?」
「そう離れてはいなそうだが。顔岩は四代目までしかない。動くにあたって、アレが見つかるまでどれくらいかかるかもわからない。この時代に関する情報も集めつつ、慎重に探すぞ」
「わかった」
サスケと呼ばれた男はそう言うと、演習場の出口へと体の向きを変えた。
ボルトはそれに続いてサスケという男の横に並び立つ。
「ボルト、念のためだがここでも俺の名前は口にするな。わかったな」
「もちろんだってばさ。行こうぜ、師匠!」
ボルトという少年とサスケと呼ばれる男は、顔岩がよく見える里の中心へと向かった。
所変わって団子屋でのこと。
団子屋の店主は第七班の担当上忍が入院したと話を聞くなり、店で余っていた茶菓子を持って行くようにとマダラ達に持たせた。
カカシもナルト達と共に何度か店に訪れており、店主とも顔見知りだ。甘味を頼むことはないが常連客の様なものだ。カカシが倒れたと知った店主は足腰が悪く直接見舞いに行けない事を悔やみ、代わりに見舞いの品を届けてくれないかと、店も暇であったためマダラ達に依頼という名のお願いをしたのだった。
片手で持てる程度の包みには、おそらく後で見舞いに来るであろう教え子達と一緒に食べられるようにと一口サイズの様々な味の煎餅を詰め込んでいた。
せっかくだからみんなで顔を出しに行きなさいと、店の手伝いに来ていたマダラ達であるが皆で一度店を抜けることとなり、見舞いの品を急いで届けると足早で団子屋へと戻って来たのだった。
マダラ達が戻るといくつか店内の席は埋まっており、団子を焼き始めていた店主に代わりマダラが七輪の前に立つと何組かの注文分を捌いて行った。
団子を焼き続けていることしばらく、店の外の様子を見に行った店主が困り顔で屋根の方を見上げていた。店主はううんと困り顔のまま店の中に戻ると、マダラが立つ七輪の前までやって来た。
「困ったわ……タジマさん、ちょっと屋根の上を見てくれないかしらねぇ……」
「屋根の上がどうした」
「何か引っかかってるみたいで……見に行きたいけれど、私は膝が痛くて上まで登れそうになくて。焼くのを代わるから、ちょっと見て来てもらえないかしら」
「何かが引っ掛かっている? 見てこよう」
「ありがとうねぇ」
今日は特段風が強いわけでもなく、店主が気になるということは枝とかの類ではなさそうだ。
店主が厨房に入るとマダラは交代し店の外に出た。
店の入り口前から屋根を見上げてみれば、確かに何かが屋根の淵に引っかかりぶら下がっているのが見えた。一体何が引っ掛かっているのかと目を細めて見据えてみるが、陽の光のせいで逆光となり物が何かはハッキリと把握できなかった。
(折れた枝ではなさそうだな。あれは……鼠か? いや、もっと丸いような……あれは足? まあいい、見に行けばいいだけだ)
マダラはひょいと屋根の上に登ると、前屈みになり引っ掛かっていた物体を回収した。物体は亀の形をしており、桃色の体に青い甲羅をしている。見た目から亀の特徴こそあれども手触りは無機質な質感をしており、触れた感じからして生き物ではなさそうである。
「はぁ、誰だこんなガラクタを屋根に投げたのは」
ため息をついて軽い動作で屋根の下に降りれば、店の前には赤いベストを着た金髪の少年がいた。メニューが書かれた看板を眺めていた少年は突如側に降り立ったマダラを驚いた様に振り返るが、マダラの手元を見るなり目を見開くと指をさし大きな声で叫んだ。
「あー! アレだ! 見つけたってばさー!」
「てばさ?」
ナルトと似た語尾に、マダラはぴくりと眉を動かしながら少年の方に目を向けた。
少年の指の先は、マダラの手元にある亀に向けられている。
「師匠ォ! アレ! アレ!あのおっちゃんが持ってるのって、フガッ」
「下がれボルトッ」
少し離れたところから、慌てた様子で男が一人駆け寄る。
少年の後ろから追いかけて来たと思われる師匠と呼ばれた男は、片方しかない手でボルトという少年の口元を抑えると、自身の背後に隠しマダラの方を睨んだ。
亀はどうやら少年の持ち物のようだが、全身ほぼ黒ずくめの男の方に睨まれるようなことをした覚えがないマダラは、困惑混じりに訝しげに男の方を見返した。マダラは男の顔立ちがどことなくサスケやイタチと似ているような気がしたが、親類か何かかと考えたところで今はもう身内がいないことを思い出すと、勘違いだろうと胸の内で否定する。
睨まれたことにマダラは面倒臭げな様子を隠すことなく眉間にシワを寄せると、亀を彼らの前に見せびらかすように掲げた。
「……で、これはお前らの持ち物か?」
「なぜアンタが里の中にいる。お前は一体……何者だ」
男はマダラの問いには答えることなくキツく見据えながら尋ねた。
「先に質問したの俺なんだがな。俺が何者か、か。俺はただの……団子屋だ」
「嘘を言うな、お前がただの団子屋の人間であるはずがない」
真っ向から否定され、マダラは口の端が引き攣るのを感じた。
そこまで断言しなくてもいいだろうに。お前は俺の何を知っているというのかとマダラは言いたくなった。
(コイツ、初対面の相手に失礼すぎやしないか。この感じはどこかサスケに似てるような。俺も団子屋に来てから短くはないんだがな……さては、里の人間ではないか)
大蛇丸による木ノ葉襲撃はまだ里の人間の記憶に新しい。加えて暁のメンバーであるうちはイタチらが里に忍び込んだのもつい最近のこと。今はまだ里外の人間の出入りに厳しい制限を設けていないが、それでも里に入るにあたって簡単な質疑応答はあるはずだ。正しい手続きを踏み里内に入ったのであれば良いが、里外の人間がマダラの顔を知っているのはかなり珍しい。基本里から出ないマダラである。里外にいる人間でマダラの顔を知る者は大蛇丸らを除き、第七班の任務に巻き込まれた時に連れて行かれた波の国で会った者達くらいだろう。顔を知る人間は少ない。
仮にマダラの目の前の二人が里外の人間だとして、ここまで男がマダラに対し敵意を向けるのは理解し難い。マダラからすればこの男は全くの赤の他人だ。里内で一部の忍から怪しまれてはいれども、面と向かって敵意を剥き出しにされたことはこの時代ではなかった。タジマとしては、悪い噂は立っていないはずだ。
この男は何を知っているというのか、気になったマダラは試しにハッタリをかけてみることにした。
「……もしや、俺を知っているな?」
「っ、ボルト。もしもの時はお前がカラスキを回収して先に逃げろ」
「そんなことできねぇよ! サ、師匠、あのおっちゃんは何者なんだ?」
「はぁ、何者と聞かれてもな。後ろのはボルトとか言ったか? 俺は見ての通りただの団子屋の店員」
「お前がただの団子屋であってたまるか!」
「タジマさん? タジマさん、大丈夫かしら?」
なかなか戻ってこないマダラに心配した店主が店の中から顔を覗かせた。店主のおっとりとした声音に、警戒の色を強くさせていた男の目がきょとんと丸くなる。
「どうも俺のことを誰かと勘違いしているようでな」
「そうなのねぇ……お兄さん方、良かったらお茶していってねぇ。それでタジマさん、何が引っ掛かってたのかしら」
「亀の形をした玩具だった。コレだ。そこの奴らの物らしいがな」
「あら持ち主さんなの。見つかって良かったわね。タジマさん、ありがとうねぇ」
今度は失くさないようにねと、ボルト達に笑顔を向けると店主は屋根に引っかかっていた経緯を尋ねることもなく店の中に引っ込んでいった。
今のやりとりを見守っていた男の方がワナワナと震え出す。マダラはそんな男を無視し近付くと、彼の背後に隠されているボルトという少年に亀を押し付けた。
「というわけだ。もう変なとこに飛ばすなよ砂利ガキ」
「じゃ、砂利ガキィ⁉︎」
「何も買う気がないならとっとと失せろ。店前で騒がれたら迷惑だ」
マダラはヒラヒラと手を追い払うかのように振ると店の中に戻って行った。
ボルトはカラスキを抱えながら男の方をゆっくりと見上げる。男は呼吸が乱れているのも気付いていないのか、はくはくと口を動かし微かに声を溢した。
「……して」
「え、師匠?」
「……どうして。この時代にあの男が」
男は動揺を隠せず、団子屋の入り口を見ながら震える。
師匠である男がなぜそんなに狼狽えているのかわからないボルトは、顔色の悪くなっていく男に不安になりながらも、カラスキを落とさぬよう抱え直すと暫く団子屋の入り口を眺めた。
店の中に戻ったマダラは、倉庫の整理をしていた監視役を呼びつけるなり裏口に連れて行くと分身を出させた。いきなり命令された監視役は分身と共に何か言いたげな表情を見せるが、有無を言わさずマダラは低い声でこう告げる。
「猿飛の所へ行け。俺を知る人間が里にいる」
※ボルトのサスケの呼び方はアニメ版ではさん付けだったと思いますが、おっちゃん呼びを採用させていただきました