おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第43話

 

曇り空の下、緩やかな坂道を駆け上るオレンジの影が一つ。

過去から戻った三日目、朝の身支度を終えたナルトはヒルゼンの元へと向かっていた。

あのイズナという青年と会って以来のマダラの様子が気になっていたナルトであるが、マダラからは一度もその話題が上ることはなかった。

ナルトはあの青年がマダラの亡くなった弟であることには気づいており、イズナに会った時のマダラはナルトと過ごしてきたこの数年間の中でも一番に読めない表情をしていたものだ。マダラから弟のイズナは死んだとは聞かされているが、時間は違えども再び家族に会えたのだ。その動揺は計り知れないだろう。

 

(俺には初めから父ちゃんも母ちゃんも、兄弟なんていなかったからわかんねぇけどさ。おっちゃんはこのままでいいのかよ。せっかく家族に会えたのに)

 

坂道を駆けながらナルトはそう思う。

過去から戻った後のイズナは捕らえられるとどこかに連れていかれ、今は厳しい監視下に置かれているようだ。それはきっと元の時代に戻るまで続くに違いない。

ナルトはサスケにも何かマダラに関して気付いたことはないか尋ねたが、サスケから見てもマダラは普段と変わりないように見えているらしく、二人ともかえってそれが気がかりであった。ちなみにサスケであるが、過去にタイムスリップするという奇妙な経験をした後でもナルトのアパートに泊まり続けている。

イズナという青年との出会いは穏やかな状況ではなかったが、彼が本当にマダラの弟であるのならこのままマダラが会って話をすることもなく、いつのまにか過去に帰っていたということになるのは非常に惜しいと感じた。

ナルトはヒルゼンが火影室にいることを疑わず、黙々と走り続ける。

マダラをイズナに会わせてやれないかと直談判に行くのだ。

 

火影塔に着くとナルトは警備の忍に呼び止められ、ヒルゼンが今留守にしていることを聞いた。その忍によると、すぐには戻らない可能性が高いとのことだ。出直したほうがいいと言われたナルトは肩を落として来た道を戻ると、ヒルゼンがいそうなところを考える。

 

(もしかして、あの兄ちゃんとこ行ってたりすんのかな。だとしたら俺じゃ場所わかんねぇぞ……)

 

とぼとぼと道を歩いていく。カカシはまだまだ動けないため班行動もなく暇であり、サスケも荷物を取りに行くとかで自宅に帰っておりアパートに戻っても今は誰もいない。マダラは団子屋だ。マダラにイズナの話を振り何かしないのかと尋ねてみるのもありだろうが、流石に団子屋の仕事中に話題には出せまい。

どうしようかと悩みながら歩いていると、ふとナルトはあることを思い付き顔を上げた。

 

「ん、カカシ先生んとこ行こっかな」

 

ナルトは通りを曲がると心なしか早歩きで木ノ葉病院へ向かった。

カカシには昨日も会ったばかりであるが、どうせイチャパラを読んで一人で暇してるだろう。第七班の中ではマダラの話ができる唯一の仲間でもある。もしかすると昨日見舞いに行った後、カカシの方には何かヒルゼンから連絡があり新しい情報が得られているかもしれない。

色々と考え事をしていたからか、ナルトは周囲への注意力が散漫としていた。人通りのない道を少し早歩きで行けば、突如ナルトは分かれ道を歩いて来た人物とぶつかり相手に尻餅をつかせてしまう。

 

「うわぁ!」

「あ! 大丈夫だってばよ?」

 

ナルトとぶつかったのは年も変わらぬくらいの少年で、ナルトと似た髪色をしていた。

少年はナルトの顔を見るなりゲッと声をあげて、ショックを受けたような表情を浮かべると両手で両頬を押さえる。

 

「ゲッ! またやっちまったってばさぁ……」

「? ちゃんと前見てなくて、ぶつかっちまって悪かったってばよ。大丈夫か? 怪我ねぇか?」

「え、え? あー……なんともない! こっちも悪かったな!」

 

少年はズボンの汚れた部分を叩きながら立ち上がるとナルトに笑顔でそう返した。ナルトは少年の身なりを上から下までまじまじと眺める。

 

(こんなヤツ里にいたっけ)

 

里外からの人の出入りはあるが、殆どが大人である。これまで里内で歳も近そうなこの少年を見かけたことがないことがナルトは気になった。

 

「お、俺たち急いでっから! ぶつかって悪かったってばさ! それじゃ!」

「あ、おい! てか俺たちって言ってっけど一人じゃん⁉︎ ……どこのやつだろ。ん?」

 

ナルトは走り去って行く少年の後ろ姿を見送りながら、足元に何か塊が落ちているのに気がついた。亀の形をした置物が、地面に転がっている。ナルトはそれを手に取ると目元まで持ち上げ、細部を見ようとひっくり返した。

 

「なんだこれ? カメ? よく見たらここ欠けて……足かなここって」

 

亀の置物だが傾けるとだらりと手足が垂れ、質感こそ機械の様だが生き物の様に再現されていた。よくみると後ろ足と思われる部分が一部欠けており、欠けている部分の穴の感じからすると、パーツがあればそのままはめ込むだけで直りそうであった。

ナルトは落とし主を追いかけようかと思い亀から目を離すが、すでに少年の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「もういねぇや……よくわかんねぇけど大事なもんだったら大変だ。探しにいかねぇと! あ、そうだ。おっちゃん今日お店にいるなら、さっきのやつが近く来た時に声掛けてもらおっと!」

 

ナルトはポーチの中を整理すると亀を押し込み、向かっていた木ノ葉病院ではなくマダラがいる団子屋まで走り出した。

 

 

 

 

 

団子屋の前まで着くとマダラは店前の看板を拭いており、ナルトに呼ばれると手を止めて振り返った。

 

「おっちゃーん!」

「なんだ。一人で何してる」

「あのさあのさおっちゃん。こんくらいの、髪の毛がこう金髪で、俺くらいのヤツ見てない?」

「金髪のガキか……? もっと他に特徴は?」

「えっと、赤色のベスト? だっけな、着てて。なんか、なんとかだってばさって言ってるやつ」

「だってばさ? もしかして、昨日のやつか」

「あれ。おっちゃんもしかして知ってる?」

「ああ。昨日そいつの持ち物が店の屋根に引っ掛かってな」

「それってたとえば、こんなやつだったり?」

「そうだ、亀の形をした…………ナルト、どうしてお前がそれを持ってる」

「さっきそいつと道でぶつかっちまって。なんか落として行っちゃって」

 

マダラはナルトの手元にある亀をじとりと見下ろす。ナルトは昨日の少年ーーボルトと呼ばれた少年を探しているようだが、生憎と今日の所はマダラの方では見かけていない。相方の男の方がマダラを警戒しているのもあり、そもそもあの二人がこの付近に再び近寄ることはないだろう。近くをうろつくことを祈って亀を団子屋に置き持ち主が来るのを待ってみても、きっと無駄に終わるに違いない。

 

「どうせ里内にはいるんだろ。来るかわからんが、見かけたらお前に知らせてやる」

「おっちゃん、頼むってばよぉ」

「はぁ……」

 

ナルトはマダラに両手を合わせてお願いする。マダラが両腕を組みため息をついた時、突如亀の手足が動いた。だらりと手足と共に垂れていた亀の頭がぐりんとナルトの方を向く。

 

「え?」

「お」

『……警告、警告。時間移動中に予期せぬエラーが発生』

「ぎゃー! 喋ったァア!」

 

ナルトは手元の亀をマダラの方に向かって全力で投げた。

 

 

 


 

 

 

 

ナルトとサスケとマダラの三人が、アパートのテーブルに置かれた亀を囲んで見下ろしていた。ちなみに亀であるがナルトが団子屋の前でマダラに投げつけたあと、うんともすんとも言わなくなった。

サスケはまじまじと亀を眺めた後、ナルトに視線を向ける。

 

「なんだこの亀。本当にこんなのが喋ったのか?」

「しゃべったんだって。いきなり首がこう、グリンって回ってこっち見てきたんだってばよ」

 

サスケが自身のアパートに荷物を取りに行っている間に、ナルトが変なものを拾ってきたらしい。サスケが戻ってから程なくしてマダラも団子屋から帰り、今三人でナルトが拾ったという亀の置物のようなものを眺めていたのだった。

 

「この亀、確かエラーがなんとか言っていたな」

 

マダラが腕を組みながら言う。

 

「そういや確かに?」

「子守の任務を受けてないからな。最近の玩具の流行は知らんが……お前らの方がそういうのには詳しいだろ。まあ、こんな亀が流行るとは思ってないが」

「たぶん流行ってねえと思うってばよ」

「見たことねぇよ、こんな亀」

「……エラー、か」

「おっさん?」

 

マダラはぼそっと呟く。

聞き間違えでなければ、この亀は『時間移動中に予期せぬエラーが発生』したと言っていた。時間を移動する、つまり先日までマダラ達が体験していたような事象をこの亀は起こせるというのか。ただの玩具の音声機能である可能性もあるが。

 

(……猿飛のところに持っていくべきか。イズナを帰す手がかりになるかもしれん)

 

マダラは亀の甲羅を軽くなでる。亀はピクリとも反応せず、動かすにはなにか動力源が必要そうだ。

 

「サスケェ……もし髪の毛が金髪で赤いベストを着たやつを見かけたら教えてほしいってばよ……。歳は多分俺達くらいだと思う」

「金髪で俺達くらい? ナルト、お前がしらないってことは俺も知らないやつか。そんなやつ里にいたか?」

「うーん、わかんねぇけど、一応知らねぇやつだったぜ」

 

サスケは覚えている限りで、アカデミーにいた同級生や下級生の顔を思い浮かべる。金髪の子どもは何人かはいた気がするが、歳が同じくらいとなるとなかなか思い当たる人物は出てこなかった。

 

「明日あたりサクラにも話しとくか」

「だな。みんなで協力した方が見つかりやすいもんな」

「………………」

 

サスケとナルトが話している間、マダラは一人静かに亀を眺める。

持ち主のあの二人組みを探して亀を返すべきか。少年の方はともかく、気になるのは側にいたマダラをやたらと警戒していた黒い男。マダラのことを知っている様子のあの男は一体何者なのか。その男と行動を共にしていた少年もーー。

 

(今晩、探るか。捕まえるとしたら、あのガキの方なら簡単に情報を取れそうだなーー)

 

少年に亀を返そうとしているナルトたちの傍らで、マダラは亀を冷ややかに見下ろしながらそんなことを考えていたのだった。

 

 

 

 

 

ナルトとサスケの寝息が寝室に響く中、マダラは物音を立てずに着替えを済ますと居間の窓から外に出た。軽い着地音を微かに鳴らした後、マダラの隣に夜の監視当番の若い忍が降り立つ。

 

「おいタジマ、寝る時間だろ。早く布団に戻れ」

「お前……」

「……」

「……」

「……あ、あーいや、その」

「……今から昨日店の前にいた奴らのうち、ガキの方を探しに行く」

「金髪の……ああ、例の店の前にいたヤツらか」

「ナルトとサスケなら今頃夢の中だ。どちらに付くかはお前が決めろ」

「え? は?」

 

そう言い捨てるように告げると、マダラは影分身を一体作り上げそれぞれ夜の里を駆け出した。屋根の上に跳び去っていくマダラと、角を曲がり姿を消したマダラを監視役は無意識のうちに手を伸ばし止めようとするが、それも虚しく二つの影を見失う。

監視役は行き場を失った手を下ろすと、すんと表情を落とし真顔になった。

 

「俺、流石にもうクビかな」

 

近頃監視対象を見失ってばかりである。

マダラが単独行動を取るときは大体何かしら理由があるが、監視役が監視対象を見失うだけでなく命令までされているこの現状。そもそもあの伝説の忍のマダラに敵うなどこの数年間で思ったこともないが、近頃監視対象との上下関係が崩れ曖昧になってきている。これではいつ監視役の任を解かれてもおかしくないだろう。

このままマダラに任せ放っておくべきか。

僅かな間、監視役は空を仰ぎ考える。分身を送りマダラを追わせても、何かあった時の事を考えると少ないとはいえ無闇にチャクラを消費するのはいい判断とはいえない。

マダラが監視役にこのアパートに残るか選ばせたのは、つまりこの場所が狙われる可能性があるということだ。狙いに来るのは、あの亀の持ち主達であろうか。

監視役はマダラが出てきた窓からアパートの居間に静かに忍び込むと、棚の一番上の引き出しを開けた。そこにはメモ帳と特装版のイチャパラが仕舞われており、その真下にはお菓子の缶があった。イチャパラ達をよけ缶の蓋をそっと開けてみれば、例の少年らの持ち物である亀が仕舞われている。

 

(……火影様には不審な奴らが里にいることは伝えてあるが、なぜ奴らは……いや男の方だけか、なぜタジマのことを知っている)

 

監視役は缶の蓋を閉じると、その上にイチャパラを乗せ引き出しを元に戻す。

すぐそばの寝室からは、ナルトとサスケの穏やかな寝息が聞こえていた。

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