おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第44話

真夜中の演習場の片隅、木に寄りかかり星空を眺める少年と焚き火を消す男の姿が二つ。ボルトとその師匠の男のサスケである。彼らの近くにはカップラーメンの容器がそれぞれ置かれていた。汁だけが残ったそのカップラーメン達は、彼らの晩飯であった。

二人の表情は明るいものとは言えず、虫の音色と時々フクロウの鳴き声が演習場には響いている。

 

「ボルト、日が昇ったらナルトの元にカラスキを取り戻しに行くんだ。いいな? ぶつかった時に落としたのであればアイツが持っているだろう。向こうもお前を探してるはずだ」

「サスケのおっちゃんはどうするんだ。こっちの父ちゃんとも会う気はないんだろ?」

「おっちゃんじゃない、師匠と呼べ。ああ、ナルトには会うつもりはない。カラスキを回収したら、欠けた部品も早く見つけ出してこの時代を去る」

「師匠、あの団子屋にいたおっちゃんのことだけど、『タジマ』さん? だっけ。そう呼ばれてたような……昨日も聞いたけどさ、あの人のこと何か知ってんの?」

「……あの男は。ある男に瓜二つだった。姿も声も、あのとき感じたチャクラも。今日も昼間里内を探索して分かったが、本当に団子屋で働いているらしい。タジマ……タジマ、どこかで聞いた覚えがある気がする名前だ。いったい誰の名前だ……思い出せん」

「? なんか、あんまり良い知り合いでもなさそうだな」

「ボルト、第四次忍界大戦については習っているな」

「え? ああ、まあ、習ったけど」

「ならば『うちはマダラ』についても知っているな」

「知ってっけど……確か父ちゃんと師匠で倒したんだっけ……え? でもなんでそいつの名前が」

 

ボルトはサスケの話に木に寄りかかっていた背中を勢い付けて離すと身を乗り出して聞いた。『うちはマダラ』という名はアカデミーに通っていた時に授業で習っていたため知っている。ボルトは師匠のサスケがなぜ団子屋の男を警戒しているのか徐々に理解できそうになると、まさかまさかと目を見開いていく。

 

「俺の感が正しければアイツは、あの団子屋の男は『うちはマダラ』に瓜二つだ。何の目的で団子屋にいるのかは知らないが、アイツが近づいた時に感じたあのチャクラは、間違いなくやつの物」

「……え、え? え、いやでもそもそもマダラって初代火影と同世代なんだろ? 第四次忍界大戦の時は蘇ったとかだったけど、この時代の里にはいないはずだってばさ!」

「そうだ。いるはずがない、死んでいなければおかしい。そもそもアイツが団子屋で働いているのが謎だ。何だあのエプロンは。この世界、俺達が知る木ノ葉とは違うかもしれない。なるべくあの男には接触しないようにしろ。カラスキの壊れた部品もどこかにはかならずある。カラスキを一時的でも起動できれば、部品の在り処の手がかりも得られるかもしれない。…………洗ってくる。ボルト、お前はそこで待っていろ」

 

そう言うとサスケは周囲を少し見渡した後、カップ麺の入れ物を回収すると川の方へと向かった。容器はあとは捨てるだけだが、軽く川の水ですすいでくるつもりらしい。

ボルトはサスケの去っていく足音を聞きながら再び夜空を見上げた。空にはボルトのいた時代よりも少しだけ多くの星がきらめいていた。

 

「………………ん? 師匠?」

 

月のそばで一番輝く星を見つめていると、不意に背後に気配を感じたボルトは背もたれにしていた木の後ろを振り返った。なにか葉の揺れる音が聞こえたような、そんな気がしたボルトはじいっと暗闇に目を凝らす。しばらく暗闇を見据えていたが、物音は特に聞こえず何かが動く影も見えなかった。さっきのはきっとうさぎか鳥でも動いたのだろう。そう思いボルトが前を向いた時、先程までボルトが振り返っていた背後から大きな手が伸び口元を塞がれた。急な出来事に息ができなくなったボルトは慌てるが、ひとまず冷静になろうと鼻までは塞がれていないことから必死に呼吸を整える。そう遠くないところにサスケもいる。そのうち戻ることからも時間を稼ごうとどうにか焦りそうになる気持ちを落ち着かせた。

 

「ッーー……?……」

「……思ったよりも利口な奴だ。悪いが場所を移動させて貰おう」

 

頭上で聞こえた声は、昨日の昼に例の団子屋で聞いた男の声。先程師匠のサスケより、『うちはマダラ』の疑いがあると言われているタジマという男の声だ。

 

(アイツじゃん! やべぇ、師匠になんとかしらせねぇと!)

 

いつから近くにいたのだろう。サスケが感知していないということは、敵意はないということか。今すぐに殺される心配はないとはいえ、タジマという男はボルトをどこへ連れて行こうというのか。

ボルトは口元を塞がれたまま片腕で腰に抱えられると、夜の演習場からどこかへと連れ出されていった。

 

 

 

 

 

ボルトが連れて行かれた場所は、里の外れにある研究施設であった。

マダラが一階の角部屋の窓を蹴り破ると、器用にボルトを抱えたまま中に入り、ガラス片のない部屋の中央にボルトの体を投げ飛ばす。窓と反対側の奥には、笠を片手に渋い顔をした老人が一人立っていた。

 

「うわあ⁉……っとと。あぶねぇってばさ!」

「そこの窓は変えたばかりだったんじゃがのう……タジマ、部屋に入るときはドアから入らんか。やれやれじゃ」

「このガキを他の奴らに見られてもいいなら次からはそうしてやろう」

「えっと……あ、もしかして! ……三代目火影のじいちゃん⁉」

「ほうほう、ワシのことは知っておるのか。ふむ……流石に窓が割れてる部屋で話はできん。ちと隣の部屋を見てくるから待っておれ」

 

ヒルゼンはマダラとは反対にきちんと扉から部屋を出ると隣室を確認し、すぐに廊下から二人を手招きする。ヒルゼンに招かれるまま、窓もなく何も置かれていない部屋にマダラとボルトは入った。殺風景なこの部屋は物置部屋のようだ。部屋の明かりを点け扉を閉めれば、静寂が三人を包み込んだ。

 

「して、タジマ。近頃単独行動が過ぎんかの」

「さあな」

 

マダラは何のことやらと肩をすくめる。

ボルトはヒルゼンとマダラのやり取りを聞きながらも、どうやって演習場にいる師匠のサスケに知らせるか考えを巡らせていた。

 

(この人は三代目の火影で、木ノ葉丸の兄ちゃんのじいちゃんだったはず。三代目が生きてるってことは、この時代は父ちゃんが下忍になって間もない頃ってことなのか? でも今日ぶつかった時、前にいた時代で会った父ちゃんと見た目はあんま変わんなかった気がするけど……どういうことなんだよぉ)

 

ボルトはマダラとヒルゼンを見比べながらこの時代について考える。

この時代の木ノ葉の里にたどり着く前、同じような時代にボルトと師匠のサスケはいた。そこではうずまきナルトに封印されている九尾を狙い、過去の木ノ葉の里にタイムスリップした大筒木一族のウラシキという奴から少年のナルトを守る死闘を繰り広げたものだ。

 

(一応俺達は未来に戻る予定で、なんか急にここに投げ出されて……。あの時カラスキはちゃんと起動してたってばさ。俺達がウラシキを倒したのは綱手のばあちゃんが火影をしてた時代なのに、ここに来たら顔岩が減ってるってどう考えてもおかしいって。しかも師匠曰く存在しないはずの人間がいる……うわぁ、師匠助けてくれってばさぁ……)

 

この時代はこの時代で難しい問題を抱えているようだ。

ボルトは険しい顔をして考えているとふと視線を感じ、顔を上げるとマダラに見下されていることに気がついた。その視線の鋭さに産毛が逆立つのを感じた。ボルトはいつのまにか溜まっていた唾を飲み込みながら、恐る恐るマダラの黒い瞳を見返す。

 

「な、なんだってばさ」

「おいガキ。お前らが里に来た目的は何だ」

「え、あ、あーえっと……」

「里に来た目的だ。何の用で木ノ葉にいる?」

「それは……オ、オレ達は……旅芸人なんだってばさ! それで各地点々としてて」

「へえ、旅芸人……ところでボルトだったか? 俺のことをやけに警戒しているが、どこかで会ったことでも?」

「や、いや、ない。ないって。おっちゃんとオレが知り合いなわけないって」

「ああそうだろう、俺もだ。俺もお前のようなガキは知らん。それと、あともう一人……昨日一緒にいた男だが……そいつのことも俺は知らないんだが、どうも向こうは知っているらしい? さて、知り合いだろうか。なあ?」

「サス……師匠は、その、いろんなとこ行ったりしてたから、なんかどっかでおっちゃんのこと見かけてたのかも知れないかなぁなんて!」

「ならば俺をどこでみかけたんだろうなァ?」

「そ、それは……たぶん昔どっかの、町中とかで?」

 

ボルトは冷や汗が止まらなかった。

マダラからはお前を疑っているぞという意思を黒い瞳からはひしひしと感じた。この場にいるのが火影だけであれば、未来の人間であるという事実のすべては話さずともカラスキの部品について捜索の協力を仰げたかもしれないが、サスケからマダラについて話があったばかりであり、警戒すべき男がそばにいる状態ではボルトも迂闊なことは話せない。

ボルトが萎縮してきたところで、ヒルゼンから助け舟が入る。

 

「これこれ、あまりいじめるでない。すまんのう、連れがいたようじゃな。ワシは三代目火影の猿飛ヒルゼンじゃ。一応自己紹介はしておこうかの。さっきタジマが言うておったが一応……名前はなんという?」

「……ボルト。ボルトだってばさ、三代目のじいちゃん」

「ボルトか。ワシもお主を里で見かけたことがないんじゃが、確か旅芸人じゃったか?」

 

マダラと比べれば優しげなヒルゼンの言葉にボルトは少し緊張がほぐれるのを感じる。ボルトは問いにコクリと頷くと、ヒルゼンもふむふむとうなずき返した。

このままヒルゼンが話を進めてくれるのかとボルトは胸をなでおろすが、一瞬で感じた安心感は横から入ったマダラの声で吹き飛んだ。

 

「猿飛、そんなやり取りはどうでもいい。ガキ、先に伝えておくがお前の亀は俺が預かっている」

「は⁉ なんで! カラスキは父ちゃんが持ってるはずだろ⁉」

「父ちゃんが持ってる?」

「ハッしまっ」

 

ボルトは失言に気づくと慌てて口を両手で覆う。マダラの目がより一層鋭くボルトを刺す。

 

(やべェってばさ……ていうかなんでこのおっちゃんがカラスキ持ってるんだよ。俺がぶつかったのは父ちゃんのはずなのに⁉)

 

マダラがボルトにゆっくりと近づく。合わせてボルトも後ろに下がっていくが、ほんの数歩下がっただけで壁にぶつかってしまった。逃げ場はない。

 

「そうかそうか、ただのガラクタだと思っていたが、あの亀は『カラスキ』というのか」

「……」

「そういえば、お前は昼間うずまきナルトと会っているな」

「……そ、それがなんだって」

「ああ確か、あのカラスキという亀はこうも言っていた……『時間移動中にエラーが発生した』と」

「ッ! アイツ起動したのか! まじかぁ……カラスキィ……」

 

ボルトの弱々しい声が喉の奥から絞り出される。

マダラは至極冷淡にボルトを見下ろし続けた。誤魔化すことも逃げることも出来ない。ボルトはふと、師匠のサスケが警戒しているタジマと呼ばれる男が火影と平然と話していた違和感に気が付く。

 

(ま、まてよ……師匠はコイツが『うちはマダラ』かも知れねぇって言ってたのに、敵が火影と仲良くしてるのなんておかしいじゃん⁉︎ やべぇ、サスケのおっちゃんに知らせねぇと! どうすれば……ッ)

 

うちはマダラに関してボルトが知っている情報は多くない。所詮未来のアカデミーの教科書で習った程度だ。だが第四次忍界大戦時のマダラとの戦いは壮絶なものであったことは想像に難くない。

ボルトは「やばい」と何度頭の中で繰り返しただろう。

この火影のヒルゼンとマダラは仲間である、そうボルトは頭の中で答えを見つけるとどんどん血の気が引いていった。下手に嘘をつけば、命の保証はないだろう。

マダラの瞳がボルトを冷たく刺す。

 

「父ちゃんだとな……まあ、世の中想像し得ない事が起こり得るものだ。ボルト、ならばさしずめお前の名前は……そうだな」

 

マダラは一旦そこで言葉を切り、黒い笑みを浮かべるとボルトに近付き自身の影で覆った。

 

「……さあ、『うずまきボルト』? 洗いざらい吐いてもらおうか」

 

マダラに詰められているボルトは、今にもへたり込みそうであった。

ヒルゼンがツカツカと二人のそばに歩み寄る。ヒルゼンは咳払いをした後、素早い手刀をマダラの脇腹に入れた。

 

 

「コレ!タジマ! それでは話すもんも話せなくなるじゃろうて」

 

 

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