「あっさりと認めたものだな」
「うう……」
追い詰められたうずまきボルトは案外簡単に吐いてくれた。あの亀は時間移動装置になっており、自分達は未来からやって来たので間違いない事を認めた。
尋問したのはマダラであるが、想定外のことをこの少年は吐いてくれたものだと思わず顔を顰めそうになった。
(嘘を吐いた時のリスクを考えたか。イズナの件といい、近頃厄介ごとが尽きない……)
頭痛が痛いとはこのことか、マダラは首を振って肩をすくめる。だがすぐに影分身が解かれ流れ込んできた記憶にほくそ笑んだ。ボルトの連れと接触していた影分身からは面白い記憶が引き継がれていた。
アパートを出た後、監視役には本体と影分身がそれぞれ違う方向へ行ったと思わせたが、実際は時間差をつけて同じ場所へと向かっていた。
マダラがボルトを攫うほんの少し前に影分身のマダラが演習場に辿り着き、サスケを誘い出しボルトから引き離した。マダラは奇襲を仕掛けるわけでもなかったため、闘気もなく案外気づかれなかったものだ。
(あいつめ、カップラーメンの残り汁をかけてきやがったな。そもそもなぜ残り汁が入ったカップラーメンの入れ物なんぞ持って……いやそれよりも、奴は俺の戦い方を多少なりと知っているわけか。なぜ知っているかはわからんが、このガキが未来から来たとすればあの男もそうなのだろう。コイツらの歳の差は親子程だが、血縁関係ではない……。ナルトのことを父親と呼んだあたり近いのは……)
マダラの脳裏にアパートを出る直前に見たサスケの寝顔が浮かんだ。ナルトの伸びた腕が胴体に当たり、邪魔そうな顔をしながら寝ていたのを思い出す。
簡単にナルトのことを父親だと口を滑らせたところからして、このボルトとその父親に関わり深そうな人物といえばあの男の雰囲気からしてもサスケが該当するだろうとマダラは考えた。今のところ恨まれることをした覚えはないが、未来では一悶着なにかあったのかも知れない。
(俺に関する記憶を消されているか、あるいはーー)
マダラが運良く元の時代に戻れたとして、将来ナルトが自身の子どもに何も話さないとは思えない。今までのやり取りからも、ボルトはマダラのことを詳しくは知らないのだろう。ただ警戒すべき男ということ以外には。ボルトがマダラを見上げてくる瞳には不安感が色濃く浮かんでいる。
(つまりこのガキと俺には面識はない。あるのは男の方だけ)
マダラが以前穢土転生で蘇った柱間と扉間とした話によれば、マダラがいた元々の時代とは別の木ノ葉の里に来ている可能性が高いことが考えられている。もしかすると、彼らもマダラと同じようにまた関係のない時間軸から来ている可能性があった。
このボルトという少年がいつの時代から来ているかは知らないが、ナルトが父親であるならば長くてもたった数十年先の未来から来ているのだろうということだけは想定できた。
(あの腕と隠している左目はどうしたのだか。まあ、ガキの連れがサスケだろうが別に構わん。それよりもあのカラスキとかいう亀だ。使い方を聞き出す。だがその前に……来てるな)
壁に寄りかかるというよりは、壁に寄り掛からなければ今にも座り込んでしまいそうな体勢のボルトの襟首をマダラはグッと掴んでしっかりと立たせた。首が締まり変な声を出しながら、まっすぐ立たされたボルトはマダラを睨む。
「ぐえっ、いきなりなんだってばさ!」
「喜べクソガキ。お前の連れがこちらに来ているぞ」
「え、師匠が!」
マダラの言葉にボルトは左右を見渡し、今か今かと己の師匠の到着を待ち侘びる。
「おい猿飛、部屋までおびき寄せろ。俺が行くよりは上手くいくだろう」
「ワシを使いおって。誰だと思っておるのじゃ?」
「三代目火影様、だろ」
「むぅ……まあワシが行くしかないかの。待っておれ。まったく年寄りは労って欲しいものじゃな。のう? ボルトよ」
同意を求められたボルトは恐る恐る頷いた。
ヒルゼンはマダラにやれやれと首を振りあからさまに態度に表すと、手に持っていた火影の笠を被り部屋を出ようと動く。そんな時だ、不意に遠くの部屋からガラスの割れる音と、何かを追いかける騒がしい物音が聞こえて来た。少し遅れて、廊下の方からはヒルゼンを呼ぶ声が響く。
「……何事じゃ」
ヒルゼンが廊下に出ると、奥から顔に怪我をした忍が一人必死な形相で駆け付け目の前で跪いた。身体は今にも倒れそうなほどフラついている。その忍は深刻な声音でこう告げた。
「うちはイズナが逃走しましたーー!」
夜の森の中をマントをなびかせながら駆ける男の姿が一人。
ボルトと演習場にいたサスケである。サスケは少々苛立った様子で、ただ一点を目指していた。
(はじめから狙いはボルト一人だったかーー!)
サスケが向かう先には里の研究施設がある。研究施設とはいっても特に使われてはおらず、資料が保管されているだけのほぼ倉庫代わりにしている建物だ。
「なぜヤツはボルトを攫った……」
サスケの言うヤツとは、先程演習場に現れたマダラのことであった。
ボルトとカップラーメンを食べた後、不穏な気配を察知したサスケはボルトに悟られぬよう容器を洗いに行くふりをし一人でその気配がする場所まで向かった。
誘い出されているとはわかっていたが、ボルト共々襲撃に遭うくらいであればサスケが一人で向かった方が損害は少なく且つ対処しやすいとそう思ったのだ。
向かった先で、サスケは団子屋で会ったマダラの影分身と相対した。
(やけにやる気がなかったのは端から俺と戦う気はなかったからだ。クソッ。あの男はどうしてこの時代にいる)
演習場の近くに茂る森の中、サスケは逃げ隠れするマダラに苦戦した。真っ向から戦いに来てくれれば無力化することもできただろうに、マダラはサスケを挑発するだけで写輪眼も出さず術も何一つ使わなかった。マダラのことを戦闘狂だと思っていたサスケは無駄に警戒しすぎたせいで、上手く捕まえることができなかったのだ。
少し昔の記憶を思い出し、遠い目をする。
(思い返せば、あの時のヤツは両目がなくとも暴れ回っていたな……)
心臓があるところを一突されたことも思い出した。あの時のマダラの尊大な態度といい、今思い出してもいけすかない男だったと一人ごちる。
(ウラシキとの戦闘がなければもう少し動けたというのにーー)
サスケは最近までチャクラを消耗する出来事があり、休養期間は存在したとはいえチャクラも体力も完全に回復している訳ではなかった。チャクラが回復しサスケの方に余裕があれば、影分身一つ簡単に蹴散らしボルトの元へ急いで戻れたものを。本調子であれば、マダラの動きを止めることくらい造作も無かったはずだ。
やけくそで残っていたカップ麺の汁をマダラにぶちまけた瞬間、心底嫌そうな顔をされたのだけはスカッとした。
片手で空容器を持ちながらサスケは夜の森の中を突き進む。
そろそろ目的の施設が見えそうになった頃、前方から向かってくる気配に足を止めた。
(ーー誰だ⁉)
気配はサスケにまだ気付いていないのか、どんどん近づいてくる。がさりと枝葉をかき分け木の陰から現れたのは、丈の長い黒装束を着た青年であった。
「ーーなッ! 先回りされて……!」
焦った様子の青年はサスケの前に立ち塞がり臨戦態勢を取る。
サスケは青年の着ている装束に既視感を覚え、カップ麺の空容器片手に訝し気に向かい合った。
「そこをどいてくれないかな」
「どくとは? 追われてるみたいだが」
「お前には関係ない。ここで俺を見たことは忘れてもらうか」
「……?」
青年の言葉にいまいち状況が飲み込めず、サスケは彼を見据え続けた。追われていることに否定をしないということは、本当にどこからか逃げている最中なのだろう。方角的にサスケが向かっている施設から逃げて来ているようだが、それを確かめようにも青年の様子からして答えてはくれないのだろう。
(奥の研究施設では何が起こっている? ボルトと早く合流しなければ。マダラの目的が読めない今、余計な事を喋る前にーー)
今優先すべきは目の前の青年の相手ではなくボルトの救出だ。
サスケは青年を見なかったふりをして見逃そうと決めた。道を開けようと脇に避けようとした時、青年の目が赤く光ったのが見えた。写輪眼だ。
「⁉ その目は!」
「お前もこのよくわからない里とかいう連中の一味なんだろうな。抵抗するなら……容赦はしない」
「待て! 俺は別にあんたを追ってる連中の仲間じゃ」
「言い訳はいらないよ!」
青年が赤い瞳を輝かせながら迫る。サスケは襲いかかってきた青年を軽い足取りで避けた後、装束の後ろにある家紋を見て目を見開いた。
「うちはの家紋ーー⁉」
写輪眼に、うちは一族の装束。本来この時代の里にはうちはサスケ以外いないはずのうちはの人間が、目の前には存在していた。