「えーと、つまり俺たちが帰れるまでの間住む所を提供する代わりに、この兄ちゃんが帰るための手伝いをして欲しいってことか?」
「簡単に言えばそうじゃのう」
ヒルゼンの話を聞いたボルトは簡単に要約した。なんだそんなことかと、ボルトは少し拍子抜けする。
ヒルゼンがボルトとサスケに話した内容は以下の通りだ。
『この青年が過去の時代の人間であること』
『確実に元の時代に帰す手段を探しているが、現状見つかっていないこと』
『この事は里内でも極秘扱いであり、知らせている忍が少ない事』
『消えた部品の捜索の協力と里に留まる許可をする代わりに、ボルトらが未来へ帰る際にこの青年を過去へ連れ戻せないか』
ヒルゼンは非常に穏やかな口調でそう話した。
ボルトが口を滑らせたことにより、ヒルゼンもマダラも二人が時間移動を行っている事には確信を得ている。普段ならば簡単には信じなかったが、直近で意図せず過去に渡りイズナを連れ帰ってしまった実績があるためだ。
「どうじゃ? 悪い話でもなかろうて」
「……わかった」
取引を持ちかけられているサスケはしばらく考えた後、ヒルゼンの申し出に頷いた。時間移動装置であるカラスキは現状サスケ達の手元にはなく、ここで取引を断れば取り返すのが困難になると判断したからである。
カラスキは部品が欠けた状態でも一瞬起動したそうだが、また動かなくなっているらしい。いつ部品が見つかるかもわからない。不法滞在者として扱われるよりは、住む場所も与えられるのならば悪い条件では無いだろう。
「さてワシは後で部屋を手配するとして……タジマよ」
「……」
「さっきのでうちはイズナの監視に就かせていた者らが全員動けなくなってしまった」
「……」
「……これ以上人を増やし、大事になってもいかん。あまり過去の人間がいることが他の者に知られては、うちはイズナ含めボルトらが使ったというその装置が狙われ悪用される危険も出てくるじゃろう。とはいえじゃ、他に任せられそうな者が今はおらんくてのう」
「……」
「そういうことじゃ、タジマ。お前さんに一つ任務を与えようと思うんじゃが……」
ヒルゼンは口をつぐみ暫く悩んだ表情を浮かべる。
マダラはなんとなくヒルゼンが伝えたいことを理解すると、イズナの腕を掴んでいる手に少しばかり力がこもった。
「明日団子屋に行く者にはワシから伝えておく。ーー装置が稼働するまでの間、うちはイズナの側におり監視するのじゃ」
朝、暖かな光がアパートの居間に差し込む。
スズメのさえずりを聞きながら、目を覚ましたナルトとサスケは居間にいる人物に目を丸くして固まった。
「な、なん」
「起きたか。さっさと顔洗ってこい」
「な、な、な」
ダイニングテーブルの椅子に腰掛ける、マダラと同じ黒髪で短髪の青年。
青年はむすっとした表情で、テーブルの傷がある部分を眺めていた。
あまりの驚きに言葉が出ないナルトがやっとの思いで吐き出した言葉は、サスケの寝起きの頭に痛いほど響いた。
「なぁんであの兄ちゃんがウチにいるんだってばよーーーー‼︎」
マダラに布団に入っていたところを軽く叩き起こされたナルトとサスケは、どういうことだとイズナの両脇を囲んだ。
マダラはナルト達の様子を知ってか知らずか、気にもせず食器を棚から出し並べる。同時にキッチンにあるトースターからパンが焼けた音が鳴ると並べた皿の上に乗せた。そして一気にまとめて焼いたであろう目玉焼きが乗ったフライパンを手に、フライ返しで一つずつすくうとパンの上に被せていく。
ナルトとサスケは呆然とマダラを見上げた。
「お前らはさっさと食ってカカシのところでも行ってこい」
「う、うん。カカシ先生のとこには後で行くけど、いや、え、おっちゃん‼︎ なに普通にパンとか焼いてんの⁉︎ だから何であの兄ちゃんがいるんだってばよ?」
「暴れた、逃げた、ここで見ることになった。それだけだ」
「いや、雑ゥ! もう少し丁寧に説明して欲しいってばよ!」
「はぁ……過去の人間を連れ帰った事実が広まったらどうなる? 本来ならカカシ辺りに白羽の矢が立ったんだろうがな、今は無理だ。事情も事情だ。理解しろ」
「え、ええー……」
「お、おっさん……正気か」
「正気だ。何だったら寝起きのお前らより頭はスッキリしているだろうな」
寝ている間に何があったのだろう。ナルトとサスケの表情は引き攣っていく。
ヒルゼンがマダラにイズナの監視を命じたのは、完全に人員の都合だった。新しく誰か配置するよりは、あらかじめ事情を知っているマダラや第七班の者らで見張れば、新しく情報が里内で漏れることはない。マダラに関しては元々監視が付いているのもあり、ついでに彼らにもイズナを見てもらおうという算段なのだろう。
「なぁ、おっちゃん? なんかもう、とりあえずわかったことにしとくけど、寝る場所とかどうすんの」
ナルトは小首を傾げながら尋ねた。イズナ以外の三人が寝室の方を見遣る。サスケが泊まりにきている今ですら、ナルトとマダラが使っていたベッドを付け寝るスペースを確保している状態だ。布団を一組床に敷けなくはないが、そこまで広々としたスペースはない。
サスケが口を開く。
「……おっさん、俺自分の家に戻」
「そうだな、ナルト、サスケ。帰りに敷布団一式買ってこい」
「いや、俺が帰れば」
「サスケ帰んの?」
「帰ったほうがいいだろ、流石に四人は狭い」
「狭いけどまだ入るって。どうせ俺たちもおっちゃんも昼間は任務で大体いないし。夜だけじゃん」
「今はカカシが動けねぇから俺たちは暇なんだろうが」
「あ、そうだった」
ナルトが忘れていたと笑って誤魔化す。
「じゃ、俺サスケんち行っていい?」
三人ならばともかく、大人一人が増えるとなると手狭だ。ナルトはいいことを思いついたと言わんばかりにサスケに尋ねた。
「来たことあるからわかるだろうが、俺の所なんて来たってなんもないぞ」
「なら昼間だけ!暇な時だけ!」
「昼間来て何すんだよ」
「……今後の作戦練るとか?」
「何の」
突然同居人が増えることになったというのに、初めこそ驚いてはいたものの既に通常時となんら変わらないナルトの様子に、サスケはまた顔を引き攣らせながら答える。
間に挟まれているイズナは迷惑そうな表情を浮かべている。
ナルトはマダラの方に親指を立てた手を突き出すと了承の意を示した。
「まあまあ、とりあえず了解したってばよ、おっちゃん! でも寝る場所どうすっかなぁ。サスケどうする? 誰が下で寝る?」
「まあ俺かそこのやつか、だろうな。一応俺は居候させてもらってる身だし」
「サスケェ、それ言ったらおっちゃんもそうだってばよ」
ひとまずコンロ上にフライパンを戻したマダラは、会話を続ける二人に挟まれたままのイズナの様子を見下ろす。
つい先日までどちらかといえば敵対していたイズナに対し、すでにナルトとサスケからは警戒しているような反応は見られない。マダラが見ているのであればどうせ逃げられはしないだろうと、余裕をこいているのか。
マダラはトーストに手を伸ばす。
一人先にトーストを食べ始めたマダラの側で、ナルトとサスケはどんどん寝る位置の話を始める。あまりの順応の速さにイズナは思わずキョロキョロと両脇を見遣るが、今の二人の眼中にはないようだった。
「そだ、サスケの荷物ちょっとこっちの棚に置いとく? 布団しまう場所作らねぇと。そっちもういっぱいだから」
「おっさんのイチャパラ入ってたんじゃなかったか、あそこの段。イチャパラの横に道具置くのは俺は嫌だぜ」
「あ、イチャパラそこじゃん。じゃあ俺がそこ置くから、そん下のとこ使うのは?」
「イ、イチャパラ? イチャパラ……?」
イズナがイチャパラという聞きなれない単語に、ついナルトとサスケを交互に見比べた。ナルトは見られていることに気づくと、イズナの方を振り返る。サスケはというと、イズナをチラリと流し見た後寝室へと向かった。
「ん? 兄ちゃんイチャパラ興味あんの? イチャパラはイチャイチャパラダイスっつう本で、おっちゃんとカカシ先生が読ん」
「ナルト。さっさと食ってカカシの見舞いに行け。サスケ、お前も片付けは後にしろ」
マダラの少し大きな声がナルトの耳に刺さった。
サスケは寝室側に置いていた荷物を整理し始めており、マダラに呼ばれるとすぐに居間に戻ってきた。
「おっちゃんがイチャパラ読んでんのなんてみんな知ってんのに、今更隠さなくてもいいじゃん」
「口に何も突っ込まれたくなければそこに座ってさっさと食べ始めるんだな。早くしろ」
「えー」
「……イ、イチャイチャパラダイス?」
イズナの困惑する声が溢れる。
ナルトとサスケも黙々と朝食を食べ始め、マダラも答えることがなかったため、イズナの疑問が解消されることはなかった。