おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第49話

 

 午前のうちにカカシは退院し、松葉杖を付きながらナルトのアパートまでやって来た。イズナをアパートで見ることになったナルト達の様子を見るためである。

 呼び鈴を鳴らせば玄関まで駆けて来る足音が聞こえ、程なくして扉が開かれた。黄色い髪がカカシの目の前で揺れる。

 

「カカシ先生ェ? 帰んのは聞いてたけど、こっちに来てどうしたんだってばよ。そんななのに」

「昨日お前が気になる事言うからデショ。それで、タジマさんもいる?」

「おっちゃんはちょっとどっかに行くとかなんかで出てる。たぶん、すぐ戻ると思うけど」

「それじゃ今、もしかしてあの人とサスケと三人なワケ?」

「うん」

 

ナルトがそう言った後、カカシは視界の端でヒラヒラと手が動くのが見えチラリとそちら側を見やった。マダラとよくいる忍の一人がアパートの外壁から少しだけ顔を覗かせていた。

 

(一応見てる人はいる……か。タジマさんはどこに行ったんだろう)

 

ナルトはカカシを家にあげた。カカシが松葉杖を玄関の床にそっと置いた時、テーブルの上に見覚えのある本が数冊置かれているのが目に入った。

テーブル脇の椅子にはイズナが腰掛けており一冊手に取りぺらりとページをめくっている。

表紙の文字にカカシはカッと目を見開いた。

 

「……ハッ、あ、あれは!」

「んえ? カカシ先生?」

 

カカシはサッとイズナの向かいの席に座ると、じっとイズナの顔を見据えた。突然の挙動にイズナの視線は本の文字とカカシの顔を行ったり来たりし、困った表情で開いていたページに栞を差し込むとゆっくりと本を閉じた。

 

「……な、なにか」

「カカシ先生、カカシ先生、兄ちゃんガチで引いてるって」

「イチャイチャパラダイス」

「え、な、何。何なの」

「どこまで読み終わって……もう二冊目か。どうだった」

「ど、どうって」

 

イズナの目が助けを求めるようにナルトの方に向く。ナルトは黙って首を横に振るだけで、イズナはカカシのやけに真剣な目にたじろいだ。

イズナとカカシの初対面時、弱っていたカカシを捕まえ軽く痛めつけた物だがそんな記憶もどこかへ追いやったのか、カカシはそれはもう大真面目にイチャパラの感想を求めて来た。

 

(コワ。この時代の奴らなんかちょっと変だよ)

 

イズナは椅子を引きカカシからほんの僅かであるが距離を取る。カカシは動く気配がない。何か答えるまでイズナの前を離れないだろう。マダラに早く帰って来て欲しいと願うイズナであった。

 

「……お、面白い、と思う」

「……!」

 

カカシの目がきらめく。

ナルトはあちゃーと目を細めるとサスケがいる方の部屋に移動した。両腕を頭の後ろで組み、ゆらりゆらりと去っていく。

 

「こりゃァ、長くなりそうだってばよ……」

「え、ちょっと待って、ナル……ヒッ」

 

置いていかないでくれとイズナはナルトの後を追おうとするが、いつのまにか横に移動していたカカシに肩を掴まれ座らせられる。素顔の殆どが隠されているカカシであるが、見えている右目の部分はにこりと緩やかなカーブを描いていた。

イズナの額を冷や汗が伝う。洞窟で会った時とまるで違うと。

 

「二巻目も凄くいいんだ。タジマさんも二巻目の中盤から終わり、その辺が気に入ってる。是非とも早く読み終えて欲しい。後悔はさせない」

「へ、へえ。そ、そうなんだ」

 

イズナの声が震える。マダラがイチャイチャパラダイスなる物を読んでいると聞いたイズナは内容が気になり、ナルト達に保管場所を教わりマダラの目を盗んで読んでいた。男女の恋愛模様の描写に文字を読む目は惹きつけられ、どんどんとページは捲られていった。時折挟まる官能的な描写には驚きつつもその表現力には圧倒され、いつのまにか読み耽りあっというまに一冊目を読み終えたのだった。タイトルからは想像だにしていない内容であったと、一冊目を読み終えた後イズナは腕を組み俯いて余韻に浸った。

二冊目に目を通してる間に、まさかこんな目に遭おうとは。

マダラは今いないが監視されている身、どこかに代わりの監査役がいることくらいイズナにもわかっている。目の前のカカシの意識を落とそうものならどこかに潜んでいる忍に取り押さえられ、また何もない施設の部屋に逆戻りであろう。

カカシが思い出したように話し始める。

 

「そうそう、今度タジマさんと約束してて」

(……に、兄さんと?)

 

イズナは訝しげに笑顔のカカシを見上げた。

 

「映画」

「え、映画」

「一緒に行くか」

「……だ、誰と誰が」

「俺とタジマさんと」

(あー……兄さん行くんだ)

 

幼少の頃から戦だなんだと娯楽を楽しめるような環境にはなく、映画自体は知っているものの実際見たことがあるかと言われれば数は多くない。

イチャイチャパラダイス、ざっと一冊目を読んだだけでも名作であるのは間違いない。これが映像化されるなど、面白くないはずがないだろう。だがしかし、そもそもだ。そもそもイズナは監視されている身、そんなどこか遊びに連れ出していいものか。

 

「俺とタジマさんが一緒だ、逃すわけないでしょ。もうだいぶ調子も取り戻して来てるしね」

「いや俺も逃げたところで行く宛なんてないし……じゃなくて、さっきここに来るまでアンタ俺のこと警戒してなかった?」

「イチャパラの良さがわかる人間に悪い奴はいない」

「……もういいや」

 

考えるだけ無駄だろう。映画の公開日がいつなのかは知らないが、それまでに元の時代に戻っていなければ連れて行かれるのだろう。

そういえば何かをゆっくり楽しむ時間など近頃はなかったと、イズナは戦の日々を思い出し瞳を伏せる。

 

「映画、か……そういうのって、いつぶりだろうな」

「……」

 

イズナの呟きに、カカシは笑みを消す。

この時代でも、ほんの少し前まで争いがあった。そこで散った命の数は数え切れない。イズナのいた時代はマダラがいた時とは多少のズレはあるものの、戦時中でまさに戦乱の世の中だ。常に気が張り詰め、命の危険に脅かされていた時代。そしてイズナ達にとっては一族の存亡もかかった戦い。頭領だったマダラの弟であれば、それなりの重責もあっただろう。

カカシ達第七班とイズナは出会いが出会いであったため敵対したが、もし出会った状況が違えば友人のように、または職場の同僚のように言葉を交わすこともあったのかもしれない。

映画かー……と呟いていたイズナが、急にはっとするとカカシの顔を見上げた。黒い双眸がカカシの額当てに隠された左目を捉える。

 

「そういえばカカシ? だっけ。会った時から気になっていたけどその左目は」

 

その左目はどうしたんだと尋ねようとした時、玄関の扉が開いたためイズナは言葉を切った。

 

「ーー戻った。おい、鍵がかかってなかったぞ……なんだカカシか」

「やあ、タジマさん。お邪魔してます」

 

マダラが帰って来た。

マダラはカカシがいることに少し驚くが、すぐに視線がテーブルの上に置かれたイチャイチャパラダイスに動くとナルト達がいる寝室の方に顔を向けた。

 

「ナルトのヤツめ……」

 

マダラの低い声に、寝室から聞こえていたナルトとサスケの声が止んだ。

マダラは玄関の鍵を閉めイズナ達の側まで進むと、テーブルに積まれたイチャパラにため息をつく。

 

「はぁ……だいぶ読んだな」

「タジマさん、彼面白かったって」

「カカシは何の用だ。イチャパラを読ませに来たわけではあるまい」

「ああ、そうでした。タジマさんが彼の監査をすると聞いてですね。ナルト達もいますから、俺も無関係ではないですし」

「それはそうだが、退院したとはいえそんな状態で寄り道をするな。何もなかったから良いものの」

 

マダラの呆れの混ざった声色にカカシは軽く笑い飛ばす。

帰ってからため息が止まらないマダラである。再び深く息を吐いたマダラはポケットからあるものを取り出すと、テーブルの上にそれを置いた。ピンクと白の色の組み合わせをしたそれは、何かの足の形のように見える。手のひらで包み込めるほどの大きさのそれは、何かの部品のようでもあった。

 

「タジマさん? それは一体……?」

 

カカシが不思議そうにマダラに問いを投げかけるが、マダラは答えずに棚の引き出しから缶を出すと、蓋を開け中から亀の置物を取り出した。ナルトとサスケも寝室から出てくると、テーブルの周りを囲む。

 

「おっちゃんそれって」

「部品を見つけた。団子屋の屋根の上にあった」

「団子屋の屋根の上って……ああ!もしかして!」

 

ナルトが亀の方を見て大きな声で叫ぶ。マダラはナルトの声に頷くと、部品を亀の欠けている部分に差し込んだ。かちゃりとそれはハマり、亀は正しい姿を取り戻す。だが部品をはめた所で動く気配はなく、やはり動力源が必要そうであった。

 

(動かんか。チャクラで動くのかは知らんが、時間移動とやらが本当であるならばかなりの量がいるか)

 

皆の視線がテーブル上の亀に集中する。

 

「タジマさん、この置物はなんです」

「カラクリだ。時間移動ができるらしい。コイツが本物なら、これを使って元の時代に帰せるかもしれんな」

「時間移動? これが? 信憑性は確かなんですか」

「さあな。だが利用してみる価値はある」

 

マダラはそう言うと、また亀を缶の中に入れ棚に仕舞い込んだ。ついでにテーブルにあるイチャパラもしまおうと手を伸ばした時、カカシの手が制した。

マダラはカカシと目を合わせる。

 

「カカシ?」

「タジマさん、まだ途中です」

 

カカシの目は至って真面目だ。

 

「…………イズナ」

「!」

「お前は、その……読みたいのか」

「よ、読んでも良いなら」

 

今いい所で止まっているのである。読めるのならばこのまま全て読み切ってしまいたい。そんなイズナの返答にマダラは手を引っ込めた。

イズナはしおりを挟んでいる小説を抱えるとボソリと呟く。

 

「……こういうの好きなんだ」

 

マダラの頬がピリピリとヒクついたのであった。

 

 

 

カカシに現状を一通り伝えると納得はしたようで、また明日様子を見に来ると言いこの日は家に帰って行った。サスケの鋭い言葉を背中に受けながら。

 

「イチャパラの話がしたいだけだろ」

 

どんなにイチャパラが好きであってもカカシとて里の上忍、公私は分けているはずだ。マダラがカカシに正体を明かした時については目を瞑るとして。そもそもカカシの仕事はナルト達の上忍師であり、マダラをどうこうするための忍ではない。監視役は監視役でいる。あの時、イチャパラが優先されたことにはマダラは拍子抜けしたが、マダラの名は最早カカシやナルト達の世代にとってはただの過去の記録の一部にすぎないのだろう。

 

カカシが去った後、各々は自由に行動をし始めた。イズナは読書を再開し、ナルトとサスケは寝室側で今後受けるだろう任務と第七班について話し合いを始めている。

二人ともイズナがいる環境にはすっかり慣れてしまっているようだ。

ナルト達がおしゃべりに夢中なのを良いことに、イズナは目線を本のページから上げるとマダラを見た。

 

「なんだ、イズナ」

「……いいや。この本もう何周したのかななんて」

「黙って読め」

 

マダラは積まれたイチャパラシリーズの本の上に手を付くと、眉間にシワを寄せそう言った。

 

 

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