「おっちゃーん! 行ってくるってばよー!」
「おい、そんな荷物持ってどうす……行ったか」
バタバタと大荷物を抱えて登校しに行ったナルトをマダラは見送る。
朝起きてからニヤついていたナルトの顔に何か企んでいると見たが、てきぱきと身支度を済ませ、急いで家を出たナルトの足を止めることは叶わなかった。
アカデミーの卒業試験は明日。
試験を前に張り切っているのだろうと、マダラはそう思うことにしたのだった。
窓の外を眺め、雲の少ない空にマダラは眩しさに目を細める。
気温もほどほどに高く、今日は洗濯日和である。
ふと思い立って、箪笥の奥に厳重に仕舞い込んでいたうちは一族の装束を取り出しばさりと広げた。
この未来の里に来た時に着ていたが、背中の家紋を人に見られると厄介だと、以来一度も袖を通すことがなくなった一族の装束である。
目を凝らしよく見ると、数カ所に小さな穴が空いていた。
「……やられたな」
防虫剤は仕込んでいたものの、穴の空いた着物にマダラは胸の内で軽く舌打ちをしたのだった。
洗った服を干し終えると、マダラは外に出た。
広い通りに出て、なんとなく周りがざわついているなと思い皆が見ている方角である火影岩の方を見上げてみると、息が止まった。
柱間の顔に何か増えている。
鼻から何か垂れてるし、隣も酷い。
いや、よく見れば全ての火影岩に落書きがされている。
思わず写輪眼になりかけたが、誰にもバレていないだろう。
(あぶねぇ……あれはナルトか?)
マダラは火影岩にぶら下がった金髪の子どもの姿を認めると、すぐに誰かわかった。
ナルトが出て行く時にやけに大荷物だと思ったが、落書きのための塗料を持って行っていた様だ。
明日に卒業試験が控えているというのに、呑気なものである。
マダラは火影岩に向かって歩き出した。
ナルトを捕まえるためであり、決して落書きをよく見たいからという理由ではない。
少しばかり早歩きで向かってみれば、火影岩の下には多くの人が集まっており、顔岩に落書きをされたヒルゼンもそこにいた。
一人のベストを着た顔に傷のある忍が火影の前に出ると、大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「授業中だぞ、バカモノーーーー!! 早く降りてこい!!」
「うっわ! イルカ先生だ!!」
ナルトの慌てる声は下にいるマダラにまで聞こえた。
ナルトの言葉が正しければ、彼が担任のうみのイルカなのだろう。
彼はやれやれと頭が痛そうな顔をすると、ぶら下がった状態で慌てふためくナルトを回収に向かったのだった。
その間ヒルゼンが周りの里の人間を辺りから散らすと、イルカに縛られ抱えられた状態でナルトが降りてきた。
「お前な〜〜〜、こんなことしてる場合じゃないだろうが!」
「うー……、てあれ? おっちゃん!?」
「おっちゃん? あなたは……っ」
マダラがいることに気付いたナルトが、首だけを動かしマダラを見上げる。
イルカもナルトが見ている方に視線を動かせば、マダラの深い色をした瞳と目が合った。なぜかわからないが、ぞくりと背中を撫でられる様な冷たい感覚に、イルカはすぐに目を逸らそうとした。
だが先にマダラがナルトに目線を移すと、ため息をついてこう言った。
「やるなら扉間だけにしておけ」
「二代目のおっちゃん? えー、それだけじゃつまんないってばよ」
イルカは目線が逸らされたことに体から緊張が解けていくのを感じると、深めに息を吸い込み気を取り直した。
さっさとアカデミーに戻らなければ。
イルカは脇に抱えたナルトを見下ろし、そもそも授業に出ず落書きをするなと叱り、ヒルゼンとマダラに頭を下げるとアカデミーに戻って行った。
その様子をマダラはヒルゼンと暫く眺めていた。
マダラとヒルゼンの間を、優しげな風が通っていく。
「まったく、ワシの顔にまで描きおって」
「……悪く、ない、と、思うぞ」
「むぅ? 笑っておるのかの!?」
マダラは改めて顔岩を眺めるが、見れば見るほど面白く見えてきた。
四つある顔岩のうち三つは知っている人物である。
それが余計に笑いを誘うのだ。
「やれやれじゃ。ナルトが落とすまで暫くこのままじゃの……これ、いつまで笑っておる」
「別に、このままでも、いいんじゃないか」
笑うのを堪えきれていないマダラにヒルゼンはこれまた大きなため息をつくと、仕事に戻って行ったのだった。
落書きの施された火影岩の下にマダラが一人残る。
長めの息を吐き呼吸を落ち着かせると、マダラは先程まで笑っていたのが嘘かの様に冷静な目で火影岩を見上げた。
その目は柱間の隣、頬に糞の絵も描かれてしまった扉間の顔岩を捉えている。
この里に来てから知ったことの一つ、柱間が里の未来を託し、火影の座を譲ったのは弟の扉間だったという事実。
柱間には、一番の信頼をおいて託せる弟がいた。
マダラにはいない。
たった一人残った弟すら守れなかった。
どんなに時が過ぎようとも、いくら戦乱の世であったと言われようとも、扉間を心の底では許しはしないだろうとマダラは思う。
遅れて顔岩の落書きに気付いたのだろうか、また辺りが騒がしくなり始めた。
人が集まってくる前に、マダラは晩飯の献立をどうするか考えながらその場を立ち去ったのだった。