欠けたパーツが見つかった後も動かないカラスキにマダラが一人こっそりとチャクラを溜め続けること数日、亀の目が開いた。
カラスキの声にゾロゾロと居間に集まったナルト達は、何事だと集まりマダラの手元にあるからくりを覗き込んだ。
「おっちゃん、さっきの声って。ソイツもしかして直った?」
「ああ」
「ホント⁉︎」
『どうも、私は時間移動装置のカラスキと申します。先日はいきなりのシャットダウンありがとうございました』
「わ、悪かったてばよ」
亀が手足を揺らしながら喋る。
『さて、ある時代にお二人をお連れしようとしていた最中でしたが』
「おい、カラスキとやら」
『はい、何でしょうか』
「時空間の歪みが発生している場所がある。そこで過去から来た奴がいる。単刀直入に聞く……どうすれば元の時代へ帰せる」
『時空間の歪み、ですか。私は元々この時代へ立ち寄る予定はありませんでした。何かの引力に引きずられこちらへとやって参りましたが……なるほど。私の機能で時間を遡ることは可能です。そして恐らく、私の機能を使い時を渡れば反動である程度歪みも直せるでしょう』
「本当だな?」
『ええ。私は時間移動装置、時空間の移動につきましては詳しいですから』
カラスキの話にマダラ以外の皆が聞き入る。中でもイズナが時間移動装置という言葉に反応する。
「こんな亀が、時間を……?」
『ええ、こんな亀ですが。ですが時を遡るにはまだ足りませんね。あなた様の時代までは戻れないでしょう。そこのあなた様もまた随分と遠くからいらしているようで』
「足りないか……」
カラスキがマダラの方を向いた時、ナルトもマダラの方を見上げた。カラスキにはマダラもイズナもこの時代の人間ではないことがわかっているらしい。サスケが気付かなかったのは幸いか。
(足りないって何が……それが準備できちまえば、おっちゃんも元のとこに帰れるってことなんだよな…… やっぱ、おっちゃん帰んのかな)
ナルトは徐々に顔から表情が抜け落ちていくのを感じた。イズナもマダラも帰れるとは、めでたいことではないか。あるべきところに戻るべきだ。だがナルトが知る限り、この二人がこれからどんな未来を歩むのか想像に難くない。
(戻るなら二人ともここでのこと忘れなきゃなんねぇ。 おっちゃんは兄ちゃんの記憶は消すって言ってるし。おっちゃんも俺といたことなんて忘れて……そしたら、おっちゃん前にアカデミーの教科書に載ってたみたいに里から出てって……)
視線に気付いたマダラがカラスキから目を離しナルトを見下ろす。目があったナルトはぎくりと反応すると、目を逸らした。
「そ、その足りないモン集めればいいんだよな! それって何が必要なんだ?」
『チャクラです。遠い時代を行き来するにはそれ相応の量が必要になります』
「どのくらい必要なんだってばよ?」
『そうですね、あなた様からも少し拝借できれば』
「え、俺から?」
ナルトは両手でわさわさと自身の胴体を弄った。チャクラが必要とはいえ、この亀にどう渡せばいいのかと。
『こちらで後程拝借しますのでご心配なさらず』
「それはそれで心配だってばよ!」
マダラの手元で手を上げたり下げたりしながらカラスキはナルトに話す。ナルトのチャクラがあれば起動させることは出来そうなのは朗報だが、機能を使うのは時空の歪みが発生している例の場所の方がいいだろう。今すぐに向かってもいいが歪みの起こっている場所のこと、ひょんなことでまた違う時代に行ってしまっては厄介である。何度も訪れたい場所ではないため、未来から来ているうずまきボルトらと合流すべきだ。
マダラは時計をちらりと見遣る。サスケもそれに続いて今の時間を見るとマダラを見上げる。
「おっさん、今日カカシと出掛けるんじゃないのか?」
「ああ、そうだったな。とりあえず俺とイズナは出る。ナルト、サスケ。里の中でボルトとか言うやつとその連れを見付けたらこう伝えろ」
今夜演習場に来い、とな。
「はーい、おっちゃん」
「わかった、おっさん」
「「映画楽しんでこいよ」」
ナルトとサスケのニヤケ顔がマダラを両脇から挟み込んだ。
マダラとイズナは里の映画館の前でカカシを待っていた。
二人の手には事前にカカシから受け取っていた前売り券が握られている。
マダラは映画館に面する通りの奥を見据えながら少し苛立ったように愚痴をこぼした。
「カカシはまだ来ないのか。まだ映画まで十五分はあるとはいえ……アイツの遅刻癖はなおらんなまったく」
「遅刻常習犯? あの人ってナルト達の先生なんだっけ? 大丈夫なの? 任務できてる?」
「ああ、アイツらも慣れてるからな……とはいえ責めるにも責められなくてだな……」
「何で遅刻してるか知ってる感じだね、兄さん」
「……墓参りだ。退院した後、また行ってるんだろう。やめとけとは言ったんだが」
「墓参り? 誰の」
「アイツの親友のだ。ずっとそうしてるらしい。長々と近況を報告してるんだと」
「へぇ……だとしても間に合うように家を出れば良いのでは?」
「話し込んでんだろうよ。一方的に語りかけてるだけだがな」
話し相手は慰霊碑である。
それでカカシの気が済むのなら好きなだけ話しかければ良いだろう。マダラが聞いている範囲でもカカシの過去は壮絶なものだった。
「……だがまあ、待たされるのは勘弁だがな」
「それもそうだ。あれ? 兄さん、あれカカシじゃない?」
「やっと来たか。……アイツにしては早い方か」
下手すれば何時間も待たされかねない。ナルト達もよくカカシの到着時間に合わせ大幅に家を出る時間を遅らせている。マダラ達もカカシが遅れてくることを想定し遅めに家を出たのだが、それでもカカシが現れるまで時間はかかった。
「やあ、どうも。すみませんタジマさん。道に迷いまして」
「里に何年住んでるんだ。お前に迷う道がこの里にあるとでも。カカシ、お前が迷っているのは人生だろうが、道じゃない」
「にい、じゃなかったタジマ。言い過ぎ言い過ぎ。遅刻はムカつくけど」
「あ、イズナさん? あなた方二人の関係は知ってるから無理に隠さなくても良いヨ」
「え、兄さん話したの」
「話してはいないが気付いてはいたな」
「えーそんな……」
「さ、タジマさん。チケットはありますね?」
「ああ。イズナも持ってるな?」
「え、ああ、うん……ちょっと二人とも顔がマジなんだけど」
「俺とタジマさんはな、一緒にイチャパラを追い求める同志なんだ」
「追い求めてるのはお前だけだカカシ」
マダラが眉間にシワを寄せながら抗議する。
なんやかんやで三人窓口にチケットを引き換えに行くと、映画の時間も迫っていることから劇場内へと進んだ。
公開されて間もないことから来場者特典というものが配られており、原作小説の表紙デザインを使ったしおりをそれぞれ受け取った。
指定席のため、混み合っていた真ん中よりも空いている右寄りに三列席を選んだ。
「タジマさんと俺で挟む形で。一応アレですからね」
「ああ、お前は監視対象だからな」
「監視監視って言うけど、その監視ってちゃんと機能してる?」
頷くマダラとカカシ。マダラのことはともかくいまいちカカシの実力を知らないイズナは、里の上忍というものはこんな奴ばかりなのかと不安に思うのであった。
「本当かな……」
大人しくイズナはカカシとマダラの間に座る。
今更抵抗する気も全くないため、映画に集中することに決めた。
劇場内は上映直前には前方席を除き大体の席が埋まっていた。
劇場内の照明が落とされる。
物語の開幕だーー。
鑑賞後、映画館から出て来た後のカカシの顔は幸せを噛み締めるような表情であった。
「観に来れてよかった……こんなに早く来れると思わなかったから。今日観に来られて良かった……」
「良かったなカカシ。案外悪くなかった」
「兄さん途中鼻啜ってたよね」
「空調が利いてただけだ。鼻を啜ってたのはお前だ」
「いやいや兄さんもだって」
観た結果、想像していたよりも傑作であった。
内容を知っている作品であるが故にそこまで見入らないだろうとマダラとイズナは思っていたのだが、いい意味で期待を裏切られた。これは次回作もあるだろう。
「タジマさん」
「?」
「また観に行きましょうね」
「また行くのか」
「行きましょうね。ね?」
「あ、ああ」
「押しに負けちゃダメだ、兄さん」
マダラ達が映画館の前を去った後、ゆっくりと館外に現れた男が一人。ぐるぐると渦を巻いた面を付けた男は、とぼとぼと向かいの建物の隙間に隠れると壁に寄りかかった。
(例の男を探り来たはずが……。カカシとよくいるらしいからと、カカシの後をつけていたらそのまま映画を見てしまった。窓口の老女め……アイツさえ急かして来なければ)
開演前、シアター内に向かって行ったカカシたちにどうするかとロビーで突っ立っていたところ、そこがチケットカウンターの前だったようでスタッフに買わないならどけと言われたのだ。
気付けば男の後ろには列が出来ていた。
男には目的がありカカシの後をつけていたのだが、買わねば奥へは進めない。急かされていたということもあり、大人一人分のチケットを購入したのだった。
男は懐にしまっていた入場特典を手に取り眺める。『イチャイチャパラダイス』と書かれたしおりは、形を歪めるとその手元から消えた。
男であるが、イタチがマダラに伝えていた仮面の男であったーー。