おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第54話

 

「……俺らのうちの誰が狙いなのかわからないけど、尾けてる奴の事はどうするのさ」

 

イズナが腕を組みながらそんな事を呟く。

三人は里の中を流れる川沿いにいた。以前マダラが相談もなくカカシの鳩尾を犠牲にし、イタチを欺いたあの川だ。

川沿いに立てられた手すりにマダラは軽く寄りかかりながら、茂みの方に意識を向ける。

 

(隠れるのがうまい……が、妙な気配も感じる。例の奴か? イタチの忠告から日も経たずに現れるとは、一体何の用があってこちらを尾けている? )

 

三人ともいまだに後を尾けている気配の存在に手をこまねいていた。

このまま解散すればマダラとカカシのどちらを尾けていたのかが判明するが、仮にカカシだった時に病み上がりの人間を一人にさせておくのもいかがなものだろう。

周囲にマダラ達以外の人影はあらず、三人は怪しまれない程度に声を控えめにし話し合う。

 

「まだいますね。劇場からってことは、まさか俺たちと一緒に映画を……⁉︎」

「だろうな、その時から奴の気配はあった」

「映画の時からいたのなら、尚更カカシの知り合いだったりしない?」

「それなら隠れてないで、声を掛けてくれたらいいと思わない?」

 

向こうは尾行している事が既に気付かれているのを知っているだろうか。里内の忍なのか、それともよその忍か。

 

(もしもイタチの話にあった男なら、俺の名を語り何か企んでいるような奴だ。狙いがカカシでなければ俺ということになるが、俺はその者を知らん。俺が対象であれば向こうは俺を知っているということになるが……おかしな話だとは思わないか。まさか……団子屋の客の誰かか?)

 

「兄さん」

 

マダラが考え込んでいるとイズナに呼び止められた。

 

「……なんだ」

「その顔、何か心当たりがあるんじゃない?」

「タジマさん?」

「……いや」

「嘘だ。いつもの口籠る時の顔だ」

「なっ」

「タジマさん、何か知っているんですか」

「さあ兄さん、何を知っているんだ」

「……」

 

イズナに詰められマダラは返答に窮した。

イタチと連絡を取ったことはカカシどころかヒルゼンにすら話していない。ヒルゼンに関しては監視役を通して知られているだろうが、内容までは知らないはずだ。問題があればすぐに呼び出されるだろうが、ヒルゼン自体はイタチの帰郷については歓迎している様子、小言の一つもないということは連絡を取り合う程度ならば咎める気もないのだろう。

 

(だが、イタチの件を話すわけにもだな……)

 

どう話せというのか。

里の外に『うちはマダラ』の名を語る人間がいると、それを話してどうなる。なぜマダラの名を語る必要があるのか。この時代に『うちはマダラ』が生きているなどありえない。残った文献や柱間の話が正しければ里襲撃時に死んでいるはずだ。仮に生きていたとして、この時代まで生存しているはずがない。かなりの年齢だ。加齢により、暗躍どころではあるまい。

 

(……穢土転生、でもないはずだ。四年も里にいる俺の存在を黙って見過ごすはずがない)

 

以前大蛇丸が使った穢土転生の術で柱間や扉間が甦りはしたが、果たして自分だとしてマダラはイタチに接触を図るだろうかと考える。イタチとは数回話した程度だが、歳に見合わず大層頭の回る人間であることは短い時間でも十分に伝わった。簡単に手駒にはなるまい。

 

(両親を手にかけるだけではイタチは壊れなかった。サスケを残したのはイタチの望みでもあったが……生ぬるい。それではイタチは上手く扱えんだろうて)

 

イタチには守らなければならない者が残った。サスケはイタチにとっての希望だ。かつてマダラにも弟が生きていた頃のように、どんな状況に陥ろうとも生きて戦う理由の一つとなっていた。イタチを利用したければいう事を聞かせられる状態にするべきだ。それには選択の余地など与えぬ事だ。追い込んでしまえばいい。

黙ったままのマダラを、イズナが不満気混じりの表情で見据える。

 

「……」

「兄さん?」

 

イズナとカカシの視線が痛い程刺さる。

何か答える必要があるだろう。だがカカシとイズナに伝えたとして、不確かな情報を与えても混乱を生むだけだ。特に兄の名を語る者がいると知れば、イズナは黙っていられないに違いない。今マダラ達を尾けている人物がそうだとは確定していないが、偽物がいると知れば兄の不名誉にイズナは怒り正体を明らかにしようと動くことは想像できた。

 

「兄さん?」

「……いや、俺もよくは知らん」

「本当に?」

「ああ」

「……この人は昔から一人でこそこそやりがちだからな。本当にない?」

 

イズナが腕を組みもう一度マダラに尋ねた。

かつて柱間と会っていた時のことや、戦時中の千手側から書状が届いた際に勝手に処理していた時のことを言っているのだろう。マダラも否定できず口を固く閉じて黙り込んだ。

 

「兄さーん?」

「タジマさん、改めて確認しますが最近ストーカー被害とかに心当たりは?」

「それはない」

「そうですか。劇場からというのが気になりますね」

「兄さんが気付いたのは俺たちが合流してから……なら、カカシが尾けられてるんじゃないのか? やっぱり知り合いなんじゃ」

「俺をストーカーする知り合いなんているかなぁ」

 

カカシが困ったようにイズナと顔を見合わせる。

風も少ない今日は、川の水が穏やかに流れていた。遠くではカモが泳ぎ、マダラ達の状況とは反対に川面の穏やかさを強調する。

 

「試しに二手に分かれてみますか? 怪しいことには怪しいですし、二手に分かれて片方を追いかけて行ったのを挟み撃ちすれば……ん?」

「? 声が聞こえるな……」

 

カカシは話している途中で聞き馴染みのある声が聞こえ言葉を切った。

声が聞こえた先からは慌てた様子でサクラとサスケが駆けてくるのが見えた。

 

「……ルトォー! ナルトー! どこ行ったのかしら」

「あのウスラトンカチ! どこに行きやがった」

 

「……サクラとサスケか。おーい、お前らどうしたんだー?」

 

「カカシ先生⁉︎ タジマさん達もいる!」

 

カカシの呼びかけに気付いたサクラとサスケが駆け寄る。

二人ともナルトを探しているようだ。

 

「お前らナルトと三人でいなかった? さっき一楽で見かけたけど」

「カカシ先生見てたんですか⁉︎ 声掛けてくれれば良かったのに……。えっと、ナルトが人を追いかけて行って。私達も慌てて追いかけたんですけど、いつのまにか見失ってて」

「ナルトは誰を追いかけて行ったの?」

「大人の男の人と、金髪の男の子を」

「……」

「……タジマさん、もしかして定食屋にいた方達では」

「かもしれんな……サクラ、サスケ、見失ったのはいつ頃だ」

「かれこれ三十分は前……かもです」

 

すぐに追いつくと思ったサクラ達だが、ナルトが曲がった角に入った途端姿が無かったそうだ。

 

(……アイツらが定食屋を出た後のことか。ボルトもあのサスケも、ナルトに用があるとは思えん。元々この時代に立ち寄る用は無かったそうだ。ならどうしていなくなったかだが……)

 

マダラは微かに首を傾げながら考える。そもそも追いかけて行ったボルトと連れのサスケにナルトは追いついたのか。サクラの話によれば長くてもほんの数分の出来事ではないか。その間に里内から姿を消すとは考えられにくい。あの二人がナルトを連れ去るかと言われると、二人の正体からして想像し難い。彼らの目的はただ未来に戻る事だ。

 

(ナルトのチャクラであの亀を動かそうとしている……? いや、仮にもアイツもサスケだ、あの様子ならナルトと不仲ではないはず。友の倅の前でその父親を攫うなど無作法な真似はすまい)

 

「もうナルトォ……どこ行っちゃったのかしら……」

「おい、おっさん達。あんたらも暇なら手伝ってくれよ」

 

サスケのお願いに、マダラ達は互いに見合わせる。

探す手伝いはしたいが、今は何者かに尾行されている状況。あの三人を巻き込まないよう一楽の前では声を掛けず移動したが、このまま捜索の手伝いをすれば彼らも謎の人物の件に巻き込まれてしまう。だが悩んでいるマダラが何か答える前に、カカシの口が開いた。

 

「わかったサスケ、サクラ。俺も手伝うよ。タジマさんはイズナさんといてください。俺はこの子達と探しに行きます」

「カカシ、いいのか」

「ええ。俺はこの子達の先生ですからね」

 

カカシの言葉にサクラがホッとした表情を見せる。

カカシが一歩サスケ達の方に近付く。

 

「いなくなったというのが気になるな。サスケ、最後に見た場所を詳しく聞いていいか」

「ああ。古書店の前を通った後……」

「……!」

(兄さん?)

 

カカシがサクラとサスケのそばに歩み寄った時、マダラが急に川の向こうを振り返った。

マダラの肌にチャクラの乱れたような感覚が痺れとして伝わる。

マダラは川の向こう岸よりも遠くを見据えながら目を細めた。

 

(! これは……ナルトに仕掛けていた術が解かれただと? そこは俺と監視の奴しか知らないはずの箇所だ。しかしまた随分と強引な……誰かは知らんが、そこに手をかけたとなれば狙いは……九尾か)

 

マダラはナルトにしれっと術を仕込んでいた。別によからぬ事を企んでいた訳ではない。会ったばかりの頃にナルトが体調を崩した時、たまたまナルトにかけられていた封印術の綻びを見つけその補強を施しただけだった。居場所を与える代わりに面倒を見ろと言われた子どもの不調だ、目の前で死なれては困る。ヒルゼンには直接報告はしていないが基本水晶玉で監視されており、どうせこれも知っているだろう。

そしてその後も波の国の任務でナルトから九尾のチャクラが漏れ出たこともあり、追加で術を仕込んでいた。

おかげで近頃はチャクラが乱れるようなことは起こっていないはずだ。

 

(浅い方が破られたか……だが残りは俺以外には解けまい。破られはしたが、おかげでナルトのいる位置が大体わかった。アイツは俺が仕掛けたと知れば、また何か言いそうだが……感謝して欲しいものだな)

 

決して手駒にしようだとかその力を利用しようだとかではなく、体への負担を考えての事だ。基本術者以外には解けぬようにしてはあるが、マダラもそこまでがんじがらめにはせず、ナルト自身が上手い加減でチャクラを引き出せるようになれば勝手に術の抜け道は開く仕様だ。

良い方の意味で捉えれば、元の封印術に加え更にナルトから九尾は引き出しにくい状態になっていると考えて良い。

 

「……俺も行こう。イズナ、お前はアパートに戻っていろ」

「え、いきなりどうしたのさ」

「タジマさん、どうかしました? 何かあったんですか?」

 

ただならぬマダラの様子にカカシが振り返り尋ねる。

マダラは遠くを見据えながら、低く声を落とすと答えた。

 

「……ナルトにかけていた術が破られた。それも強引にな」

「術を⁉︎ タジマさん、いつそんな事を」

「波の国の後だ。あの時の状態はお前も見ていただろう。ナルトにはまだ早い。アレを使う前に先にやるべきことがあると思ったまでだ」

「タ、タジマさん、ナルトはあっちの方にいるんですか!」

 

サクラがマダラの真横に駆け寄る。

強引に術が破られたおかげで、衝撃で溢れたチャクラの波動が感じ取れ、ナルトがいる方角はほぼ間違いなく絞れていた。

 

「ああ。サクラ、サスケ。お前ら二人はイズナをアパートに連れて行け。いつもの俺のそばにいる奴も付いてる。そのままアパートで見張っていろ」

「で、でも!」

「おいおっさん! 普通なら解けねぇ術解かれてんだろ! アイツの身に何かあったんじゃねぇのかよ、俺たちも「サスケ」」

 

マダラは悟られない程度に茂みの方に一瞬だけ意識を向けた。まだ例の人の気配はある。この場にサスケとサクラが合流してしまった以上、二人を人質に取る可能性もある。

ナルトの状況もわからない今、厄介なものは少しでも減らしたい。

 

「おっさん、このイズナって奴を野放しにしていいのかよ」

「だからサスケ、お前とサクラでアパートに連れて行けと言っただろ」

「俺たちが見張れってことかよ」

「タジマさん……わかりました。ナルトのことお願いします!」

「サクラ⁉︎」

「サスケくん、タジマさんと先生に任せよう? イズナさんの件は、私たちの任務でもあるもの」

「……ああ、そうだな。サクラ」

 

マダラがナルトの捜索に向かっても、仮に尾行している者が標的をサスケとサクラに変えたとしても、いざという時イズナがいれば対処もできるだろう。イズナに九尾のことについて知られるのもあまり良くない。過去に返す際にここでの記憶は消すことになっているが、今のように不測の事態というのは起こりうる。あの頃の戦に尾獣の存在は必要ない。

 

「イズナさん、行きましょう」

「おい、行くぞ」

「そうだね。行こうか」

 

去り際、イズナとマダラの視線が交わる。マダラの意図が伝わっているのか、イズナは小さく頷くと先に走り出したサスケの後について行った。

 

「さて、タジマさん。聞きたいことはありますが……俺たちも行きましょうか」

「ああ、遅れるなよ」

 

マダラとカカシは川面に降り立ち、真っ直ぐにナルトのいる先へと駆け出した。

 

 

 

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