おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第59話

 

「……全く手応えもありませんね」

 

男の神経を逆撫でするような言葉が響く。

イズナと男は向かい合い、互いに動き出すのを待っていた。

 

(コイツッ! どこから仕掛けても端からわかってるみたいに……人の思考が読めるわけでもないだろうし……まさか? ばーかばーか白い発光体! ……だよなぁ、俺の考えを読んでるわけじゃないか)

 

男のイズナとナルトがどう動くのかまるでわかっているような様子に、思考を読まれているのではと勘ぐったイズナは悪口を思い浮かべてみるが表情に変化はない。

イズナはナルトを庇いながら男に向かって何度か攻撃を仕掛けたが、どれもひょいひょいとかわされてしまっていた。圧倒的な強者に弄ばれているかのような感覚だ。

 

(奴の目は見間違えじゃなければ最初は白眼だった。あのへんな模様の目……見たことないけど、その瞳の時はフェイントかけても無駄だ)

 

男が何者であるのかはどうでもいい。マダラたちが到着するまで、できる限り集められる情報は集める、それだけだ。

側で歯痒い表情を浮かべるナルトにイズナは静かに語りかけた。

 

「……まだ動ける? アイツにこれを」

「ん? これって……」

 

イズナはナルトの方に少し腕を伸ばすと、男に見えぬよう服の袖からチラリと一枚の細長い紙をナルトに見せた。

カラオケ店の割引クーポンである。映画館でチケットを引き換えた際に貰った物であった。

ナルトはイズナからクーポン券を受け取る。

 

「試したいことがある。俺が適当に動くから、アイツの背中らへんに隙を見て貼り付けて」

「……お、おう」

 

うまく行くだろうか。

ナルトは深く頷くとクーポン券を男から見えないようにしまった。

 

(さてと……どうにか隙を作らなきゃな)

 

未だ相手の瞳の術がなんなのか読めぬ段階ではあるがイズナも瞳術使いだ、遅れをとるつもりはない。

 

(速さ勝負なら負ける気はない……)

 

目眩しに硝煙でも使いたいと思っても道具はなく、火遁で煙を上手く作り出すしかないがナルト達もいるため規模が大きすぎてかえってこちら側が動けなくなれば不利になるだろう。イズナだけが対処できても意味がない。ナルトや隠れているサスケたちが視界の悪い中でどこまで動けるのかわからない。

 

(なるべくアイツを俺に集中させないと)

 

イズナは駆け出し男の後ろに回りながら印を素早く結ぶ。

当てることは考えない。

印の始まりは巳ーー。

 

(ーー豪火球の術なら……!)

 

あくまで男の意識をナルトからそらすためだけに。

イズナは大きな火の塊を男に向かって吐き出そうとしながら、ナルトがしっかりと移動していることを視界の端で確認する。うまく行けば良い。そう祈りながら、チャクラを込めると勢いよく息を吐いた。眩しい赤い光と、ジリジリと肌を焼く炎が前方へと舞う。

 

「こんな術でワタクシを欺けるとでも……ほぅら、当たりませんでしたよ? ……ククク、アナタもいけませんねぇ。わざわざ捕まりに来るなんて……⁉︎ 偽物か⁉︎」

 

イズナの豪火球の術を避けた男は近くに迫っていたナルトの存在に気付くとその腕を掴み上げ宙に吊るす。再び釣り糸で巻き付けようとした時、にたりと笑った男はすぐにハッとすると、術の解ける音が響くと同時に掴んでいたナルトの腕が消えたことに驚愕の声を上げた。

 

「なるほど……影分身でしたか」

「やーい!俺はこっちだっつーの!」

「ナイスだ、ナルト!」

 

イズナの数歩離れた先にナルトはいた。

どうだと言わんばかりの表情に、男は顔に若干の苛立ちを滲ませる。

したり顔のナルトにイズナは小声で尋ねた。

 

「……いけた?」

 

イズナが尋ねた瞬間、ナルトはすとんと表情を暗くする。

 

「……んいや。実はもうあって……俺はまだ貼ってねぇのに」

「貼ってある……? 俺も貼ってないけど」

「じゃあ……元々背中にくっつけてた……?」

「そんなマヌケな……」

 

イズナは思考を巡らす。

ナルトに託したクーポン券はすでに男の背中に貼ってあったそうだ。イズナはどこに貼ってあるのかは視認していない。つまり男が気づいていないうちに、何者かによってクーポン券が貼り付けられているのだ。

 

(自分から付けたりはしないだろうし。ならどうして付いてるかだけど……)

 

イズナ達以外にクーポン券をあの男に貼り付けようなど考える人間はいるだろうか。

 

(とりあえず気づいてはいない。人の行動がなんでもわかるように見えても、予測できないことはあるみたいだ)

 

人の思考を読んでいないことはわかった。隙を見て隠れているサスケやサクラたちを逃すことも難しくないだろう。

イズナは男に向かうフリをし、道端の石を拾い上げた。鋭利で投げやすい形状の石をクナイのように持ち変えると素早く男に向かって投げる。

 

「石を投げるなんて……無駄だというのが理解できませんか」

 

男はいとも簡単に石を避けると、呆れたようにため息を吐く。

飛んで行った石の方に視線をずらした男の隙を見計らい、すかさずイズナは幻術を掛けようとするが簡単に幻術返しを喰らってしまう。

 

「……ッダメか!」

「アナタの写輪眼如きの幻術なんてかかるとお思いですか? ……もう遊びは終わりです。これで最後にしましょうか。時間の無駄ですから」

「……兄ちゃん! ……ッ! 多重影分身の術!」

 

ナルトの周囲に影分身が十体程現れる。現れたナルト達は一斉に男に向かって走り出すが、男が軽く腕を振り釣り竿で払い除けただけで影分身は次々と解かれていく。

 

「クッソ……何にも効かねぇ……!」

 

残った数体のナルトが苦虫を潰したような表情を浮かべる。

一歩、また一歩と男がナルトに近づいていく。

 

「もう満足しました?」

「まだまだァ!」

 

ナルトは再び印を結ぶとまた何体もの影分身を作り出す。

男はナルトの方に集中している。今が好機だと、イズナは静かに男の背後に回り複数体のナルト達と共に男を取り囲んだ。イズナは短くそして素早く印を結び、男の背後から火遁で焼き払おうと迫った。

 

(……これで!)

「……ざぁんねんでした。本体はこちらですねぇ?」

 

男が正面に迫ったナルトの影分身を薙ぎ払うと、イズナの側に一人のナルトが残った。本体だ。

男はぐるりとイズナと唯一残ったナルトの方を振り向くと、鋭い釣り針で身体を引き裂こうと力強く竿を振り切った。

ヒュンと空気を切る音が響く。

大きな弧を描き、釣り糸がイズナとナルトの前に迫る。

イズナは糸の動きを見切ると、急いで斜め横にいたナルトのことを突き飛ばした。

写輪眼で糸の動きは読めていたが自分一人だけならばともかく、ナルトを庇うという余分な動作が入ったせいで避けきれないことを悟る。

地面に転がり糸の軌道から外れようとするが、離れるよりも前に右脇下に痛みを感じた。

ナルトと共に地面に転がる。

 

「ッ!」

「うわッ……イテテ……って、イズナ兄ちゃん⁉︎ まさか怪我して」

「かすり傷だよ、これくらい」

「け、けど」

「……なァんだ、避けてしまわれましたか……」

「お前の思い通りに行かなくて悪いね……ッ、つ……」

 

イズナは痛みが走った箇所に手を当てた。

ジワリと手の平に湿った感覚が伝わる。着ている服が暗い色なのもありパッと外見では出血量はわからないが、手で押さえた感じから浅くはない。致命傷にはならないだろうが、ここで傷を負ったのは戦況的に痛手だ。

 

「か、かすり傷って……そんなふうにはみえねぇって! 俺のこと庇ったせいで」

「今は反省してる暇はないよ。そんな、これくらいで死にはしない」

 

体勢を整えようと立ち上がったイズナは引き攣った痛みを感じるが、とはいえ動けないほどではない。

ある程度怪我には慣れている。

ナルトは怪我をしたイズナを心配し不安げな表情で見遣るが、ナルトの心配をよそにイズナは自身の怪我よりも気がかりなことがあった。

 

(……まずいな。俺がアイツの攻撃に当たった時、サクラ達が茂みで動いた気配がした。奴にも気付かれてる)

 

男は不敵な笑みを浮かべながら高く浮遊する。

ヒヤリとした冷たい目が、ナルトとイズナを見下ろした。

試行錯誤して動いていたイズナとナルトとは違い、男は全く全力を出す様子もなく全ての行動に対し常に余裕を持っていた。

現状のイズナ達では男を倒す術はない。

男は思い出したようにああと声を発すると、ゆらりと遠くに視線を移した。

 

「ああ、そういえば……先程から見物しているあなた方も、そろそろ出てきてもらいましょうか」

 

男の渦を巻いたような瞳がぬらりとサクラ達が潜む茂みに向けられる。

男の体がふわりと彼らに近づこうと動いた時、対峙するように人影が現れた。暗い色の服に身を包んだ、片腕の男だ。彼は空中に浮かぶ男に容赦なく刀で切りつけに行った。

不意打ちを狙ってであっただろうが、それでも一太刀浴びせることは叶わなかった。

ざんと土を蹴る音が増え、イズナとナルトの前に金髪の少年が躍り出る。ナルトを捕らえたウラシキを追いかけていたボルトである。

 

「ウラシキィ! テメェの敵は俺たちだってばさ! これ以上この時代の人たちに手ェ出すんじゃねぇ!」

「ウラシキ……アイツの名前、ウラシキなんだ……フゥ、ッアイタタ……」

「はっ⁉︎ イズナさん⁉︎ だっけ。まさかイズナさん怪我してんじゃ⁉︎」

「大したことないよ、気にしないで」

「でも血が」

 

ボルトがイズナの手にべったりと付いた血に気づく。

イズナがなんともないと手を振って誤魔化していると、茂みを掻き分ける音が聞こえ側にサクラとサスケが駆け寄った。二人がいた茂みには、駆け出した二人を止めようと腕を伸ばした監視の男の姿が見えた。

 

「イズナさん! 大丈夫ですか!」

「おい、その怪我! 大丈夫なのかよ!」

「わぁ、出てきちゃったの……大丈、イッツ……」

「痛むってわかってて無理して喋ってんじゃねぇよ」

「ご、ごもっとも……」

 

この調子では肋骨もやっているだろう。

耐えられなくはない。耐えられなくはないのだ。怪我のことなど忘れてしまえ。意識すれば痛みは強くなる。動けるうちは怪我には入らない。

イズナは呼吸を整えると腹に力を入れ真っ直ぐ立った。

ウラシキの相手をしていた男ーー大人のサスケがイズナ達の側に降り立つ。

 

「! 傷を負ったのか。……ボルト、ウラシキをなるべくここから引き離すぞ!」

「! わかったってばさ! 師匠!」

 

サスケに指示されたボルトは白い男ーーウラシキの方に集中する。

ボルトはきつくウラシキを睨みつけると、片方の手の平に拳を打ちつけた。乾いた音が里外れの道に響く。

 

「テメェなんか何度だって俺たちが倒してやるってばさ!」

 

 

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