「……す、すっげぇ連携」
「……」
目の前で繰り出されるナルト達の連携技に、ボルトと大人のサスケは互いに頷き合った。
「こん時の師匠ってこんな感じだったんだ」
「あ、ああ……」
記憶違いでなければこの時期のサスケは里を抜けている頃のはずだ。それがまだ里に残り、こうして三人で力を合わせて戦っているなど想像が出来ようか。何の心境の変化があったというのか、大人のサスケは自身が知る過去との違いに恐れとは違うが冷たいものが肌を撫でるようなそんな感覚を覚えるのだった。
「まだまだァ!」
ナルトが影分身と共にウラシキに飛びついていく。その間にサスケが術の用意をし、サスケが狙われぬようサクラがウラシキの視界にあえて入り視線を誘導する。
三人の中では素早さに欠けるサクラをウラシキが釣り竿で叩こうとするが、実体は掴めず術が解かれる独特の音が響くだけであった。
「女の方は捕まえやすいと思いましたが、これも分身ですか……」
ウラシキは小首を傾げながら宙に浮き、どうナルト達を蹴散らすか考える。チャクラ切れの心配がないナルトは、影分身を潰したところで何度も精巧なものを作り出し飛びかかってくる。
「てっきり影分身だけかと思いましたが、これは本体も混ざっていますねぇ……そんなに死にたいんですかアナタ」
「だァれが! 死にたいわけあるかってんだ!」
地面からナルトがウラシキを指差し答える。
「先程から言っていますが、あなた方の悪あがきに付き合うのも飽きてきたんですが……」
ウラシキの持つ釣り竿が弛む。
鋭い鞭のような攻撃がくるーーそう思いナルト達の気が張り詰めた時、ウラシキの背後に忍び寄る影があった。
「くらえ!」
影分身のナルトの声だ。まだ残りがいたらしい。その手には青白く光るチャクラの光。
「へぇ、甘いーー」
ウラシキは湿った笑みを浮かべると、術を放とうとしていたナルトに容赦なく釣り竿を振りかぶった。術が解ける。だが、攻撃を繰り出そうとしていたナルトを消すことに集中していたウラシキは、更にその背後に忍びよる存在に気づいていなかった。
消えたはずのナルトが、地面に着地する。影分身でウラシキの気を逸らしている間に、本体が接近していたのだ。
「ナルト、無事⁉︎」
「無事かナルト!」
「大丈夫だってばよ!」
ナルトはグッと親指を立てた手をサクラ達に向けた。
ナルトたちの戦いをそばで見守っていたイズナがナルトに目配せする。
(貼れたな。やったねナルトーー、これで……)
イズナと目を合わせたナルトは、無言で頷いた。
ウラシキの服の裾には起爆札が貼り付けられていた。先ほどのクーポン券といい、本気で気付いていないらしい。剥がされる様子はない。
仕掛けるならば爆発した瞬間だ。イズナはサスケから忍具をいくつか借りると袖に忍ばせた。
ナルトがサスケに語りかける。
「……行くぜサスケ。準備できてっか」
「ああ、お前はどうなんだウスラトンカチ」
「あーたりめぇだってばよ!」
ナルトとサスケがウラシキを挟み込むようにして走り出した。サスケの手には大きな手裏剣が、ナルトの両手にはクナイが握られている。
ウラシキはやれやれといった様子でナルト達から武器が放たれるのを待った。
「ーーくらえ!」
ナルトのクナイがウラシキに飛んだ。ウラシキは顔を少し背けるだけで避けた後、背後から風を感じたウラシキはさらに高く上がるとサスケが投げた手裏剣を華麗に避けた。ウラシキが釣り竿を振り翳そうと少しばかり掲げた時、不意に突然腰の辺りで熱を感じたかと思うと、気がつけば強い衝撃が全身を襲い遠くへと投げ飛ばされるような感覚が襲った。
「んーーナッ⁉︎」
爆発により煙る景色の中、地面に強く打ち付けられたウラシキは体を起こすが、目の前に赤い光が素早い動きで迫るのを認識すると急いで立ち上がる。
「! あの目はーーッ!」
「ーー!」
イズナだ。三巴ではない写輪眼が鋭くウラシキを捉えている。クナイを片手に迫るイズナは、的確に急所を狙っている。
届くーーそう感じとったイズナは持ち前の俊敏さで更にウラシキへと肉薄した?
(逃すかーー! ……ッ⁈ またあの目!)
ウラシキの目が渦を巻いた暗い色に変わったのを視認する。だがイズナは止まらずクナイを突き出し狙い続けた。
(ーー何が来る⁉︎)
イズナの目の前からウラシキの姿が消えるが、動きは追えている。イズナが素早くその場から退避すると同時に、先程までいた足元の地面が強く抉れた。だがそれに怯んでいる暇はない。イズナは止まらずクナイを投げると同時に煙る視界の中再び接近した。
「ーーチィッ、速い」
「ーーガラ空きだ!」
煙の中、ウラシキがクナイを避けたのが見えた瞬間、イズナはサスケから貰ったもう一つのクナイを構えると再び容赦なく突っ込んだ。そして起爆札をするりと袖から手のひらに滑らせると、突っ込んできたイズナを身を捻りかわしたウラシキに向かい鋭い速さで放った。放つ寸前に、すぐに爆発するよう起爆札にはチャクラを通していた。
「! 自爆するつもりですか⁉︎」
「いいや!」
イズナの目と鼻の先で起爆札により炎が爆ぜる。苦しげな呻き声が煙の向こうからは聞こえた。
「グ……ゥ……よくも、ここまで、コケにしてくれたな……」
「……」
地面に立つイズナの足元に、数滴の血が滴り落ちる。
(こんなんじゃ死なないか……刀があれば)
イズナは刀の扱いには長けていた。戦場では常に持ち歩いていたといってもいい。だが未来に来てからは一度も持たされておらず、基本的に監視付きの身のため武器というものは何一つ持てなかった。数があるクナイはサスケから借りられたが、まだ伸び盛りのサスケが大人の身の丈に合った刀を持っているわけがない。
得意とする武器があれば良かったのだが。
(油断は禁物……このまま畳みかけるーー!)
残りの起爆札をクナイにくくりつけたイズナは、側に走り寄る気配を感じながら煙の中に突っ込んだ。イズナのすぐ隣に、黒い影が並ぶ。ボルトの連れのサスケだ。サスケとイズナの写輪眼が薄暗い中に光る。
イズナはクナイを、サスケは片腕で握った刀を煙の向こうへと突き立てるようにして進んだ。
強く弾く力が二人の武器に伝わる。ウラシキの釣り竿が振るわれたことによる反動だ。
再び二人に、気味悪く発光する釣り竿が鞭のように振るわれる。胴体を薙ぎ払うように振るわれたそれをサスケは避けるため退避するが、イズナはまっすぐに前を見たまま走り続けた。
「! うちはイズナ⁉︎」
「ーー」
イズナは釣り竿の動きを完全に見切っていた。
煙の晴れた先、その先には忌々しそうに表情を歪めたウラシキが立っている。
止まらずに迫り来たイズナに驚いたように目を見開くと、イズナの攻撃を防ごうと釣り竿で再び払おうとするが間に合わない。
よく研がれた、鋭いクナイの切先がウラシキの顔面に迫る。ほんの僅かな間、ウラシキの視界をイズナの赤い瞳が素早く過ぎ去っていった。その後すぐにウラシキは右目に鋭い痛みと熱を覚え、そして頬に熱いものが滴っていくのがわかった。
「グッ、ワタクシの目が……! このォ!」
「うちはイズナ!」
「ああ……片目だけか」
クナイに付いた血を振り落とすイズナの側に大人のサスケが駆け寄った。サスケの目はイズナの足元に注がれている。イズナの足元には赤い物がハタハタと落ち続けていた。
サスケはイズナの肩を掴んで言った。
「もういい。これ以上は動くな。取り返しがつかなくなる前に下がれ」
「まだ終わってない」
「いいから下がってくれ! ここでお前が死ねば歴史が変わるかも知れないんだ!」
サスケのその言葉に、イズナが訝しそうに視線を寄越した。
「歴史、か。俺がここで死んだらいけない理由は……?」
「これ以上は言えない。お前の兄、マダラのためだ」
「……」
マダラの名前を出された。
何がマダラのためだというのか。長い時間観察したわけではないが、このサスケがマダラのことを深く警戒しているのはイズナもわかっていた。このサスケがマダラを気にかけることはないはず。イズナの死という出来事は、マダラの人生において大いに関わることなのだろう。
「……」
イズナは無言で傷口を抑えた。
べとりと生暖かい物が付くのを感じた。
サスケの言う通りに引くべきだろうか、そう考えた時だ。前方から強いチャクラの反応を感じた。
ゆらりと浮き上がったウラシキが、片目を抑えながら怒りの表情を浮かべイズナ達を見下ろしている。
「ウジ虫共がーー」
ウラシキの持つ釣り竿が怪しく光り、大きくしなる。
狙われているのは……
「! ナルト達は!」
「! あそこだ!」
サスケとイズナは子ども達がいる方を振り返った。ナルトを中心にしながらウラシキからの攻撃に備える彼らが見えるが、イズナが駆けつけようにも釣り竿の鞭の方が先に届いてしまう距離だ。
一撃目は避けられるだろうが、すぐに追撃されれば当たる者も出てしまうかも知れない。
イズナが焦燥する中、隣に立つサスケの隠されていた方の前髪がふわりと浮きその下にあった瞳が晒されると、それを見たイズナは息を呑んだ。
(あの目……アイツと似てーー?)
瞳の色を見た瞬間、大人のサスケがいた場所にはナルトが現れ、子ども達がいた方には大人のサスケがまるで庇うような体勢で入れ替わり立っていた。
「え、ナルト」
「え、イズナ兄ちゃんなんで」
突然のことにきょとんとしたナルトだが、すぐに元いた場所の方を見ると悲痛な声で叫んだ。
「ーーみんなァ‼︎」
強い鞭の攻撃が伸びる。
ナルトと位置が入れ替わったサスケの表情は辛そうだ。
その時、大きな砂埃を上げながら彼らの前に降り立つ人影が見えた。そして鞭の攻撃から守るように暗く淡い光が彼らを覆う。鞭の攻撃はその光に弾かれると、元の釣り竿の形状を取り戻した。
降り立った影は砂埃の中後ろを振り返る。影ーー遅れてやって来たのはマダラであった。
「随分やられたな、ナル……」
「……」
ナルトに話しかけたつもりのマダラは、真後ろにいた大人のサスケと目が合うと開いていた口を閉じた。