おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第63話

 

真夜中の里をナルトとサスケは歩く。

ナルトは両腕を頭の後ろで組み、点在する街灯を眺めながら歩いていた。

 

ウラシキとの戦いの後、負傷したイズナをマダラ達が病院へと担ぎ込んだ。共について行ったナルト達だが、カカシにウラシキについて聞かれると報告し、すぐに強制的に解散させられた。

サクラを送った後はナルトとサスケはしばらくアパートで大人しくしていたが、イズナの怪我の具合や付き添っているであろうマダラのことが気に掛かり、日が落ちだいぶ経っても眠る気になれず外に出たのだった。

 

耳をすませば夜の鳥の声が聞こえる。

アカデミーの前を過ぎ、見慣れた通りを歩く。

夜中ということもあり二人は静かに歩いていたが、不意にサスケが立ち止まりナルトを呼び止めた。

 

「ん? どうしたんだってばよ、サスケ?」

「……ナルト、お前知ってたんだろ」

「何が」

「おっさんとアイツのこと」

「おっちゃんと、えっと、ア、アイツって?」

「アイツはアイツだ、うちはイズナのことだ」

「イ、イズナの兄ちゃんが何だってばよ……?」

 

ナルトはぎくりと固まる。

 

「道理でお前が話したがらなかったわけだ。おっさんとアイツは兄弟だ、そうなんだろナルト」

「え、そ、そんなわけねぇって! ありえないってサスケ。どうしちまったんだよォ、アハハハハ」

「ありえない……俺もそう思ってた。だがナルト、おっさんは俺と同じうちはだ」

「お、おっちゃんは……」

「おっさんがうちはなら俺が知らない筈がない。別におっさんも否定はしてなかったしな」

(えー! おっちゃん! 人には言うな言うな言っといて!)

 

ナルトは泣きたくなった。

 

「……あの時、おっさんの目が見えた」

「へ、へェー……目いいんだなサスケ」

「あんなに近くで戦ってたのに、なんで今まで気付かなかったんだってくらいだ」

「あ、あー……気付いてなかったんだ。ま、まぁ、おっちゃんだし気付かないのも無理は……えーっと、うん、無理はねぇと思うってばよ?」

「……チッ」

「サスケ……」

 

サスケは隠されていたことが不満なのか、それともその辺のおっさんだと思っていた男が過去の時代から来た人間だと知り動揺しているのか表情は固かった。

 

「サ、サスケ。その、俺も話せなかったのには訳があって」

「んなのはわかってんだよ、話せる訳ねぇだろ。そんなことはもう別にどうでもいい」

「そ、そなんだ」

「アイツがおっさんの弟だってんなら、アイツは……」

「……サスケは、知ってんの」

「兄弟は全員死んだってな」

「そう言ってた」

「アイツを元の時代に返せば」

「イズナ兄ちゃんは、たぶん」

「……」

 

風に揺られ、二人の近くの木々から葉が舞い落ちる。

 

「サスケ、俺この前おっちゃんと話しててさ」

「……」

「おっちゃんは、ちゃんと元の時代に返すって」

「だろう、な……」

 

過去の人間は元の正しい時代に戻るべきだ、それはナルトもサスケもわかってはいるがその後を知ると快く送り出すことはできなかった。

出会わなければ、知らなければこう悩むことも無かったというのに。

 

「明日アイツんとこ行くぞ」

「うん」

「サクラも連れて行く」

「サクラちゃんも?」

「サクラも気付いてるはずだ」

「……マジ?」

「アイツ、素でおっさんのこと呼んでたしな」

「あ、あー、そういやそうだった気がするような?」

「自然に口から出る言葉は本物だ。サクラも聞こえてた」

「……兄ちゃんのこと、どうにかできねぇんかな」

 

ナルトは夜空を仰いだ。

イズナのところのマダラに、今のマダラと同じような未来を辿らせるには瞳の譲渡が必要だ。死に際でもなければ渡すことも無いだろう。

 

(おっちゃんあんなに強ェのに、イズナ兄ちゃんから目貰わないとダメなんかな……どうにかなったりは……。けど上手くいかなかったら、俺のサスケがどうなるかもわかんねぇ)

 

何がきっかけで変わるかわからない。ほんの少しの違いが、大きく歯車を狂わすこともある。

 

「昔とこっちが、もうちょい簡単に行き来できたらなァ」

「なにバカなこと言ってんだ。んなことになったらめちゃくちゃになる」

「わ、わかってって」

「ナルト」

「な、なんだってばよ」

「おっさんのこと、どこまで知ってんだ」

「ど、どこまでって……」

 

ナルトはサスケからの突然の質問に困惑した。

 

「おっさんがどんな奴なのかとか」

「おっちゃんがどんな……おっちゃんから聞いた事くらいしか知んねぇけど。サスケは? イズナ兄ちゃんがおっちゃんの弟だってわかってんなら、おっちゃんが誰かも分かってんだろ?」

「……」

「サスケ? おーい、サスケェ?」

 

ナルトがサスケの顔を覗き込むように見る。

サスケはじとりとナルトを見返すだけで答えない。

 

「え……サスケもしかして」

「うっせぇ、ウスラトンカチ」

「サスケ、もしかしてお前も授業中寝てた感じ?」

「寝てたのはお前らだけだろ。一緒にすんな、アホ」

「や、いや、アホって、どっちもどっちだってばよ!」

 

ナルトはビシリとサスケを指差した。

マダラに関してはアカデミーではサラッと触れたくらいであるためサスケが聞き流していてもおかしくは無いが、仮にも最年少ルーキーと呼ばれ成績は良かったはずだ。座学はサクラの方が出来たが、サスケも悪くはなかったことは記憶している。一応サスケとは同じ一族の人間だというのに、マダラの名前にピンと来ていないのがナルトには不思議であった。

 

「つかお前なんでおっさんと暮らすことになったんだよ。イズナの奴と里の対応の差がありすぎるだろ」

「うーん、それが俺もよくわかんなくて。初めて会った時なんか公園かどっかでおっちゃんと会ったんだけどさ、なんか知んねぇけど火影のじーちゃんに今日からよろしくってことでなーんか気がついたら一緒にいて」

「適当だな。覚えてないのかよ」

「結構前のことだし。おっちゃんも最初はなんかめんどくさそうだったけど、今と比べたら若くて怖くなんかなかったしなぁ。なんかよくおっちゃん迎えに来てくれた記憶あんなぁ。なんか懐かしいや」

「……」

 

ナルトが何かやらかした後で回収しに来ただけでは無いだろうかとサスケは思ったが口には出さなかった。二人に関しては最近の様子しか知らないため、サスケは想像だけしてマダラの苦労を思う。

 

「兄ちゃんが帰ったら、おっちゃんもさ……」

「……ナルト」

 

ナルトの声が落ち込んだのをサスケは察した。

マダラとイズナのいた過去の時間が同じでは無いことは気付いているが、マダラも戻れば二度と会うことはないだろう。サスケは年代がいつかはっきりは分かっていないが、数年や数十年前の話ではないことくらいは理解している。

マダラが自由に里の中を歩き回っていられるのも、この時代の木ノ葉の里には確実に存在しないことが分かっているからだ。

 

「この時代まで生きてるわけないしな、おっさん……」

「……だよな」

 

ナルトとサスケは、両手を握りしめると考え込む表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

木ノ葉病院の一室にナルト達はイズナの見舞いに訪れていた。

 

「イズナさん、こんにちは」

「……お、サクラ達だ」

 

イズナは寝台に横になったまま、病室に訪れたサクラ達の方を振り返った。

ウラシキとの戦いの後、怪我を負ったイズナは治療のため病院へと担ぎ込まれ適切な処置を施された。しばらく入院する必要はあるものの命に別状はなさそうで、深夜カカシからそれを聞いたナルト達はほっとしたものだ。

カカシやマダラからの報告を聞いたヒルゼンが手配した部屋は、イズナ一人であった。

 

「君達の方は大丈夫? 特にナルトは、アイツに捕まってただろう?」

 

怪我の影響か、イズナの声にあまり元気はない。

 

「へ、ヘーキ……あん時何回も庇ってくれたし……」

「はあ……しおらしくしない! もう終わった事だろう、俺も君も無事だった。それにあの後随分と頑張ってたからね」

「けど」

「俺は気にしてない。だからこれで終わりだ」

「兄ちゃん……」

 

ナルトはイズナの目を見て頷いた。

 

(思えば、この子らは俺の目をよく見る……兄さんのことも)

 

サスケもいるのだ、写輪眼について無知という事でもないだろう。他族の忍である程、目を合わせたがらないものだ。それもないということは、つまり。

 

(出会いはあんなだったのにな……)

 

彼らなりにイズナを受け入れているということだろうか。

そうでなければ見舞いに来ることはない。

 

「イズナさん、あの」

「……?」

「その……」

 

サクラが言い淀む。

 

「どうしたの、サクラ」

 

イズナが促してみても、サクラはなかなか言葉の続きを話さない。

 

「うちはイズナ」

「サスケ?」

 

そんなサクラをみかねてか、サスケが間に入った。

 

「……カカシから聞いた。アンタを元の時代に戻す日が決まったらしい」

「! 思ってたよりも早くその話が出たな……それで、いつ?」

「早ければ明日にでも、だと。流石に無理だろうけどな」

「明日? ……こんなんで、まだ動けそうにないんだけどな。はぁ、まいったな」

「イ、イズナさん!」

「……何、さっきから」

「サクラ、俺が言う」

「サ、サスケくん、だけど」

「アンタ、元の時代に戻ったら死ぬんだろ」

「サスケくん!」

「い、いきなりすぎるってばよ、サスケ」

「……大丈夫、わかってるよ」

 

この時代に来た時からイズナもそんな気はしていたが、確信を持ったのは昨日の戦いでだった。マダラの目を見た時、自身が知る模様とは違うあの写輪眼にイズナは納得するしかなかった。

 

(あの目は、俺の万華鏡写輪眼に似てる部分があった……本人から言われずとも、つまりはそう言うことだ。ここの兄さんの年齢も見た感じじゃそんなに歳は行ってない。俺と関わりたがらなかったのも、『俺』が死んだのは今の自分とそう変わらない頃だからだろう。それに、あっちのサスケも言っていた)

 

イズナがここで死ぬと過去が変わる。つまり、過去の時代のマダラにイズナの瞳が継がれなければ、うちはの歴史が変わる可能性があるということだ。正しい場所で、正しい時に死ぬべきなのだと。

 

(戦に大負けして一族の存続が危うくなるのか……千手側の長は千手柱間だとはいえ、あの男一人で敵一族の存亡を決められるものでもないだろうし)

 

柱間の性格はかなりおおらかである。何度敵対し戦を繰り返そうと、マダラとの対話を諦めない面倒だが情には厚い男だ。だが柱間はよくても他の千手はどうか分からない。交渉も、先に折れた方が不利な条件をつかまされるものだ。

気まずそうにサクラとナルトがサスケとイズナを交互に見やる。

 

「あの、イズナさん」

「に、兄ちゃん」

「……それで、三人はそれを俺に伝えてどうしたかった?」

「っ」

「迂闊に過去の人間にこの先に起こるだろうことを伝えるものじゃない。サスケも。俺が違うことをして過去が変わったら、君はこの里にいないかもしれない。それが分からないわけじゃないだろう?」

「ああ」

「じゃあ、どうして話した」

 

イズナが真剣な目でサスケを見据える。

イズナの声は、サスケ達の耳に冷たく刺さった。

 

「……」

「……」

「……」

「……最終的に結果が同じになればいい。アンタが死ななくても、終わりが同じなら未来は変わらない」

「どうだろう。俺からは敵方に停戦や和睦を求める気は無い。どうするつもりだい、サスケは」

「アンタにその気が無くても、おっさんにさせればいい。アンタのとこのな」

「……どうしてタジマが出てくるんだ」

「アンタら兄弟なんだろ、昨日そう呼んでたしな」

「……」

 

ここでイズナが肯定したところで、過去に戻る頃にはナルト達の記憶も消されているだろう。ここでの会話も無かったことになる。

イズナは頷かなかったがサスケ達は確証を得ており、イズナを見つめ続けた。

 

「おっさんの昔話をあんまり聞いたことは無いが、でもコイツが知ってる」

「俺も、細かく聞いてるわけじゃねぇけど、大体は」

「アンタだって死にたいわけじゃないだろ」

「サスケ、ナルト。ダメだ。君たちがあの人から何を聞いてるか知らないけど、ダメだ。それ以上は話しちゃいけない。この話を誰かに聞かれたら? 君たちが咎められることになる。そんなのは君達の上司のカカシだって望んでないだろう」

「アンタはおっさんのたった一人の肉親だろうが」

「それでもだよサスケ。それにあの人の俺はもう……シッ、人が来る」

「……」

「……」

「……」

 

話の途中でイズナは痛みがあまり感じない方の手を上げると、指を口元に当て三人に静かにするよう示した。三人は静かに近づいてくる気配に耳をすませるが、足音は聞こえない。程なくして病室のドアが開かれると、現れたのはマダラであった。

 

「イズナ、見舞いに……揃いも揃ってどうした。いつも一緒だな」

「やあ、タジマ。ありがとう。三人とも心配して来てくれたみたいなんだ」

 

マダラがナルト達を見遣る。暗い表情の三人にマダラは何事かと僅かに片眉を上げた。

 

「すごい心配されちゃってさ」

 

この気まずい雰囲気をイズナが笑って誤魔化した。

 

「見舞いにしてはやけに深妙な顔をしているが」

「ほんと気にしすぎなんだって。ああそうそう、ナルトでもサスケでもここから出られないから適当に読み物持ってきてくれるかな。みんな帰ると暇になるから」

「え? イチャパラ?」

「イチャパラでも何でも良いけど」

「イチャパラ以外にお前の家にあったかよ」

「じゃあイチャパラ持ってく」

 

ナルトがグッジョブと親指を立てた。

二人のやりとりにマダラはため息をつくと腕を組んだ。

 

「じゃあ面会時間が終わるまでにお願い。たぶんこれからこの人から大事な話があるだろうから、三人とも時間を置いて来てくれると嬉しいな」

「……は、はい。ではまた。イズナさん」

「うん、じゃあねサクラ」

 

出ていくよう促されてはそうするしかあるまい。マダラがいる手前で先程の話を続ける訳にもいかず、ナルト達は静かに退室した。

病院の外、ナルトのアパートに向かう道すがらサクラがつぶやいた。

 

「さっきのって、私たち追い出されたのよね」

「え? おっちゃんのイチャパラ取ってこいってことじゃなくて?」

「追い出しだろ」

「でもまたもどんだろ?」

「まあ、戻るけど……」

 

知らなければ、気付かなければ過去に送り出すことになんの躊躇もなかった。

明日すぐに戻らなくとも、そう遠い日にちに引き延ばしたりはしないだろう。怪我の回復というよりは、イズナが動けるようになり次第戻される。

 

「もしかしたらタジマさんと話してるかもしれないから、すぐには戻らない方がいいわよね」

「だな。少し時間を潰して行くか」

「サスケ。ワリィ、こんなこと聞いて……サスケんちに何か残ってたりしねェ?」

「俺の家……? ……ああ、あっちの方か。何が?」

「イズナ兄ちゃんに関して」

「……ない。見たこともないし、どうせあったとしても里が押収してんだろ」

「じゃ、じゃあさ、おっちゃんのこととか。あの辺の時代のこと分かるもんとかねェのかよ?」

「なんでおっさんが?」

「そうよ、どうしてタジマさんが?」

「え?」

「「?」」

「……ん? んん? ……えー! 二人とも分かって無かったんだってばよ⁉︎」

 

ナルトは二人の反応にたまげた。

サスケもサクラもてっきりマダラの正体に気付いているものだと思っていたが、イズナと繋がりはあっても『うちはマダラ』であることに結び付いてはいないようだ。

 

「な、何がよナルト」

「………ハッ⁉︎」

「サスケくん?」

 

サスケが何か気付いたように目を見開いた。

 

「サ、サスケェ……?」

「……町内会の?」

 

サスケの脳内では、先日の夜のイズナとのやりとりが思い起こされていた。

 

 

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