おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第65話

 

昨日からサスケの様子が変だとマダラに言ったのはナルトだった。

いつもならナルトと共に家を出るサスケが、今日は険しい顔で先に一人でアパートを出た。

 

「サスケに聞いても、何も答えてくんなくて。おっちゃんでもわかんないかー」

「……サスケが変、か」

 

湯呑みを傾け、団子屋の店主に分けて貰った茶を飲みながら、マダラは昨日のことを思い返す。

昨日、イズナからナルト達に過去に戻るのを引き止められたという事があったのは聞いている。

ナルト達の様子にこの時代の歴史が変わることを危惧したイズナが、三人の記憶を弄ったのも知っている。夜、アパートに戻ってからのナルトの様子からしても、三人の記憶は問題なく変えられている筈であった。

 

(サスケが変……昨日はすぐに寝ていた……。今日はカカシが同行できない日。任務はない筈だが、サスケはどこに行った?)

 

マダラは今晩、カカシと共にヒルゼンの元に時間移動装置であるカラスキを持っていく予定だ。イズナのところに寄る用事もあり、今日はサスケの動向を探る暇はない。

 

(今になってイタチの件がぶり返した訳では……ないか。向こうから接触はしないだろう、潜入中だ。そんなに暇ではない)

 

だがしかし、マダラは他に思い付かずイタチの件だろうかと悩んだ。

普段共に過ごしているナルトが変だというのだ、本当にサスケの様子は変なのだろう。

以前カカシが言っていたイタチを追いかけて里抜けをするのではという考えが一瞬だけ頭によぎる。イズナが記憶を弄ったことによる弊害か。

 

(……様子見か)

 

湯呑みの中で、茶に反射した自分の顔を見ながらマダラは考えた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

サスケは一人でうちは地区に居た。

もう何年も帰っていない旧家に足を踏み入れた時、どくりと心臓が強く跳ねたのを感じた。とはいえ何年も帰っていない気がしているだけで、実際昨日この家に何かを探しに来ていた記憶が薄らとある。記憶にはモヤがかかり鮮明には思い出す事はできなかった。

いつもなら近寄ろうとも思わないこの家になぜ戻ろうと思ったのか、サスケはもやもやした頭のまま父が書斎として使っていた部屋に向かった。

 

(……昨日の夕方から何かがおかしい。気持ち悪い。ナルトとサクラは何ともないみたいだが、俺だけがおかしいのか?)

 

サスケは常に違和感を抱えていた。

昨日、サスケ達はある人物に本を届けた。団子屋の常連だと名乗る男だ。サクラとナルトは男の説明に納得したようだが、サスケはしばらくチャクラが乱されたような感覚に陥り気持ち悪さを覚えていた。舞い落ちたカラスの羽を拾い上げるまでは。

 

「……何でアイツらは気付かない?」

 

男は団子屋の常連などではない。どう見てもマダラやサスケとは無関係な人物には思えず、そして朧げながらも男と過ごした日々が記憶の中にはあった。

 

「アイツ……俺たちに幻術をかけやがった」

 

この気持ち悪さを覚える直前、写輪眼を見た気がした。男にとって都合が悪い事があるからサスケ達に幻術をかけたのだ、そうに違いない。

 

「クソッ、考えるのを止めると忘れそうになる。幻術なんて一回かけたら終わりじゃないのかよ! ……うちはイズナッ!」

 

サスケは苛立ちながら父が書斎として使っていた部屋の戸を開けた。天井の隅に張られた蜘蛛の巣が揺れる。

部屋に並ぶ空の本棚は、積もった埃が過ぎた年月を物語っていた。

 

「……あるわけ、ねぇよな」

 

サスケは戸を閉めると別の部屋へと移動した。両親の寝室である。あまりこの家に長居はしたく無い。この場にいるだけで嫌でもあの日の記憶が蘇り、そして勝手にサスケの前から去って行った兄の姿を思い出してしまう。

両親の寝室の、父のフガクが使っていた机の引き出しを漁る。こんなわかりやすいところには何も置かないだろう。出て来たのはいつ撮ったのかも忘れた、サスケとイタチの幼い頃の写真が何枚かだけであった。

 

(……なんで。いや、今はそれどころじゃない。このまま何もしないで帰してたまるか。一泡吹かせてやる)

 

歳上の人間とは何て勝手なのだろう。イタチといい色々とナルトに仕込んでいたマダラといい、昨日のイズナといい、相談もなくいつも勝手に進めてしまう。

 

「……おっさんがうちはの長だったんなら、どこかでウチと変わる時代があるはずだ。大層な文献なんか漁らなくとも、どっかに記録くらい残してんだろ……そもそもおっさんていくつなんだ? 家系図でもなんでもいい。どっかにあれば」

 

しばらく漁ったが机には何もなさそうだ。ならば側にあるタンスか、襖の奥か。舞い上がる埃に時々咳き込みながらサスケは探し続けた。

昨日イズナの元に行った際に、手掛かりになりそうな手記を持参している。サスケも一度は目を通した筈だが、幻術にかけられてからというものはっきりと内容が思い出せなかった。

 

(……名前が出て来たくらいじゃ意味がない。もっと細かくわかるのじゃねぇと)

 

屋根の上に一羽のカラスが止まる。

時々カラスの鳴き声を聞きつつ、サスケは日が暮れるまで旧家の中を漁り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イズナ、昨日の件なんだが」

「え、何? なんか齟齬でもあった? 効いてなかったとか」

 

病室でイズナの着替えを手伝っていたマダラはイズナにそう話しかけた。着るのは元々イズナがこの時代に来る際に着ていた服だ。

室内はカーテンが閉められ、そして入り口の扉の向こうにはカカシが立っている。

着替えさせている理由は、イズナをはじめにいた施設に移動させるためだった。今晩、未来から来た方のサスケとボルトともそこで会う約束をしている。

 

「いや……効いてはいるようなんだが……」

「なんかあった?」

「サスケにだけかけ忘れたというわけは……ないよな?」

「サスケ? 三人同時にやったけど……うそ、サスケだけ効いてない?」

「いやどうだか……ただ、朝から一人で出かけて行った……」

「一人……いやいやいや、まさか」

「……」

 

マダラは昨日のことについてイズナに確かめた。

イズナはマダラの言葉にそんなまさかと笑う。

 

「ナルトとサクラはしっかりかかってただろ? サスケもちゃんとかかってるって」

「だといいが」

「……もし俺の幻術が原因じゃないなら、それはそれでサスケの動向が心配だな」

「何か聞いているか?」

「兄弟の仲、上手く行ってないらしいよねサスケ。もしかしてそれ?」

「それは……そうかも知れんな」

 

幻術がほぼ解けていることに気付かないマダラとイズナであった。

マダラは難しい顔をしながら、服の帯を手に取る。

 

「兄さん、そんな神妙な顔しないでよ。帰るのは明後日だろ? 帰りづらいじゃないか」

「そんな顔はしていない」

「してる」

「……」

「ほら、してる」

「……してない」

 

マダラの否定をイズナは笑い飛ばし、促されるがまま着替えを手伝ってもらう。帯を巻くために腕を上げれば引き攣った痛みがし、息を噛み殺しながら堪える。

 

「本当にその状態で戻るつもりか」

「兄さんが強く引き止めないってことは、戻っても大丈夫なんだろ?」

「……そうじゃない、イズナ」

「今ため息吐こうとした? とにかく早いほうがいい。ナルト達に掛けた幻術は強くない。このまま思い出さない可能性の方が高いけど、記憶を真っさらに消し去った訳じゃないから強いきっかけがあれば思い出すかもしれない。接触されないうちに全部終わらせよう」

 

イズナはマダラに、ナルト達が二人の関係について気付いていることを話していない。あくまで引き止められたことに危機感を抱き幻術をかけるに至ったということにしていた。

 

(サスケの様子は気になるけど……これ以上余計なことはしないでいてくれよ)

 

イズナに関する記憶だけを変えているが、イズナの兄がマダラであること、タジマがマダラであるということについてはイズナを忘れたことによって関連付かなくなっているはずだ。

 

(これで兄さんがあの子らをどうこうする必要はない)

 

これでいいのだ。自分の行く末について知ってしまったが、知ったところでそれだけの情報では意味もなく何をしても無駄だ。時の流れに身を任せるしかない。

着替えが済むと、イズナは昨日から机の上に置いてある紙袋を手に取ってみた。重みのせいで怪我の箇所が痛む。物を持つことも、着替えるのも一苦労だ。

マダラがイズナの手から紙袋を優しく奪う。

 

「……こりゃ出陣は控えさせて貰わないとだな」

「そうしろ」

「控えて良いんだ? 出して貰えるとは思ってないけどさ」

「イズナ」

「はいはい、出ません出ません」

 

決してからかうつもりはないが、別れる前くらいしんみりとしなくても良いだろう。

イズナの着替えが終わる頃を見計らい、カカシが病室のドアを叩いた。

 

「タジマさん? もういいですか?」

 

カカシの問いに答えるように、マダラはドアに近づくとカカシを中に招いた。

 

「……カカシが俺を護送してくれるのか」

「イズナさん、怪我の具合は?」

「ダメ」

「タジマさん、本当に帰して平気ですか」

「……本人の希望だ。言っても聞かん」

 

映画を観た仲だ。カカシもイズナを元の時代に戻すのは連れてきてしまった自分達の役目であることは理解している。戻すのも、早いに越したことはない。だがもう少し療養してからでも良いのではと考えていた。

元の時代に正しく戻せばいいだけなのだから。

 

「もう行く? 俺の準備はできてる」

「……では、イズナさん。タジマさんも」

「……ああ」

 

マダラはイチャパラの紙袋を覗き込んだ。愉快な文字の背表紙が並んだ脇には、焼けた色の冊子が添えられている。

 

(イズナは読まなかったみたいだが……)

 

イズナがナルト達に幻術をかけている頃、マダラは外出していた。病室に戻った時には紙袋があり、中にはイチャパラとこの冊子が入っていた。

イズナからはこのままナルト達に返してくれと言われたため、今まで冊子には目を通していない。

イズナはナルト達に適当に何か持ってこいと言っていた。イチャパラに添えられていることから、似たようなものをどこかからか見つけてきたのだろうが。

 

(……そのまま返せと言われたからな。夜、ナルトに渡すか)

 

カカシの後ろをついて歩くイズナの足取りは少しふらついており心許ない。カカシも歩みはゆっくりで、なるべくイズナに歩調は合わせているようだった。

人払いを済ませていたのか人気のない廊下を歩き、裏口から外に出る。

 

 

 

別れの時は近い。

 

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