おっちゃんと一緒   作:んごのすけ

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第66話

 

「本当に明日の朝でいいんだってばさ?」

「ああ、明日で」

「でもイズナさん怪我治ってねぇんだろ? もう少しくらいいてもいいんじゃ」

 

施設の一室、明日元の時代に戻ろうとしているイズナと段取りの話をしていたボルトはそう尋ねた。

 

「……君のお師匠さんも強くは止めてこない。つまり問題ないんだ」

「そ、それは」

 

ボルト側のサスケはイズナのことを多少なりとも知ってはいるのだろう。このタイミングで元の時代に戻ることを、マダラと同じように無理に引き留めようとはしてこなかった。

 

(……そういえばそこのサスケは初対面の時には俺の名前を知っていたような様子だった。コイツは俺のことを知っていて、この時代のサスケが知らないのならいつ知ったんだろうか。誰かから聞けるわけでもあるまいし、まさかどこかに行ってるイタチが?)

 

イズナのことを伝えられそうな人物というのが想像できなかった。

 

(仲が悪いのに兄弟から昔の人の話なんて聞かないだろうしな……そもそも聞かせる必要なんてあるのか? 族長になった兄さんはともかく)

 

イズナの名が出るとすればマダラの話に紐付いての事だろう。だが未来を生きるサスケが知る必要はあったのだろうか。

映画の時に尾行してきた男といい、このサスケのマダラに対する異様な警戒。もう元の時代に戻る手前だがいくつも疑問が残る。

 

(そこのサスケは兄さんの顔を最初から知っていたみたいじゃないか。サスケが生まれる頃には死んでいるはずなのに。まさか生きてるわけ……)

 

よほど長生きしない限り、生きてサスケと会うことはない。

イズナと会話するボルトの背後で、手帳を片手に何か読んでいるサスケに尋ねた。

 

「……ところで、今のうちに聞きたいことがあるんだけど」

 

サスケの目線が上がり、イズナと視線が交わる。

 

「俺のこと、誰かから聞いてる?」

「……」

 

黙るサスケに、ボルトは二人を交互に見遣った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「サスケェ……昨日も今日も、どこ行くんだってばよォー」

「ひっつくな、鬱陶しい」

 

朝食をぱぱっと食べ終えた後、サスケは荷物をまとめるとすぐアパートを出ようとした。

玄関に向かったサスケにナルトがピタリと張り付く。

二人の様子を気にも留めず、マダラはチラシを眺めながら残りのトーストを齧る。

 

「いいじゃんー、教えてくれよォ。じゃあ俺ついてってもいい? どうせ今日もカカシ先生はなんかあるっぽいし、あとおっちゃんも用事あるっぽいし? だろ? おっちゃん」

「……」

「さっさと離れろ、暑い。あと付いてくんな」

「ひっでェ……いいじゃん、減るもんじゃないしー」

「お前がいるとややこしくなんだよ」

「えー、ナンデ?」

 

サスケは昨日に続き旧家で過去の出来事を探れるものがないか漁ろうと思っていた。

帰り際にたまたま畳の下に収納を見つけ、そこに幾つか書類のようなものがあったのだ。今日はそれの続きを読みに行くつもりだった。

ナルトがついてきた場合、マダラに何をしているか漏らされる可能性がある。そうなれば、サスケは再度幻術をかけられることになるだろう。これまでの努力が水の泡だ。

 

「サスケ」

 

ナルトを振り切り出かけようとしたサスケはマダラに呼び止められた。

 

「んだよ、おっさん」

「どこに行くのかくらいは言え」

「はァ? アンタは俺の親父かなんかかよ」

 

サスケは勢いよく玄関から出て行った。

若干荒々しく階段を降りる音がナルトの部屋に聞こえてくる。

 

「行っちまった、サスケ」

「……」

 

ナルトはにんまり笑みを浮かべると、マダラの方を振り向いた。

 

「……そんなに隠されるとさァ? なんだか気になんだよねー……なァ、おっちゃん?」

「おい」

 

マダラの呆れたような目がナルトに向けられた。

 

 

 

 

 

 

サスケは早足で旧家に向かう。

昨日の続きを読まなければ。まさか里に回収されていない書類が残されていたとは。サスケははやる気持ちで先へ先へと走った。

その書類を見つけた場所は、客間として使用していた部屋の床下だった。もしかすると両親も忘れていたかもしれない場所に、サスケが生まれるよりもずっと前に記された物が出てきたのだった。

 

(こんなとこに隠されてたとは。父さんが昔にしまったまま忘れてたのか?)

 

サスケが見つけたのは何かの契約書や、一族の代表を引き継いだ際に交わされたであろう物の写しだった。中には土地の割り振りをしたのか、簡単な図が描かれた色褪せた書類もあった。

うちは警務部隊の長として一族を取りまとめていたフガクだ、こんな誰が使うかもわからない部屋に隠しておこうと考えるだろうか。こんな重要そうな書類は自室に置いていそうなものだが。

殆ど使っていなかった客間の下から見つかったということは、フガクも知らなかったのかもしれない。

サスケは旧家に着くとすぐに客間の方に向かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

残されていた資料を読み漁り、日が暮れてだいぶ経った頃にサスケはナルトの家に戻った。

部屋にいたのはナルトだけでマダラはいないようだった。

 

「サスケェ……おっせーよォ。どこ行ってたんだってばよー」

「テメェには関係ねぇだろうがよ」

「関係あるって! 俺やおっちゃんに知られたくねぇってことかよ」

「ま、そうだな」

 

サスケの返事はそっけない。

 

「む……言いたくねぇならいいけどよォ」

「で、おっさんは?」

「おっちゃん? 明日の昼くらいまで戻んないかもって言ってたっけ。 ちょっと里出るとか……おっちゃんが里外任務なんて珍しいよなー。いつも団子屋なのに」

「はァ⁉︎ 里を出るだと⁉︎」

 

サスケは目を見張る。

 

「ウェ⁉︎ な、ななななんだってばよサスケ!」

「いつ‼︎」

「わ、わかんねぇけど、明日の昼までって言ってたから、行くのって明日なんじゃねーの?」

 

玄関の前で出迎えたナルトの脇を通るとサスケは寝室に向かった。

風呂にでも入るのかと思ったナルトは、サスケが寝室にあるタンスの引き出しを雑に二度も三度も開ける音が気になりサスケの元に向かう。

 

「サスケ? 何探して」

「……あった」

「! な、なん……それって」

「ナルト、テメェ何にも覚えてねぇのかよ!」

「サ、サスケ、それってば……」

 

ナルトは震える指でサスケが今しがたタンスから取り出したものを指し示した。

蓋のついた籠に入っていたそれは、うちはの家紋が付いた装束で。

 

「ナルト、いい加減思い出せ。おっさんもいなくなっちまうかもしんねぇんだぞ!」

「え? ……サスケ、なん、で」

 

ナルトは震える声でサスケに応える。

 

「時間がない。ナルト、おっさんが元の時代に戻る手がかりを手に入れた!」

「どう、して、知って」

 

ナルトはまるで理解が追いつかないという顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

マダラが帰宅し話を聞かれることを恐れたサスケは、今の自身の家にナルトを招き入れた。

時々掃除をしに帰っているため部屋は汚れておらず、サスケはクッションを引っ掴むとナルトに投げた。

 

「ほら、使えよ」

「……」

 

ナルトはサスケから受け取ったクッションを力無く床に落とすとその上に腰を下ろす。

アパートを出る前から冷や汗が背中を伝い続け、妙な緊張がナルトの心を支配していた。

 

「サ、サスケ? あのさ」

「……」

「おっちゃんが帰るかも知んねぇって、どういう……」

「そもそもお前、どこまで覚えてる」

 

サスケはナルトに、うちはイズナを過去から連れ出してしまう原因となった任務について確かめた。

第七班として受け持った任務について互いに齟齬はないが、ナルトの中ではその後何事もなく里に戻ってきたということになっていた。

 

「つまりアイツを連れてきてしまったこと自体を綺麗さっぱり忘れてるってわけか」

「えっとー……? つまり俺たちは、昔のおっちゃんのいた時代からあの兄ちゃんを連れてきちまったってわけ? え、でもさでもさ、おっちゃんは? 兄ちゃんがいるってことはおっちゃんもいたわけなんだろ?」

「おっさん? あの時代のおっさんなら別んとこいたんじゃねぇのか? 詳しくは知らないけどな。俺たちが会ったのはうちはイズナだけだ」

「そっ……か」

 

ナルトはクッションに深く腰かけ直すとズボンの生地を握った。

マダラが過去に戻る、その可能性があることに不安が募っていく。

 

(おっちゃんだってずっと戻りたがってたし、これでいいじゃんか。せっかくのチャンスなんだし……)

 

ナルトの顔が下を向く。

 

「それでナルト、おっさんの行き先に心当たりは? アイツと一緒にいるはずだ。おっさんの居場所さえわかれば」

「……」

「おい」

「……」

「おい、ナルト」

「あ、ごめん。おっちゃんの居場所だっけ? 俺もわかんねぇや。でも明日里外任務ってんなら、あの兄ちゃんを連れてきちまった場所に行くんじゃ?」

 

ナルトの返しにサスケが頷く。

明日イズナが戻るとなれば考えている暇はない。

不安げな様子のナルトを他所に、サスケは決意を固めた。

 

(明日、なんとしてでももう一度アイツと話をするーー)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

朝露の滴る、柔らかな日差しの下。

イズナは未来から来たサスケ達に連れられ森の中を歩いていた。イズナの後ろにはカカシとマダラ、監視役の忍が一人同行している。

洞窟のある岩壁の近く、見覚えのある少しばかり開けた場所に辿り着くと一行は足を止めた。

 

「この辺りだってばさ?」

「ああ、あの洞窟には見覚えがあるから間違い無いと思う」

「本当にもう行っちまうのかよ」

「あまり長居しても、体が鈍ってしまうだろ?」

 

イズナはボルトにそう答えるとマダラの方を振り返った。

道中皆ほぼ無言でここまで歩いてきた。マダラもイズナも、話は全て昨晩のうちに終えているようだ。

ボルトはこの中で一番疲れた表情を浮かべているカカシを見遣る。

 

「そういや、なんかカカシさんの顔が疲れてるような」

「ちょっと一仕事したからカナ」

「一仕事?カラスキを俺たちのとこに持ってきてくれたっけ。え? でもそれだけ?」

「うん……それだけだけどね……ちょっと持ってくるまでがね」

「? 保管場所って、昨日から俺たちとおんなじとこに置いてなかったけ?」

 

ボルトは小首を傾げる。

 

「ウン……ソウダネ……ネ?タジマサン?」

「……」

 

マダラはカカシから顔を背けた。

何があったのだろうか。

しばらく続いた沈黙を破ったのはイズナだった。

 

「それじゃ……さよなら、兄さん。達者で」

「……お前もな」

「……私たちは行きましょうか、タジマさん。巻き込まれてはいけませんし」

 

マダラは返事をせずもう一度だけイズナを見遣ると、自然な足取りで立ち去った。カカシも後に続く。

二人の後ろ姿に、ボルトが少し寂しげな眼差しを向けた。

 

「……本当に、本当にいいんだってばさ?」

「早く済ませることに越したことはないんだ。長引けば互いに辛い。さあ、二人とも……頼んだ」

「……ッ」

 

やはり別れは辛かったのではないか、そう思いボルトはイズナを見上げる。

別れの余韻に浸る間もなく、サスケがカラスキを起動させた。

周囲を眩しい光が包み、三人は姿を消した。

 

 

 

 

 

その様子を、マダラ達が歩く方向とは逆方向の木の上から見ていた小さな影が二つあった。

慌てた様子で二つの影は木から降りると光の中に向かって走り出した。

物音と気配に気づいたカカシとマダラが振り返る。マダラが即座の判断で影の一つを引っ掴むと地面に押さえつけた。

 

「イッデェ!」

「なんでこんなところにいる……ナルト」

「うげッ! おっちゃん……イデデデデッ」

 

ナルトは首を回してマダラを見上げたが、日の光を背にしたその顔は恐ろしいほど真剣だ。

カカシもマダラの側に寄ると身を屈め、押さえつけられているナルトを見下ろす。

 

「ナルト? どうしてここに。まさか三人で来てるってわけじゃないよな?」

「おっちゃ、イタッ、痛いって……ハッ、サスケは?」

「「サスケ? 」」

 

マダラとカカシの声が重なる。

先程イズナ達を包み込んだ光はどんどん収縮していっている。まさかあの中にーー。そう考えついたカカシがあの光の中に飛び込んで行ったであろうサスケを追いかけようとした時、マダラからナルトと監視役の忍を押しつけられた。

 

「タ、タジマさん」

「まさか隠れてるお前らに誰も気付かなかったとはな……カカシ、お前はこいつと共にナルトを見張れ」

「お、おっちゃ」

「タジマさん」

「カ、カカシ先生……」

「サスケを頼みます。まったく、サクラは一緒じゃないだろうな? お前ら二人は……ナルト、今回は帰ったら俺やタジマさんの説教だけじゃ済まないぞ。サスケも」

 

ナルトはカカシに腕を掴まれながら光の中に消えていくマダラを見送った。

ナルトもサスケも、まさかイズナがそんなにあっさりと立ち去るとは思っていなかったのだ。マダラ達が現場から離れ、落ち着いた隙を見計らってイズナにもう一度話をするつもりでいた。それが急に目の前で姿が見えなくなり、二人して焦って飛び出したのだ。

 

光が収束する。

だがマダラもサスケもなかなか戻ってくる気配はない。

 

「……おっちゃん」

「……」

 

向こうで何かあったのだろうか。

 

いくら待てども、二人が現れることはなかった。

 

 

 

 

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