予期せず旧友と再会したマダラは、否定した後もしばらく隠し子かとまじまじとサスケを眺める柱間に心底呆れてため息をついた。
「歳は十四とかだろうか……急に里からいなくなったかと思えば、なんだマダラ、いつのまに。言ってくれればよかったではないか」
「さっきも違うと言っただろ」
「しかもいかつい顔のお前に似ず、随分とまあ綺麗な顔立ちで……名は何と言う? うちはの集落には居なかった気がするなァ……里でも見かけたことがないの……ハッ⁉︎ まさかマダラお前、いつのまに外で……⁉︎ 言ってくれれば里の集合時には迎え入れられたものを……ハッ⁉︎ マダラァ! お前、お嫁さんはどこだ! この四年間、もしやお前どこかで隠れて暮らしてたのではないか⁉︎」
「だから……柱間ァ! 勝手に話を作るな! サスケも黙ってないで何か言い返せ」
「……おっさんが親とか冗談でもないぜ」
「えっ、マッ」
やっと喋ったサスケの言葉に柱間が言葉を詰まらせると、サスケとマダラを首がもげそうなほど何度も見返し続けた。
「し、辛辣すぎるんぞ、うちはの少年!」
なぜかマダラよりも柱間がショックを受けて青ざめていた。
柱間のせいでサスケと状況の整理をする暇もない。
先程柱間はマダラに四年もどこに行っていたのかと尋ねていた。マダラがナルト達の元で過ごした年月もおよそ四年。マダラが突如姿を消したという柱間の主張と状況が合致する。
「サスケ、説教は終わりだ。コイツをどうにかしないと何も進まん……柱間」
「サ、サスケと言うのか……? そ、そんな事を言うてはいかんのだぞ……」
「おい柱間」
「サスケよ、何か悩みでもあるのか? 俺で良ければ相談に乗ろうぞ。マダラは優しい奴だが、疎いところもあるし。大丈夫か?」
「……柱間! いい加減その話はやめろ、こっちの話を聞け」
「し、しかしマダラ」
「しかしも何もあるか。一度黙れ、柱間」
「おっさん……」
大体ナルト(イチャパラ関連ではカカシ)に振り回されていたマダラであるが、元いた時代でも立ち位置は変わらないのかとサスケは少し哀れに思った。
サスケの前で屈んでいる柱間をマダラは無理やり振り向かせると、先程まで広げていた地図のようなものを手から奪い取った。
あっと柱間が声を上げる。
「さっきからお前が持っているのは……なんだ、コレは」
「おお、コレは口寄せの術を応用してあってな。時空間忍術に関する物なんだが、お前が消息を絶った後チャクラも微塵も感じないもんだから、扉間が全力で開発した物ぞ。何度試しても効果はなかったが……だが今日は成功したみたいだ」
「つまり転送装置のようなものか……あの空間にいたからか。それを……扉間がな」
扉間の名前が出た瞬間、マダラの声が少し低くなった事にサスケは気づいた。音には刺々しさがある。
(何だ、今のおっさん何か……てかトビラマって誰だ? あとコイツも)
先程サスケを叱っていた時とは違う声色だった。怒りでも呆れでもない、ただ重く何かの念が深くこもった音。
「……してマダラよ、お前さっき上空からいきなり現れたが……本当はどこに行っていたんだ」
マダラは広げた紙から目線を上げると柱間をギロリと睨んだ。
「…………柱間。お前、さっきまでのやり取りはわざとだな」
「……フッ」
柱間が口の端を上げた。
心配は杞憂か。おっさん二人のやり取りにサスケはしょうもないと、首を振りながら肩を落とした。
「……はぁ、はぁ……はぁ」
木陰の下を歩く一人の人影。
乱れる呼吸を整えながら、ジャリジャリと足元の地面を踏み締める。
カラスキの術で元の時代に戻されたイズナは、時々木にもたれながらも陣地へと帰ろうとしていた。未来で過ごした時間も長かったことからその陣にいた理由を忘れかけていたが、当時うちはの人間に捕まったナルトがうずまき姓を名乗ったことが原因で応援を呼ばれたのだったということを思い出す。
額に滲んだ汗を装束の袖で拭う。日差しは強くないが、まだまだ治りかけの状態では長時間の移動は厳しい。
(……あの後てんやわんやで結局記憶の処理しないで帰らされた。兄さんとサスケはどうなった。二人とも無事に戻れたのか?)
あの時時間移動装置であるカラスキは何らかによる接触があったと言っていた。あの空間に接触するとは、一体何だったのだろうか。
「消し忘れるなんてうっかりにも程があるぞ……うずまきボルト達も。あ、でも俺もか」
サスケの件があった。確かにあの時三人ともしっかり幻術にかかっていたはずなのだが、どうしてかサスケは覚えていた。
(誰かに解いてもらったのか……? 兄さんでもカカシでもないだろうし。まあそれはもういい。今は早く戻らないと……)
イズナを元の時代に帰す際、未来で過ごした記憶を消す約束であった。だがサスケとマダラが時空間のどこかへ落下していったことにより、あの場は騒然としていた。そしてカラスキがこの周囲は時の流れが安定していないとか何とか言い出しボルト達を急かしたこともあり、イズナを帰すことは達成したが記憶操作を施すのがすっかり抜けてしまったのだった。
(合流したら、とりあえず上手く辻褄を合わせるとして……この怪我はどう説明しよう。千手の奴らにやられたってするのは……俺が気に入らないからなしだ。あと変に嘘を吐けば余計な争いが生まれかねない。双方戦を繰り返す仲とはいえ、諸々対処することになるのは兄さんだ)
早く戻りたいとは願ったが、誤魔化し方を考えなければならない。陣地の様子を見にいっただけのはずのイズナが怪我を負って戻ったとなれば騒ぎになるだろう。
(それに、ここでは俺がいなくなってから何日が経った……? 一日二日くらいか? 季節までは変わってなさそうだけど、あまり期間が開くのも…………ん? 今人の気配が)
チャクラで気配を辿れば、それが徐々に近づいてくるのを察知した。
(忍なのか……? この感じ、知っているような……⁉︎ 気配が増えた!)
初めに察知した気配とは別に、複数のチャクラを感じ取った。感知タイプでもないイズナがわかるほどだ。これでは戦いの最中のようではないか。
チャクラからして仲間ではない。この気配はまるでーー
(千手か? ーー二人……いや三人いるのか⁉︎)
産毛が逆立つような感覚だった。
ここはどちらかといえばうちはの陣に近いはずだが、イズナがいない間に戦況が変わったとでもいうのか。
イズナが気配を探知するよりも前に、相手に先に気づかれていたのだとしたら。
(俺を追いかけている? それにしてはやけに真っ直ぐ走っているような……やっぱり複数いるか。この手負いじゃ撒き切れるか)
気配はどんどん近付いてくる。今から走ったとて、怪我の状態からしてすぐに追いつかれることだろう。
(隠れてもすぐ見つかる。状況はわからないが、残りのチャクラも知らない奴だった。どれも仲間じゃない可能性の方が高い。もし俺のことを辿って来たのなら、ここで迎え打つしかないーー)
イズナは全身が隠れそうな太い幹を探すとその影に身を潜めた。手元にはクナイしかないがこれで応戦せざるを得ない。
息を整え、写輪眼に切り替える。近付いてくる気配に神経を研ぎ澄ませた。
察知した気配がイズナのいる木の側を通った時、一番後ろを走っていた男の背後に回り込んだ。そして後ろから首筋に向かって鋭くクナイの切先を振りかざす。イズナの気配に気づいた相手は振り向くが、写輪眼を直視した相手は恐怖に慄くとそのまま崩れ落ちていく。幻術により気を失っていた。
だが一人倒したところで、まだ他に敵はいる。
(今、俺の存在に驚いていた? まさか気付いてないーー?)
追われていたのは先頭を走っていた忍のようだ。
イズナは残りの二人も片付けようと、倒れる一人の体をもう一方へと投げた。無力化した忍が持っていた忍刀を奪うと、追いかけるのに必死になっていた忍の男の背中を袈裟斬りにする。
「グァー!」
「……ッ、あと一人」
脇腹は痛むが戦に巻き込まれている以上、動きを止めれば最後。追われていたのがうちはの味方でなければ、残りの一人も片付けなければ命が危ない。視界の端に映った装束からしてうちはではないことは確実だ。
イズナに切られた忍が倒れると、先頭を走っていた忍の姿が目に入る。白髪に青い鎧。鎧の隙間からは血が滴り落ち、相手も浅くはない傷を負っていることがわかる。
イズナは相手の姿を視認すると目を見開き、忍刀を持つ手をしっかりと握った。
「……千手扉間ッ!」
「……うちはイズナか⁉︎」
千手の頭領柱間の弟、扉間。
相手が怪我を負っているのならば仕留める絶好の機会だ。
これまで戦場で何度か相対したが、今の扉間は明らかに動きが鈍い。イズナはこれ程の好機はないと刀を構えた。イズナの出現で焦り油断した隙を見計らい、扉間の身体に刃を突き刺そうと飛び掛かる。だが不意に、イズナの脳裏に木ノ葉隠れの里の景色がよぎった。
里全体を見渡すかのように彫られた大きな顔岩。
里の代表である火影の初代は千手柱間。そして二代目はーー、
「ーー! クソッ」
殺せるわけないだろと、悪態を吐きながら刃が扉間に届く寸前で止めた。苛立ちを隠さず刀を納める。
汚い言葉を吐き捨てながら突然消えたイズナの殺気に、扉間は肩で息をしながら不思議そうな表情で構えようとしていた刀を降ろした。
「……?」
(見逃すしかない。今なら確実にコイツをやれた……でも俺はコイツを殺せない)
未来で扉間が戦乱の世を生き延びたのなら、ここで手を下すわけにはいかない。
苦虫を噛み潰す思いで扉間を見逃すべく、イズナは立ち去るために煙幕を張ろうとチャクラを練る。だが先に、急な動きに耐えられなかった身体が悲鳴を上げた。酷く痛む脇腹に突如襲いかかる眩暈。ここ数日は病室で休んでいただけなのもあり、まともに体を動かしていないのが祟った。
「……ッ」
扉間の方も怪我を負っている。さっさと自陣へ帰ってくれればいいのだが。
「……ァー! ……扉間ァ! どこぞ!」
遠くから別の声が聞こえる。
最悪な気分の状態でイズナは声がする方へ首を動かせば、草木を掻き分け奥の方から赤い鎧の男が近付いてくるのが見えた。誰が来たか凝視するまでもない。千手柱間が弟の安否を確かめに来たのだ。
(アイツか……ああ、これが兄さんだったら……)
だが来たのが柱間ならば、負傷した弟を放ってまでイズナを追いかけては来ないだろう。酷くふらつく状態だが、イズナは扉間達から急いで距離を取った。
「扉間ァ! 無事か! ……あれは、マダラの弟のイズナか!」
気付かれたが扉間に構っているうちに少しでも離れるべきだ。
「なぜ……今日はうちはは参戦していないはずでは……! 待て⁉︎ うちはイズナ! そんな状態でどこにいく!」
「おい、兄者ッ」
イズナは走った。だが誰かがイズナに素早く迫る気配があった。
近くに強い圧を感じる。イズナは追いかけられていた。
(は? なんでこっちにくる⁉︎ お前の弟はあっちだろ‼︎)
追いついた柱間に、イズナは肩を掴まれ振り向かされる。その衝撃で痛みが走り思わず唸った。
「⁉︎ ウッ」
「やはり怪我を……! イズナ……? うちはイズナ!」
「……に……さん……」
視界が回る。イズナは堪えられず前に倒れ込んだ。慌てた様子の柱間の腕に支えられる。
治療中だった怪我は今日のこの件で悪化したことだろう。イズナは傷口は見たくないと思った。
柱間にイズナの首を取る気はないようで、敵意は感じない。イズナは体を自力で支えることもできず、そのまま柱間の腕に身を任せた。
「これは……まずい。早くマダラに伝えなければ……イズナ? イズナ、大丈夫か? おい、しっかりするんだぞ、イズナ?」
「兄者、そいつは……」
暗くなっていく視界の中、柱間と扉間が言葉を交わすのが聞こえた。