「ヒカク、サスケの様子はどうだ?」
「上手くやっていますよ」
「勝手なことはしてないか」
「ええ。……?」
「行くなと言ったところに行ったり、言うことを聞かなかったりは」
「常に付いているわけではないですが、今のところは。貴方がそれほどまで気になさるとは珍しい」
屋敷の庭の片隅で、マダラとヒカクはそんな会話を繰り広げていた。
「……何もないならいい。何も……」
「……」
ヒカク曰く、サスケはアカデミーに通っている子どもらと共に配達等の仕事から任務を少しずつ受けはじめたそうだが、今のところは特にトラブル無くこなしているとのことだ。マダラはこれまでのサスケの行動から、未来に戻る手がかりを得るべく一人で勝手にあちこちをうろついたりするかも知れないと危惧していたのだが、サスケも利口にやっているらしい。
「本日はどちらへ?」
「今日も奴らと例の検証だ。ガキの成長は早いからな……解決するのは早いに越したことはない。引き続き、サスケのことはお前に任せる」
「……」
「……」
「……そうですね」
「……?」
「……そういえば、サスケが貴方に尋ねたいことがあるとか」
ヒカクが思い出したように言った。
「俺にだと?」
「ええ。何をと聞いても、直接聞かないとダメだと」
顔を合わせていない訳ではないが、大体の時においてマダラがサスケと会う時には側には誰かしらいた。ヒカクに話せないこととは、他人には余程聞かれたくない話題なのか。何度もヒカクにマダラの予定を確認しているらしく、表では言いづらいことのようだ。
(俺に話……?)
二人の間で共通した話題なのだろう。そうなると、サスケの時代に関する話だろうか。
そのうち話を聞いてやるかと、マダラは今後の予定は何があったかと振り返った。
サスケは今日も一仕事を終えた。
商店街にある店の手伝いや配達といった任務を受けた後、ヒカクに任務完了の報告をしようとうちは地区に戻る途中でマダラを見かけた。元の時代では、この辺りには小さな公園があったはずだ。マダラは通りにはみ出した所、公園の出入り口の辺りに立っていた。なかなか二人きりで会う機会がなく、サスケはついマダラの方に駆け寄った。いつも忙しそうにしているが、今日はもう終わったのだろうか。
「おっさん!」
「……サスケか。こんな所で何をしてる」
「今日の仕事はもうないから帰ろうと……おっさんこそ、こんなとこで何して」
「おお! サスケか! 元気にしてたか!」
サスケからは死角になっていた場所から柱間が顔を出した。一人ではなかったようだ。
「……おっさん、コイツ」
「コイツはよせサスケ、仮にもコイツは火影だ」
「マダラも俺のことコイツ呼ばわりしているが?」
一人ショックを受け自分の顔を震えながら指差す柱間をマダラは無視すると、サスケの全身をくまなく見た。配達関係の仕事が多いとは聞いていたが、サスケの服には特に汚れはない。早い時間に終わっているあたり、今日のところはそんなに件数はこなしていないのだろう。
「そうだ、おっさん。そういえばアイツに……この前ヒカクに紹介されたカガミってやつに、アカデミーの同級生と芋を焼くから俺も来いって言われて」
「おお焼き芋か!もうそんな時期かァ……いいのぉ、皆で囲って焚き火で焼く芋はうまいだろうな」
「別に俺に聞かなくとも、行きたければ行けばいい」
「おっさんに許可もらいたいんじゃなくて、付き添いの大人がいねぇんだよ」
「付き添い? ガキ共で集まるならそのアカデミーの教師の誰かを呼べばいいだろうが」
「サスケよサスケ、その焼き芋会、俺が参加しても?」
柱間が興味ありげに割って入る。
「はァ?火影が?」
「お前の机の横にあった書類と巻物は残像か何かか?」
「芋を焼いている余裕があるとでも思っているのか? 兄者」
「冷たいッ!たまには俺も焼き芋が食い……と、扉間ッ、なぜここに‼︎」
突如側から聞こえた扉間の声に、柱間は後退りしながら振り返った。
「マダラと出かけてからなかなか戻らないからと様子を見にきたのだ。いつまで油を売っている」
「油は売っていないぞ! ちゃんとマダラの心当たりのある場所を巡っていた!」
柱間が扉間に説明している傍ら、サスケはマダラの方に少し歩み寄ると話を続けた。
「で、おっさんは? 火起こすのはおっさんなら得意だろうし」
「火起こし役は俺でなくてもいいだろ。お前でも出来る」
「……火遁で服乾かすのはノリノリだったくせに」
「サスケ」
「おお? 火遁で服を?マダラそんな技いつの間に身につけた?」
「はぁ……サスケ、こいつの前で余計なことを言うな」
「扉間ァ! ちょいと俺の服を濡らして欲しいんぞ! ちょっとぞ? ちょっとでいいからァ!」
「ほら見たか、興味を持っただろうが」
マダラは腰に手を当てると首を振った。
楽しそうな反応の柱間とは反対に、扉間の方はかなり落ち着いた表情で腕を組んでいる。
「兄者、こんなところでふざけている場合か」
「そ、そんな怒らなくとも良いではないか。最近厳しいぞお前。……そうそう、ところで焼き芋は……おおそうだ!」
これはいい事を思いついたと、柱間は手をポンと叩く。
「ちょうど良い! 扉間も、せっかくだし皆で行くのはどうだ?そうすれば付き添いの大人も三人になるし、サスケが今心配していることも解決するだろう。どうだ?」
「……」
「……」
「……」
「ど、どうした三人とも黙って」
妙案だろうとドヤ顔の柱間に、何も言うまいとマダラは視線を逸らす。
返事がないのに不安になった柱間はサスケの方を見ると同意を求めた。
「ということで、これで付き添いの大人が必要な件は解決……だな? うちはの少年よ」
「……」
サスケは真顔になり、マダラの方に体を寄せ柱間から顔を背けたのだった。
夕方、焼き芋の会場になっている広場にはカサカサと枯葉を集めて歩く少年らの姿があった。
サスケが言われた場所に着くと、友人と落ち葉を集めていたカガミはすっとんきょうな声を上げた。
「あ、サスケがきた……て、ええええ‼︎」
「サスケってこの間来たっていってたやつ? ていうかどうしたんだよカガミ、珍しく大声なんて出し、て……」
「ヒ、ヒヒヒルゼン、あ、あ、あの人は」
カガミはすぐ側で同じくらいの落ち葉の山をちり取りでかき集めていたヒルゼンという少年に震える声で応えた。ヒルゼンはカガミのおかしな反応にその視線の先に目を向けると、サスケの後ろに立つ男をみて固まった。
(あ、あれって、カガミんとこの、この間帰ってきたって言ってたうちはの族長ォ⁉︎)
つい先日まで行方知れずとなっていたうちはマダラの姿があった。ヒルゼンは猿飛一族の出身。直接会って話したことはなくとも、顔と名前は知っていた。それに時々里の中でも見かけている。
カタカタ震えながら、カガミはサスケに話しかけた。
「サ、ササササスケ、ヒカクさんは?」
カガミは落ち葉を落とさないようしっかりとちり取りを抱える。
「カガミ、待たせた。おっさんが恥ずかしがったせいで遅れちまった。ヒカク?戻っても会わなかったから声はかけなかったぞ」
「そ、そう。え、えっと、マダラ様……ですよね」
「お前がサスケが言っていたカガミか。火起こし役がいると聞いてきたが」
「火起こし? あ、ありがとうございます……? サ、サスケがマダラ様をつれてくると思わなかった……」
カガミは恐る恐るマダラを見上げた。笑みのない表情と長い前髪のせいで顔に影が落ちているのもあり、幼く背丈の低いカガミにとってマダラの姿はとても威圧感があった。
(サスケ、この人とどんな関係なんだ……怖くないのかな)
マダラが里に帰ってきたのはサスケが姿を現したのと同時期。カガミはヒカクの後に続いてうちは地区を歩く二人の姿を見かけていた。
「カ、カガミ、カガミ! 早く置きに行こう!」
「ッ!」
マダラの顔を見て固まっていると、側のヒルゼンの声にハッとし頭を下げてから落ち葉の山の方へと向かった。
サスケが慌てて走り去ったカガミの後ろ姿をチラリと横目に見る。
(……おっさんが来ただけでこの反応)
今の彼らの反応は、マダラに恐れの感情を抱いている物だった。そうでなければ、そんなに急いで離れることもない。サスケとカガミでは、マダラに対して知っている情報が異なるようだ。
サスケにしてみればマダラは同級生の同居人という認識だが、カガミにとってはマダラはうちはの元代表。不可抗力で今は長の座を次代に譲っているとはいえ、カガミ達子どもらが大人達から聞かされる当時の戦時代の話は畏怖の念を抱かせた。何も知らない子どもでもない限り、そもそも対等の立場で話しかけて良い人物ではない。カガミのあの反応はおかしくないのだ。
昔から怖い印象を抱いている元族長。そのイメージが強いからこそカガミ達は怖がるような反応をするのだ。サスケはなんとなくマダラを見上げた。
「……おっさん、顔が怖すぎるんじゃないのか」
「いきなりなんだ」
「たまには団子屋の時みたいに髪でも結んでみろよ。客に逃げられてなかったし。それにずっとおろしてて邪魔じゃないのかよ」
「……」
団子屋でのマダラの様子を思い出しサスケが提案する。団子屋の客の中には小さな子どももいたが、カガミ達のように逃げるような反応は無かったはずだ。エプロンもあった方がいいかも知れない。黒を基調としたシンプルなデザインであるうちはの装束よりは、威圧的な印象は持たれないだろう。
そのままいっそのこと団子を作り始めてもいい。
「たまに結えてるぞ」
「いつ?」
「日中、暑い時に。お前が言うように邪魔だからな」
「うそだろ。見たことない」
「別行動をしているしな」
そんなまさかとサスケは首を傾げる。
(ていうか、おっさんも自分の髪邪魔だと思ってるのかよ)
皆がマダラの登場によりソワソワしながら焚き火の準備をする隣で、マダラとサスケはなんて事のない話をしているのであった。
残りの落ち葉をかき集めた大きな焚き火が広場を照らす。
焚き火の灯りが、帰り支度を始める子ども達の影を地面に躍らせている。
パチパチと焚き火の音を聞きながら、カガミは一人友人らとは離れ燃え盛る炎を眺めていた。
ゆらめく炎が暖かく幼い顔を照らす。
(……熱い。マダラ様がつけた火だ)
焼き芋用に集めた落ち葉に続き、今燃えるこの焚き火の炎もマダラが点けていた。
焼き芋作りの方はというと、無事成功を収めた。途中火影とその弟が訪れるというカガミ達にとってはちょっとしたハプニングが起きたが、二人を初めて見かけるというわけでもなく、また弟の扉間の方は何度かアカデミーで会ったこともあり混乱はすぐ落ち着いた。
ぼんやりと眺めていると、カガミは不意にそばに気配を感じ取り振り返る。誰だろうかと、首を大きく傾け見上げた。側に来たのはマダラであり、カガミは少しばかり緊張で背筋をピンと張った。
「……」
「……あ、その」
「……帰らないのか。アイツらは帰るようだが」
「ええっと、その。火に、当たりたくて」
声をかけられるとは思わず、しどろもどろになりながら言葉を返した。
焼き芋を作っている間は、火の番をするマダラの側には大体サスケが居た。焼き上がり芋を食べている時も火影が絡んだりしていたのもあり、カガミがマダラから話しかけられる機会はなかった。
一人では不安だと、カガミは思わずサスケの姿を探した。
「サスケは」
「サスケならあそこだ。ああ、お前からは柱間の陰になっていて見えないか」
マダラが言った場所を見てみれば、確かに柱間の後ろにサスケの影が見える。
「……ほんとう、ですね」
カガミはどんどん声が萎んでいくのが自分でもわかった。気弱な性格ではないのに、どうしてかいつものように話ができない。どうしてだろうかと、カガミは拳を握った。萎縮する必要などないでは無いか。同じうちはの人間だ。そもそも大人のマダラはいきなりカガミをからかい、いじめてくるような人間では無い。
焚き火の音がパチパチ響く。
(……サスケは普通にしてるじゃないか。族長って言われたらすごいお偉い人みたいな感じだったけど、今はちがうんだし……それに)
カガミは頭の中がまだまとまらない状態であるが口を開いた。
「あ、あの」
「?」
「今日は、来てくれてありがとうございました。すごくおいしく焼けたし……サスケも言ってたんですけど、火加減がすごい上手だって。オレもいつか上手く芋を焼いて」
「カガミ、芋を焼きたいのか?」
「ちが、芋じゃなくて。芋だけじゃなくて」
上手く言葉がまとまらない。何か話を続けようとカガミは必死に考えた末にある事を思い出す。
「あのサスケから聞いたんですけど」
(……サスケか。何を話したんだか)
「千年殺しって……?」
カガミからその言葉が聞こえた瞬間、僅かにマダラの眉が上がった。
「すごい上手いって。聞いたことがない術ですけど、どんな術なんでしょうか……?」
「……」
「マダラ様?」
「……はあ」
マダラは腕を組むとため息をついてしまった。
なかなか返事をしてくれないマダラにカガミは不安になる。聞いてはいけないことだっただろうか。
「も、もしかして、うちはの中でもひっそり伝わる秘伝の術だったとか」
「そんなものではない」
「は、はい」
マダラはすぐに否定した。
大層な名前のついた術だ。どんなすごい術なのかと羨望の眼差しを向けるカガミに、千年殺しがただの盛大なカンチョーだとはいえまい。そしてカンチョーが上手だと思われても困る。
「おーいカガミィ、帰ろうぜー!」
「おーい」
遠くからヒルゼン達がカガミを呼ぶ声が聞こえてきた。確かに、そろそろ帰る時間だ。カガミはマダラを一度見上げ、軽く頭を下げたあとヒルゼン達の方へと駆け出した。ある言葉を添えながら。
「あの、こんど千年殺しについて教えてください!まって、みんなァ!」
カガミが幼子達の輪に合流する。
「おいカガミ、千年殺しについて聞いたのか⁉︎ で、なんだったって?」
「こんど教わる予定!」
「えー、いいなァ」
そんな声が遠くからマダラの元まで聞こえてきた。
パタパタ離れて行った足音と同時にマダラに近づく気配がひとつ。近付いたのはサスケだ。サスケの手には持ち帰り用の芋が入った包みがある。ヒカクにも分けたらどうかと柱間が気遣って包んだらしい。
「おっさん、何話してたんだ?」
「サスケェ……ガキに千年殺しを吹き込むんじゃない。流行るだろうが」
「おっさんが千年殺し使ってるって言っただけでどんな技かまでは教えてねェよ」
「やめろ、俺が使ってるとか。そんな記録残されてたまるか」
「別にいいだろ。カカシも使ってたが、発祥はどこなんだろうな」
「良いわけあるか。さあな。俺ではない事は確かだがな」
「どうだかな」
「ありえない」
マダラもナルト経由で知ったのだ。サスケの元の時代というべきか元の世界というのが正しいか、そこのうちはマダラが自身と同じような事に巻き込まれでもしていない限りは千年殺しの存在を知る事はないはずである。一体何処の誰がカンチョーにこんな立派な名前を付けたのだろうか。
「……」
「……」
二人して焚き火の音を聞きながら、千年殺しの歴史に思い馳せるのであった。