「お前は! なんてもんを! 教えてるんだ!」
「イタ!イダダダダ! おっちゃん! イタイ! イッテーーー!」
「わあああ! ナルトにいちゃーーーーん!!」
里の外れにある通りで、ナルトがマダラにこめかみを両手でぐりぐりと押され悲鳴をあげている。
そんなナルトに、幼い少年ーーヒルゼンの孫の木ノ葉丸も悲鳴をあげた。
なぜマダラがこんなことをしているのか、それは少しばかり時を遡る。
今日は昼から暇な時間ができるため、ナルトが久々にマダラに修行をねだってきた。
早めにマダラが集合場所に向かっていると、里の外れとはいえ住宅が立ち並ぶ通りでナルトが、彼よりも幼い子どもと二人で何やら印を組み始め、ボフンッと言う音がしたかと思えば、煙の中から裸の女体が現れたのだ。
幸い変化の際に出た煙のおかげで大事なところは見えていないのだが、静かな通りでいきなり裸の人間が現れたものだからマダラは訳もわからないままナルトの肩をガッツリ掴むと脳天に一撃喰らわせたのだった。
あっけなくナルトの変化は解かれ、いつものナルトの姿が現れるとマダラは逃げ出す前に襟首を掴み自身の体の方へ引き寄せ、そして両手でナルトのこめかみを押し始めたのだ。
「ワァ!? ナルトにいちゃん!? 誰だ! コレ!!」
「こ・れ・は・なんだ!」
「イテッ、イテテテ! お、お色気の術だってばよ〜〜ぎゃー」
「お色気の術だァ?」
「ヤイコラ!! ナルト兄ちゃんを離せ、コレェ!」
「さっきからコレコレと、なんだお前は」
「うっ! ……ナ、ナルト兄ちゃんを離せ!」
木ノ葉丸は勇気を振り絞り、マダラの手からナルトを救い出そうと試みた。
マダラは少し怯えながらも自身を見上げ言い続ける子どもに、気概のある奴だと少しばかり感心して手を止める。
「悪いがそれはできない相談だ。それで、どうせさっきの術は大方ナルトに教わりでもしたか……なぁ? ナルトォ?」
「……お、おお、おっちゃん」
「あの出来となると、かなり前から練習していたようだな……?」
「……う」
「人様のガキにこんな術を教えるなんて。……どうしたらいいんだよ」
マダラはしばらくしてナルトから手を離すと、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
先程ほんの僅かにしか見えなかったが、ナルトの『お色気の術』とやらはよく完成されていた。きっとかなりの研究を重ねたはずだ。
ナルトと過ごして早二年、一度も見たことがないがずっと極め続けていたはずだ。マダラが見ていぬうちに。
マダラが術に引いていると、木ノ葉丸はマダラの前で両手に腰を当て、震えながら声を張り出した。
「こんな術とはなんだと、コレ!! この術はジジィを倒せた、すごい術なんだぞ!」
「ジジイ?」
「あー、あー……木ノ葉丸? ちょ、ちょっと待っ」
「火影だ、コレ!! ジジィなんてコレで一発だ、コレ!」
(一発? 火影? )
お前の弟子とんでもないスケベ爺になってるぞと、マダラは心の中で扉間に伝えておいた。
そして何度か木ノ葉丸の名前が呼ばれたところで、マダラはそれを呟いた。
「木ノ葉丸な……へぇ」
「な、なんか言いたいことでもあんのか、コレ」
「はぁ、とりあえずお前も良く聞け木ノ葉丸、この術は人前で絶対に使うんじゃない。いいか、この術は人前では使うな。特にナルト、次こんなところでやったら……わかってるだろうな」
「わ、わかったてばよ。おっちゃん顔が怖すぎるってばよ」
「何か言ったか?」
「な、なんでもない!」
ナルトと木ノ葉丸は互いに肩を寄せ合い、ガタガタと震えながらマダラに頷いたのだった。
その後木ノ葉丸と別れた後、ナルトは場所を移動するとマダラとの修行を始めることになった。
よく使っていた修練場についてからもしばらく無言の間があり、ナルトはマダラから向けられる視線にぎゅっと首を縮こませていた。
二人きりになった今、怒られるのだろうか。
ナルトが顔をそらし空を見上げていると、マダラが口を開いた。
「ナルト」
「な、なに、おっちゃん」
「無機物に変化したことはあるか」
「むきぶつ?」
「例えば、クナイとかだ」
「……うーん、ないってばよ」
ナルトの返事にマダラがまだ黙り込む。
何を言われるのかナルトが緊張していると、マダラはクナイを数本取り出し木にぶら下がっている的に向かって一気に投げた。
クナイは的に綺麗に刺さっている。
ナルトは、おぉ…と刺さったクナイを眺めていると、頭上からマダラの声が聞こえてきた。
「一気にクナイが飛んできたとする。例えばその中の一つでも変化した人間であったのなら」
「あ! 敵に一気に近づけるってばよ!」
「そうだな。特にお前は影分身もできるからな。変化も得意なら、本物と見分けがつかないくらいに出来るようになれば……」
「スゲェ使えそうだってばよ! おっちゃんやったことあんの?」
「ん? あー、俺はまともに試したことはないな」
「え、そうなの?」
「まあ、状況によって戦い方も異なるってことだ」
マダラはナルトに影分身を出しながら自身と手合わせするよう言い、その最中に今言ったことを試してみろとそう伝えた。
「おっちゃんと? でも、影分身したら人数も増えるし」
「起爆札付きのクナイが飛び交うとこにいたんだこっちは。何度も言ってるが、下忍になりたてのお前にやられるわけがないだろうが」
「おっちゃんも下忍になったばっかじゃん」
「経験の差が違う、経験の差がな」
いいからやるぞとマダラは手を叩き、ナルトの気を引き締めさせた。
ナルトは印を結び影分身の術を発動させると、周囲に二人のナルトが現れた。
「どいつからでも構わん。さっさと始めるぞ」
「おっす! 行くぞー!」
ナルト達が同時にマダラに向かって走り出す。
それぞれ適当にマダラに攻撃を仕掛け、どれが本体なのかわからなくなってきただろうとナルトが思った頃、本体がクナイにさりげなく変化し影分身の一人がマダラに向かって本体を投げた。
割とうまく投げられたとナルトが思ったのも束の間、マダラは簡単にクナイをつかむと素早くそれをナルトの影分身へ投げ返し、ギョッと驚いている影分身に気を取られたもう一人も動きが鈍ったところをマダラは容赦なく首根っこを掴み、クナイが飛んでいった方向へと投げつけた。
避けるまもなく動きが止まっていた影分身にクナイは刺さり、ボフンと情けない音が響くと全ての影分身は消え、そして本体のナルトも変化を解いた。
「ギャー!! オ、オレ、生きてる!?」
「いちいち叫ぶな。タイミングは悪くなかったが、もう少しさりげなくやれ。今のだと誰が本体なのかバレバレだ」
「オレ、死んだ! 今! おっちゃんにやられた!」
「あれくらい避けろ。気を抜いてるからだ」
ナルトは両手を胸元辺りでワタワタとさせ、怪我がないかを確かめる動作を繰り返す。
クナイに変化していた時の、マダラに掴まれた時のゾッとした感じは忘れられないだろう。
(いつも思うけど、どうしたらおっちゃんの裏をかけるんだってばよ)
組手をする時も、いつも軽くいなされてしまう。
一度くらいはナルトもマダラの意表をつきたいものである。
お色気の術は使ったら最後、とんでもなく長い説教が待っていそうだ。
だがそもそもマダラにお色気の術が効くのだろうか、ナルトはマダラがヒルゼンのように鼻血を吹いて卒倒するような姿は想像できなかった。
(そういやおっちゃんの好みって……なんだろ?)
ナルトがそんなことを考えているとは、マダラは知る由もない。
「ほら、続けるぞ」
「あ、うん!」
ナルトは深く息を吸うと、再び印を結んだのだった。