嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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イツキ達が黒服(ヒロイン)と華やかにキャッキャウフフと談笑をしている最中、対策委員と先生はゲヘナ風紀委員や便利屋68とヒャッハーしております。




ゲヘナ風紀委員長

 

建物の上を跳び、最短距離を導き出す。

 

現状、イツキとホシノには状況が把握出来ていない。届いていた着信履歴は数こそ嵩むが要件は解らず。余程切羽詰まっているのか、モモトークにも短いメッセージが連発されているだけで事柄については触れられていなかった。

 

故に普段はのんびりとしているホシノも焦り、それが"らしくない"行動に繋がっているのだろう。

ヘイローを持つ一般的な生徒と比べても過剰な身体能力を秘める二人にとって、整備された『道』は非常に窮屈だ。急激な曲がり道に、数は少ないが住民や車等も通る。少なくない信号機も立場上無視出来るものでもなく、やはり窮屈という言葉に尽きる。

 

なので申し訳ないと心の中で謝りながら家々やビル、店の屋根や屋上を足場にして唯一データとして送られてきていた地点に急ぐ。

 

やがて一際高い建物から跳ぶと、遠くに薄灰色の煙が見える。心做しか喉奥を刺すような硝煙の臭いもあり、爆薬や銃撃戦が繰り広げられているのは確実だ。

嫌な予感が脳裏を過ぎるが、然し対策委員には先生がついている。万が一もないと今は断言出来た。無論、そんなイツキの思考もホシノにとっては信用に足らないのだろうが。

 

淡々と、然し隠せない焦りを滲ませてホシノは遠くを凝視する。

 

「……イツキさん、アレって…」

 

「…ただの火事ってワケでもなさそうだね。銃声は聞こえないから……解決したか、交渉でもしているかだね」

 

「交渉ねぇ…うへ、アビドスに交渉を求めるなんて碌な相手じゃないよ。どっちにしろ急がないと」

 

視線を交わし、頷いてから速度を上げる。スピードの出し惜しみをしているワケではないが、足場となる建物への配慮はあった。

小柄だとしても、脚力は常人とは比べられない。それに加えてホシノは銃と盾、イツキは人一人分以上の重さを誇る鉄の棒を持っている。全力で踏み締めれば民家の屋根程度は洒落で済まない穴が空く。

 

それから数分、高いビルの上から開けたスクランブル交差点を見下ろす。

 

無数の爆発痕と銃撃によって崩壊する無数の建物。パッと見ただけでは数え切れない人数の生徒と、それに相対する先生を含む対策委員。

視界の端には人気(ひとけ)のない路地裏を全速力で逃げる便利屋68の姿があり、イツキの記憶が正しければ交戦が停滞するまではアビドスに力を貸してくれていた筈だ。尤も、現状の種となったのも彼女達だったのだが。

 

驚くべきは敵対勢力の大半が撃退されている事だ。地力の違いか、先生の指揮による結果か。

 

「みんなは……うん、無事だね。うへ…状況は分からないけど、交戦は落ち着いているっぽいね」

 

「…そうだね。お相手さんはゲヘナ風紀委員かな」

 

全員が銃口を下げているが、残されたゲヘナ風紀委員に囲まれるアビドス生の表情は険しい。その発端は彼女達の眼前に立つ生徒――風紀委員長、空崎ヒナだ。

広いキヴォトスを持ってしても匹敵する生徒を見つけるのに困難を極め、紛うことなきゲヘナ最強の称号を周りから与えられている生徒。

 

そんな彼女が対策委員とぶつかったらどうなるか、結果は想像に難くない。

 

「さて、行こっか」

 

ホシノの言葉を引き金に二人はビルの屋上から走り、()()()

 

◆◆◆

 

事の始まりは市街地での爆発だった。

 

イツキとホシノを除くアビドス廃校対策委員のメンバーと先生が揃う部室にて、アヤネが()()を検知した。

事情云々は省くとして、その原因は依頼によってアビドスと敵対していた便利屋68だった。彼女達特有と言える、"ドジ"によりセリカのアルバイト先である柴関ラーメンが起爆されてしまう。

 

そこからは市街地が苛烈な戦場化するまでは早かった。最初は対策委員と便利屋の戦闘が始まり、次に便利屋を捕らえるという()()()()()()先生の身柄を狙ったゲヘナ風紀委員が無断で攻め入り、そのまま便利屋と対策委員が手を組んで対抗。

然し半刻程度の銃撃戦も風紀委員長である空崎ヒナが現れることで一時的に止まった。風紀委員の行政官である天雨アコによる独断行動だったらしく、彼女よりも役職が上である空崎ヒナが出てきた時点で必然的に皆が銃を収める。

 

 

二人が駆け付けたのは、そんな混沌とした現場だ。恐らくは空崎ヒナも対策委員も状況を一から十までは理解出来ていない。

それ故の混乱が起きてしまい、硬直しているのだろう。

 

 

――ドンッ、と。

 

 

「「「っ!?」」」

 

二つの()()()が先生や対策委員と、空崎ヒナの間に生まれた。罅の入ったアスファルトの中心地点には砂埃が起き、十数秒を要して辛うじて落ち着いた其処には二人の小柄な生徒が居る。

小さな欠伸をする少女と、相変わらず陰鬱で読めない表情を浮かべる中性的な生徒だ。

 

「え、な…なんで空から降ってきてんの!?」

 

心強い仲間の登場だが、それが予想外の方法により行われ、セリカは声を上げた。無論、驚き慄いたのは彼女だけではない。

 

「うへ〜、これまた何だかねぇ。スゴイことになってんじゃ〜ん」

 

「みんな、怪我はない?」

 

「みーんな無事ですよ〜。……少し、危なかったですけどね」

 

ノノミはミニガンを地面に置いて微笑むが、やはり頬が引き攣っている。声質通りの余裕はなく、それだけ空崎ヒナに警戒心を抱いている証拠だ。

 

然し、そんな強張る皆の表情も徐々に氷解する。

 

――アビドス廃校対策委員の委員長、そして生徒会副会長の小鳥遊ホシノ。トリニティ総合学園所属でシャーレの部長である水面イツキ。

この場において現状を打破出来るだけの人物であり、心做しか無表情を貫く空崎ヒナにも困惑が見えた。

 

「ホシノ先輩!それにイツキさんまで…!!」

 

「よしよし、アヤネちゃん泣かないでね。おじさん達、ちょっとばかりお昼寝しすぎちゃってさ〜」

 

「な、泣いてないですよ!」

 

「ひ、昼寝ぇ!?こっちは大変だったのに!ゲヘナのヤツらが……!」

 

「ごめんね、セリカ。この責任は全部先生が取るからね」

 

「………え、私!?」

 

イツキは忘れていない。ホシノを追って部室を出る際に先生は『責任は全て取るから』と胸を張って言っていた事を忘れていない。

故に()()()()()先生に押し付けてみた。きっと彼ならば何とかしてくれると信じて――否、()()()()()のが不変的な『先生』という存在の在り方なのだ。

 

皆の無事を直接確認すると、ホシノとイツキは後ろへ振り向き、ゲヘナ風紀委員長と視線を交わす。直ぐさま戦う、という雰囲気でもないが。此方が戦意を示せば彼女も相応の対応をするつもりなのだろう。

 

「うーん、事情はよく分からないけど。これで対策委員は勢揃いで、しかもシャーレのトップツーまで揃ったね。さて、どうする?ゲヘナの風紀委員長ちゃん?」

 

「……小鳥遊ホシノに…イツキ」

 

「久しぶりだね、ヒナ……出来れば、こんな形で再会したくなかったよ」

 

「ん、知り合いなの?」

 

「『友達』だよ。…少なくとも、私はそう思っているよ」

 

「……ええ、そうね。私もそう思っている……あなたがそう言ってくれるなら、そうで在りたいわ」

 

改めて顔を合わせ、形容し難い気まずさに俯く。叶うのであれば敵対ではなく、背を合わせて戦えるようなモノで在りたかった。若しくは道端で偶然会うか、いつも通りに不良生徒を取り締まる際にでも出会すか。

何事もない日常で、大事に関わらず『友達』として接したかった。空崎ヒナはそんな『普通』に強い憧れを抱く少女なのだ。

 

"前"の記憶からヒナの内面を知るイツキは、どうしようもなく不器用で、然し強い責任感と義務感で突き動かされる彼女に同情する。

だからこそ、この場で敵対者として武器を向けるのは不本意でしかない。

 

「うーん、お友達でしたらお話して撤退してもらえないでしょうか?」

 

「ごめんね、ノノミ。この場で私情なんて持ち出せないんだ。私も、彼女もね」

 

「面倒な立場だね〜。ま、おじさんもそーなんだけどね?背負うってコトは、戯言に等しいとしても堂々と"大義"を掲げるってことだよ。ゲヘナの風紀委員長ちゃんも、先生やイツキさんも、所謂ポリシー的な?そーゆーのがあるんだよね」

 

「………イツキさん、ホシノ先輩に変なモンでも食べさせた…?なんか小難しい事言ってるんだけど」

 

「うへ……セリカちゃんが辛辣ぅ…」

 

ホシノは態とらしく泣いたフリをしてノノミに慰めてもらう。"らしくないこと"を言った反動、もしくは崩れた飾りを被り直している最中なのだろう。

 

アビドス生徒の醸し出す日常の雰囲気に、一方でそれを包囲するゲヘナ風紀委員生徒からは苛つきが伝わる。無論、ヒナは無表情を保ってはいるが、元より怒りの沸点が低いゲヘナ生徒は構えこそしないが銃を握る力が増す。

 

其れを感じ取ったか否か、泣いたフリを止めたホシノはヒナとその後ろで警戒心を崩さない風紀委員に向き直る。

 

「――さて。改めて問うよ、風紀委員長ちゃん。私達とヤる?」

 

ホシノは問い掛ける。

 

この場でまだ意味の無い交戦を続けて両者共倒れになるか、潔く『無意味』を認めて立ち去るか。言わずもがな、アビドスの統括地域とされている場所で更に大規模な銃撃戦を繰り広げれば連邦生徒会だって動く。

その場合シャーレの先生側と、生徒の大半の素行が悪いことで有名なゲヘナ側、どちらに利があるのかは考えるまでもない。

 

元より結論を決めていたのだろう。ヒナは浅い溜息を零し、踵を返す。

 

「……いいえ、私も戦う為にここに来たわけじゃないから。…イオリ、チナツ」

 

「委員長…」

 

「……はい」

 

「撤収準備、帰るよ」

 

「……えっ!?」

 

褐色肌で小柄な生徒――銀鏡イオリから吃驚の声が漏れる。風紀委員の切り込み隊長であり無鉄砲で猪突猛進ぎみな性格の彼女には、戦闘続行の選択肢しかなかった。

命令さえ貰えれば直ぐに突っ込む気すらあった故に気持ちが空回ってしまう。

 

そして奇しくもシロコやアヤネも同様の反応だった。

 

ゲヘナの風紀委員長の噂はアビドスにまで届いている。その大半が彼女の優秀さよりも凶暴さ――所謂()()()()()()()だ。噂通りの彼女ならば単独でも攻め入る。噂通りの彼女ならば扱う凶悪な銃を用いて土地ごと破壊する。

勿論、全て過剰に盛られた噂だ。普通の生徒ならば到底信じるモノでもないが、何分、アビドスの生徒はアビドスから殆ど出ない。その弊害で誤った情報を鵜呑みにするきらいがあった。

 

「……事前通達無しでの無断兵力の運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こした事。…この事については私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の代表として、アビドスの対策委員に対して公式に謝罪する」

 

「「「っ!?」」」

 

頭を下げるヒナに対して、対策委員だけでなく風紀委員の皆も驚き、動揺する。それだけ風紀委員長が頭を下げるという行為は重く、下手な口約束よりも重大な意味を孕む。

 

「今後、ゲヘナの風紀委員がここに無断で侵入することはないと約束する。どうか…許して欲しい」

 

「………うん、いいよ。今回は許すけど――()()()()()()?その言葉、私たち対策委員だけじゃなくてシャーレの先生と部長も聞いてるんだよ。約束を破ったら()()()()()は覚悟してよね」

 

「……ええ」

 

――刹那、ヒナの瞳に畏怖が映る。

 

この場において、彼女が最も危険視している人物の一人が小鳥遊ホシノだ。ヒナはホシノの()()を知っている。まだ情報部所属だった頃、自校にとっての危険分子として把握していた。

その彼女が外見も性格も大きく変わり、然し瞳の奥には隠しきれない敵愾心を秘めて自分の前に立っているのだ。力や知力ではなく、得体の知れない何かで背が冷える感覚がした。

 

だがヒナは軽く首を振って気持ちを整わせ、退却の準備を進める。気絶している生徒の容態を確かめ、重傷者がいないことを確認すると叩き起す。

銃痕は仕方ないが、銃弾は出来る限り回収して帰るつもりで身近な物を集め、改めて散乱した瓦礫や剥がれるアスファルトに溜息を誘われた。

 

 

十数分程度を要して大方準備が終わる頃、その光景を読みづらい陰鬱な顔で眺めるイツキにヒナが歩き寄った。出来るだけ周りに聞こえない様、小声で話し掛ける。

 

「……イツキ、ちょっといい?」

 

「うん?どうしたの、ヒナ」

 

「後で…ううん、時間が空いたら直ぐにでもメッセージを送るから。先生に報せて欲しい。まだ万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)やティーパーティーも知らない筈の情報だけど……多分、あなた達には必要な事だから」

 

「…了解したよ。ありがとう」

 

「感謝なんてしないで。今回の件のお詫びもあるんだから…」

 

「それでヒナが納得出来るなら、私達はそのまま受け取るよ。だから、これ以降は貸しも詫びもない平等な関係に戻ろうね」

 

「……あなたのそう言う所、狡いと思うわ…本当に」

 

「ごめんね、我儘で」

 

「…………」

 

イツキは小さく悪戯に笑い、ヒナの頭を撫でる。アビドス生や風紀委員の部員がギョッとした顔をしているが、ヒナは特に表情を崩すこともない。

彼女に寄り添い、支える。それが嘗てヒナを護れなかったイツキに出来る償いだ。ヒナだけでなく"前"のイツキが取り零して救えなかった生徒には、報いるつもりだ。

 

何の意味もない命がなくなり、やがて忘れられるまで。嘗ての生徒を救い、報い、償い続ける。それだけがイツキの()()()だ。

意識的でもなく、そう在る事が『先生』でいる事を捨てて逃げてしまった水面イツキの本懐。そうでもしなければ()()()()()()

 

 

その後、間もなくして風紀委員会はアビドスから去った。

 

一応は安心を得られたが、やはり皆の疲れや混乱もある。故に現状の共有やヒナから送られる"情報"の伝達は後日にする事にした。

その後は柴関ラーメンの大将を病院まで送り、重い足で対策委員も学校まで送り届け、先生とイツキもまたシャーレのビルへ帰った。かなりの疲労はあるが、まだ少なくない書類仕事が残っている。

 

イツキは久しく忘れていた社畜魂を思い出し、先生の仕事を手伝った。

 





感想や評価、とてもありがたいです。感謝の印としてトリニティ・ゴリラがペロロジラとロールケーキを踊り食いします。
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