嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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今のところ、敢えて主人公と便利屋68は鉢合わせしていませんが、ちゃんと裏では先生が原作通り何やかんやしております。



企み

 

――翌々日。

 

「みんな、おはよう」

 

イツキは再びアビドス高校に来ていた。先日の件もあり状況の整理やヒナから送られてきた情報の共有、その他にも諸々やらなければいけない事柄がある。

 

先生や対策委員への協力とは別に、イツキは行動指針を定めなければいけないのだ。起こるべくして起こる問題に生徒と共に取り組むか、そもそも問題自体を完全に取り除くか。

生徒となってから今に至るまで、何度も頭の中で思考を重ね、度々同じ答えを出している。

後者は選ぶべきではない。俯瞰した視点から語るとすれば、過干渉は生徒の成長を阻害しかねない。

 

偽りのない事実だけを並べるのであれば、Butterfly effect(バタフライ・エフェクト)によって更なる厄災を呼びかねない。

それを危惧して、イツキはイツキ自身の識る()()を崩せないのだ。

 

「おはよう、イツキ………ん?あれ、先生は…?」

 

個々が挨拶を返す中、シロコには当然とも言える疑問が生じる。この場において話し合いをするのであれば、先生の存在は必要不可欠だ。

イツキは軽く首を傾げた後、小さく頷きながら()()()()()()()を床に転がした。

 

「なにそれ?あ、もしかしてお土産!?」

 

「ごめんね、セリカ。それ()()だよ」

 

「え゙っ…」

 

「あらあら、ふふっ☆」

 

転がる麻袋の紐を解き、中から寝息を立てる先生を引き摺り出す。

 

単なる拉致現場に見える現状だが、翌々日からの大量の書類仕事による結果としか言い様がない。先生は便利屋68やゲヘナ風紀委員会との戦闘指揮の後、帰ってからも仕事があり、その次の日もイツキは居合わせなかったがアビドスを去る便利屋68の見送りや柴関ラーメンの大将のお見舞い等もしていたらしい。無論、その後も仕事だ。

 

生徒や部長として手伝える分の仕事はイツキも手伝ったが、最終的には先生の確認や承認印が必要なものばかりだ。

まだキヴォトスでの日も浅く、"前"の経験があるイツキとは違い不慣れな仕事に追われた結果、今も尚雑な扱いを受けても寝続けているのだろう。

 

「Zzz……」

 

「んー、こりゃあグッスリだね。うへ〜、社会人って大変そうだねー。…先生だけじゃなくてイツキさんも目の下に隈あるね」

 

「まあ……そうだね。昨日から寝てないし」

 

「えっ…ね、寝てないんですか!?」

 

「三徹までは余裕。エナジードリンクがあれば四徹…いや、五徹も…!ハハ…寝ないでいると段々楽しくなってくるんだよね。限界に挑むアスリート的な?ハハッ…」

 

「……私、これ知ってるかも。アレでしょ、深夜テンションってヤツだ…」

 

セリカは達観した目で社畜の卵(イツキ)へ哀みの視線を向けた。普段は陰鬱で鈍く曇った瞳をしているイツキだが、心做しか爛々として若干ではあるがテンションが高い。

そんな先生とイツキを見兼てホシノはパンッと両手を叩き、注目を集めた。いつも通り浅い笑みを浮かべて独断による決定事項を発表する。

 

「…よしっ、じゃあ会議は二時間後に変更ね」

 

「了解しましたー♪」

 

「……ホシノ、私と先生の事は気にしないても良いんだよ?多少の無理なら問題な――」

 

「いーや、おじさんが寝たいだけだよ。セリカちゃん、お膝かして〜!」

 

「え、嫌だけど……ノノミ先輩に頼んでよ」

 

「どーぞですよ〜☆」

 

「ぐすん…後輩が冷たいよぉ……いいもんね、イツキさんを抱き枕にしながらノノミちゃんの膝枕で寝るんだからね!」

 

「……セリカ、何故か私が巻き込まれた事について言うことは?」

 

「空ってとても青いと思うの」

 

「……………なるほどね、じゃあ私はセリカを抱き枕にするよ」

 

「な、何でよ!?この…ち、ちから強くない!?全然離れないんだけど!?離して〜っ!!」

 

「ん、自業自得」

 

「言うほど自業自得なんですかね…?」

 

◆◆◆

 

――二時間後。

 

「ん……?」

 

先生は厚手の麻袋の上で目を覚まし、何か()()()()()()()モノに押し潰されている感覚に気が付く。決して息が詰まるほど重くはないが、然し先生の身体を覆うほど巨大な何かだ。

身を捩りのしかかる何かを横に転がし、まだ鈍く不明瞭な頭を其方に向けると――

 

「……っ!?う、うわあぁぁぁあ!!」

 

ずんぐりむっくりとした体型に二本の太く黄色いアホ毛。双眸それぞれに三本の睫毛があり、その点は愛嬌とも言えるが、然し奇怪さを醸し出すのは斜視の如く焦点が定まっていない瞳だ。

薄く開かれた嘴からは鳥がモチーフとは思えないほど長い舌が垂れ、ほんのりと朱く染まった頬によって正気とは思えない歪さが在る。

 

――それは巨大なペロロ様ぬいぐるみだった。

 

仕事明けの気絶に近い睡眠の後に見る其れは、まるで寝込みをエイリアンに襲われるような恐怖だ。つい、年甲斐もなく先生は悲鳴を上げてしまった。

 

「あ、先生起きたんだ」

 

「し、シロコ…?……ここは…アビドス…?あれ、何で私アビドスに居るんだろう…」

 

「二時間ほど前にイツキさんが……えっと、麻袋に入れて担いで来てましたね」

 

「アヤネ……そっか、イツキには迷惑かけたね。まあ、いつの間に麻袋に詰め込まれたのかは全然覚えてないんだけどね。…ところでイツキは?」

 

気を失う前の先生の最後の記憶は、朝方に大量の書類仕事を終えてシャワーを浴び、そのまま休眠室のベッドに倒れ込むまでだった。

端末の目覚まし機能はセットしておいたが、アラームを聴いた記憶がないという事はイツキが止めたのだろう。

 

つまり、先生が寝ている間にイツキが先生を麻袋に詰めてアビドスに向かった事になる。イツキも先生と同様に一晩を明かしている筈なので、申し訳なく思う。

せめて礼を云うべきだと部室内を見渡し、()()に気が付いた。

 

「これは…」

 

「ん、仲良しだね」

 

床に敷かれたシーツの上で座椅子に背を預けながら寝息を立てるノノミと、その膝上に頭を預けるホシノ。そんな彼女の抱き枕となっているイツキと、同様にイツキの抱き枕となっているセリカ。

リラックスした表情のノノミやホシノとは逆に、イツキとセリカは寝苦しそうだ。

 

「…………」

 

「…先生、何だか嬉しそうですね」

 

「そうかな?…うん、そうかもね。私はね、イツキがみんなに馴染んでくれている事が嬉しいんだ」

 

「イツキは最初から馴染んでたよ?」

 

「うーん。そうだとも言えるし、違うとも言えるね。前にヒフミが言ってたけど、イツキは誰に対しても平等で……だからこそ誰に対しても()()()()()()()()んだ。友好的に接していても心の内は晒さない…そんな生徒なんだ、水面イツキという子はね。だから、こうやってホシノ達と仲の良い姿を見ると安心出来るのかな」

 

「……心配なんですね、イツキさんのことが」

 

「きっと、色々と抱えている子だからね。私は『先生』だから、いつかは悩みとかも一緒に解決出来たらいいなって思うんだ」

 

「性別は分からないのにね」

 

「うぐっ……そ、そこは本人の意思を尊重するべきだからね」

 

先生はどの生徒にも『先生』として寄り添わなければいけない。それが()()()()()であり、同時にイツキが決して望まないことであると直感的に思う。

だからこそ先生は模索中だった。何がイツキの為になるのか、どうすれば心を開いて重荷を分けてくれるのか。"分からない"で終わらせる事は出来ず、己のポリシーに基づいて無視は出来ない。

 

決して先生は器用な人間ではなかった。寧ろ不器用で、それでも足掻く姿が生徒に受け入れられる要因にもなる。

要は先生は誰よりも必死で、生徒に囲まれながら『大人』の義務を果そうとしている。嘗てのイツキがそうであったように。

 

「そろそろみんなを起こさないといけませんね」

 

「もしかして私が待たせていたのかな…?」

 

「ううん、ホシノ先輩が寝たいって言うからこうなっただけ。むしろイツキとかセリカは無理やりにでも先生を起こそうとしてた」

 

「そ、そっか……まあ、全然起こしてくれても構わなかったんだけどね」

 

寝起きで巨大ペロロ様ぬいぐるみと相見えるよりは、起こしてもらった方が幾分かマシだった。先生はそんなことを心の中で呟きながらシロコ達に起こされるイツキを眺めた。

 

 

 

 

――斯くして。

 

何とか昼前には会議を始められる。議題は昨日の出来事の整理と、今後の行動指針だ。

前者に関しては滞りなく進んだ。自分達が当事者だったということもあるが、アヤネがまとめてくれていたのでスムーズだった。

 

事の始まりこそ便利屋68による柴関ラーメン爆破だったが、あそこまでの大事になったのはゲヘナ風紀委員会の参入だった。ゲヘナ風紀委員会の目的は表面上は便利屋68の捕縛だったが、それも建前に過ぎず。

真の目的は多大な権力を持つ『シャーレの先生』だった。故に対策委員会も抗い、激しい交戦となった次第だ。

 

ゲヘナ風紀委員会が掲げていた目的も便利屋68と手を組んだ対策委員会に阻止され、均衡を保っていた所に風紀委員長である空崎ヒナが現れる。そして風紀委員会の出動は行政官の独断であり、後にホシノとイツキが到着することによって風紀委員会も撤退して今に至る。

 

「まあ、大体はこんなところだね〜。色々と釈然とはしないけど、ちょっとした不幸を拾ったって事で納得しないとだね」

 

「ちょっとした不幸…?ゲヘナの風紀委員長が出てきたんだから最大級の不幸でしょ………あと、最悪な追加情報もあるんだけど」

 

心底腹立たしい、と言わんばかりの態度とは一転。セリカは顔を青くしてアヤネと視線を絡ませる。同様の表情であるアヤネは小さく頷き、説明を引き受けた。

 

「昨日…セリカちゃんや先生と柴関ラーメンの大将さんの所へお見舞いに行った際、気になる…と言うよりも不可解な情報を聞きまして。調べたところ、本当に最悪と言えるべき事実が発覚しました…」

 

「……最悪の事実…?」

 

聞き返すシロコに答え、アヤネは一枚の紙を机に広げながら続ける。

 

「これは直近までの取引が記録されている、アビドス自治区の土地の台帳……『地籍図』と呼ばれものです。所謂()()()()()()を確認できる書類、です」

 

「「……………」」

 

先生とホシノの表情に影が落ちる。普通に考えればアビドス自治区の所有権はアビドス高校にある筈だ。然し敢えてそれをこの場で出すということは、暗に"そうではない"と告げている事になる。

 

「えっと、書類なんて見なくてもアビドスの土地はアビドス高校の所有では…?」

 

「私もそう思ってた……けど、そうじゃなかったの…ッ!!」

 

「……この書類と柴関ラーメンの大将の話をまとめますと、柴関ラーメンの土地が入っている建物は勿論の事、このアビドスの自地区の殆どが……私達の学校が所有していることに、なっていませんでした」

 

「…じゃあ、その書類では誰のものとして記載されているのかな」

 

「――カイザーコンストラクション、と。そう書かれてます」

 

イツキの冷たい声にアヤネも静かに返した。きっと、この事実を知った時は彼女も皆のように動揺していたのだろう。それでも激情を抑え、会議を進行させる為に冷静を心掛けている。

そも、カイザーコンストラクションとはカイザーコーポレーションの系列だ。実質的にはカイザーコーポレーションがアビドスの自治区の所有権を握り、柴関ラーメンの大将にも随分と前から退去命令が下されていたらしい。

 

未だに所有権が渡っていないのはアビドス高校とその周辺の一部地域のみであり、逆に言えばそこら以外はアビドスに所有権は無いこととなっていた。

 

「……借金の件と言い、やたらとカイザーが関係してるね。こんなの、疑わない方が難しいよ…」

 

「ホシノ先輩……」

 

アヤネは声質の暗いホシノを気に掛けるが、ホシノは自身の感情を無視して話題を進める。

そうしなければいけないと、上級生で在れない気がした。自分だけは最後まで目を逸らしてはいけない。それがあの先輩からアビドスを継いだという事なのだから。

 

「多分、土地を売ったのはアビドス生徒会だよ。私が入る前の生徒会が、アビドスの砂漠化によって発生した問題とかそこら辺諸々にかかる資金を土地を売って解決しようとしたんだね、きっと」

 

「そっか、先輩は副会長だったんだっけ?」

 

「一応はね。人数が減って単なる数合わせ的な感じで収まったトコロなんだけどね」

 

きっと、アビドス生徒会も最初は砂漠化によって機能しなくなった土地のみを売っていた。当時はキヴォトス最大級の高校であり、限りなく黒に近いグレーなカイザー系列が相手だったとしても、返す宛はあったのだろう。

今は寂れた一高校でも、昔はキヴォトスでも有名なマンモス校と呼ばれていた。取れる手段は複数もあった筈なのだが、()()()()()()()

 

未だに続く砂漠化。それによって返済の計画は大きく狂い、膨らむ借金と売られる土地。その果てが現状なのだ。

地籍図を見れば察するまでもなく答えが記されていた。

 

もはや借金を返す宛もなく、アビドスの生徒も殆どが転校して行った。数少ない在校生である皆には計画性を責める気持ちもあるが、砂漠化を知り、体験している故に同情も出来てしまう。

 

「………私からも追加情報があるよ」

 

「うん?イツキさんも……うへ、何だか嫌な予感がするよ…」

 

「まあ、正確には私じゃなくてヒナ――ゲヘナ風紀委員長からの情報なんだけどね。…カイザーコーポレーションがアビドス砂漠地帯で何かを企んでいる」

 

「…因みに、情報の信憑性は?」

 

「安心して、シロコ。ヒナはちゃんと自身の発言に責任を持てる子だよ。まだ万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)やティーパーティーも知らない情報だけど、きっとアビドスには必要な事だからって気を回してくれたんだ」

 

空崎ヒナは己の意識よりも組織の長としての務めを優先する少女だ。責任感や義務感によるモノなのだろうが、そんな彼女が態々プライベートでの時間や連絡先を用いてイツキに報せてくれたのだ。

一人の友人として――そして"元"先生として、それを信じないという選択肢は最初からない。

 

「よく分かんないけど、先生はどう思うのよ?」

 

「……少なくとも、カイザーコーポレーションがアビドスの敵だということは判ったよ。カイザーは少しづつアビドスの土地を手に入れてて、次の目標はアビドス高校だ。ヘルメット団に襲わせたのも恐らくはカイザーなんだろうね」

 

「どうしてアビドスなんでしょう…?アビドス自治区は殆どが荒地と砂漠、砂まみれの廃墟です……時間や兵力を用いて奪ったとしても、大きな利益なんてないハズですのに」

 

「…ノノミちゃん、多分そこでアビドス砂漠に繋がるんだよ。住人への退去命令とか砂漠での企てとか、確実に何かしらの()()()()を起こすつもりなのかな。大規模な実験をするか、すんごいお宝でも探しているのか」

 

その『何か』をするにはアビドス住民や生徒が邪魔であるのは間違いがない。だからこそ多少の強行は致し方無しと割り切っているのだ。

現状、彼女達にとっては不明瞭な目的の為に襲われ、学校を奪われそうになっているという事実しか目の前にはない。

 

当然と言うべきか、セリカは激昂する。

 

「…………あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁ!もー!何でこう…ややこしいのよ!?こうなったらみんなで確かめに行けばいいじゃん!!」

 

「ん、セリカに賛成。分からないなら、見て確かめるしかない」

 

「あーらら、こりゃあ行くしかないパターン?」

 

「まあ、情報も少ないですし…無理のない程度の情報収集はするべきかと」

 

セリカに続きそれぞれが賛成の意を示す。今この瞬間にもカイザーはアビドス自治区で何かを企み、計画を進めている。

そう考えたら薄くない因縁も相まって腹立たしいのだろう。セリカの意見は短絡的ではあるが理には叶っており、トリニティやゲヘナほどの情報収集能力を持たないアビドスは結局、直接見て確かめるしか出来なかった。

 

 

――その後、程なくしてアビドス砂漠へ向かう事が決定した。

 

 

◆◆◆

 

オマケ

 

『巨大なペロロ様ぬいぐるみ』

 

・ヒフミが使ってるアレ。成人男性を軽く覆う程度の大きさまで膨らみ、意外と銃弾や爆発を受けても破損しないくらい丈夫。

何故かイツキの鞄に入っている。きっと布教的な意味を込めたファウスト様からのプレゼント。尚、使用して消費する度にいつの間にか充填されている。そもそもいつから入っていたのかも不明で、どのタイミングで入れているのかも不明。犯人はおそらく阿慈谷さん。

 





何となく察している人もいるかもですが、今ルートのホシノはまだ退部届けを用意していません。下手なことをしたらイツキがカイザー皆殺しルートに入りますからね。




他意はありませんが、先生の手や足がグッバイ宣言してイツキが死ぬほど罪悪感に苛まれるルートが見たいです。
嘗ての生徒達に『何で先生を護れなかったんだ』という言葉には出なくても責めるような視線を受けながら先生の代わりに外の仕事をして、後悔と罪悪感でぐちゃぐちゃになりながらも贖罪に生きる姿ってとても素敵ですよね。
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