嘗ての先生、其の成れ果て 作:低品質なプリン
セリナの片耳ら辺から垂れるアレがピンクの羽根なのか、髪型なのか。飾りの可能性も微レ存。…それが分からない今日この頃。
電車に揺られ、眠気を誘われる。
アビドスにおける殆どの鉄道線路跡は砂に埋もれ、断線し、現在は廃線となっている。そんな中でもアビドス中央線は存続しており、対策委員会の有する数少ない移動手段の一つとなっていた。
アビドスの生徒やイツキだけならば走って移動することも可能なのだが、先生が同行するのであれば無理をする必要もない。
戦闘となれば先生の指揮は大きな力になる為、元より先生の非同行なんて選択肢にもなかった。飽くまでも安全を最優先にした調査なのだから、叶う限りの万全を期すのが最善だ。
尚、遠距離での支援が可能であるアヤネは部室に残っている。彼女の得意分野は銃撃戦ではなく、情報戦やドローンによる戦闘支援だ。
故に作戦の成功率を高めるにはドローンによって広範囲を俯瞰しながら索敵、同時に作戦や情報探りの出来る部室にいるのが一番なのだ。
「やっぱり眠いですか?」
「いや…大丈夫だよ。部室で一眠りしたしカフェイン、キメたからね」
ノノミが顔を覗き込むが、イツキはぎこちない笑みで返す。浅い眠りではあったが活動や戦闘には支障をきたさない。
単純な慣れもあるが、やはりキヴォトスにおける住民の身体の丈夫さも理由となる。"前"の身体では2~3徹程度で倒れてしまうことも多々あったが、『生徒』となりヘイローも頭上に浮かぶ今は体力の限界値も桁違いだ。
イツキとは逆に先生が眠そうであるのが、やはり体力の違いを証明していた。
「…ん、そろそろ着くよ」
「そっかー。じゃ、気合い入れないとだね。ふあぁ〜」
「先輩、気合い入れるとか言いながら欠伸してるじゃん!ホント、しっかりしてよね」
この先、目的地であるアビドス砂漠に向かうには列車を降りて徒歩で向かう他ない。アビドス砂漠はアビドスにおける砂漠化が進む前から砂漠だった場所であり、当然ながら砂の上での移動手段はたかが知れていた。
滲む緊張感に心揺さぶられながら砂の舞う駅に降り、外に出て皆が浅く溜息を零す。
ここから先は
数が数なだけに全てを避けて通るのは不可能に近く、強行突破しか道はない。
「さーて、カイザーコーポレーションは何を企んでいるのかねー」
戯けるようにホシノは声を響かせて皆の緊張を解こうとするが、効果は薄い。彼女の口調ほど軽く関われる問題ではないのは全員が察していた。
駅を出て少し歩くと、徐々にアスファルトの地面が砂に覆われ始める。昔はまだアビドス砂漠に含まれていなかった地点だが、今となっては寧ろ駅が無事である事が奇跡だ。
砂に埋もれた建物の残骸も昔は人が住み、商売をして、他の学園都市と同様の日常を送っていた筈だ。
そんなことを考え、何も無い筈の砂漠が痛々しい惨状としか思えなくなった。
感傷に浸る刹那――ホログラムで投影されたアヤネが現れる。
『っ!み、皆さん!接近反応です!!』
「…早速お出迎えらしいわね。ふんっ、軽く片付けてやるんだから!!」
「本当に危険地帯なんだね……じゃあ戦闘指揮は任せて!」
「うん、オートマタ程度なら余裕」
「うへー、手早く終わらせよっかー」
「――対策委員会、戦闘開始。アロナ、戦闘支援をお願いね」
無数のオートマタやドローンが遠目に見える。先生はシッテムの箱を起動し、自身の眼前に戦場を俯瞰出来る
その中でも大規模な爆発地点やレーザー系の被弾位置の可視化状態を生徒にも付与し、先生に向けての攻撃はシッテムの箱のバリアで防ぐ。
基本的には生徒が自分の意思で戦い、細かい部分を戦場を唯一俯瞰出来ている先生が指示。それが先生の指揮であり、結果的に生徒の力を十二分に発揮出来る環境作りが本質だ。
そんないつも通りの手順で戦闘指揮を開始しようとして、先生は
「……えっ、どうして…ッ!?」
皆には届かない声で、然し抑えきれない戸惑いが口から漏れた。いつもと変わらず皆とリンクし、必要な情報の可視化をしている筈だ。
それなのに、その補助が適用されているのはアヤネを含めた
「…先生」
「イツキ……君は――」
「構わないよ。先生はアビドスの皆の方をお願い。私は……そうだね、遊撃手とでも考えて」
「……通信支援はするからね」
「うん、頼りにしてるよ」
それだけを言い残し、イツキは正面の敵影より斜めに駆け出した。
◆◆◆
(やっぱりね……)
自身の疾走によって舞い散る砂に身を隠し、イツキは心の中で呟いた。想像はしていたが、やはりイツキはシッテムの箱の戦闘支援を受けられない。
原因はきっとイツキの魂に秘められた
イツキが先生だった頃も、銃火器を用いて戦う『大人』に戦闘補助は届かなかった。恐らくはシッテムの箱の本質が扱う先生により"生徒を導くこと"に集約されており、教え導く事の対象外には過剰なほどの補助は出来ないのだろう。
「でも、足を引っ張る気はないよ」
正面でオートマタとアビドス生徒の撃ち合いが始まったのを音で判断すると、イツキは挟むように後ろから強襲を仕掛ける。
「――神秘
キヴォトスには様々な種族が入り交じっている。悪魔や鬼の角を生やす者やエルフのように耳が尖る生徒。動物の特徴を併せ持つ生徒も入れば、個々の個性はあれども翼のある生徒も多くいる。
そんな中で、イツキは『無形』なのだ。生徒としては
イツキが『変質』を唱えた刹那、背に灰色の光る翼が出現する。決して触れれないそれは、ヘイローから僅かに零れた神秘が膨らみ、実態のない
――灰翼の展開。
その
鉄の棒を砂に刺し、それを足場として高く跳躍する。武器が手元にないのは惜しいが、砂しかない足場からの跳躍では理想通り高くは飛べないだろう。
跳び、そのまま無数に宙でオートマタの援護射撃をしていたドローンを片手ずつに掴み、別のドローンへ投げ付けて落とす。
「はぁっ!!」
地面に落ちたドローンが再び起動する間際、落ちてきたイツキはそのまま破壊する勢いで踏み締め、またそれを足場として跳躍する。
無論、三~四度も繰り返せば周りの敵がイツキへと狙いを変える。ドローンはイツキから距離を取り、逆にオートマタは敵陣で暴れるイツキへ銃口を向けた。
『イツキ、全力で跳んで!』
「了解、先生」
「よーし、お仕置の時間です〜♧」
辛うじて形を保っていたドローンの残骸を足場にして高く飛び跳ね、空中で格好の的となったイツキをオートマタが集中砲火する刹那、ノノミのミニガンによる銃弾の嵐が敵影をまとめて再起不能へと追い込む。
残るドローンもシロコのドローンで撃ち落とされ、セリカやホシノが確実に機能停止させる。
結局のところ相手は統率のない烏合の衆でしかなく、連携に長けたアビドス生徒の敵ではなかった。
『――敵、全滅………敵影もなし。戦闘終了です!皆さん、お疲れ様でした!』
アヤネの索敵にも反応はなく、誰も負傷することなく無事に戦闘が終了した。
◆◆◆
「みんなお疲れ様。怪我はない?」
「ん、大丈夫。ホシノ先輩がずっと盾になってたから」
「おじさんもモーマンタイだよ。ま、多少の被弾なら本当に問題ないんだけどね」
多少制服が砂で汚れているが、誰にも怪我はない。ホシノは浅く笑いながら無事をアピールし、イツキもまた同様に無傷であると告げた。
一瞬だけ先生から鋭い視線を受けるが、今回は本当に怪我をしていないのでイツキから言うことも特にない。恐らくは数日前にワカモから襲われた時の事が先生の頭に過ぎったのだろう。
いつの間にか先生の頭では水面イツキは怪我を隠す生徒だ、と認識されていた。
「………ところで、イツキ」
「何かな?」
「君…戦闘中に羽根とか生えてなかった?いや、見間違えなら別に良いんだけどね?」
「はあ?先生、何言ってんのよ。羽根って生えるとかそーゆーのじゃないでしょ。だよね、イツキさん」
先生の疑問に、セリカは呆れて返す。羽根や角は飽くまでも生徒の特徴的部位であり、ポコポコと生えたり引っ込んだりはしない。
当然の返答だが、この中で唯一シッテムの箱によって戦場の全てが見えていた先生には、イツキの姿も当然ながら見えていた。灰色でバツ印のヘイローに、浅黒い長髪を靡かせながら数回に渡って跳躍を繰り返しドローンを破壊するイツキの姿。
そんな中、舞い散る砂に隠れてはいたが確かに光を放つ灰翼が先生には見えた。
「…まあ、そんな事もあったりするんじゃないかな?」
「……え?や、やっぱり――」
「そんな事より、またオートマタが集まってくる前に進もう。あまり遅くなれば夜を砂漠で過ごす事になっちゃうよ?」
「うへ、それは嫌だなー。早く行って早く帰ろうね」
好奇心により質問を重ねようとする先生を置いて、ホシノとイツキは砂漠へと足を進める。
途中、何度か戦闘になった。一度でも戦闘をした時点で、それを感知したオートマタや既に廃墟となった何かの施設で扱われていたであろう警備ロボットが時間差で集まってくる。
その度に戦闘をして、またそれを感知されて。そんな事が数時間続き、度々休憩を挟みながら進み続け――
『っ!前方に何かあります…!……町…いえ、巨大な工場?或いは駐屯地か……と、とにかく!物凄く大きな施設があります…!!』
アヤネの声につられて前方を見据え、初めは何も見えなかったが前進を続けると、砂嵐の垣間に微かに何かが見えた。
数キロメートルに及ぶ有刺鉄線と、工場とも工事現場とも解釈出来る建物。少なくとも、昔のこの辺りを知るホシノにとっては不審な施設でしかない。
それがヒナから送られてきた位置である事を先生が確認し、カイザーコーポレーションの
元より目的がカイザーコーポレーションの企みを暴く事だったのだが、直接目で見ても分からない。
「………何だろう。昔はこんなの無かったハズだよ…?」
「…工場…?石油ボーリング施設、ではないような…」
ノノミが疑問と考察を重ねている最中、改めて隅々を観察するイツキの視界に
銃口を向けるのは二体のオートマタだ。先程までの暴走した其れとは異なり、明確な意識――否、敵意の滲む様子が薄い赤に発光する目部分から察せられる。
遠距離の攻撃手段を持たないイツキは応戦の選択肢を捨て、弾かれるように振り向く。
「…ッ!全員伏せて…!」
瞬間、銃撃音が砂漠に響く。次いで聞こえるのは仲間に侵入者発見と叫び報告するオートマタの声だ。統率の取れた動きで隊列が組まれ、逃走しようにも後ろからは先程の銃音を感知した砂漠の暴走オートマタが集まって来ている。
「………これはアレだね。戦うしかない」
「なんでシロコは嬉しそうなのかな…」
「しょうがないでしょ、イツキさん。シロコ先輩って意外と好戦的だし」
「…アヤネちゃん、逃走経路はどう?」
『……後ろからも敵影が……戦いながら逃げるのは、現実的ではないかと…』
「こっちの姿も捉えられてるね。下がって囲まれるより、応戦して逃げる隙を探るのが得策かな」
先生は冷静に戦場を見据え、現実的な判断を下す。きっとこのまま隠れていても何れ見つかり、寧ろ戦闘準備の整った相手と戦うことになるだろう。
それならば、敵が全員集まる前に此方から仕掛けるのがベストであると先生は捉えたらしい。
先生は皆に決定は任せるとだけ言い残し、全員の顔を見る。
ホシノとアヤネは悩み、シロコとセリカは賛成的だ。ノノミやイツキは先生と同様に皆に従うつもりであり、現状では誰も否定的ではない。
そんな様子を感じ取り、ホシノは小さく頷いて最終決定を下した。
「――じゃあ、ひと暴れしようか!」
直後、先生は再びシッテムの箱のサポートを開始して、イツキは遊撃手として走り出した。
◆◆◆オマケ◆◆◆
神秘変質
・無形のイツキが神秘によって形付く技術。擬似的な神秘解放とは異なり、平均的なパラメータを敢えて偏らせる様な感覚。神秘解放が代償を支払う力であり、神秘変質は寧ろ自身を縛って能力を偏らせる力。
魂の形が定まらないからこそ出来る技術。何者にも成れないイツキ故に、『型』さえあれば溶け込める。自分の在り方も変えられる。
そうなったら素敵ですよね、きっと。完全に変異して、軌跡すら本当になくなるんですから。楽園の証明、そして別世界の先生の証明。
朝起きてから「あっ、先生おはよう!今日もいい朝だね♪」って屈託のない笑みで言う新生イツキさんは未来に存在するのでしょうかね。
わー、本当に