嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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オーパーツ

 

「はぁ、はぁ……アロナ、探知は可能かい?」

 

遮蔽物を背にして男はシッテムの箱へ問い掛ける。

 

僅かな沈黙の後、先生にだけ聞こえる"声"が示すのは()()だ。シッテムの箱が指す水面イツキの反応地点――アビドス砂漠のPMC基地は眼前にある。

立体マップにマーキングされたポイントは基地の地下、実験室だ。それが何を示すのか、先生とて知らぬ訳でもない。一瞬だけ()()()()()が過ぎるが、然し瞬時に否定する。

 

黒服との邂逅にて、契約の無効を証明した。故にイツキへ恐怖(テラー)を適用させる実験も行えず、カイザーPMCも各方面からゲヘナ風紀委員会や便利屋68、トリニティによる攻撃を受けながらイツキを害するほど余裕はない筈だ。

 

「先生、どうですか…?」

 

隣でドローンを操作し、先頭で交戦しているホシノ達をサポートしているアヤネが先生へ問う。現状、イツキの居場所を明確に判別できるのは先生の扱うシッテムの箱のみだ。

場所自体は黒服から聞いていても、そんな確実性のない情報を鵜呑みにするほど彼を信用はしていない。

 

だからこそキヴォトスにおいて最弱とも言える先生が探知圏内まで出向き、戦闘指揮と同時にイツキの察知を受け持っているのだ。

 

「やっぱり地下の実験室だね。……みんな、正面突破するよ!!」

 

「ん、先生。指揮は任せる」

 

「多少の無理はやってやるわ!」

 

シロコとセリカの信頼に、喜びを感じると同時に心の奥がチクリと痛む。

 

こんな状況に陥っているのは()()()()()だ。ホシノとイツキが黒服から契約を持ち掛けられ、ホシノが受けようとしたのをイツキが身代わりとなった。

その間、先生は何も出来ていなかったのだ。イツキの異変に気が付くことも出来なくて、ホシノの悲壮の覚悟を叱り付けることすら出来なかった。

 

只々、悔しい。

 

自分が最初の異変に気がついて手を打っていたら、何かが変わったかもしれないのに。生徒達が傷付きながら交戦することもなかったかもしれないのに。

先生の後悔は心を鈍く、確実に痛めるのには十分過ぎた。

 

「……………先生…?」

 

「…ごめん、なんでもないよ」

 

彼の横顔を一瞬だけ視界に収め、ノノミは改めて思う。普段は真逆の表情を浮かべているのに、然し悲しく歪む彼とイツキは同人物と思えるほど似ている。

顔は別人で、背も体型も全然違うのに。先生の裏面と、イツキの表面は酷く酷似していた。

 

 

「――今から皆の視界に最短ルートを表示するから、ホシノは私が指示するタイミングで先導して。シロコはマーキングした地点に幾つか手榴弾を抛擲、ノノミはホシノの次に続いて、基地の前に到着し次第扉ごと破壊。アヤネとセリカは後方からの奇襲に警戒よろしくね」

 

 

シッテムの箱で視界に情報を流し込み、前方に展開させたウィンドウで戦場を上から俯瞰する。

 

流石にカイザーPMCの本拠地ということもあり、敵影は幾ら殲滅しても後から補填される。そしてアビドスの皆の体力や物資だって無限にある訳でもない。

可視化させた生徒達の情報へ視線を向けると、現状では特にホシノの消耗が激しいらしい。イツキの件で責任を感じ、その焦りが被弾に繋がっているのだろう。

 

――やがてシロコの投げた手榴弾がオートマタ全体の命令を担う機体に被弾し、隙が出来た。

 

「…よし、ホシノ!」

 

「任せて――先導するよ!!」

 

「私もホシノ先輩に続きますね☆」

 

先頭のオートマタをシールドバッシュで吹き飛ばし、ホシノは弾丸の如き速度で包囲網を突き破る。一歩遅れてノノミも駆け出し、皆も同様に続く。

 

この場で取るべき戦法は殲滅戦ではなく一点集中の駆け抜けだ。全方位に敵が居る現状より、PMC基地内にて前方と後方の二方向から攻められる方がやり易い。

本来ならば数の利を活かされ、不利になる筈なのだが。アビドスの皆は強い。ゲヘナ内でもかなり警戒されている便利屋68を一蹴し、何度もヘルメット団やカイザーの襲撃を乗り越えてきた。

 

全方位からの被弾による精神の負担がなければ、例え挟み込まれたとしても負けることはないと先生は判断した。

 

「ノノミちゃん!」

 

「は〜い、任せてください!破片が飛ぶのに気を付けてくださいね〜!!」

 

「うわっ……相変わらずえげつない…」

 

重厚な鉄扉を護るオートマタごと、ノノミのミニガンによる弾丸の嵐で吹き飛ばされる。予定通りの展開ではあるのだが、セリカは普通にドン引きしていた。

 

 

 

――その後暫く、対策委員会は苦戦しなかった。

 

基地内の殆どが非戦闘員だったのだ。無論、オートマタなので最低限の戦闘データは組み込まれているのだろう。本当の意味で非戦闘員の先生とは違い、銃を扱って狙い撃ち程度はしてくる。

だが然しながら、基地内のオートマタは莫大な戦闘データよりも研究や開発、整備等の情報を優先された機体なのだろう。

 

前方の殆どがノノミのミニガンとシロコの手榴弾で片付き、基地の内部データから地図をシッテムの箱で抜き取った為、迷うことなく進める。

 

「よしっ、もう前方にオートマタの反応はない!次の曲がり角を右に進めば地下への階段がある!!」

 

「りょうか――あっ、先生ちょっと待って!」

 

「せ、セリカ?」

 

「今通り過ぎた部屋…アレがあったの。アレ…えっと、名前は知らないけど鉄の棒みたいなヤツと革鞭。てかイツキさんの武器!」

 

「…イツキの武器、名前とか特になかったと思う。セリカが言った通り『鉄の棒』と『革鞭』ってしか呼んでなかった」

 

キヴォトスの生徒はそれぞれ、愛銃に名を付けて独自の改造を施している生徒が多い。銃に神秘を込める際に銘でイメージを再現したり、そもそもが愛着が力になったりとするのだろう。

誰でもそうしているからこそ失念しているが、イツキは銃の代わりに鉄の棒と革鞭を使っていて、だが銘を刻んではいない。

 

単に名付けるという発想がないのか、それとも武器に執着していないだけなのか。

 

「先生、回収して行ってもいいかな?ちゃんと私が責任もって管理するからさ」

 

「……ホシノがそうしたいなら、私は止めないよ。無くしたら困るだろうし、イツキに返してあげてね」

 

「ありがとね、先生」

 

簡素な武具収容部屋に入り、ホシノは壁に括り付けられていた革鞭を腰に巻き付ける。そのまま()()()()床へと雑に放られている鉄の棒を革鞭とスカートの間に挟んで入れようとして――

 

「……?………えっ」

 

「ホシノ先輩?えっと、早くしないとオートマタが来ちゃいますよ?」

 

「何これ…()()()()。重いとか持ちづらいとか、そういうのじゃなくて……多分、私じゃあこの鉄の棒は()()()()気がする」

 

「は?先輩何言ってるのよ。チビなイツキさんがブンブン振り回してるんだし、こんな鉄の棒くらい………はぁっ!?ほ、ホントに持てない…ッ!?」

 

ホシノに続いてセリカが鉄の棒を拾おうとして、だが一向に持ち上がる気配はない。対策委員の全員が一通り試したが、やはり誰も鉄の棒は持てなかった。

 

「ん〜、もしかしてですけど…この鉄の棒ってオーパーツ的な物なのでは?」

 

「…そう言われれば、なんか神聖な気配が………する気がしなくもない、多分。この辺の艶とか、侘び寂びがある」

 

「シロコ先輩、それは多分プラシーボ効果かと…誰がどう見ても、木刀みたいな形状をしただけの鉄の棒ですね。見た目だけは…」

 

アヤネの言った通り、見た目だけならば木刀を鉄でコーティングしたような物だ。それでもイツキが言うには5~60kgはあるらしいので中身は鉄かそれに準ずる金属なのだろう。

 

皆が話し合う中、先生の頭には疑問符が生じていた。

 

思い出すのは先日、イツキがボロボロになってシャーレに来た時のことだ。鉄の棒を引き摺りながらシャーレに到着して、そのままイツキが倒れたとき。

先生はイツキをベッドへ運んでから鉄の棒をイツキの眠るベッド横に運ぶつもりだったのだが、()()()()持てなかった。

 

5~60kgのそれを無理に持とうとして、軽く()()()()()から腰に嫌な音が響き、仕方なしと部屋横に寄せたのだが。

 

(……あの時、私は…鉄の棒を()()()()()。筋力が足りなかっただけで、持てなくはなかった筈だ)

 

彼女達の様子を見るに、鉄の棒は地面に張り付いたように1mmたりとも移動させることが叶わないらしい。

先生よりも圧倒的に身体能力が高い彼女達が持てなくて、先生が僅かでも持てることなんて本来ならば有り得ないのだ。

 

「…少し、良いかな」

 

「先生?」

 

不思議そうに棒をつつくホシノに代わり、先生は腰を落として持ち手部分を掴み――

 

「ぐっ……お、重い……!…けど、持てる…?」

 

「えっ!?貧弱な先生が鉄の棒を持ってる!?」

 

「ひ、貧弱……」

 

セリカが驚嘆の声を上げ、先生は僅かに涙目となった。貧弱と言われれば、確かにキヴォトスの住民と比べればそうなのだろうが、成人男性としては少しだけ悲しくなる。

 

「……先生とイツキさんだけが扱えるオーパーツ…何か、条件があるらしいね。まあ、力よわよわな先生じゃあ持ち歩くことも厳しそうだけど」

 

「ホシノから追撃された!?」

 

「ま、事実だけどね」

 

「…アレだね、先生。同じオーパーツの…シッテムの箱?…に似てる。イツキを除いたら先生しか扱えない点とか」

 

「いやいや、シロコ先輩。それ言ったらイツキさんがシッテムの箱を扱えることになっちゃうじゃん」

 

 

 

取り敢えず、鉄の棒だけは今はこの場に置いて行く事となってしまった。一応、忘れないようにシッテムの箱の彼女に頼んでマップにマーキングをしてもらう。

帰りも地図を見てこの道を通るのだから、余程の事が無い限りは忘れて帰ることもないだろう。

 

尚、鉄の棒に抱きついた先生をシロコが担いで行く方法も提案されたが、戦闘に支障をきたすので却下となった。

 

「…先に進もう。そろそろイツキの居る地下だよ」

 

「先生、地下にイツキさん以外の反応は?」

 

「ごめん、分からないけど……居ない方が不自然だ。用心に超したことはないよ」

 

ホシノの問いに言葉を返すが、先生は()()()()()だけは伝えれなかった。

 

そも、幾らシッテムの箱だろうと特定の生徒の居場所をGPSもなく明確に割り出すのは不可能だ。携帯端末を所持していれば可能だが、イツキは該当しなかった。

 

それでも、シッテムの箱には()()()――つまる話し、『先生』の居場所を探知する機能がある。範囲は限られるが、その範囲も決して狭くはない。

本来はシッテムの箱から離れても近くの電子機器や端末を用いて通信、援助を行う為の機能なのだが。今はその機能に頼った。

 

 

――シッテムの箱のメインOS「A.R.O.N.A(アロナ)」はイツキを『先生』として認識している。

 

その理由も、原理も。先生には何も分からないが、居場所が分かるのであれば都合が良い。緊急事態では遠慮なく使い、先生は"生徒"を護る。

 

 

先生の言葉に従い、皆は警戒しながら地下階段を降りる。妙に長い階段を降り続け、やがて鉄扉が視界に入った。

外と建物内を繋ぐ物よりは簡素で、そもそもが地下への侵入を前提とした造りではないのだろう。生徒が力を込めて蹴れば簡単に破壊できる。

 

「――じゃあ、私から突撃するね」

 

「任せたよ、ホシノ。…突撃後、ホシノはそのまま正面をお願い。セリカは右、シロコは左。アヤネは突撃と同時にドローンを飛ばして区間全体の俯瞰を頼むよ」

 

「先生、私はどうしましょう?」

 

「ノノミは………地下でミニガンは危険だから、後方の警戒を宜しくね。上階に向かってなら多少は撃っても構わないから」

 

扉を一枚挟んで、地下区間――研究室がある。何が行われているのかは不明だが、カイザーPMCが善良な環境保護の実験をしている、なんて事は無論有り得ない。

もしかしたら、イツキは無事でも他の生徒や住民を使った人体実験が行われていたかもしれない。それだけの疑いがかけられてもおかしくない企業なのだ。

 

「………往くよ。待っててね、イツキさん…!」

 

十分に距離を取り、ホシノは助走を付けて走り出し――その刹那、()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「ふぎゃっ!?」

 

急に止まれる訳もなく、ホシノの助走つきドロップキックは鉄扉を開けた人物を蹴り飛ばした。

 

「い、イツキさん!?」

 

ホシノの視界の先には、トリニティの制服をボロボロにしながらも無傷の生徒――水面(みなも)イツキが蹴られた腹を抑えて倒れていた。

 

 





鉄の棒さん……一体何物なんだ…?
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