嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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ゲーム開発部

 

「存在せぬ神――イレギュラーだ」

 

「何者……箱の所有者か…?」

 

「否、否否否!不可能だ!!」

 

「あの者は『崇高』『神秘』『恐怖』――いずれも有してはいない……色彩は無価値な存在に接触しない。…故に、理解出来ぬ……!」

 

「虚偽の『神秘』…何故…?()の存在とも異なる……不確定要素」

 

「……再現――否、外付けか?……何にせよ、『忘れられた神々』とは異なる存在。あまりにも醜く…冒涜的な異形…ッ!!脅威足り得る――が、然し…」

 

「…あの者は何れ崩壊するであろう。飽くまでも神秘の()()、代償ありきの歪んだ贋作。件の()を利用したとて、その定めは不変」

 

「――策を講じる必要も、あるまい」

 

◆◆◆

 

――アビドスの件から一ヶ月が経った。

 

水面イツキは以前から大して変わらない日々を過ごしている。昏睡から目が覚めてから数日は、アビドスやゲヘナに菓子折を持って謝罪に行ったり、そして何故か山海経で警備の依頼を受けていた便利屋にご飯を奢ったりしていた。

その後は百鬼夜行にて先生の手伝い等をして、嘗ての生徒達と面識を持ったりした。

 

病み上がりではあったが、連邦捜査部シャーレの所属となる上で先生と『全ての依頼をイツキへ報せる』との契約を結んだ。依頼の数だけ困ってる生徒がいるのだから、嘗ての信条を胸に首を突っ込んでいるのだ。

 

――忙しくも、成すべき道を辿る日々。

 

陰鬱なイツキの心情を露知らず、青々透き通る空は晴れていた。気持ちの良い天気なのだろうが、然し誰が予想出来ただろうか。

 

「………きゅう…」

 

「……はぁ」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

それが先生の頭に命中し、気絶してしまった次第だ。微かに残る記憶の中で懐かしいと思いながらも、やはり物騒な世界だと再確認する。

銃弾と爆発の飛び交う世界なので今更だが、建物からいきなりプライステーション(ゲーム機)や廃棄ドローンが飛んでくるのも中々に狂気じみている。

 

「…おーい、先生ー?………ダメだね、完全に気絶しちゃってる」

 

また溜息をつきながら、今朝の出来事を思い出す。

 

事の発端はシャーレに届いた依頼メッセージだった。差出人はミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部、内容を要約したら『廃部になりそうだから助けて欲しい』との事。

激務な先生の中で『ゲーム』という単語に釣られたのか、他の優先すべき早急の依頼がないことを確認した上で先生は乗り気だった。

 

その結果がこれなのだから、イツキも過去の自分を懐かしく思った。

 

「大丈夫ですか〜!?」

 

「お、お姉ちゃん!プライステーション壊れてないよね!?」

 

上から声が響き、見上げると見覚えのある二人が窓から身を乗り出していた。嘗ての記憶とは別に、イツキが個人的に皮鞭の制作依頼でミレニアムに訪れた際に交流のある双子だ。

手を振って応えるが、二人の動揺は晴れる様子もない。ゲーム機がぶつかった程度で倒れている大人が居るのだから、キヴォトスの住民としては初めての経験なのだろう。

 

「…相変わらずだなぁ……ま、取り敢えず部室に向かおうかな」

 

先生を小脇に挟み、ゲーム機を片手に先生を多少引き摺りながらも歩き出す。

ミレニアムには何度も訪れているので地形は把握しているが、来る度に発展していて素直に驚く。その気になれば建物が数日で完成するような技術力があり、それに加えて交戦によって壊れた道路や橋、電柱がキヴォトス一の技術力で作り替えられているのだ。

 

アビドスの天然迷路程ではないが、各地に点々と設置されている電子マップが無ければ他校の生徒は迷っているだろう。

 

 

トリニティやゲヘナに引けを取らない広さの学園管轄地区を見物しながら歩き、巨大な建造物――ミレニアムタワーを見上げる。

 

ミレニアムの本校舎であるミレニアムタワーは、内部にセミナーを初めとする主要な部活動や委員会があり、部外者の出入りを厳しく制限している。

とは言え、シャーレの顧問と部長は話が別だ。入口横の電子ロックキーに学生証を翳すと、電子音が鳴って入口が開く。

 

シッテムの箱を使えばハッキングして開くことも可能なのだろうが、それ以前にキヴォトスにおいてシャーレに与えられた権限は絶大だ。関係者以外は出入り禁止なのであれば、シャーレの先生は全ての関係者側だ。

その全てではないが、権限の一部は部長であるイツキも行使可能となっている。無論、連邦生徒会にて面接やら検査、その他諸々の試験とも言えるモノを経ての立場だ。

 

「………相変わらず、高くて広いね」

 

飾り気がなく、然れども簡素ではない造りの廊下にコツコツと靴音が響く。近未来的で、伝統的な歴史を重んじるトリニティや一般的な学園風景であるアビドスとは違い、常に新鮮で心を踊らせる。

先生だった頃から巨大ロボやゲーム的世界観に強い関心を抱いていたイツキは、近未来的未知なミレニアムはワクワクしてしまう。

 

心做しか頬を綻ばせながら足を進めると、ミレニアムの生徒の視線を集めていることに気付く。

 

青と白の、連邦生徒会にも似たシャーレ所属制服を纏っている自分が珍しいのか、それとも大人の男性を小脇に抱えている姿に畏怖しているのか。

その両方であることを察し、少し小走り気味にゲーム部の部室へと向かう。

 

人目を気にしながらも到着した部室。

 

ノックして入室しようとした刹那――

 

「――ふぎゃっ!?」

 

「おっと…!………モモイ、急に飛び出すのは危険だよ」

 

「痛ってて……あ、イツキ!プライステーション壊れてないよね!?ついでにさっきの大人の人も生きてるよね!?」

 

「…どっちも無事だけど……外にゲーム機を投げるのは止めようね」

 

「お姉ちゃんがすみません、イツキさん……」

 

――双子の姉の才羽モモイと妹の才羽ミドリ。

 

ミレニアムのゲーム開発部の数少ない部員であり、今回の依頼者。そしてキヴォトスにおいて貴重な、イツキよりも小柄な生徒だ。

 

以前から変わらず散らかった部室に足を踏み入れ、ソファに先生を投げ転がす。キヴォトスにおいては最弱だが、一般人としてはそこそこに頑丈で体力もある方だ。

多少雑に扱った所で問題はないだろうし、イツキも二十代後半の男を蝶よ花よと丁重に扱う気もない。

 

言うなれば、これが現状での先生とイツキの関係性だ。イツキは先生へ過剰に気を使わないし、先生も色々と正体不明なイツキに大して探りを入れたり特別扱いをしたりはしない。

先生と生徒であるよりも、同僚的な側面が強い。無論、先生にとってはそれでもイツキは護るべき生徒の一人なのだが。

 

「…さて、廃部になりそうなんだっけ?」

 

「えっ!?何でイツキが知ってるの!?」

 

「お姉ちゃん……イツキさんの制服見てよ。前と違って、シャーレ…っていうか連邦生徒会の制服みたいなのになってる。あと、腕章に連邦捜査部部長って書いてるよ?」

 

「ホントだ、なんか出世してる…じゃあシャーレ部長の権限で廃部を阻止することって…?」

 

「流石に無理かな。まず私にそこまでの権限はないし、そもそも廃部に関してもセミナーが明確な基準を設けて、規則に則っての判断だからね」

 

「ひどい!私たち何もやってないのに廃部にさせられるんだよ!?」

 

「モモイ、何もやってないから廃部になるんだよ…?」

 

「反論の余地もない…」

 

部活動として成立して、セミナーから予算を得ているのであれば『結果』や『成果』が求められる。学園を管理するセミナーは、遊びで学園運営資金をばら撒くだなんて以ての外だ。

ヴェリタスやエンジニア部は判り易く学園に貢献し、他校への牽制としての技術力も有している。C&Cもまた、直接的な戦力だけでなくセミナーからの依頼を受け、時には学園外でまで活動している。

 

それらに比べ、ゲーム開発部は基本的にはミレニアムに何一つとして貢献出来ていないのが現状だ。ゲーム開発で多少なりとも名声があるのであれば話は別なのだが、そのゲーム開発をしていない。ゲーム開発部と言うよりはゲーム同好会といった具合であり、改めて俯瞰しても廃部になるのは仕方がないと言えた。

 

「……イツキさん」

 

「うん?どうしたのかな」

 

「今更だけど、この大人って…シャーレの先生だよね。その……気絶させちゃったから、怒って依頼取り消しになったり……」

 

「え゙?う、うそ…やっぱりマズイかな…?」

 

「あー、まあ…大丈夫だと思うよ、穏和な人だから。周りの人にならともかく、自分が怪我したくらいじゃあ怒らないよ。…でもちゃんと謝罪はしようね?」

 

「うぅ…はーい」

 

「ミドリも、ゲーム機の安否よりも先に人的被害を気にしてね。キヴォトスの住民は頑丈だけど、この人みたいな例外だってごく稀にいるんだから」

 

「ご、ごめんなさい……ゲーム開発部の財産リスト第一号だったから、思わず……」

 

――某温泉開発部程ではないが、ゲーム開発部もアグレッシブな行動が多い。

 

レトロゲームを探すと言い、古代史研究会を襲撃する。校内に変な建物を建て、カジノじみた装飾を施してギャンブル大会を開く。オンラインゲーム内での煽りを真に受け、相手の居場所を探知してリアルファイトに持ち込もうとする等々――

 

悪い子ではないのだが、無邪気な行動はキヴォトス規模で見ても十分な問題児だ。イツキも嘗ての性か、説教と呼べるほど大したものでもないが、注意の一つくらいはする。

 

「……にしても、先生起きないねー」

 

「本当に気絶しているだけ……だよね?の、脳蓋内出血で植物人間になってたり…!」

 

「そこまでの攻撃だったらシッテムの箱のバリア……ま、先生の危機を守るオーパーツが顕現する筈だから、本当に気絶してるだけだよ。サッと見た感じ、脳も揺れてなかったから――と、ちょうどだね」

 

イツキが再度軽く先生の頭に触れ、具合を確認する。すると偶然にもタイミングがあったのか、眼鏡の奥の瞳が薄く開かれた。

 

「……う……?……ここはどこ?私は誰…?」

 

「ようこそ、先生。ここは養豚場、君は豚先生だよ。今から豚先生は高性能ランニングマシーン機能付きのゲーミング豚チェアに改造されるんだ」

 

「あ、ごめんなさい。少しボケました……大丈夫、記憶はちゃんとあるから。…で、ここはどこかな?」

 

「ゲーム開発部の部室」

 

先生はゆったりと身を起こし、微かに頭が痛むことに気がつく。手で触れると額に薄い瘤があった。朧気ながらも記憶を辿ると、自身に何かが飛来して額に当たり、そのまま気絶してしまったのだと思い出す。

イツキの様子からして大事には至っていないらしいが、多少は戸惑いながら目覚めた部屋を見渡すと――

 

「せ、先生……その…ごめんなさい!」

 

「すみません、先生…お姉ちゃんも悪気があった訳じゃなくて……」

 

「……えっと、君たちは?」

 

膝を揃えて深々と頭を下げる小柄な少女と、そんな彼女に瓜二つな容姿のもう一人も少女が青ざめた表情で先生の機嫌を窺っていた。

謝罪の意味は何となく察したが、然し先生は眼前の双子と面識がない。依頼を送ったゲーム開発部の部員であるのは分かるが、メッセージに名前が付いていなかったのだ。

 

「紹介するね、先生。桃色の方が才羽モモイで、緑の方が才羽ミドリ。今回の依頼人だよ」

 

「イツキさん、何だか雑な紹介な気が…もっとゲーム開発に関わるポジションとかを詳しく…!」

 

「モモイにミドリ……うん、覚えた。これからよろしくね、二人とも。さっきの事は気にしないで、私も怪我をしたわけじゃないし……それに、まあ…今更だからね」

 

「今更?……あー、そうだね。定期的に流れ弾に当たるキヴォトスで、今更ゲーム機が当たったくらいじゃあ動揺もしないよね」

 

「……ゆ、許してくれるの?ミドリ、わたし許されたんだよね!?」

 

「……お姉ちゃん、ちょっとこっちに…!」

 

「えっ、なになに!?」

 

調子を取り戻したモモイを引き摺り、ミドリは部屋の隅まで離れると小声で話す。

 

「…お姉ちゃん、先生の顔を見て」

 

「う、うん……見た」

 

「あの顔…ゲームのテンプレだと、完全に信頼していた中盤ら辺で裏切って、『楽しかったよ、君たちとのお仲間ごっこ』とか言うタイプだよ…?」

 

「っ!た、確かに……裏切りの象徴の眼鏡に、隈のせいで生気が薄い瞳…心理的に信頼を促しそうな表情に気配……!中盤で敵になるけどあまりに苦戦しないキャラだ!?」

 

「しかも人気投票では上位に食い込むタイプのキャラ!」

 

 

 

「二人とも、全部先生に聞こえてるよ。……確かに裏切りそうな顔だけど、大丈夫な人だって保証するよ?」

 

「えっ!?私ってそんなふうに見えてたの!?」

 

「…眼鏡の奥の隈が、闇堕ち感を出してるんだよ…睡眠時間を増やしてね。寝不足になるくらいなら、私の方にもっと仕事を回してもいいから」

 

端正な顔立ちで、人を安心させて信頼を促す雰囲気がいっそ一周まわってゲーム的には怪しく映るのだろう。

 

多少失礼な物言いだったが、弄りが通じたということは先生もまたゲーム開発部の雰囲気に馴染めるという事なのだろう。少し警戒をしているミドリとは裏腹に、モモイは気を許した。

 

 

――二人が先生へ依頼内容を説明している間、イツキはボーッと空を見上げる。

 

次のバッドエンドが近付いている。万が一があった場合、果たして自分は生きる為に戦えるのだろうか。

ホシノとの約束を反芻して、胸に針が刺さる感覚に眉を歪める。結果的に死ぬとしても、生きる為に戦う――それが、イツキにはとてつもなく難しく思えた。

 





改めてブルアカPVを見まして、シロコのシャーレ入部届け(?)に男女記入欄があったのでやはりキヴォトスに男子学生もいるっぽいですね(願望)。

みんな男の娘説を推したい所存。
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