嘗ての先生、其の成れ果て 作:低品質なプリン
「――よしっ、じゃあ先生も来たことだし『廃墟』に行くとしよっか!」
「えっ、廃墟?」
目を覚ましてから数分、先生はモモイとミドリによりゲーム開発部がシャーレへ送った依頼内容の説明を行われた――のだが、唐突に話題変更でもしたかのように言われたのが『廃墟』だった。
廃部を取り消したいとの意気込みは十二分に伝わったが、さりとて概要も、何故廃墟へ向かうのかも先生には分からない。
嘗ての記憶が残るイツキには解るが、やはり前知識があったとしても話の脈絡がない。なるべく会話を円滑に進める為、話題の方向性を促す。
「…モモイ、もう少し詳しく説明してくれるかな。流石に言葉不足だよ…」
「そうだよ、お姉ちゃん…焦りすぎて説明の過程が飛んでるよ?」
「あ、じゃあ最初から順に説明するね。えっとね…まず私たちゲーム開発部は今までずっと、平和に16ビットのゲームとかを作ってたの。…もうVRゲームすら古いって言われる時代だけど、だからこそもっと昔のレトロ風ゲームって味があるって思うでしょ!私たちはそんなゲームを開発する部活動!!…………なのにある日、急にセミナーから襲撃されたの…!」
「ちなみに、セミナーはミレニアムの生徒会です。イツキさんの所属しているトリニティで言うところの、ティーパーティーみたいな感じかな」
「…あれは一昨日――私たちは生徒会四天王の一人であるユウカから最後通牒を突き付けられて…」
徐々に小さくなる語感に先生は首を傾げる。
依頼内容とモモイの説明から、やはりゲーム開発部は廃部に向かっていることは先生にも理解出来る。然れども、何故廃部になるのかが見えてこないのだ。
モモイは
結果が芳しくないのであれば、やはり先生は自分が場違いに思えるのだ。ゲームのプレイなら人並み程度にはやっているが、先生は製作に関する有識者ではない。
所々、若干のゲーム的な表現を混じえての説明は、判り易いと同時に何処か彼女の主観的であると感じているのだ。
その事も含め、改めて説明を頼もうとした刹那――
「それに関しては、私から直接説明しましょうか?」
「「こ、この声は…!?」」
唐突に部室のドアが開かれ、一人の生徒が皺の寄る眉を抑えながら立っていた。
青みがかった紺の髪をツーサイドアップで纏め、黒い女性用スーツにミレニアムの制服と思われる白いジャケットを着崩している少女――ミレニアムサイエンススクール、セミナー会計担当の早瀬ユウカだ。
モモイは敵を見たように声を上げ、ミドリは気まずそうに目を逸らす。
イツキにとって、"前"まではずっと近くで支えてくれていた生徒だが"今"は違う。完全に初対面で、チラリと向けられる視線の意味も"前"とは毛色が異なるのだろう。
「で、出たな…!生徒会四天王の一人!『冷酷な算術使い』の異名を持つ生徒会の会計、ユウカ!!」
「勝手に変な異名を付けて、人をモンスターか何かみたいに呼ばないでくれる?失礼ね……それよりも、先生に…水面イツキさん」
「やあ、ユウカ」
「…先生なら兎も角、私のことも知ってるんだね」
「…知ってるわよ……私だって初期からシャーレに所属してるし、そもそも貴方は交友関係が広いから各学園でよく名前も聞くわ。……先生と部長さんとは色々と話したいこともありますが、それはまた後にするとして――モモイ」
「っ!な、なに…?」
「本当に諦めが悪いわね。廃部を食い止めるために、わざわざ『シャーレ』まで巻き込むだなんて……でも無駄よ」
呆れ半分に、細めた瞳でモモイを睨むユウカ。
そも、モモイの狙いの一つは連邦捜査部の権力をゲーム開発部へ
ならば、せめて大事にして交渉やら何ならで廃部までの期間を先延ばしにさえ出来れば、時間相応の対策だって可能となる。一生徒が代償もなく取れる策としてはほぼ満点だろう。
無論その旨を説明するまでもなく、ユウカには先読みされて否定されたのだが。
――これはミレニアムに限った話ではない。
基本的に、部活の運営については概ね各学校の生徒会に委ねられている。連邦捜査部の手が介入したとしても、不正や不当な結果でない限りは廃部を覆せず、ユウカも真っ当な理由を持っての決定であると自信がある故に、臆する様子もない。
その生徒会がシャーレに一時的な権限を付与するなら話は別だが、現状ではまず有り得ない話だ。
「――つまり、ゲーム開発部の廃部は決まったことなの。これはもう誰にも覆せない」
「そ、そんなことないよ!言ってたでしょ、部員が規定人数に達するか、ミレミアムの部活として相応に見合う成果を出せれば…!!」
「それが出来れば、ね。もし出来なかったら廃部で、部費も部室も没収。あなた達は部員数も足りない上に、部活としての成果を証明出来るものも無いまま、もう何ヶ月も経ってるんだから……十分な猶予は与えていた筈でしょう?」
「ぐ、ぐぬぬぅ…!」
厳しい処置である、とは一概に言えない。
ゲーム開発部はセミナーより資金を得て活動する部活動だ。例えるなら、トリニティのビッグブラザーファンクラブや放課後スイーツ部は完全な趣味嗜好の合う友人同士の同好会で、生徒会から課されたノルマはない。
だがゲーム開発部はゲーム開発を旨とし、数ある大会やコンテストで結果を残す事を期待されていた部活動だ。
学園に貢献せず、所謂"クソゲー"の発表でミレミアムの名誉に傷をつけているだけの部活。ユウカとしては、もう十分に温情は与えたのだ。
モモイは口篭り、ミドリも現状が現状なだけに理論的な反論を出来ない。だが放っておけば数秒で銃撃戦に発展するキヴォトスで、この沈黙はイツキや先生にとって好ましくない。
静かに先生へ目配せをして、イツキは話に介入することにした。
「――ユウカ、口を挟んでもいいかな」
「…イツキさん?」
「色々と口論が白熱してるけれども…きっとユウカを言い負かしたとしても猶予が設けられたり、廃部自体が白紙になったりはしないよね」
「ええ、当然ね。これはセミナーの決定で、私はその意志を伝えてるだけだもの。結果を示さない限り、決定は覆らないわ」
「そっか。じゃあ至極簡単だね、先生」
「うん、そうだね」
「え?」
目を丸くするユウカに向け、イツキと先生は同時に口を開く。イツキと先生は別人だが、この世界における『先生』の資格を持つ者ならば――
「「最高のゲームを作るさ、この子達は」」
「なっ…!?」
何度繰り返しても、例え初めての経験だったとしても――『先生』であれば生徒を信用せずして何を成せるのか。
シャーレの活動は生徒の手助けだ。子どもを教え導き、いつかは『先生』が介入しなくても良くなる『大人』になるまで、非力な腕で引っ張るのが連邦捜査部顧問の役割なのだ。
「…ほ、本気ですか?先生やイツキさんよりもこの子達に詳しい私が、無謀だって断言しているんですよ!?それだけの『過程』を見てきたんです!!」
「ユウカ、まだ『過程』は終わってないよ。いつか『結果』が実るまで、無限に枝分かれした『過程』は続いて……そんな生徒の可能性を信じて、ほんの少しだけ手助けするのが『
「結論を急ぐ必要はないんじゃないかな。私たちは超法規的権限で彼女たちを助けるんじゃなくて、モモイの
「まあ、イツキは
「………無償の信頼…なんで、そんなことが出来るんですか…」
「大した理由なんて必要ないよ」
「私が『先生』で、君たちが『生徒』だった。たったそれだけだよ」
困惑するユウカを見て、モモイとミドリはイツキ達に続いて言葉を紡ぐことが出来なかった。
無償の信頼なんて初めてで、その初めてに容易く報いる事なんて自分たちに可能なのか。どれだけ言葉を尽くして、自らの行いを楽観視してきたとしても事実は消えないのだ。
惰性的に過ごしてきて、結果がこれだ――否、先生の言葉を借りるのであれば『結果』にはまだ辿り着けていないのだろう。
ならば、重く純粋な信頼に応えるには何で示さなければいけないのか。モモイとミドリは目を合わせ、小さく頷く。
「……ユウカ、決めたよ!」
「私たちは『TSC2』――『テイルズ・サガ・クロニクル2』を出す。それがミレミアムプライスで受賞すれば、部を存続させる功績にはなる筈!!」
「…本気?あのクソゲーランキング一位に選ばれて、『デットクリームゾーン』すら名作だって錯覚させるようなクソゲーの続編を出すって言うの?」
「どんな評価でも、注目が集まってたゲームの続編なんだからネームバリューとしては十分に意味はあったもん!!」
「……いや、まあ…確かに気になるし、ちょっとだけ楽しみだけど…」
ミレミアムプライス――それはミレミアムの各部活の成果物を競い合う、ミレミアム内でも最大級のコンテストだ。
高性能の武器や電化製品、芸術品、料理に本まで出展されるコンテストでの受賞。それはユウカでなくとも無謀と切り捨てるだろう。
だが同時に、もしも受賞したら例え部員数が足りなかったとしても部を存続させるには十分過ぎる成果となる。
可能性の提示と結果の証明。怠惰な『過程』を見られたユウカには、明確な結果で示さなければいけない。
「……いいわ、じゃあ証明してちょうだい。ミレミアムの生徒らしく、結果で示しなさい」
「やってやるもん!もう勝利フラグは立ってるんだって見せつけてやる!!」
「お姉ちゃん、あまり言葉にすると負けフラグになっちゃうよ…」
――ミレミアムプライスまで残り二週間。
それまで待つ、と告げてからユウカは部室を後にした。
「ってなわけで、『廃墟』に行こう!」
「だからね、モモイ。その『廃墟』について説明して?先生が混乱してるから」
ユウカが去ってから早々、モモイが開いた口から出た言葉はユウカが来る前と殆ど同じ内容だった。思えば、その説明の途中でユウカが来たのだから、モモイとしては一から説明し直そうとしていたのかもしれない。
「えっとね、『廃墟』っていうのは……元々は連邦生徒会が出入りを制限してた、ミレミアム近郊の謎の領域!」
「当時は『危険な地域だから』って言われてましたが……実情、誰にも詳しいことはわからないんです。そのまま連邦生徒会長が行方不明になったので、今は殆ど手付かずの危険地帯みたいな扱いです」
誰も入った事がないのか、そもそも入れないのか。それとも入ったけれども誰も戻らなかったのか――全てが謎に包まれた場所だ。
ミレミアムは中央こそキヴォトスでも随一の発展を見せているが、中央学園付近以外は普通に自然が残っていたり、場所によっては『廃墟』と同様に手付かずになっている。
「……一体、どうしてそんな所に行くの?」
「良いゲームを作りたいから!……私は、証明したいの。たとえ今の私たちのレベルが『クソゲーランキング一位』に過ぎないとしても……私が大好きで、私を幸せにしてくれたゲーム達は…大切な宝物で、絶対にガラクタなんかじゃないって!!」
「…ここのゲーム機全般は前時代的で、言ってしまえば古臭い物ばかりなんです。ゲーム開発部に体験入部に来た人達が、これらを見てガラクタだって言って去って行く……私たちのお宝を、否定する。…それが嫌で、だから…私たちは部員を増やすという選択肢を取れていなかったんです」
全員ではないのだろうが、そう考える人も一定数はいる。それだけで、二人が新入部員を迎えるのに抵抗感を覚えるには十分な理由だったのだ。
ゲームが好きで、好きなゲームを作れたら幸せだと思ったからゲーム開発部が完成した。何百の言葉で語るまでもない、シンプルで一番の理由はずっと胸の中にあった。
「――そのためには、どうにか廃墟に入って『あれ』……G.Bibleを見つけないと!」
◆◆◆
数時間後、四人の姿は荒廃した都市に在った。
「………ねえ、お姉ちゃん。一体いつまでこうしればいいの?」
「静かに。あっ、先生はもうちょっと頭下げて…!」
「う、うん…」
視界の先には、数え切れないロボットやドローン。中には荒廃した『廃墟』に馴染むほど、損傷の激しい個体も彷徨いている始末。
形態や種別こそ異なるが、アビドス砂漠でも見た光景だ。それぞれの個体が無線で連絡を取っている様子もあり、オートマタと同様に集団での連携に長けているのは想像に難くない。
イツキとしても、ここで戦闘は繰り広げたくない。アビドスの面々に比べ、モモイとミドリは戦闘慣れしていない。それに加えてパーティのバランスも悪い。
アビドスではホシノが鉄壁のタンクを担っていたが、今の面子ではイツキがその立ち位置になるのだろう。然し盾は持っておらず、敵集団の注目を集めるだけの技術もない。
雑に前で鉄の棒を振り回すだけでも問題はないのだろうが、どうしても優秀なタンクと比較してしまう。
(………ま、いざとなればペロロ様を囮にするけれどね)
定期的に鞄の中に入っている、膨らむ巨大ペロロ様ぬいぐるみ。何故かそこそこの数の銃弾に耐え、しかも敵全体のヘイトを集める謎機能が付いている。
ごく稀にしか使用しないが、何故か使う度にいつの間にか鞄に補填されている代物だ。思えば、いつからイツキはペロロを様付けで呼んでいたのか……一瞬だけ洗脳を考え、然し怖いので考えるのを止めた。
「……いやー。出入り禁止の区域だから、ある程度の危険は覚悟してたけど…冷や冷やするねー」
「あのロボット、いったい何なんだろう……ううん、それよりも…あんなのが幾つも徘徊している『廃墟』って…」
「確か…連邦生徒会長が居なくなってから、兵力も撤収されて。そのまま放置されてるのが
そも、ゲーム開発部と先生達が此処まで辿り着けたのはモモイがヴェリタスに手助けをしてもらったからだ。『廃墟』はキヴォトスから消えて忘れ去られた物が集まる場所と推理され、故にモモイが目を付けたのだ。
無論、それだけが理由ではない。
ヴェリタスにG.Bibleの捜索依頼をしたところ、最後に稼働が確認された座標が『廃墟』だったらしい。
「……それで、G.Bibleっていったい何なのかな?」
「あ、先生には説明の途中だったね。G.Bibleは――」
嘗て、昔のキヴォトスには伝説的なゲームクリエイターが存在した。そのクリエイターがミレミアム在学中に作ったのが『G.Bible』だ。
詳しい内容は伝わっていないが、その中には最高のゲームを作れる秘密の方法が入っているとの事。それが物理的なのか、それともデータとして保存されているのか。それすら、現状では分からない。
「…改めて聞いても、怪しい内容……イツキさんはどう思う?」
「うーん、浪漫があっていいんじゃない?G.Bibleの座標は存在するんだし、探してみる価値はあると思うよ」
「でしょ!やっぱロマンだね!!いや〜、イツキは話が分かるねぇ〜!!」
「あっ、モモイ……いま騒いだら――」
「えっ?」
先生に指摘され、全員が『廃墟』を彷徨うオートマタに注目して――微かに赤く光る瞳と
一秒にも満たない沈黙の後、オートマタは銃を構えながら仲間のロボットへ連絡を取る。つまり、戦闘開始の合図だ。
「……戦闘用意。私が前衛に往くから、先生は二人の指揮をよろしくね」
「お姉ちゃんのばかー!!」
「ご、ごめんって〜!!」
――竹刀袋から鉄の棒を取り出し、イツキはオートマタに向けて駆け出した。
神名文字を集めて神秘解放する生徒。では、神秘を得る為にイツキさんが消費しているのはナニか……その結果、末路が軌跡の消滅です。
名前を集めて得る事で強くなる神秘。存在しない名前を集めることなんて不可能でして、逆に消費するしかないですよね。
ぜーんぶ使った後に、『え、あ…あの…小鳥遊さん?…えっと、何処かで会ったことありましたっけ?』ってなるのが最っ高に健康にいいんですよね。