嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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入室許可

 

「――おっと……ここら辺でいいかな」

 

無数のオートマタとドローンの集中砲火を出来る限り避け、戦場を俯瞰する。

 

今の面子からして、モモイとミドリは中衛から後衛向きだ。二人はアサルトライフルであり、特にミドリの銃はライフル仕様。

それに加え、イツキの武器は実質的に鉄の棒のみだ。皮鞭は先日の無茶な使い方により修理中で、小さい背嚢に忍ばせている切り札も武器とは呼べない代物だ。

 

『――■■■■、■■■■■!!』

 

「ごめんね、あまり増援は呼ばれたくないかな……せいっ!」

 

『■■!?■■■■!!』

 

鉄の棒を真上のドローンに放擲し、左腕の通信機に曇った機械音声を流すオートマタへ足元の瓦礫を投擲する。通信網自体はどの機体も有しているのだろう。

アビドス砂漠のオートマタと同様に指揮を担う個体は幾つかいるらしい。定期的に増援要請をし、然しそれは決定的な隙となり、もしイツキが見逃したとしても先生の指揮で二人が先んじて攻撃する筈だ。

 

鋼鉄の盾を持つゴリアテの脚関節部をローキックで破壊して、それぞれの個体を徹底的に破壊するのではなく飽くまでも行動不能な状態、もしくは攻撃不能な状態にする。

イツキとて『廃墟』を未だに守っている彼らを憎々しく思ってはいない。寧ろ故障や劣化を抱えながらも使命を全うする姿は過去の自分と重なる部分もあり、それを力で容易く捩じ伏せるのは気が引けた。

 

「…やっぱり、何処のオートマタも近距離戦は想定していないみたいだね。ふっ、よっと……わっ、痛ってて…狙撃かな」

 

額に強い衝撃を受け、一瞬だけふらつく。

 

手で触った限りでは怪我はなかったが、やはり視界の届かない地点からの狙撃には対処が効かない。当然痛いには痛いが、肉体にダメージが残り続けるようなこともなかった。

端末で狙撃手の存在を先生に報せ、数秒後にはミドリが対処したとの報告を受ける。

 

「……はぁ」

 

確実に、アビドスで神秘解放を繰り返した事によって身体が強化されていた。

 

外見肉体にそぐわない筋力に、硬さ。鍛練もしているが、それだけでは得られないモノだ。

 

このまま更に神秘の解放を行えばいずれはキヴォトスでも最高位の強さを手に入れられるのだろう。無論、その頃にはイツキは水面イツキでは在れないのだが。

神秘解放をする度に、水面イツキを構成するモノ、そして存在を証明する軌跡が消えている。消えたものは二度と戻らないし、結局最後には死ぬに等しい。

 

そう考えたら、先生だった頃とは比較にならない程の身体能力も素直に喜べないものだ。

 

『――イツキ、今からG.Bibleの反応があったって地点に移動。煙幕を撒くから、一旦合流する……から、頼めるかい?』

 

「うん、了解。任せて」

 

徐々に増えるオートマタを見て、先生は戦闘継続を不毛であると判断したのだろう。

然し現状での選択は後退ではなく前進。煙幕を用いたとしても全ての敵を潜り抜けるのは無理が過ぎる。仕方なし、と溜息を零してイツキは鉄の棒を半身後方へと構えた。

 

「神秘解放――穿刃(センジン)

 

『■■■、■■■■■!?』

 

×印で灰色のヘイローが激しく点滅し、その光は鉄の棒へ収縮される。力任せに振るわれる横薙ぎには灰色の衝撃刃が連なり、辺り一面の敵影を半壊させた。

 

瓦礫が更に散乱し、砂煙が立ち込める一帯に発煙弾が投げ込まれる。振り返ると、モモイを先頭としたミドリと先生が移動して来ていた。

 

「えっ!?な、何それカッコイイ!イツキ、私にも必殺コマンド教えてよ!!」

 

「お、お姉ちゃん!危ないから飛び出さないでって!!」

 

「…イツキ、すぐに移動するよ。怪我があったら言ってね?君一人を背負うくらい、私にだって出来るんだから」

 

「大丈夫、無傷だから。頑丈さだけには自信があるからね。それに多少のダメージだってすぐに回復するし」

 

「……イツキさんってこんなに強かったんだ…なんか意外かも。小さいし」

 

「待って、待ってミドリ。小さいって言っても君たちよりは身長も高いよ。つまりこの場において私は前から二番目に高身長なワケで、そりゃあ年下と比べるなって言われたらそれまでだよ?でも、でも…そもそも140族と150族には大きな壁があってだね、確固たる差と言っても過言ではなくて――」

 

「早く移動しようよー、イツキ」

 

「待ってモモイ…!ときには効率とか鉄則よりも重視しなければいけない事柄があって、特に身長に関する個人間での認識のズレは――」

 

「はいはい、後でちゃんと聞くからね」

 

――その後、イツキはモモイに引き摺られながら目的地へと向かった。

 

◆◆◆

 

目的地として、シッテムの箱によりマーキングされた地点――工場と思わしき場所。

 

斯くして無事に辿り着けたのだが、さりとて元よりG.Bibleの明確な位置は誰にも分からない。周辺であることには違いないのだろうが、此処は工場内であり、草木を掻き分けて探せるほど平坦であったり平和的な場所ではない。

複雑怪奇な内部はミレミアムタワーと比べればあまりにも時代錯誤で、荒廃して時代に取り残されたという印象を抱かせる。

 

「……追ってこないね」

 

「そーだね。この工場に入るまでは、恐ろしい勢いで向かってきたのに。よく分かんないけど、とにかくラッキ〜ってコトで良いのかな?」

 

「さあね。取り敢えず、私も先生もロボットの接近は感知していないから、一先ずは安心だよ」

 

イツキの五感は敵影を捉えず、シッテムの箱で空中へ表示された俯瞰映像にも機械体は映らない。長時間は保証出来ないが、それなりの時間は捜し物に集中出来るだろう。

もしくは、この地点には近寄らないようにプログラムされているのかもしれない。

 

「うーん、どこかな〜」

 

「モモイ、危ないから不用意にうろつかないでね。特に落ちてる物を振り回したり、ボタンとかがあっても好奇心で押したり、お菓子が落ちてても食べたりしないでね」

 

「イツキは私のこと何だと思ってるのさ!ボタンは押すし物は振り回すけど、落ちてるお菓子は食べないよ!!」

 

「おおよそ予想通りの行動じゃん…」

 

迂闊な姉にミドリは呆れた。せめて嘘でも付いて否定して欲しいのだが、モモイはそこまで器用な性格でもない。

今もケラケラと笑いながら鉄パイプを拾って振り回し、先生に止められている。和ませる為に道化を演じているのではなく、素でアホな行為をしているのだろう。

 

注意されたモモイは振り回していた鉄パイプを放り捨て、埃まみれの路地を元気に駆け回る。そして何かを発見したのか、建物内に響く大声を上げた。

 

「…あっ、先生!なんか良さげなボタン発見した!!」

 

「待って、モモイ。そっと手を挙げて、そのまま後ろを向いてゆっくりと下がって。ミドリ、念の為にモモイを拘そ…ギュッと付き添ってくれる?」

 

「先生も私をなんだと思ってるの!?そんなこと言われても、もう押しちゃってるもん!!」

 

「はいっ!?」

 

「お姉ちゃん!?事後報告はダメだって――っ!?きゃあああぁぁ!?」

 

「なっ!?ゆ、床が…ッ!」

 

「言わんこっちゃない……」

 

床が開かれる刹那、イツキは鋼鉄の壁に鉄の棒を刺してから先生を放り投げ、鉄の棒に掴まらせる。

 

「うわっ!?」

 

「先生はじっとしてて!」

 

次に両壁を足場に空間を跳躍し、涙目で落ちるモモイとミドリを回収して両脇に抱えた。そのまま小さく『神秘変質』と呟き、灰色のヘイローが僅かに(ほど)けて()()()()()()()()()が形成される。

アビドス砂漠での使用した『神秘変質』――現在使用している獣化の特性は五感と身体操作の特化だ。

本来ならば二人を抱えたまま両壁を蹴り、移動する芸当などイツキには不可能だ。然し獣化した今ならば、猫のように身軽に動ける。

 

「うにゃあぁぁ!?め、目が回るぅぅ…!!」

 

「な、なになになに!?イツキ!?」

 

「あまり暴れないでね…!下手したら私ごと皆落ちるから!!」

 

脚力で壁を凹ませながら跳躍すること十数回、やっと床が無事な位置を見つける。

 

万が一を考えて警戒しながら着地するが、床が落ちる様子はない。それを確認したイツキはモモイとミドリを降ろし、また壁を蹴って先生と鉄の棒を回収しに行った。

そうして戻ってきた頃には、モモイが硬い床に正座しながら待っていた。

 

「……し、死ぬかも思った…」

 

「はは…私たちは兎も角、先生は落ちたら大変だったかもね」

 

「…お姉ちゃん、何か言うことは?」

 

「ヒェッ……ご、ごめんなさ〜い!!」

 

「冷蔵庫のプリン、二つとも没収ね」

 

「え?そ、そんな……二つも!?」

 

「イツキさん、先生。ちょうど部室の冷蔵庫にプリンが二つも余ってるんです。私の分もあるので、帰ったらみんなで食べましょう」

 

「あ、あはは……私はそこまで気にしてないよ?イツキが助けてくれたし、怪我もないからね」

 

先生は朗らかに笑うが、ミドリはモモイを許す気はないらしい。

 

無論、ミドリもモモイを本気で怒っている訳でもない。この程度のハプニングはキヴォトスでも有り触れていて、先生さえ巻き込んでいなければ軽い笑い事で済ませていただろう。

しかし自分は兎も角として、明確な被害者は先生とイツキだ。二人の目の前で姉の愚行を笑い飛ばすことも出来ず、結果として罰を与えて戒め、被害者を宥めようとしているのだ。

 

そも、前提として先生やイツキとキヴォトスの住民とでは感性が異なる。例えるならば、自動車事故だ。キヴォトスの住民ならば自動車に引かれたとしても軽傷で済み、それ故に事故へ抱く感情は怒りだ。

それに対し、先生が自動車事故へ想うのは純粋な恐怖心だ。当たり前だが、先生は車に轢かれれば死んでしまう。死を怖いと感じるのは同じだが、死ぬまでの過程で先生はあまりにも弱く、生徒たちが問題ない出来事でも先生は容易く死ぬ。

 

――その差が、今回の出来事で顕著に現れた。

 

生徒は、どんなハプニングでも死ぬ事はまずない。故に安易な好奇心に乗せられ、特にミレニアムの生徒であるモモイは目の前の疑問に答えを求め、考えるよりも先に試す。

キヴォトスの住民は育った環境柄、好奇心に素直な者がかなり多い。危機感はあるが、その基準が先生と違う。

 

 

先日の銀行強盗の件もそうだが、キヴォトスでの常識にはまだまだ慣れなそうだと先生は溜息をついた。

 

「まあ、まずは探索を続けよう。あまり長居はしない方が良さそうだからね」

 

「うん…まあ、イツキさんも先生も怒っていないなら、私から言うことは無いけど…」

 

「ゆ、許された…?」

 

「でもプリンはちゃんと頂くよ、モモイ。ケジメはちゃんと、だからね」

 

「うぐっ…!」

 

大袈裟に傷ついたフリをするモモイに、イツキも一口くらいは分けてあげようと心に決めた。

 

「……それはそれとして、イツキ。なんか獣耳生えてなかった?しっぽも」

 

「先生何言ってるの?人の耳なんて生えたり引っ込んだりしないよ、しっぽも」

 

「そうかなぁ…そうかも…?うーん、また見間違えかな…」

 

「先生、疲れてるんだよ。帰ったら沢山寝ようね」

 

「…………」

 

ミドリもイツキの頭に獣耳が生えていたように見えていたが、深く考えない事にした。趣味は人それぞれで、本人が隠しているのであればミドリとて気を使って口を閉じる。

同じく獣耳と尻尾の付け物をしている分、寧ろ親近感が湧いた。

 

 

 

 

――探索を再度開始してから十数分。

 

「あっ」

 

「ふぎゃっ」

 

「…イツキ、何かあったのかい?」

 

先頭を歩くイツキが立ち止まり、ボーッと歩いていたミドリがその背中にぶつかる。

 

相変わらず工場内は複雑怪奇な造りだが、イツキにとって()()見覚えのある通路を発見した。"彼女"が眠る場所へと繋がる道――

今からイツキが迎えに行く少女は、いずれは世界を救う鍵、もしくは世界を破滅させる刃となる。様々な結末を知っているイツキだが、それが無くとも一人の『先生』として『生徒』を迎えたいという気持ちが強い。

 

「……多分、あっちだね」

 

「あっちに何か見つけたの?」

 

()()って言っても、先生は信じてくれる?」

 

記憶について、イツキは誰にも話すつもりはない。当然ながら予感であると言ったのも嘘なのだが、騙そうとしての言葉ではない。その意志を感じたのか、先生は深く頷く。

 

「うん、もちろん信じるよ」

 

「そっか、ありがとうね。二人も良いかな」

 

「んー、よくわかんないけど…クエスト進行で仲間がこーゆーコトを言うってのもテンプレだし、良いんじゃない?」

 

「そもそもが手探りだから、結局は予感に頼るしかないと思うよ。それに、イツキさんのことは信頼してるから…」

 

「……ありがとう、二人とも。じゃあ行こっか」

 

硬い床に四人の足音が響き、やがて"行き止まり"が視界に映る。未知の建物なので、もし行き止まりだったとしても先程の床のように、調べれば何が出てくるかもしれない。

何もない一室にも見える場所へ足を踏み入れた瞬間――

 

《――接近を確認》

 

「えっ、なに!?誰か喋った!?」

 

「この声……部屋全体に響いている?」

 

突如部屋に響いた声は、あまりにも無機質で、()()()()であるのは疑うまでもない。皆が部屋を見渡すが、スピーカーらしき物も見て取れない。

二人と先生の混乱に構う様子もなく、機械音声は淡々と続ける。

 

《――対象の身元を確認します。才羽モモイ、資格がありません》

 

「え、えっ!?何で私のこと知ってるの!?」

 

《――対象の身元を確認します。才羽ミドリ、資格がありません》

 

「私のことも……一体どういう…?」

 

《――対象の身元を確認します………先生、水面イツキ………資格を確認。ERROR、ERROR、ERROR……原因解明まで入室許可を不要できません…原因解明まで入室許可を不要できません…原因解明まで入室許可を不要できません》

 

「わっ、バグった!?」

 

「っ!…こう、なるのか…」

 

「エラー…?私とイツキだけ、資格はあるらしいけど…連邦生徒会が関係しているのかな」

 

その可能性もあるが、イツキが考えているのは自身の軌跡だ。嘗て先生であったことが、今は悪い意味で作用している。

こうなれば、下に行くことは出来ない。建物のシステムもエラーが起きている限りでは下手に入室許可を出したりもしないだろう。

 

いっそ、床を壊して強行突破しようか。そう悩み、床の厚さを確かめるために()()()()()刹那。

 

「……ん?」

 

―― 一瞬だけ、鉄の棒が()()()()()ような気がした。

 

然しそれも次の瞬間にはなくなり、その代わりに再度部屋に機械音声が響いた。

 

《――『杖』の存在を確認、設定の書き換え…………完了。先生、水面イツキへ入室許可を付与します。才羽モモイ、才羽ミドリの両名を『生徒』として認定、同行者である『生徒』にも資格を与えます。認証しました――下部の扉が開きます》

 

「………ど、どゆこと?」

 

「…下部の、扉…?なんだか、嫌な予感というか…既視感が…」

 

「……………イツキ、また落ちそうだね」

 

「…さっきの、良い予行練習になってたのかもね」

 

 

――間もなくして、また床が消えた。広々とした部屋では壁を蹴って空中に留まることも叶わず、今度こそ四人は下へ落ちていった。

 

 

◆◆◆オマケ◆◆◆

 

『神秘変質』

・水面イツキの使用する技術。その効果は、元より存在しない自身の変質。忘れられた神々とは異なり、イツキを形成するのは『先生』としての軌跡、そして幾重の願い。

生徒としての形が不定形だから、存在の在り方を変えれる。それが神秘の変質で、神秘解放とは異なり存在の消費もされない。水の入ったビニール袋を破かずに変形させるのと同様。

 

《灰翼》

・筋力、回復速度が向上。素早さと防御力は下がる。

 

《獣化》

・五感、本能的な身体操作が向上。激しい明暗の変化や刺激臭等、五感への刺激に対して極端に弱く、灰翼以上に打たれ弱い。

 

《???》

《???》

《???》

《???》

 

合成種(キメラ)

・全ての特性を持つ。然し脳に送られる情報量が極端に増える為、長時間使用は脳への甚大なダメージへと繋がる。

 





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