嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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鬼畜アリス「アリス、知ってます!イツキは生徒を見捨てて逃げた屑です。それなのにキヴォトスに醜く執着して、ダラダラと矛盾した言い訳を並べながら這いずり回る滑稽な道化さんなんです!なので、アリスはモモイを殴ります♪そして陸八魔アルを殺します」

イツキ「ア゚ッ」

モモイ「グオプッ!?」

アル「ナンデッ!?」



エンジニア部の部長

 

「――やあ、イツキ。久しぶりだね」

 

「こんにちは、ウタハ。先月ぶりだっけ…最近はお互いに忙しいからね」

 

《AL-1S》とゲーム開発部、そして先生と部室に戻ってから半刻後。イツキの姿はエンジニア部の工房にあった。

 

軽く見渡すと、いつも以上に機器の部品や器具が散乱しており、照明も消えて夕焼けの光のみで照らされている。

工房内にはエンジニア部の部長である白石ウタハしか見えず、他の部員は不在のようだ。放課後なので帰っている可能性もあるのだが、平気で徹夜作業に勤しむ彼女達にしては珍しいとイツキは感じてしまう。

 

「他の二人は?」

 

「今日ばかりは帰って寝てるよ。今日の昼頃まで緊急の案件があってね、二徹明けなんだ…おかげで依頼は達成したし、私たちも満足してるんだけどね」

 

「お疲れ様。……ウタハは寝ないのかい?」

 

「そうしたいのも山々なんだけど…『マイスター』としての矜恃、と言うべきかな。依頼者から完成品の使用感や想像と相違無いかを確認しておきたいんだ。そろそろ届くだろうし、今は連絡待ちさ」

 

微笑みながら語る彼女は、目の下の隈とは裏腹に眠気を感じさせない。深夜テンションのようなモノも入り交じっているのだろうが、それを抜きにしても心の底から楽しそうだ。

好きなことに、好きなだけのめり込む。ミレミアムの提供するエンジニア部という環境は彼女にとっても楽園に等しいのだろう。

 

イツキにはウタハほど趣味嗜好に夢中になれた経験がない為、尊敬すると同様に羨ましくも思う。

 

「それで、アレを受け取りに来たのかい?」

 

「直ってたらでいいんだけどね」

 

「ふっ、舐めないでもらいたいね。一からの開発ならいざ知らず、修理くらいならその日のうちに終わらせてるよ。何なら日数が経ってるし、少しばかり()()もしてるんだ」

 

「か、改造…?なんだろう……すごく嫌な予感がする。自爆機能とか付けてないよね…?」

 

「問題ないよ。もう外したさ」

 

「一度は付けたんだね…」

 

相変わらず疲れを感じさせない様子で、ウタハは工房の壁の突起に引っ掛けていた物を手に取る。

 

イツキの使用していた武器――『皮鞭』だ。以前は酷使の果てに雑に巻かれていた手元の白布は、新たな布に取り替えられている。

少しばかり短くなったように感じるのは、修理前が無茶な使用で伸びきっていたからだろう。新品の皮は硬くしなりも弱いが、使い続ければ自然に慣れるだろう。

 

オートマタやゴリアテに巻き付けて振り回した結果、千切れたりはしなかったが、変に伸びて元から備わっていた機能も不調となっていた。

 

ウタハから手渡された皮鞭を二~三度握り締め、以前との差異を確かめる。

 

「……少し、振ってもいいかな」

 

「もちろん。的でも出そうかい?」

 

「ううん、大丈夫だよ。でも危険だから少し下がってね」

 

物の少ない方へ移動し、数Mはある鞭を地面に流す。軽く手首を内側へ折り込み、出来る限りの小さい動作でノックする様に振るう。

瞬時に行われた動作の畝りは鞭の手元から先端に伝わり、音速を超えて激しくパァンと空気を叩く。

 

同様の動作を数回繰り返し、今後使用する上で問題がないことを確認した。

 

「――うん、完璧だね。ありがとう、ウタハ。依頼料は……」

 

「いいよ、これは個人的な趣味で作った物だからね。言わば、試作品をテストしてもらっている様なモノさ。だからこそ思い付く限りの機能を勝手に搭載出来るんだ」

 

「………今度はどんな機能を?」

 

遠い目で手元の皮鞭を眺める。

 

以前までは、イツキの知る限りでは五つの無駄な機能が付いていた。ひとつがBluetooth機能付きで、携帯端末に繋ぐと戦闘中に音楽が流れる機能だ。

二つ目は先端で上手く対象を打つと、金属バットで野球ボールを打ったかの様な甲高く爽快な追加音声が流れる。そして効果音は無駄に種類が豊富だ。無論、オンオフは切り替えれる。

その他にも『アテナ3号』の自己浮遊機能を流用して鞭を巻き付けた相手を若干だが軽くしたり、鞭全体に電気を流したり(使用者も感電する)、ボタン一つで電子バリアが展開出来たり(使用者も弾かれる)等。

 

大凡役に立つ機能はなく、普通に鞭として使う他ない。そも、穿刃(センジン)とは別口の中距離攻撃手段を欲していた故の鞭なので、変な機能は最初から求めていない。

 

「――ふっ、ふふ…!なんと、なんとだよ!!今回は新しく射撃モードへの変形と冷却機能、ついでに発光する機能も付けてみたんだ!!」

 

「……………なるほどね」

 

「イツキ、さっそくだが鞭の持ち手を強く握って激しく振ってくれ」

 

「そうすると、どうなるの?」

 

「程々に冷えて、程々に光る」

 

「程々に冷えて程々に光るのかぁ」

 

「長時間やってると、徐々に熱くなってショートするね」

 

「ショートしちゃうのかぁ…」

 

「小さいから、無理に機能を詰め込むとすぐにこうなるんだ。いっそ全体的に大きく……いや、鞭としての機能が損なわれてはいけないね。そうなると……」

 

せめて、冷却と発光の機能を別々にしてくれたら多少は使い道もあったのだが。彼女達の開発物に利便性を求めるのは間違っているのだろう。

明確な要望があればその通りに完成するのはわかっているが、皮鞭は飽くまでも試作品なのだ。鞭として扱えさえすれば文句もない。

 

「それよりも、本命は射撃モードだよ。持ち手と革部分の境目に小さな凹みがあるだろう?そこを爪なり爪楊枝なりで押し込んでくれ」

 

「あ、うん…」

 

「すると――ほら、かっこいいフォルムチェンジさ!」

 

「そ、そうだね」

 

ウタハの指示通りにした刹那、持ち手が音を立てて展開し、鞭の打部分を全て吸い込む。そのまま派手な機械音が鳴り響き、握っていた部分から先が曲がって武骨な短銃が構成された。

銃口は多少大きいが、見た目通りの短銃とは異なるのだろう。

 

見事な変形に驚嘆すると同時、申し訳なくも思う。

 

「射程距離こそ短いけどね、それは問題じゃないんだ。物珍しい鞭が銃へ変形すること自体が浪漫だろう?それに威力も割とある方だ。こんな見た目だが、仕組み的には散弾銃に近くてね。鞭が届かない範囲に対してはギリギリアドバンテージが取れると思うよ」

 

「………ウタハ、一つだけ()()()()()があるよ」

 

「……何だって?ふむ、興味深いね……是非とも教えて欲しい。改善出来る点があれば、今この場でどうにかしよう。使用者に不満を抱かせるようでは『マイスター』失格だからね」

 

「いや、えっと…そうじゃなくて。鞭じゃなくて私の問題なんだけど…」

 

「イツキ自身の問題?」

 

「……見せた方が早いかも。ウタハ、的を出して貰える?」

 

「あ、ああ…了解したよ」

 

ウタハがリモコンを操作すると、各窓やドアにシャッターが降ろされ、暗くなった室内に光が灯る。跳弾や誤射に対する対策なのだろう。

 

前方の天井からは機械の駆動音と共に人型を象られた的が降りてきて、イツキとの距離は50M程度だ。

 

「――ウタハ、よーく観ててね」

 

「いったい何を…?」

 

イツキは視力と空間把握能力には多少の自信がある。銃口は真っ直ぐと的に向かい、室内なので当然だが、射撃を邪魔する風や障害物はない。

その構えは敢えて特筆すべく点もなく、この距離ならば難なく当たるだろう。そう結論付け、ウタハの頭に疑問符が浮かんだ瞬間――迷うことなくトリガーは引かれ、()()()()着弾音が鳴り響いた。

 

――尚、イツキの構える銃口は真っ直ぐと的に向いていた。

 

「っ!?……こ、これは…?いや、そんな…設計は何度も確認して、部員皆で試し撃ちもした筈だ…!まさか、この短時間で故障したのか…?」

 

「――いいや、銃は平常だよ」

 

「いや、然し…」

 

「私ね、野生のチンパンジーよりも銃の扱いが下手なんだ。真っ直ぐと構えて撃ったはずなのに、真上に飛んでいくんだ……ははっ」

 

「………それは、下手ってレベルなのかい?目に見えない超常的な力が働いているとしか思えない…」

 

「稀にヴァルキューレで施設を借りて練習してるんだけどね………まあ、兎に角。悪いんだけど、この射撃モードは私には扱えなさそうだよ」

 

一応ではあるが、超近距離で打てば7~6割程度の確率で当たるか掠るのだが、そこまで近付くのであれば鉄の棒で殴った方が圧倒的に早く、力加減の調節も効く。

敢えて銃に攻撃手段を縛る必要性もない。敢えて言うのであれば、銃で殴ったり銃本体を投げたりした方がより良い戦果を出せる。

 

「……イツキ、私ね。卒業するまでの間に追尾(ホーミング)銃を造ろうと思うんだ。キヴォトスで銃が苦手なのは精々君くらいだろうけど、そんな君のために…イルカでも扱える銃を造るんだ」

 

「遂にチンパンジーよりも圧倒的に下だって決定付けられた…因みに、もう一人くらいは居るかもよ?銃が苦手な生徒が……まあ、ヴァルキューレとかに」

 

「そうか……うん、きっといるさ。探せば、世界中に一人くらいは居るはずだよ…イツキと同程度の銃の腕前の生徒も。大丈夫、世界は広いんだ。気を落とさないで」

 

「いや、別に落ち込んではないからね?鉄の棒とか皮鞭のお陰で不慣れな相手にアドバンテージを取れるし。だから、その…生暖かい視線はやめて?」

 

その後、イツキは逃げるようにゲーム開発部の部室へ戻った。決して居た堪れないからではなく、単に《AL-1S》の様子が心配だからだ。

そう、決して避難なんてしていない。イツキは自分の正義心に突き動かされてエンジニア部の工房から飛び出しただけなのだ。

 

そう自分に言い聞かせ、とてつもなく虚しくなった。

 

◆◆◆

 

「パンパカパーン、イツキが仲間に加わりました」

 

「……ものの数時間で影響受けすぎじゃない?」

 

「報告、イツキ。私は『アリス』です。アリスは勇者として、既に三十二回のゲームオーバーの後に二回世界を救い、やっとトゥルーエンドを迎えました」

 

「そっかぁ……うんうん、アリスは偉いね。さすが勇者だね」

 

ゲーム開発部の部室に戻ると、暗い部屋で《AL-1S》――アリスがテレビ画面に向かっていた。

 

テレビの光に照らされた部室を眺めると、ソファでモモイとミドリ、そして数時間前まではいなかった筈のゲーム開発部部長、花岡ユズが眠っていた。

察するに、これまでと同様の流れで動いているのだろう。モモイはアリスをゲーム開発部の部員として迎えて廃部を免れようとしていて、ユズはアリスが『テイルズ・サガ・クロニクル』をクリアして褒めたことによって打ち解けたのだ。

 

差異はあるだろうが、大体はそのような流れと見て間違いない筈だ。

 

チラリとテーブルを見ると、先生からの書き残しがある。要約すると先に帰って明日また来るとの事であり、念の為にイツキは残って彼女たちと一緒に過ごして欲しいとの旨が書いてあった。

多忙な立場なので、一旦帰ってから仕事でもするのだろう。そうなればイツキはシャーレの部長として、顧問の命令には従わなければいけない。

 

先生の手紙を丸めて捨て、淡々とレトロゲームを続けるアリスの後ろに腰を下ろす。

無言が数分続き、ゲーム画面のキャラクターが全滅したのを区切りとして、アリスの手が止まる。

 

「……疑問。イツキのジョブはなんですか?」

 

「えっ?」

 

「当機……アリスは勇者です。当初の認識としてイツキは『先生』だったのですが、もう一人の先生の存在とイツキの言葉により情報が修正されました。よって、イツキは『先生』ではありません」

 

「……そうだね、私は『先生』じゃないね」

 

「なので、再度質問します。イツキの役割(ジョブ)は何ですか?」

 

「………難しい質問、だね。そもそも、どうしてアリスは私を『先生』だって認識したんだい?」

 

彼女の言っていた『唯一残るデータ』の正体もイツキには分からない。先生を『接触許可対象』と認識する機能はどの世界線でもあったのだが、どの道、先生よりもイツキを優先して『先生』と呼んだのには意味があって然るべきだ。

 

イツキの質問に数秒だけ黙り、その後に重々しく口が開かれる。

 

「…最初は、接触許可対象としてイツキがアリスに触れたからです」

 

「………確かに、先生よりも先に私が触れたね」

 

「ですが、接触許可対象はイツキだけでない事も理解していました。なので、『先生』の判断基準に接触の有無は無関係と断言」

 

「…………」

 

「続けて推測。そもそも、『先生』という存在が最初からアリスのデータに()()()()()()()。然しアリスに過去のデータはありません。矛盾……してますが、アリスは『イツキが先生である』というデータを最初から持っていたと推測します」

 

「っ!前提……『先生』の存在と、何故か『先生=イツキ』の設定がインプットされていたと……理由は分かる?」

 

「否定。少なくとも、『アリス』を構成する初期要素には含まれていない『データ』であることは確かです。それ以外、アリスから話せる事もありません」

 

「……そっか、なるほど……うん、わからないね」

 

「肯定します。アリスにも、全くもって理解不能です」

 

そう言い残し、またアリスはゲームを再開した。機械的に、然し興味深くゲームにのめり込む姿はいつか見た光景だ。

 

彼女の言葉を胸の中で反芻し、イツキはゲーム画面を観ながら思考する。何故、アリスの中に『先生(イツキ)』の情報があったのか。

そして、何者かの介入があったとして――アリスにも解けない残留データにどんな意味があるのか。

 

一つの可能性を見出し、首を振って否定した。

 

どれだけ似ていても、彼女達はイツキの生徒ではない。同じ人生を歩み、同一の存在だったとしても――イツキの見捨ててしまった彼女達は目の前の彼女たちではない。

だから、淡い期待を完全に捨てる。

 

(……同じじゃない……絶対に)

 

強く断言する姿は、まるで自分自身への戒めだった。

 





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