嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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ヒナ(ドレス)が出ない………新手のバグか?



エナジードリンク=勇者

 

エナジードリンクとは、斯くも偉大である。

 

後天性のショートスリーパーであるイツキだが、睡眠は克服出来ない。正確には気絶癖とでも言うべきか、眠気はないが身体が勝手に倒れてしまう経験が多々。

それの対策として夜中の決められた時間に強力な睡眠導入剤を使用し、強制的に眠っているのだが。それでも個人的な用事やシャーレの仕事で数日間の徹夜も稀じゃない今日この頃。故に、私生活で気絶してしまう事もある。

 

睡眠欲が薄い症状に関しては、やはり過度なストレスなのだろう。水面イツキとは斯くも面倒臭い人間であり、生きているだけで死ぬ程のストレスが湧き上がるのだ。

 

大体がトリニティで倒れ、何故かいつも現れる某救護騎士団のピンク髪な彼女に回収されているのだが、学園外に居る時にはそうもいかない。

 

そんな時、エナジードリンクは偉大であると思うのだ。単にカフェインを摂るだけならば珈琲や錠剤でも良いのだが、大事なのは()()()()だ。

つまりプラシーボ効果なのだろう。エナジードリンクのエナジー感は幾度となく某中毒者に力説され、イツキもいつの間にか感化されてエナジー信奉者になっていた。

 

とどのつまり、エナジードリンクはイツキの活性剤に等しくなっている。

 

「――つまりね、アリス。エナジードリンクは世界を救うんだ。エナジードリンクはね、すごく…すごいんだよ?とってもヤバくて、かなりすごくヤバいんだ」

 

「……?…エナジードリンクは世界を救う…という事は、勇者なんですか?」

 

「そう、その通り。伝説の武器であり、究極の防具であり、最強の勇者そのモノだよ。ほら、現に私は三徹目だけどね?エナジードリンク摂取のおかげでぜーんぜん眠くないんだ!」

 

「なるほど……はいっ、アリスは理解しました。エナジードリンクはエリクサー勇者です!」

 

「Yes!Exactly!!アリスは覚えが良いね。じゃあ次は――うぐっ!?も、モモイ…?」

 

「コラッ!イツキ!!アリスに変なコト教えないの!!」

 

早朝からイツキがエナジー的英才教育を行っている最中、いつの間にか起きていたモモイからアックスボンバーが繰り出された。イツキの小柄な身体はコロコロと転がるが、傷一つない。

 

仰向けになった反動で視界を上げると、ユズとミドリもイツキの顔を覗き込んでいた。窓を見れば、カーテンの隙間から朝日が差している。

アリスのゲームに付き合いながら会話をしていたら、朝になってたらしい。エナジードリンクをキメて眠気もない状態だった為、時間を忘れていた。

 

「おはよう、みんな。ユズは久しぶりだね」

 

「そ、その…お久し振りです……えっと…い、いつから…来ていたんですか…?」

 

「昨日からだね。あ、戻ってきたときはユズも寝てたね」

 

廃墟から夕方に一度戻ってきて、その後すぐにエンジニア部に顔を出して、すっかり暗くなってから再度ゲーム開発部に戻って来た時には既にモモイとミドリ、ユズは床やソファで眠っていた。

エンジニア部以外にも軽く顔は出していたが、想定よりも遅くなっていたのだろう。

 

それから一晩を明かし、死んだ目でゲームの対戦をした深夜テンションのイツキがエナジードリンクの力説に至った次第だ。

 

「…おはよう、イツキさん。朝から何やってるの?」

 

「朝から…?違うよ、昨日からだよ」

 

「えっ……まさか寝てないの!?」

 

「久々のゲームにワクワクしちゃってね」

 

本当はアリスの様子を見る為に起きていたのだが、態々伝える必要性もないだろう。それにイツキも嘗てはゲーム全般が好きだった為、アリスのプレイを観たり対戦をするのは苦でもなかった。

 

ついでに、今のアリスには人との対話が必要だった。学習能力の高い彼女ならば、一晩話せば十分に他人と違和感なく話せる程度には成長する。たった一徹をするだけで彼女が人として成長するのであれば、安いものだ。

 

「それで?イツキはアリスに何を吹き込んでたの?」

 

「世界の(ことわり)、かな…?」

 

「コトワ…?あー、えっとね…アレでしょ、アレ!あの…ハコワレ的なヤツね」

 

「お姉ちゃん…それ麻雀用語だよ。(ことわり)ってのは、道理とか当然であるさまのこと」

 

「な、なるほど…?コトワリね、完全に理解した。……ちなみに、ユズとアリスは分かった?」

 

「……概要は分かるけれども……え、エナジードリンクが…世界の理……?」

 

「はいっ、アリスは学びました!エナジードリンクはエリクサーで、勇者で、人が生きるのに必要な活性剤なんです。つまり、アリスはエナジードリンクになりたいんです!!」

 

「たぶん違うよ!?」

 

「なんかアリスちゃんが寝る前よりも元気ハツラツになってるし……イツキさん、本当に何したんですか?」

 

「普通に会話してゲームをしただけ。彼女は優秀だからね。ミレニアムの生徒らしく、学びに前向きなんだろうね」

 

「そーゆー問題かなぁ…?」

 

訝しむ様子のモモイ。アリスは正確にはミレニアムの生徒ではなく、飽くまでも協力者が電子生徒名簿にハッキングして『天童アリス』という生徒として登録したのみ。

学校へ通う子供、という条件では間違いなく生徒なのだが、"ミレニアムらしい生徒"と表現されれば今はまだ違和感もあるだろう。

 

「……あ、あの…イツキさん」

 

「うん?どうしたの、ユズ」

 

「今日もせ、先生…来るんですか…?」

 

「そのハズかな。ちょっと待ってね、今確認を…あ、モモトークにメッセージ来てるね。んー、十時くらいには来るって」

 

「へぇー、じゃあまだ時間あるね」

 

時計を見ると、七時を過ぎていた。モモイ達が早く寝た分、彼女達にしては早く起きたのだろう。

なので単純な計算だが、三時間近くは暇が出来る。この後の予定はモモイなりに立てているらしいが、シャーレに協力を仰いだ以上はイツキだけでなく先生の同伴が条件となる。

 

「時間?お姉ちゃん、何か予定でもあるの?」

 

「アリスに学園の案内をしようかなって。銃とかも必要だし、()()()()()()んだったら色々と学ばないとでしょ?」

 

「……え?」

 

――思わずして、イツキは声を漏らした。

 

また、と言うべきだろう。イツキの知る展開とは異なる流れだ。()()()()()()廃部を阻止するには規定以上の部員を集めるか、もしくはミレニアムに恥じない結果を出すことだった。

前者は既に達成していて、以前までのモモイならばその事に喜んでゲーム開発をまた疎かにしていた。

 

なのに、今の彼女はやる気に満ちている。喜ばしい事なのだが、イツキの知らない展開には敏感に反応してしまう。

 

「……一応、部員が足りれば廃部にはならないんじゃないの?」

 

「そりゃあそうだけどさ…イツキ。私たちだって、一度やるって決めた事は最後までやる気概くらいはあるんだよ?」

 

「廃部もそうだけど、昨日…イツキさんと先生が言ってたよね。私たちが『最高のゲームを作る』って。廃部どうこうよりも、その無償の信頼に応えたいって思うのは……変なことかな」

 

「……その、廃部は…よく分からないけど……やっぱり、私も『テイルズ・サガ・クロニクル2』を作りたい、です。こ、怖い…けれども、変わらないと…いけない、から…!」

 

「っ…!」

 

モモイとミドリだけでなく、ユズも二人に感化されて真っ直ぐと前を向いている。無償の期待が重いと感じる者も多い中、彼女たちは良い意味で受け取っているのだ。

 

変わらず、強い子たちだ。もうイツキが失った強さを、彼女達は胸に宿している。イツキが持つのは彼女達の勇気とは異なり、いつ死んでも良いと思切の混じる蛮勇だ。

もう無邪気な正義感や、純粋な聖人では在れない。だからこそ羨ましく、哀しくなる。

 

「…そっか、凄いね…君たちは。私には大した事は出来ないけれども、応援させてね」

 

「ううん、凄いのはイツキだよ?……イツキは知ってるでしょ、今までの私たちを。ゲームが好きでゲーム開発部に所属しているけど、失敗して挫けた。卑屈的になっていたのに…イツキは()()()()()()

 

「それが、どれだけ嬉しかったのか。イツキさんには分からないと思うけど……信じるのって、本当は難しい事だから。少なくとも、何もしていなかった私たちの成功を心の底から信じてくれる人なんて、イツキさんか先生くらいだったと思う」

 

「………大袈裟だよ、二人とも」

 

――何も凄いことはない。

 

イツキにとって、嘗ての生徒は可能性の塊だ。その気になれば何でも為せて、それ故に善にも悪にもなる。そんな生徒を導くのが『先生』の役割で、大人であり『先生』なのであれば、生徒の可能性を疑ったりなんてしない。

 

だからこそ、イツキに褒められる点なんてない。人は呼吸しているだけで褒められれば、異様感を覚える。イツキも同様に、水面イツキの在り方は褒められて有難く思われる様なモノとは思えない。

頑なに否定しないが、どうしてもイツキ自身は罪悪感からか、尊敬も含まれる視線は眩しくて居心地が悪く感じてしまう。

 

「…さて、じゃあ朝ごはんにしよっか。食堂は…アリスと部外者の私は利用出来ないよね」

 

「……?」

 

「うーん、どーだろ?アリスは生徒としてもう登録したから大丈夫だと思うよ。イツキは…シャーレ部長の権力で良い感じに?」

 

「…あまり、先生が居ない所でシャーレの権限は不必要に使いたくないかな。それで何かあっても今の私には責任能力がないからね」

 

今のイツキの立場では、トリニティに迷惑を掛けてしまう可能性がある。一応は連邦生徒会で適性検査は受けているが、所属は飽くまでもトリニティだ。これからトリニティは大きく荒れる為、無駄な手間は掛けられない。

 

そも、イツキの立場は酷く不明瞭だ。

 

一般生徒と言うには連邦捜査部部長であり連邦生徒会との繋がりは、やはり過剰だ。それに加え、全てとは言えないが各学園の生徒会長やそれに準ずる立場の生徒とは顔馴染みだ。

トリニティにおいてはティーパーティーの三人とも対等に接している為、良くも悪くも名が知れ渡っている。

 

生徒会長のように分かり易く偉い立場ではないが、然りとて普通とは言い難い。シャーレの超法的権限も先生のためにあるのであり、本来はイツキが振るっても良いものではない。

 

(…………私って、どんな立場なんだろう…?)

 

他の生徒の立場を利用するのは嫌なのだが、人との繋がりは意図せず強みになってしまう。

 

ゲヘナ風紀委員長のヒナや万魔殿の各役員、ティーパーティー。先日の依頼で百鬼夜行へ行った際にも先生とは別行動中に実質的な代表の生徒と交流を持ち、連邦生徒会所属の生徒ともイツキなりに親しくしているつもりだ。

ミレミアムの生徒会長の彼女とも繋がりはあるので、それで何も知らない一般生徒を装うのは流石に無理がある。

 

「…そもそもアリスちゃんって、ご飯とか食べれるの?ゲーム機は食べようとしてたけど…」

 

「食事……アリス、知ってます!スタミナ回復は冒険をする上で必要不可欠な要素なんです。なので、アリスは食事を必要とします!」

 

「………大丈夫、なのかな…?」

 

「あ、大丈夫だと思うよ?夜中に冷蔵庫のプリンあげたらちゃんと食べてたし。ちょうど二個余ってたから、私とアリスで頂いちゃった」

 

「それ私のプリンだよ!?」

 

「いや、お姉ちゃん…昨日イツキさんと先生にあげるって話ししたじゃん。勝手に変なボタン押したお詫びとして………って、じゃあ先生の分のプリンがないよ!?」

 

「大丈夫。先生のプリンは私のプリンだし、私のプリンも時にはアリスのプリンになるからね。つまり、そういうことだね」

 

「意味わかんないよ!?……えっ、私だけ…?イツキの言ってる意味が理解できないの、私だけじゃないよね…?」

 

先生とて二十代中盤の成人男性であり、プリンに固着したりはしないだろう。それに、プリン一つで生徒ひとりが笑顔になるのであれば、先生も満足な筈だ。

ついでに、きっと当の本人もプリンについては忘れているだろう。覚えていても生徒にプリンを要求するような人柄でもないので、イツキは深く考えるのをやめた。

 

「……普通に考えて、誰かがご飯買いに行ったら良いだけじゃない?お弁当とか」

 

「あ、ミドリ天才じゃん!………うん、お金が無いことを無視したら、とっても良い考えだと思う」

 

「…あ」

 

「はは…まあ、今日は私が奢るよ。コンビニ行ってくるけど、みんな何が食べたい?」

 

「イツキ、アリスはエナジードリンクが欲しいです」

 

「はいはい、アリスちゃん。エナジードリンクは中毒性があるから止めようね。イツキさんとかヴェリタスのあの人みたいになっちゃうから」

 

「……?」

 

「えーっとね、私は…焼肉弁当と肉まん!」

 

「わ、私は……何でも、大丈夫です…」

 

「モモイが焼肉弁当と肉まんで、ユズは…モモイと同じで良いかな?アリスのも美味しそうなの選んでくるね。あと、ミドリは…」

 

「私はイツキさんに着いて行くね。頼りっぱなしなのは悪いし、せめて荷物持ちくらいはさせて」

 

「そっか、ありがとうね」

 

ボサボサになった黒灰色の髪を手櫛で整え、適当に纏める。

 

思えば、どうして()()()()()()()()()()()のだろうか。誰よりも前で鉄の棒を振り回す戦闘では非効率的で、手入れの手間も掛かる。

何か大切な理由があった気がするのだが、思い出せない。嘗ての記憶で、もう失った世界線。思い出せないのであれば、存在しないに等しい。

 

 

――嘗て、生徒から髪を褒められたから――

 

 

(……昨日の神秘解放で、また何か霧散したのかな?)

 

思い返せば、本当に大切だったのかも分からない。もう邪魔としか感じなくなって、無理に伸ばしておくのも非効率的だ。

 

取り敢えず、トリニティに帰ったらさっさと切ってしまおうと決めた。部屋の片付けで断捨離をするように、要らないものは取っておいても邪魔なだけなのだ。

 

 

手早く衣服を整え、鞄から財布を取り出す。

 

「……じゃあ行こっか、ミドリ」

 

「うん。ユズちゃん、お留守番お願いね。あとお姉ちゃんとアリスちゃんが変なことをしないように見張っててくれると助かるかも」

 

「う、うん……分かった」

 

「私、変なことしないよ?」

 

モモイは昨日のやらかしを完全に忘れていた。なんと儚い記憶力なのだろう、とミドリは呟き嘆く。斯くしてミドリの実姉は都合のいい頭だった。

 






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