嘗ての先生、其の成れ果て   作:低品質なプリン

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知らない既視感

 

「……話を聞いて欲しいんだ。人間はね、間違いを犯しながらも成長する生き物だと思うの。だから今後の超重要な件でやらかす事に比べたら、寧ろ先に経験しておいても良いかなって思うワケでして。あー、えっとね…とても反省はしているし、二度としないつもりではあるけど…それはそれとして――」

 

「で、端的に換言して?」

 

「遅刻しちゃって誠にごめんなさい」

 

――午前が終わり、午後に差し掛かる頃。

 

()()()()()、部室が沈黙に包まれている中に先生は肩で息をしながら現れた。急いで来たのは誰の目にも明らかなのだが、然し昨日の内にイツキのモモトークへは、十時前には着くとのメッセージが送られていた。

二時間弱の空白の事情はイツキもゲーム開発部の面々も知るところではないが、遅刻は遅刻だ。

 

ことキヴォトスにおいて、トラブルに巻き込まれるのは日常茶飯事。それ故に、待ち合わせがあれば多少は早めに準備するのが鉄則でもあった。

 

「…との事で。先生も反省しているから、許してくれるかな。無理そうだったら高性能ランニングマシーン機能付きのゲーミング豚チェアに改造するけど」

 

「えっ」

 

「ん〜、私は許すよ。先生も忙しいんだろーし」

 

「お姉ちゃんと同じく。元々、頼み事をしているのは私たちだし…」

 

「……?…!アリス、知ってます!先生は最後にパーティー加入する、初期高レベルキャラなんですね!!」

 

「そうかな……そうかも…?みんな、許してくれてありがとう。アリスは昨日に比べて話し易くなったね。色々と学んだのかな」

 

掃除ロッカー内に隠れているユズを除き、取り敢えずは許しの言葉を貰える。全員がアバウトな感性で生きており、多少の遅刻云々で苦言を呈するような性格でもないのだろう。

 

遅刻は遅刻なのだが、その実、本当の理由は先生が水面イツキについて探っていたからだ。昨日はトリニティの古書館で寝落ちしたが、夜中に目を覚まし、調べを続けていた。

本来ならば古書館は、閉館後は図書委員会所属の生徒しか出入りが許されていない。然し連邦捜査部には独自判断による超法的権限が付与されており、今回ばかりは先生も権限を利用した。

 

色々と判明した事実もあるが、まだ足りない。取り敢えずは長期に渡って水面イツキの過去を辿るしかないだろう。今判っている事実も、精々イツキが()()()であるという事くらいだ。

 

「えーっと、この後の予定って…」

 

「簡単に言えば、また『廃墟』に行きます。今度こそG.Bibleを見つけないといけないので」

 

「ま、また『廃墟』に…?」

 

「もうっ、ミドリ!色々と端折りすぎでしょ!!」

 

「……だって、時間がないのは事実だし…」

 

「ごめんね、もうちょっとだけ詳しくお願い出来るかな。話に着いて行けなくて」

 

妙に緊迫した雰囲気だったのは、ミドリとモモイの"焦り"が垣間見えていたからだろう。

 

――先生が居なかった間の出来事を掻い摘んでイツキが話す。

 

まず、予定時間に先生が来なかったので先に皆でエンジニア部に向かい、アリスの武器を探しに行った。

その成果が、ソファに立て掛けてある異常な大きさのレールガンなのだろう。どう見ても先生が持ち上げられなそうなのは明らかで、恐らくはこのキヴォトスでレールガンを普通に扱えるのも、アリスかイツキくらいだろう。そのイツキはそもそも銃に適性が無い為、実質的にはアリスしか使えない。

 

レールガンこと光の剣:スーパーノヴァを手に入れたまでは順調だった。

 

「――そこで、問題が起きたんだ」

 

「問題…?」

 

「廃部に関しての規則だね。先生、廃部を阻止する為に要求されていた事は覚えているかい?」

 

「勿論。部員が規定以上揃うか、ミレニアムに相応しい実績を挙げるか……だよね。だから一応は、依頼だった『廃部の阻止』は叶ったと認識してるけど――まあ、話の流れからして…そんな簡単な話じゃなくなったのかな」

 

「そーゆーこと。さっきね、ユウカが来てたんだ。そして部員は揃っているから廃部は取り消しになったんだけど、それも()()()()()()だって」

 

セミナーより、新学期からは部活動に関する校則が変わると告げられたのだ。無論、急な話ではなかった。

先んじて各部長が集まる会議にて発表していたらしいが、ユズは人前に出られないので辞退。代わりにモモイが出る事になっていたのだが、初耳であると本人が語っていることから殆ど察するに容易い。

 

自分達で最高のゲームを作ると息巻いていたのだが、もうそんな余裕も潰えた。作るにしても、部が無ければどうしようもない。

 

仕方ないと一蹴する事でもないが、G.Bibleに希望を感じるのは仕方のない話だろう。

 

「…つまり、早急に成果が必要だってことか……じゃあ確かに、G.Bibleを探すのが手っ取り早いね。結局の所、当初の目的通りだね」

 

「よしっ、思い立ったが吉日!先生も来たんだし、早速向かおう!!」

 

 

――と、モモイが声高々に宣言したのも数刻前。

 

◆◆◆

 

「うぎゃあぁぁぁ!?何でオートマタが隊列組んでロケラン構えてんのさッ!?」

 

「ちょっ、うわぁ!?熱っつい!制服の裾燃えた!?」

 

「ひ、ひぃぃ…!」

 

モモイの断末魔が爆音に掻き消され、ミドリが涙目で燃えた袖を振り回し、イツキに担がれたユズが酷く情けない声を洩らした。

 

約24時間ぶりの『廃墟』にて、先生もまたイツキに横脇に抱えられながら思考を凝らす。

現状、かなり大雑把な予測ではあるが、状況自体は昨日と大して変わらない。此方にはユズとアリスが加わって、『廃墟』を彷徨くオートマタもまた然るべき対応をしているに過ぎない。

 

(……オートマタの学習(ラーニング)機能、かな…?)

 

思えば、昨日の『廃墟』では無茶苦茶に暴れていた生徒が一人。

 

――端的に言って、"対イツキ想定"の装備が整えられていた。

 

水面イツキの弱点は、()()()()()の押し付けだ。本人を軽く包むくらいの擲弾発射器を何十何百と打ち込めば、ダメージは確実にある。

例え何かしらの方法でダメージを防いだとしても、広範囲に渡る爆炎の中で安全に息をしながら範囲外へ移動する事など不可能だ。

 

無論、全て()()()()()()の話なのだが。

 

「先生、次は?」

 

「あと50Mで被弾最低ラインは超える!範囲は……モモイ、先導頼めるかな?」

 

「おっけ!任せてよ!!」

 

この場において、シッテムの箱のサポートは何物にも勝る。

 

()()()()()()生徒と先生の目には、数秒後に飛来して着弾する広範囲攻撃の"予測範囲"が可視化されている。シッテムの箱を通して戦闘に最適な情報を共有しているのだろう。

唯一、シッテムの箱の恩恵を受けられないイツキだけが素の状態で走っているので、随時抱えている先生の指示を仰ぐしかない。

 

「アリス、マーキングした方向に撃って!」

 

「はい、了解しました!――光よ!!」

 

「……先生、ユズ。悪いけどそろそろ自分で走れるかな。私も攻撃に対処しないと」

 

遠距離での攻撃手段に乏しいイツキだが、迫り来る擲弾発射器等の砲撃に対しては投石で撃ち落とせる。

単なる石でも、神秘を込めれば立派な攻撃だ。銃弾を弾く生徒には効かないが、砲弾程度であれば貫ける筈だ。

 

それも、両手が塞がっている現状では無理な話だが。

 

「あっはい。ごめん、走ります」

 

「す、すみません……足でまといで、ごめんなさい…!」

 

「大丈夫、大丈夫。先生は兎も角として、可愛い女の子を助けるのは心躍るからね。存分に頼ってよ。先生は兎も角として」

 

「ふぇっ!?か、可愛い……!?」

 

「ねえ、イツキ。何で二回も言ったの?」

 

「…先生、汗まみれの成人男性を密着さている気分……分かる?せめて先生が可愛い年下の女の子だったら…あ、そうだ。知り合いにね、若返りの薬を作れる生徒がいるんだ。頼めば女体化とかも――」

 

「イツキ様、勘弁してください…!ユウカに隠れて買っておいた1500円のプリンを献上しますので…」

 

「冗談だよ?半分は」

 

「もう半分は!?」

 

先生とユズを降ろし、アリスやミドリに並んで投石を開始する。

 

今危険なのは後方から擲弾発射器等を構えているオートマタだが、前方とて安全とは言えない。モモイが先導し、前に加わったユズとの二人でドローンやゴリアテの脚関節部を破壊する。

もし先生の指揮がなければ、徐々に追い込まれて悲惨な目に遭っていただろう。逆にイツキだけだったのであれば、被弾を気にせずに無理やり突破、もしくは全機を行動不能に追い込んでいただろう。

 

遠くの岩石を引き寄せようと、イツキは皮鞭を伸ばして、しかし何かを思い付いたかのように頬を緩ませる。

 

「――ねぇミドリ、見て」

 

「え、いきなりどうし……なにそれ。鞭がゲーミングPCみたいに光ってるし…」

 

「更に、携帯端末と接続(ペアリング)したら――音楽が流れるんだ!」

 

「なんて無駄な機能……いや、えっ?そのBGMは…FINAL LAST END FANTASY II のラスボス戦!?すごい、神機能だよ!!」

 

「そしてそして、更に!この鞭でドローンを打つと……」

 

―― SWISH!ドローン に 128 の ダメージ !!――

 

「コテコテなまでの電子音声!しかもドットゲーム特有の、いっそ使い回かって疑いたくなるくらい聴き馴染みのある斬撃の効果音!!い、イツキさん……その、後で貸してくれたり…」

 

「もちろんさ。私では使い道のない機能だけど、君たちなら有効に遊んで(使って)くれるだろうからね。あ、そうだ……一応、こんな機能もあったね。持ち手の凹みを押してっと」

 

「わっ、短銃に変形したね。でもイツキさんは銃を使わないし、要らない機能――」

 

「なんだって!?変形型の武器はキヴォトスに存在したのか!!凄いよ、ロマンだよ!!あとで絶対私にも貸してね!!」

 

「あっはい……大きなお友達も釣れちゃった……」

 

◆◆◆

 

斯くして、巨大ペロロ様ぬいぐるみを囮にして逃走に成功した。爆音ももう聞こえないので、オートマタがターゲットを見失ったのだろう。

途中からミドリと大きなお友達こと先生が妙にやる気をだしていたが、士気が上がったのであれば何よりだ。

 

「侵入成功。ミッションをクリアしました」

 

「……ここ、どこだろう?」

 

ユズがポツリと呟いた。

 

辺りをぐるりと見渡すが、誰も答えは持っていない。朽ちた工場内であるのは解るが、さりとて其れしか理解出来ない。

以前、アリスを発見した場所と酷似している。もしかしたら同じ建物なのかもしれないが、どうにも似た造りの場所が多いので判断に困る。

 

先生もシッテムの箱で近場を俯瞰するが、目新しい発見はない。

 

そも、問題は誰もG.Bibleの形を知らないことだ。探すにしてもそれが紙等なのか、宝箱なのか、データなのか――誰にも詳細は分かっていない。

 

「…………」

 

「アリス、何か見つけたのかい?」

 

「いえ……先生、不思議な感覚です。あっちに、何かがある気が…どこか、見慣れた景色。こちらの方に、行かないといけません…」

 

「えっ?ちょっ、アリス!?一人は危険だって〜!」

 

「…取り敢えずはアリスに着いて行こう。手掛かりもないし…先生もいいよね」

 

「うん、そうだね」

 

――記憶、もしくは軌跡を辿るように少女は歩く。

 

徐々に工場内部は暗くなり、日光を入れる窓もなくなる。少しづつ、地下へ向かっているのだろう。光源はないのに、ほんのりと一定の明るさだけは保っている。

ミレニアムには存在しない未知の技術、その片鱗は確かに存在して、まるでアリスの――《AL-1S》の来訪を待っていたかのように、只々そこに在る。

 

「…アリスの記憶にはありませんが、まるで『セーブデータ』を持っているみたいです。この身体が、反応してます」

 

その感覚を、アリスは既視感と断ずる。

 

昨日、目覚めてから最初に感じた違和感。在るべき形、立ち位置、存在意義、存在理由。とある一点において、現実は増え、混ざり、視覚から取り入れる認識とは異なる答えを出していた。

知らない物を、()()()()()姿()()知っている感覚。未発達ながらも冷たく完成した知識で、やはり同感覚、既視感であると結論付ける。

 

 

やがて、アリスは止まって()()の存在を主張する。

 

「…これ、です。アリスは、アリスは……」

 

「コンピュータ…?しかも電源がついてるし」

 

自身に困惑するアリスの横で、ミドリは興味深そうに"コンピュータ"を眺める。無特徴ではないが、一目でコンピュータであると認識出来るほどには有り触れた物だった。

 

明らかに不審だ。誰も居ない事はイツキの五感が確認していて、先生もまたシッテムの箱で辺りを満遍なく俯瞰する。

とてもじゃないが、ゲーム開発部の面々が此処に来ることを確認してからコンピュータを設置する、だなんて事は不可能だろう。つまり、『未知』だ。

 

誰もが一歩引いた位置から警戒する中、イツキは軽い足取りでコンピュータに近付き、画面に触れた。

 

「なっ…イツキさん!?」

 

「………うん、問題なく起動してるね」

 

刹那、黒い画面にノイズが走る。電源とは別の何かが起動したらしい。二度、三度、画面に白い線が通り過ぎた後、明確な変化が訪れる。

 

 

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――無機質な文字は、何処か不気味にも感じられた。

 





主人公さんの正体のヒント

・ヘイローの形(とある団体様と…)
・前話の動画でヘルメットを被り、顔を隠していた。
・『大人』に対する潜在的な忌避感。
・何処かからの転校生。
・一話にある決定的な言葉と、似た表現を多様。
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