嘗ての先生、其の成れ果て 作:低品質なプリン
ハピバレです。
――意識が浮上する。
鈍い頭痛と、混濁する記憶。自分が何処の誰で、何が夢で何が現実か。寝起きはいつもそうだ。あやふやな境界線で彷徨って、自分に都合の良い世界を夢想する。
生徒を救えなくて、見捨てて。神秘も
「…………あさ、か…」
単なる事実確認。それが酷く億劫なのだから、もう二度と正常で幸せな目覚めはないのだろう。
身体に粘り付く寝苦しさも曇った精神に寄っているのか。軽い寝汗を袖で拭いながら薄い布団と共に起き上がる。
同時、隣りで腕を抱き包む暖かい気配が離れる。
「んっ、うぅ……あさですか…?」
「ごめんね。起こしちゃったかな」
「いいえ…おきないと、ですね…」
「もう少し寝ててもいいよ?まだ早朝だからね」
「ふふっ♡ありがとうございます」
「大丈夫だよ。さて、じゃあ私は正義実現委員会に通報してくるね」
以前、ホシノの身代わりとなった際に神秘解放を乱用し、倒れて以来。彼女がこうして部屋に不法侵入する事は珍しくない。
今月四度目となる浦和ハナコの不法侵入を通報し、同情する正義実現委員会の生徒からコンビニで買ったスムージーを貰い朝食を済ませる。
欠伸と溜息の混じった吐息を漏らし、一日が始まる。着替て日課のランニングと素振りを終え、今日の予定を確認する。
昨日はミレニアムの『廃墟』で謎のパソコンを見つけ、対話の末にモモイのゲームガールズアドバンスSPのメモリーカードにG.Bibleのデータを移して、ヴェリタスに解析を依頼した。
今日はまずその解析結果を聞きに行く予定だ。竹刀袋に鉄の棒を突っ込み荷物をまとめ、一息をつく。
「………さて。今日も一日、頑張ろう」
嘗てと同じ言葉。大人であった頃の口癖。しかし込められた決意も意味合いも、全く異なった。
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「………で、どうしてこうなったかなぁ…」
「アゲてこうぜ?くくっ……互いによ、楽しい楽しいオシゴトの時間なんだからなァ!!」
眼前には二挺一対の短機関銃を構えて不敵に笑う小柄な生徒。メイド服の上にスカジャンを羽織る奇抜な格好だが、鋭い眼光は全てを黙らせ組み伏せる圧がある。
浅黒い長髪のイツキとは対称的な、明るい橙色の短髪。ミレニアム所属、Cleaning&Clearingのリーダー。コールサインは『
――《約束された勝利の象徴》
キヴォトスにおいて最強の一角に担う生徒、美甘ネル。
対するイツキは相変わらずシャーレの青と白の制服に赤い腕章を付け、体感50~60Kgの無骨な鉄の棒を肩に担ぐのみ。
改めて、どうしてこうなった、と呟く。思い浮かべるのは今朝の出来事だった。
◆
「――で、ヴェリタスと組んで生徒会を襲撃しようってこと!!メイド部…C&Cともやり合うことになるから、終わったねって話だよ♪うわあぁぁぁぁん!!助けてイツえも〜ん!!」
「わぷっ…!待って待って、モモイ待って。首締まってるから。酔うから体揺らさないで」
「万能だからね、イツキさん」
死んだ目で泣きついて来るモモイ。目の据わったミドリ。無言で震える掃除ロッカーに、苦笑いする大人。アリスは情操教育と銘打ってレトロゲームに没頭していた。
色々とあり遅れてゲーム開発部の部室に来たイツキにされた説明は、大凡イツキの記憶と違いはなかった。モモイのゲームガールズアドバンスSPに転送されたG.Bibleのデータをヴェリタスが解析したが、中身を確認するにはパスコードが必要不可欠だった。
無論、廃墟の工場で見つけたG.Bibleのパスコードなんて、誰にも分からない。つまり解析不能――で終わらないからこその、ミレニアムだ。
方法はあった。
Optimus Mirror System――通称『鏡』と呼ばれるツール。其れがあればG.Bibleのデータ解析も可能となるのだが、そこで問題が一つ。
『鏡』はミレニアムの生徒会、セミナーに押収されている。原因はヴェリタスの生徒が悪戯を繰り返した事だった。それに激怒したユウカが押収室に持ち去ってしまったとの事。
取り敢えずG.Bibleの解析が終わったら必ずセミナーに返そう、とイツキと先生は小声で話した。
「まず前提として、シャーレの全面協力は出来ないよ」
「なんで!?」
「キヴォトスの中立を担う連邦捜査部が、公平な判断の元で押収したセミナーと敵対したら……うん、まあ。問題だよね?」
「あ、イツキさんが難しい説明を放棄した。お姉ちゃん、難しいこと分かんないもんね」
正確には
シャーレは特定の勢力、学園に過度な肩入れをしない。それは飽くまでも『先生』の決断であり、組織としての意義とは異なるのだ。
それ故に極論、もしシャーレが全力の権威と武力をもってしてゲーム開発部を助けたとしても『調査』と言い張ってしまえば組織としては成立してしまう。
無論、先生はそんな事はしないのでシャーレは今のシャーレとして成立しているのだが。イツキも先生も、或いは各学園を収める生徒会は――そんな歪で、あまりにも強い超法的権限の手網を先生の善意に任せきっているシャーレの在り方を
「んー……じゃあイツキは待機して、切り札って事はどうかな?」
「それまで先生に任せっきりだけど大丈夫?」
「任せて」
「え?えっ?もしかしてイツえもんなしでC&Cと敵対するの!?」
「エンジニア部とヴェリタスも協力してくれるでしょう?大丈夫だよ、もし君達が怪我をしそうになったら私も介入するから。『喧嘩の鎮圧』ならゲーム開発部への過度な肩入れにはならないし」
「マッチポンプな気もするけどね」
ミドリの囁きに、それもそうだなとイツキは苦笑した。イツキと先生とて、ゲーム開発部の廃部がかかってなけれぱこんな事はしない。
そしてイツキとしては最初から助けないという選択肢もあった。先生の成長の為に、そしていつかは消えるイツキに頼らなくても大丈夫なように。
だが、こうして手を出してしまうのは元大人としての性分なのだろう。中途半端な自分自身に辟易とする。
せめて、今回も礎となろう。同じ決意を何重にも固め直して、作戦の確認へと移った。あわよくば自分なんて不要で終わるように、と願って。
◆
回想を終えて現実を見る。
今は時間を稼いでいたアリスを、先生とゲーム開発部の皆が連れて逃げた所だ。イツキは殿であり、アリスに代わっての時間稼ぎだ。当然、イツキの指揮を出来ない先生も邪魔なだけなので、一緒に退散した。
「……………」
「……………」
いつでも攻撃可能な体勢で此方を流し見る美甘ネル。子猫のような外見とは一転、纏う覇気は虎を超えて龍の其れだ。
何度も指揮をした。何度も助けられた。戦闘において何よりも信用出来る、約束された勝利の象徴が好戦的に此方を見据えているのだ。胸中の震える何かが、酷く冷たい。恐怖とは別の、抗いようのない後暗い感情が心臓を重く打ち付ける。
仕方ない、と一言呟き。せめて彼女を満足させる為に力を振るおうと覚悟を固めた。
鉄の棒を左手で構え、自身の神秘を俯瞰する。この世界で水面イツキにのみ許された裏技。存在しないモノが変質して『生徒』となった弊害。不完全故の存在に形を定める。
「……神秘変質――《機兵》」
「………あん?」
《灰翼》のパワーだけではスピードに押し切られる。《獣化》では彼女の鋭い攻撃に耐えられない。そして切り札である《
イツキの神秘が変質した瞬間、罰を象る灰のヘイローから光が零れ、身体にも変質を及ぼす。
ストレスで濃く曇った双眸は瞬きの間に紅く無機質な機械人形の眼球へと変異し、肌は淀みなく灰色に、硬い造り物となる。全身に走る『線』は複数の部品を接合したようでもあった。
やがて表情の一切は消え去り、正しくオートマタの如く無機質な機械の兵士へと成る。
思考が研ぎ澄まされる感覚。シッテムの箱の戦闘支援には及ばないが、視界が単なる『風景』から『立体データ』に置き換わる。目の奥が苦しいほど熱いのは、視界と聴覚によって齎される情報の濁流を脳が全て処理し、予測し、オーバーヒート寸前まで熱が高まっているからだろう。
これだけの負荷があってもシッテムの箱には及ばないのだから、管理者であった彼女には頭が上がらない。
熱を帯びた白い息を吐き、変化を終える。その様子を観察していたネルは興味深げに、そしてやはり好戦的に頬を釣り上げる。
「……ハッ!面白ぇ……てかカッケェ!変身出来んのかよ!?」
「――裏技サ。いくヨ、ネル」
「おう!」
玩具を与えられた男児のように、ネルの興味は最高潮へと達していた。この時になって初めて、彼女の視線に意味が宿る――視界に映るだけの顔見知り程度の生徒から、連邦捜査部シャーレの部長への興味。ミレニアムの生徒たる所以、未知への飽くなき探究心。そして
告げられた開始の合図に喰らいつくのにコンマ一秒も必要なかった。
「ガッカリさせてくれるなよな!」
突き付けられた銃口。凶暴な笑みと共に放たれる凶弾は目視も叶わず、イツキの額を撃ち抜く――
「当たらナイヨ」
刹那。音よりも速く届くソレを、僅かに首を傾けて避ける。基本、キヴォトスの住人は頑強な肉体をもって銃撃を耐える。個性はあれど狙撃でない限り何十もの銃弾を耐える。
それは逆説的に言えば、遮蔽物のない場所で正確な攻撃への対処が、"耐える"しか選択肢がないからだ。
自然の摂理。至極当然、それは避けられないからに他ならない。弾丸速を認識して避けるのは当然不可能。
故にシッテムの箱の補助もなく其れを成す事は不可能。
――『機兵』の効果は単純な硬さと、
それはまるでオートマタのように。
「手早ク、終わらせヨウ」
「イイな……イイねェ!随分と優秀な目ェ持ってんなァ!!」
「ありがトウ」
再度同じように牽制で眉間を狙うが、結果は同じだ。故にネルは理解する。シャーレの部長は肩書きだけではなく、それに至る精神と脅威を持ち合わせているのだと。
ネルが初めて水面イツキを知ったときよりも強くなっているのは、果たして努力なのか。実力を隠していたのか――或いは『別のナニカ』なのか。
其れを識りたくて、ミレニアムの最強は『試す』事にした。
露払い程度の攻撃は無意味。ならば必然、次は対応力を試す。弱点を探る。
両手の短機関銃で弾幕を貼り、広い廊下に円錐の壁を築く。誰が相手でも回避は不可能。先程のアリスは巨大なレールガンを盾にして耐えたが、イツキの武器は無骨な鉄の棒のみ。小柄とはいえ身体を護るには心許ないだろう。
ネルならば多少の被弾は受け入れて逆に特攻し、速攻を図るが。もしイツキが同様の行為に出ても、武器が鉄の棒である限りはネルの
無論、嘗ては戦術的指揮を得意としていたイツキも理解している。故にイツキの思考は一切の葛藤もなく
「神秘解放――
「ッ!!」
淡くヘイローが輝き、鉄の棒にも宿り。其れが振り抜かれた刹那、可視化された灰色の衝撃波が全てを薙ぎ払う。
数瞬前とは一転して今度はネルが選択を迫られる。受けて攻撃するか、避けて隙を晒すか。ネルの弾幕よりも広く、威力のある其れは軽く躱せるものではない。
回避を選択した際、窓を突き破って外に出て、鎖を用いて校舎内に戻るか。もしくは教室のドアを蹴破って中に入るか。どちらにしても一瞬は視界からイツキを外す事になり、手痛い反撃か逃走を許してしまうだろう。
ならば、思考の時間すら
「つまらねぇよなァ!!」
「キミならそうする、ヨネ……!!」
――
嬉々として其れを選ぶ生徒は、果たして何人いるのだろうか。少なくとも美甘ネルは躊躇なく選択出来る側の生徒だ。
「しゃらくせぇ!!」
対してイツキは、灰色の衝撃波を食い破って迫る弾丸の雨を横に転がって回避する。最初からネルの特攻は予測していた。極力生徒は傷付けたくないイツキは敢えて加減をした
思えば、イツキは明確な『敵』としてネルの前に立った事はない。故に侮っていた――否、
美甘ネルという少女は、決して相手の手加減を軽んじない。怒りもしない。自身が強者と認めた相手からの其れには、一切の無駄な考えを投げ捨てて
「オラオラオラァ!んなもんかよ!シャーレの懐刀ァ!!」
「くっ……!
「ハッ!んだよ……底、まだあんじゃねぇか!!」
集中砲火を浴び、今度こそ理解する。
まだ足りない。何もかもが足りない。あの日、小鳥遊ホシノの不意を突いて眠らせる事が出来た故に勘違いしていたのだ。少しは届くかも、と。
あの日のホシノは完全に不調だった。寝不足で、精神的にも弱っていた。対してイツキは神秘変質の切り札を使い、その上で誰かの為に死ねると思い高揚していた。
そんな彼女と同じ高みにいる生徒が、今は自分と同じ条件で目の前にいる。本気の一端を覗かせて立ち塞がっている。
――もう、躊躇は止めだ。
「………ごめンね」
「あん?なんだ急に…」
「
「………クッ…ハハ……アッハハハハ!!おいマジで最高だな、イツキ……ぶっ殺してやるよ」
ユラリ、とネルの雰囲気が変わる。熱く燃やすような雰囲気から、冷たく刺す重圧へと。獅子に歯向かう兎を全力で、然し冷静に確実に殺す為の決意と確信。
だが機兵となったイツキも冷静だった。
冷静に、
「――神秘解放」
イツキのヘイローが溶けて、灰光が身体に宿る。強く、強く、その願いを神秘は実現する。
「――神秘解放」
また一つ、枷が外れる。本来はシッテムの箱と先生の『技術』。それを代償を支払い擬似的に実現し続ける。また一つ、ナニカが消えてしまった。
「――神秘解放」
存在しない神格。器のない容器。死した筈の身体。決して定まらない種族。矛盾を書き換え、偽り、結果だけを遺す。あまりにも歪な願いは『変化』を超えた『変貌』。
「――神秘解放」「――神秘解放」「――神秘解放」
砕け、還り、崩れ、宿り、死に、生きる。
着実に『水面イツキ』は強くなり、他の、本来は存在しない筈の軌跡は崩れて無かった事になる。もう存在しない記憶。先日のように、断髪に『悲しい』とすら思わなくなるだろう。
科学に飾られた風景に灰色の淡い神秘が漏れる。軋み、それでも形を保つ。
――
「んだよ、虎かと思ったら龍じゃねぇか」
「……往ク」
「………ッ!?」
一秒にも満たなかった。
決定的で致命的な変貌を遂げたナニカに対して、ネルは気合いを込めて息を吸った――刹那、イツキの姿が
嫌な予感に従って振り向く瞬間に二つの短機関銃掲げて盾にすると――
「――
「ガッ………!」
後方からの
「チッ!」
嫌にでも理解させられる。最初の
故に先程のように
――ならば撹乱するのみ。
薄暗い校舎の壁を小柄な影が駆ける。床を、壁を、天井を、脚と鎖を用いて。ピンボールのように跳ね回る。
無論イツキが立ち尽くす道理もなく。彼女と同様に、そしてそれ以上の速度をもってして跳ね回り、すれ違いざまに銃身と鉄の棒を交差させる。
速度はイツキが勝るが、鎖を使った立体機動はネルが上だ。二度、三度、交差する武器。
銃と鉄の棒、前者が距離を保って戦闘継続を図る――なんて甘い事をネルは言わない。
「当たらねェならゼロ距離からぶち込んでやる!!」
「好都合。おいデ、ネル」
「澄ました面しやがって……ッ」
ネルはキヴォトスでも珍しい超インファイトを仕掛ける。イツキの上段からの振り下ろしに両銃身を叩き付けて横に逸らし、体躯を倒れるように沈める。
そのまま一旦銃を手放し、頭の後ろの地面に両手をつく。次の瞬間にはバネのように起き上がるネルの足がイツキの腹に刺さり、空中へと身を投げ出された。
「っ……!」
極めて冷静に、ネルはイツキの後方に鎖を展開する。鎖と、繋がれた二挺一対の短機関銃。空中における挟み撃ちは確実にイツキの逃げ場を無くし、イツキを追い詰める。
然しネルにとっての想定外は、イツキの武器が鉄の棒のみと勘違いしていた事だ。遠慮なく放たれる弾丸の雨を身を捻って交わしながら懐の皮鞭を後方の鎖にぶつけ、相殺させる。
そのまま着地と同時に再び皮鞭を振るい、鎖に絡ませる。僅かな引き合いの拮抗。
「力比べかよ!」
「ウン。力なら、ワタシの方が有利でしょウ?」
「……チッ」
神秘の籠った撃ち合いも、タフネスも、身軽な身体性能も。ネルの方が慣れているのだろう。どれだけスペックが上がろうとも経験だけは積めない。
然しそれでもイツキが勝るのは、単純なパワーと『先生』であった頃に得意としていた、戦闘を俯瞰し攻略する目の使い方だ。もうシッテムの箱がないとしても、『先生』の戦術的指揮はオーパーツに頼りきったものではない。
それに加え、今は神秘変質により『機兵』の防御力と緻密動作性がある。
「
振るわれる鉄の棒。繰り出されるのは灰色の可視化された衝撃波――の筈だった。本来は地面を抉りながら全てを薙ぎ払う灰の波。然し精密性を得た今ならば、荒々しい神秘の波を圧縮し、指向性を持たせることが可能となる。
空間ごと裂く一線は深く床を削り、然し少女の横を抜けて後方に消える。
無論、空振りではない。
「なっ!このッ……斬りやがったな!?この鎖、安くねェんだぞ!?」
「ごめンネ、修理費は出すヨ……シャーレの先生ガ」
「せめてテメェで払えや!!」
「ちゃんト逃げれたラネ。どうかナ?そろそロ御開ってのハ。ちょっと用事を思い出シてネ……おっト、頭痛と腹痛ト腰痛と、ありとアラユル症状が併発してキタかも…」
「任せろ、斜め45度か?」
「殴らないデ?機兵だけド、泣いちャウカラ」
「んなタマかよ」
「私を何ダト思ってるノさ……」
「ロボに変身出来るカッケェ奴?」
「変身ではナイんだけドネ」
軽口を一つ、改めて互いの武器を構える。チェーンの切れた双短機関銃と、辛うじて木刀の形を象る鉄の棒。一秒、二秒と重い沈黙が過ぎ去り――
「今ダ!挟み撃ちダヨ!!」
「なっ!?」
イツキがネルの後方に向けて叫ぶ。ネルは弾かれたように振り向き――然し
「ッ!畜生が!!」
張り詰めた神経が刹那的に弛み、決定的な隙となる。水面イツキは決して逃さないであろう致命的な隙だ。
自身への叱咤は一瞬で済ませ、防御態勢を取りながらイツキの方へ身体を戻す。この際、あの決定的になり得る一撃を受ける覚悟は必要だろう。其れを自身への罰と定め、後は根性のタフネスに賭けるのみ。
腕をクロスさせ、頭部のみを守る。限りなく歪む眉間、凝らされた双眸が捉えた
「――じゃあネ」
「は…?…テメッ!閃光弾か…ッ!!」
瞬間、全てが白に染まった。
そしてネルは初めて気が付く――最初からイツキは、この場から離脱することを目的として動いていたのだ。徹底的にネルの攻撃を潰し、鎖を両断する事で動きのパターンを減らし、最後の最後でミスディレクションを用いた。
――眩んだ目を開けても、既に水面イツキの姿は其処にはなかった。
◆◆◆オマケ◆◆◆
神秘変質《機兵》
・肌が灰色に染まり、身体の節々に接合したような痕や線が出現する。双眸は紅く光り、機械の其れとなる。パワーやスピードは下がるが、鋼鉄のような硬さと機械のような精密動作が可能となる。とても目が良い。
とてもたくさん、使いましたね。あとどれくらい残ってるかな。