【前回のあらすじ】
・キーパーも行ける男、ラビットマッ!!!
・ピカチュウは インファイトを おぼえた!
・これが本当の吐き気を催す邪悪
「ねぇ、ベータ。ものは提案なんだけど、雷門と一緒に行動する気はない?」
「嫌です」
即答だった。フェイは思わず椅子からずり落ちる。
「どうして私があんな低級な猿と一緒に居なきゃいけないのよ。そんなのごめんですよぉ」
貴女その猿に負けたんですけどね。という言葉をフェイは飲み込む。
「…別に雷門と試合に出ろとは言ってないんだよ。ただついて行ったほうが君のためにもなるだろうって思ってね」
「…どういうことですか」
「君にはやりたいことがあるんじゃないかな」
「……」
そう、ベータにはどうしてもやらなければいけないことがある。
それは友人であるオルカの救出。あの忌々しくも恐ろしいUSAGIに取られてしまった友人を取り返す。それを果たすまで彼女は死んでも死にきれなかった。
「今君はタイムジャンプをする道具もなければ、エルドラドと連絡できる手段もない。現状だと君があのラビットマンに会うことは限りなく難しいだろう」
「……そんなこと」
言われなくてもわかっている。今のままではどうしようもないことも、雷門の力を借りざるを得ないということも。
だがそれでも、彼女の中では雷門を味方として割り切れない部分があった。
「…そんなにプライドが大事?」
「ッ!!」
彼女はこれまでエージェントコードであるベータの名を与えられた者として相応の自負と、プライドを持っていた。しかしどうしたことか、あのUSAGIには大敗を喫し、更には雷門にまで情けなく敗れ、最終的にはマスターに直接任された任務を降ろされ、フェーダにすら思うようにやられた。
そうしてプライドというプライドをズタズタにされた挙句、敵に情をかけられここにいるのが現状だ。
屈辱。生き恥。正直、今すぐにでも暴れ出したい気分だった。しかしそれをしないのは彼女に残されたなけなしの理性だろうか。
プライドも何も無くなった自分。そんなもう形にもならない自尊心を盾にして嫌よ嫌よと言っているのが今の己だ。
「…僕はね、君が雷門の皆んなと協力してほしいって思う。君がいればエルドラドとも話し合える余地が生まれるかもしれないし、何よりラビットマンに出会える」
「…!」
「彼はなんの目的か歴史上の偉人、英傑を狙っている。一度逃したジャンヌ・ダルクが旅に同行する以上、必ず道中で姿を現すだろう」
「……」
「そして最終的に僕らは旅の最後にフェーダとぶつかる事になるだろう。君が友人を取り返すことができるのなら其処なんじゃないかな」
「…ならその時にだけ呼んでくださいよ。態々貴方たちのお仲間ごっこをするためだけに着いていくのはゴメンですよ」
「なら聞くけど、君は今ラビットマンと戦って勝てる?」
「うっ…」
「君の友人はラビットマンの超能力で洗脳されているって言った。なら彼女を取り返すには必ずラビットマンが障害として立ちはだかるだろう。その時に今のままで君は勝てるのかい」
「……」
無理だ。
タダでさえ前回は遊ばれていたというのに、本格的に敵対するとなると勝ち目はゼロに等しかった。
「君は雷門を後ろから知るべきだ。雷門の強さを学べば君はきっと強くなれる。そうすればラビットマンに勝つことも決して幻想じゃないさ」
「……」
信用できない。…が、心当たりはある。あの試合中での急激な成長は目を見張るものがあった。仲間だの絆だのは正直反吐が出るが、仮に、仮にそれを自分のものにできれば…
「ま、さっきも言ったけどいきなり試合に出ろなんて言わないさ。きっと雷門のみんなも抵抗あるだろうからね。だから今回は見ているだけで良い。違うところから見るだけでも考え方って結構変わるものだよ」
「…そうですかね」
「心配しなくても大丈夫だよ。僕がちゃんとついてるからね」
そう言って自分の手を優しく握ってくれる。
「……」
なんだかんだで、自分に対して親身になってくれているフェイのことをベータは嫌いにはなれていなかった。優しさというか、きちんと自分のことを心の壁なく理解しようとしてくれている。そんな感覚がした。
同じ雷門のはずなのに、不思議なものだ。
(あははっ、本当にこれしか手段がないのね…)
フェイの言ったことは全て的を得ている。オルカを助ける手段も、その実力も今の自分にはない。プライドか友か。その答えは今の彼女の中では愚問だった。
真剣かつ優しげにこちらを見つめる彼に対して、ベータは重い首を縦に振った。
***
いる。目の前にいる。
あれ程何度も叩きのめしたいと思ったあのUSAGIがいる。
「あ、ああ…」
しかしベータの足は動かなかった。
USAGIはあの時から何も変わっていない。いつも通りのふざけた態度で、気色の悪い狂気をばら撒いている。
彼女の中であの時の恐怖が復刻される。肌に感じた死の恐怖、友の皮を被った波紋のように弧を描いた紅い紅い瞳を。
「ひぃ…ひぃ…!!」
「べ、ベータちゃん!?しっかり!」
「ジャンヌ!タオル持ってきてくれ!」
「わ、わかりました!」
異変に気づいたマネージャーたちが駆け寄ってくる。
…全ての元凶が目の前にいるというのに、何もすることができない。恐怖に心が塗りつぶされた中でも、ベータは自分への失望の色を抑えられなかった。
そんな中、USAGIに立ち向かおうとしている天馬たちの姿が目に入る。
(……なんで、そんなふうに立ち向かえるの?)
その答えを得る前に彼女の視界は自分を介抱する葵たちの影に遮られた。
ー
「兄者!!」
今まさに封印されようとするその瞬間、2人を突き飛ばし、関羽と張飛が封印の延長線上に飛び入る。
「うおぉ!?なんだこれは!!」
「兄者…!どうか国を…」
そのまま2人はデバイスの中へと吸い込まれ、封印されてしまった。
「関羽ーッ!!張飛ーーッ!!」
「あら、外しちゃった。ま、いっか。もーう1回!」
そう言って再び封印モードを起動させる。
最初に動いたのは天馬だった。化身を身に纏い、全力のシュートをお見舞いする。それをラビットマンは適当に蹴り返す。
が、蹴ったボールの先には既に化身をアームドした剣城と神童がいた。
ボールを2人で順々に蹴り込み、白と黒のエネルギーをチャージ。最後は2人同時に蹴り込む剣城と神童の合体技。
「「ジョーカーレインズ!!」」
「わぉ」
ラビットマンはその場から飛び退き、シュートを躱す。当たりはしなかったが、封印は一旦阻止することができた。
雷門の面々は劉備と孔明の前に立つ。
「お2人とも、一旦避難してください!奴の狙いはお二人です!」
「だが…!」
「お願いします、俺たちもどれだけ時間を稼げるかわからない!」
少年たちの決死の覚悟を見た劉備は、心苦しくも退くことを選択する。
「ワンダバ、2人を頼む!」
「わかった!」
2人はワンダバと共にその場を離れる。しかしUSAGIはみすみすそれを見逃すつもりはない。
「逃げるボタンはダメだぞー!」
「行かせない!」
その行手を雷門の面々が遮る。どうやら彼らを倒さないと先には進めなさそうだ。
「むー、またボコボコにされるのがお望みかにゃー?よかろう!これ以上邪魔されるのも嫌だし、ここで全員まとめて封印しちゃおう!」
『ッ!!』
全員が身構える。
相手は天馬たちの必殺技も化身アームドもミキシトランスも歯牙すら掛けなかった化け物だ。多数対1とは言えど、敗色は濃厚と言わざるを得なかった。
USAGIがフィールドを生成しようとしたその時、鋭く鈍い音が鳴る。USAGIは体を僅かに後方へ逸らす。次の瞬間、シュートが彼の眼前を掠める。
「おっとっと、危ない危ない。トレードマークが壊れるところだった」
「……」
「ザナーク!?」
シュートを打ったのはザナークだった。意外な人物の横槍に天馬たちは驚く。
ザナークは不快感をあらわにした表情でUSAGIへと静かに歩む。
「くだらねぇショーだ。餓鬼の遊びでもまだマシだぜ」
「君もまだ餓鬼の年齢だけどねー」
「…お前が何者なのかはこの際どうでも良い。俺がこの上なく不快なのはアイツらとの勝負を邪魔されたこと、この一つに尽きる」
「おお!ザナーク様は真剣勝負に目覚めたんだね!うん素晴らしいよ!これからの人生きっと楽しくなるぜー?」
「はっ、狂言しか言えねぇのかお前は。見た目通りだな」
「某はフェーダのヒーローが故、夢のある言葉をかける義務があるのだ!」
「ほーう、夢ねぇ。なら俺にも良い夢見せてくれよ。お前が血まみれになってる夢をなぁ!!」
瞬間、辺りが爆発する。2人が衝突した余波だ。
他の面々が吹き飛ばされた中、2人は煙の中から空へ飛び出して、取っ組み合いを始めた。互いの腕力で力比べだ。
「ははっ、ヒーローを血塗れだなんて面白いことを言うね!」
「面白れぇのはお前の顔面だ!餓鬼に落書きされてるぜ」
「むっ、これはそう言うファッションなの!まぁ、君には理解できないだろうけどね、ザナーク様!」
「テメェにザナーク様呼ばわりされる謂れはねぇ!!」
その会話を皮切りに、空中でシュート合戦が繰り広げられる。一撃一撃が重く強い。下手にあの中に入ろうものならボールでミンチにされることだろう。
だが現状有利なのはUSAGIの方のようだった。彼はどう言う原理か空中を蹴ったり歩いたりしている。機動力の差が明確だ。ザナークはこの現状に舌打ちをする。
「チッ、ちょこまかと動きやがって!」
「兎は跳ねるものなのですよ。ぴょんぴーん」
「その余裕面、すぐにぶっ壊してやるよ」
ザナークは咆哮する。するとその背から青黒いオーラが現れ形となっていく。これは化身だ。しかし先ほど試合で使っていた剛力の玄武とは違う。
これこそザナーク本来の化身にして、一千年に一度の恐怖。ザナークの力の象徴。
「魔界王ゾディアク!!」
そしてそのままボールを打ち上げ、化身の背にある翼の形状をした突起をボールに集約。エネルギーをチャージし、両足で解き放つザナークの化身必殺技。
「レッドプリズン!!」
赤黒いオーラを纏ったそれは周囲を破壊しながらUSAGIへと向かっていく。
しかしUSAGIは何故か躱そうとはせず、その場に突っ立つ。そして徐に両手を突き出した。
「むんっ!!」
USAGIの両の手とシュートが拮抗する。しかし数秒後にはボールは煙を上げながらもその両手に収まっていた。
「あ、スーツちょっと焦げた」
「な、なんだとッ…!?俺のシュートを…」
USAGIはボールをザナークに打ち返す。重さで吹き飛ばされそうになりつつもザナークは気合いで持ち堪える。
ザナークは忌々し気にUSAGIを見上げる。今のままではダメと判断したザナークは化身をその身に纏い、アームド。咆哮を上げながら突撃する。
「だあぁっ!!」
「ほいほいっと」
アームド状態のザナークから繰り出されるシュートの雨。地面に当たるたびに大地が裂け、地盤があらわになる。それをUSAGIは時には躱し、時には蹴り返し、時には殴り飛ばし、あらゆる手段で対応していた。
魔界王ゾディアクはザナーク本来の化身なだけあり、化身全体で見てもかなり上澄みだ。それを未来でも屈指の実力者であるザナークがアームド。その戦闘能力は計り知れない。…ならばその状態のザナークと素で渡り合っている彼はなんなのだろうか。
雷門とザナーク・ドメインは避難しつつその光景に戦慄する。
(…流石に強いなぁ、ザナーク様)
そんな中、フェイは1人その光景を冷静な思考で傍観していた。
察している人もいるだろうが、あのUSAGIの中身はフェイの分身デュプリだ。フェイと同スペックを持つ特別製のデュプリならばああいうこともできる。
そうしてこの場を混乱に陥れようとするのが今回の主な目的だったのだが、フェイの想像以上にザナークが粘る。特別この後の計画に支障があるわけではないが、それにしてもしつこい。そして予想外のパワー。
(これもしかしてセカンドステージ・チルドレンの力コントロールし始めちゃってる感じ?うそーん)
ザナーク・アバロニクはセカンドステージ・チルドレンだ。先の暴走も心の他にその力に目覚めていなかったことが一因していたのだが…、兎も角、完全にあの力をコントロールされれば流石にアームド状態と素の状態では分が悪い。
「お前、どうして化身を出しやがらねぇ」
「なんの話かにゃー?」
「とぼけるんじゃねぇよ。お前ほどの実力者、持ってない筈がねぇ。俺はテメェに興味が湧いた。お前の全力を俺に見せてみろ!」
(変な火つけちゃったな)
てっきりシュートやらアームド状態の自分やらをあっさり対処されたことで怒り狂うかと思っていたのに、錦との出会いで随分考え方が変わってきているようだ。
「ふふ、流石ザナーク様。…うん、そうだね!もう時間みたいだし特別に見せてあげるぜ!このヒーローの化身を!!」
「ッ!!」
ザナークだけではなく、全員が身構える。今あのUSAGIの化身が現れる。
そんな緊張が走ったと同時に、流れを断つかのように庭園の下からキャラバンが現れた。運転席の窓からワンダバが顔を覗かせている。
「待たせたな天馬たち!早く乗れい!」
「えっ、イナズマキャラバン!?どうして…」
実のところこの孔明の庭園には地上へと直接続く抜け道がある。
そこからワンダバたちはキャラバンへと辿り着き、こうして天馬たちを助けに来たのだ。
勝負の行方も気になるが、今は避難を優先するべきだろう。そう思った天馬たちは急いでキャラバンへと乗り込もうとする。
「あはははははははっ!逃すわけがないんだよねぇ!!」
「!!?」
USAGIは空へ高く跳ね上がり、その背から大量の赤黒いオーラを出した。それは天馬たちの視界を覆うほどに巨大、そして禍々しい。太陽を、空を覆い隠すほどのそれに、マネージャーの葵たちは腰を抜かしてしまう。
そこから現れたのは赤い兎型だった。
大量の落書きが描き殴られたパーカーのような衣服を着用して、ボロ切れのようなマントが首元に漂っている。黄金色のギザ歯を恐ろしい笑顔で彩りながら、全員を見下ろしている。まるで兎の皮を被ったかのような様相だ。
全員が唖然とする中、USAGIが大きく声を張る。
「レディース・アーンド・ジェントルメーン!!!本日はお日柄も良い中、ワタクシめラビットマン主催のドキドキ★ウルトラタイムジャンプ体験会にご足労いただき誠にありがとうございまぁす!!お客様はこれから大きな衝撃が起こりますのでしっかりとその場に身構えず、リラックスしてくださいまし!!大丈夫!痛みは一瞬です!」
『ギャギャギャギャギャ!!!!』
USAGIの化身がそう高らかに笑い、全員に言い表しようのない吐き気と恐怖を植え付ける。そしてそんな彼らを置いていったまま、化身は何も無い空を殴った。
するとどうしたことか。大気が大きくひび割れ、砕け散る。地面に大気の破片が落ちて場はさらに混乱を極めた。しかしそれだけでは終わらない。
「あっ、あれはっ!?」
「馬鹿な!タイムホールだと!?」
ひび割れた大気の中から見えたものは、タイムジャンプする際に通る極才色に彩られたタイムホールだ。普通タイムホールには専用の機器などを使用しなければ現れることは絶対に無い。故に目の前に起きている現象は、あり得ないことだった。
「きゃっ!?」
「なにっ!?」
化身は徐にキャラバンの中にいた孔明と白竜を掴み、そのままその穴の中に放り込んでしまった。
「行かせるかぁ!孔明は儂の仲間になるんじゃー!!」
が、その寸前、化身の腕に掴まっていた劉備も一緒にその穴の中に入っていってしまう。
「白竜ーッ!!」
「孔明さん!!」
「劉備さん!?」
「あら、ちょっと予定と違うけど、まぁいっか」
「3人をどこへやった!!」
「夢の国★」
そう言ってラビットマンは化身と共に地上へと降りてくる。
「そんで今からお前らも一緒に行ってもらうからね★どこに着くかはお楽しみ★★」
「ッ!!?」
その瞬間、化身がその巨大な両腕を地面に叩きつけ、先ほどと同じ亀裂を生み出す。そしてそのまま地面が崩落。いや、正確には空間そのものが決壊。
化身が数人を別の穴へと放り込み、残りを奈落へ。そして最後にイナズマキャラバンを放り込んだ。
「それでは、良い旅を★」
『ギャギャギャギャギャ!!!』
落下する中、気色の悪い化身の笑い声がべっとりと天馬たちの耳に残った。
★★★
「……ちょっと何よこれ」
フェーダから出て、現場へと到着したニケ。本来雷門との邂逅を果たす筈だった彼女は目の前の惨状に唖然とする。
彼女の目の前にはあちらこちらがひび割れ、崩壊した悪夢のような光景が広がっていた。まるで世界が破れているかのようだ。…こんなふざけたことをできる存在はたった1人だけである。
「……あの馬鹿USAGI」
「呼んだ?」
「きゃぁ!?」
「うぼぁ!?」
彼女の後ろからぬるりとUSAGIが現れる。思わずニケは反射的にUSAGIの顔面を殴る。
「い、いきなり鉄拳は酷いでゲス…。マスクが壊れたらどう責任取るつもりなのさー!」
「…貴方が変な登場するからでしょう。今後は気をつけることね」
「乱暴な娘は嫌われるよー?」
「五月蝿い。それより貴方化身を使ったでしょう。しかもフルパワーで。SARUから止められていたんじゃないかしら」
「いざという時以外はね。世の中仕方ないこともあるんだよね!仕方ないことがね!あははははっ!」
「…貴方のそれは仕方ないで片付くレベルじゃないのだけれど」
「無問題だよ。この程度なら1週間くらいで完治する」
「あっそ」
最早彼の起こしている問題はフェーダにいる全員の指を合わせても足りないだろう。そんな彼にこれ以上ものを言っても無駄であることは、彼と何度も任務先で鉢合わせてきた彼女が1番よく理解していた。
「…それよりさぁ、ニケちゃんこそ何の御用?チームなんて連れてさ!」
「哀れな任務を当てられたフェイの様子を見に来ただけよ。あとは彼らの試運転かしら。…まぁ、誰かさんのせいで台無しになったわけだけれど」
「人聞きが悪い!俺様は常にフェーダのみんなの為に行動してるのに酷いでやんす!…ま、僕ちんの目的は達成したから良いんだけどね」
そう言って懐から取り出したのは、薄紫色の石。それは先程までザナークが持っていた円堂守のクロノ・ストーンだった。
USAGIは先の戦闘でザナークからこっそりとくすねていたのだ。
「近くにいたザナーク・ドメインのメンバーもSARUくんに送ってやったし、成果としては上々なんじゃないかな?」
「…本当、抜け目ないわね貴方」
「可愛いと思ったら噛まれるぜ!それがワタクシフェーダのヒーロー、ラビットマンなのだから!」
お前に可愛さなどあるものか、と内心で思いながら今後どうするかを考える。すると、デバイスにUSAGIからデータが送られてきた。
「これ雷門たちの行き先。結構バラバラに飛ばしたから気をつけてねー」
「あらどうも。…本当適当な時代に飛ばしたのね」
「まぁね!団体様のご案内だったから、みーんなバラバラ。グループ分けは私の慈悲よ」
「…本当めんどくさいことしてくれたわね。私この後SARUに報告書出さないといけないんだけど」
「ドンマイ!あ、ワタクシはこれからまだやることあるのでじゃーね!」
「あ、ちょっと!」
そう言ってUSAGIの方へと振り向くと、既にそこにUSAGIの姿は無かった。どうやら別の時代へと飛んでしまったらしい。ニケは青筋を立てながら、深くため息をつく。
「…まぁ良いわ。こっちはこっちでやること終わらせましょう」
どうやらフェイは松風天馬と一緒の時代に飛ばしたらしい。先ずは、フェイの様子を確認しに行くべきだろうと判断し、ニケはデバイスに表示された行き先をフェイのいる時代へと設定した。
●●●
「…ま……んま…!」
「う、うーん…」
「起きろ天馬!」
「……あれ、し、神童センパイ…?」
ぼやけた視界に映ったのは見慣れた癖毛。ゆっくりと天馬は体を起こす。周りを見ると、周囲は木々に囲まれている。ここは森のようだった。
木々の間から吹き抜ける風を浴びながら、天馬はここに来るまでの道筋を思い出す。
「…あっ!そうだUSAGI!!」
「ここにはUSAGIはいない。…どうやら俺たちはあの後バラバラに飛ばされてしまったらしい」
「えっ!それじゃあ皆んなは…」
「…ここには半数足らずしかいない。錦や車田はいるが、信助や剣城は…」
「そ、そんな…」
「…嘆いても仕方ない。今はみんなを探すことを優先しよう。錦たちは今周囲を調べてくれている」
「天馬!目が覚めたか!おまんだけ目が覚めんから心配したぜよ」
そんな時、森の中から出てきた錦が声を上げる。錦は天馬が目が覚めたことに安堵している。
話を聞くにどうやら何かを見つけたらしい。天馬と神童は剣城の後に着いていく。
しばらく歩くと、森が開け、全体を見渡せる崖へと出た。そこには錦、車田、天城。マネージャーの葵、そしてワンダバ。天馬たち含めてこの7人が現状ここにいる全員だった。
「おっ、天馬!目が覚めたんだな」
「どうしたの?何か手掛かりでも…」
「ああ、あれを見るぜよ」
そう錦が指差す先には人々で賑わう瓦作りの街が広がっていた。
見慣れぬ着物を着ながら営みを作っている人々。その光景は明らかに日本のものだった。
「あれって…日本!?」
「ああ、そしてその上でだ。これを見てくれ」
車田が差し出したのは古臭い紙の束だ。少し汚れていることから拾い物だろうか。
天馬はそれをまじまじと読む。達筆なことや、独特な言い回しがあるからあまり内容はわからなかったが、一つだけ天馬の目に見過ごせない情報があった。
「慶応3年!?」
「ああ…、どうやら俺たちは幕末の時代に飛ばされたらしい」
「え、ええぇぇ!?」
●●●
「き、霧野さぁん…!?これってあり得なくないですかぁ!?」
「………そうだな、あり得ない」
「ひえぇ…!」
その場にいた全員が目を覚ました瞬間に眼前に広がるその光景を目にし、そして愕然とした。
「きょ、恐竜…!?」
なんと、目の前には本やテレビでしか見たことのないような恐竜たちがさも当然のように跋扈していたのだ。
「す、凄い!凄いよ皆んな!ステゴザウルスにティラノザウルス、パキケファロサウルスまでいる!本物だよ本物!」
「信助落ち着け…」
ここにいるのは信助、霧野、影山、速水、浜野、三国。マネージャーから山菜、ジャンヌ。そしてベータの計9人。
彼らは恐竜跋扈する白亜紀に飛ばされてしまっていた。
「…さっきまで孔明の屋敷にいたのに、一体どうなってるのさぁ…」
「…やっぱりあの穴に落ちたことでタイムジャンプをしてしまったんじゃないのか?」
「そ、そんな無茶苦茶な…」
「それよりこれからどうするんだ。あんなのがウロウロしてるんじゃ下手に動くこともできないぞ」
「…確かにそうかも。一歩間違えたら餌になる」
「や、山菜さん、怖いこと言わないでくださいよ…」
「幸運なのは、一緒に多少の物資も流れ着いたことだな」
霧野の足元にあるのは非常用にキャラバンに積んでいた食料と水、そして野営用の用具。ひとまずこれがあれば最初から詰みということにはならない筈だ。
「な、なら私に任せてくださいっ!野営なら多少経験はありますので!」
「俺も手伝うよ、ジャンヌ」
「じゃあまずは拠点探しからだな」
目標としてははぐれた仲間たちとの合流だ。もしかしたら近くにいるかもしれない。まずは拠点を作ってそこから情報を集めていくことで全員の意見は合致した。
1人輪からはぐれているベータを除いて。全員が生き残るために動く中、ベータは1人岩場にもたれかかり、項垂れていた。
「……」
よくもまぁこんな状況で前向きになれるものだとベータは感心する。もちろん皮肉だ。
あれだけUSAGIに良いようにやられて、こんな極限の環境に放り込まれて、どうしてあそこまでポジティブに思考が回るのかが、ベータには理解できなかった。
(……なんだかもうどうでも良くなってきたわ)
結局自分にはUSAGIに立ち向かう勇気すらなかった。
目の敵にしていた存在を目の前にしてその一歩すら踏み出せなかった自分は正しく負け犬なのだろう。あの瞬間に、なけなしに持っていた最後のプライドさえも粉々に砕かれた。
そんな自分に心底絶望しながら、ベータは皆がいる方向とは真逆の大地へと歩みはじめた。
●●●
「…現状を整理するぞ。俺たちはついさっきまでザナークたちとの試合をしていたが、そこにUSAGIが乱入。劉備さんと孔明さんを封印しようとする」
「それで俺たちは止めに入ったけど、ザナークが途中で乱入してきたんだよね。それでその後USAGIが自分の化身?を出して空をバキバキに割って、それでその中に落ちたらここにいた…ってことでいいのかな」
「ああ、その認識で間違いない。俺たちは幕末の日本にタイムジャンプしたんだ」
タイムマシンも使わずに時代も場所も乖離したところにタイムジャンプする。一体どうなっているのだろうか。
現状を整理したワンダバが唸り声を出す。
「…タイムマシンも無理矢理タイムホールを通った影響で故障している。今アルノ博士が見てくれているが、治るには少し時間がかかるらしい」
仲間ともはぐれ、タイムマシンも動かず、かなり切羽詰まった状況なことがわかる。
「フェイや黄名子ともはぐれてしまったし…これは少し困ったな…」
メンバーの大半が行方不明の現状に、全員が肩を落とす。仮にタイムジャンプをしてしまったのが事実なら、他のメンバーはこことは別の時代に飛ばされているという可能性も高い。一刻も早く他のメンバーの居場所を探す必要があった。全員に重い空気が流れる。
そんな中、神童は溜めていた疑問を口に出す。
「…ワンダバ。何故俺たちはタイムマシンもなしに時代を渡った?…あの大気が割れた現象はなんだ?…USAGIは、一体何をしたんだ」
「…正直なところわからん。超能力の一種としか今は考えられん。これに関してはどうやらアルノ博士もお手上げのようでな。一切原理がわからんのだ」
「……そうか」
全員の記憶に残っているあのへばり付くかのような様相の化身。他の化身と比べても明らかに異質だったそれは、天馬たちの心に大きな穢れを残していた。
本当にあれに勝てるのか、あんなものをどう対処すれば良いのか。そんなことが頭の中でぐるぐると回る。
そんな時、袋に入っていた円堂大介が飛び出してくる。
「何をへばっておる!確かに敵は脅威的じゃが、ここで退く訳にはいかんじゃろう!寧ろこの状況をラッキーと思うべきじゃ!」
「ラッキー…?どうして…」
「どうしても何も、時空最強イレブンの5の力と6の力!それはこの幕末にあるのだからな!ワシらはこのまま新たな力を手に入れにいくぞ!」
そう言い放つ円堂大介に今度こそ全員が驚愕の声色で叫んだ。
●●●
落下中に黄名子様に抱きつかれて本日2度目の昇天をしかけた僕だよ!
というわけで、作戦大成功!
これぞ我が秘策、オーラ取得RTA大作戦だぜ!これで手分けしてオーラをゲットしてやろうという算段である!
わざわざそんなことする必要なくない?とか思うかもしれんだろう。私もそう思ってました。ついこの間まではなぁ!!
事件はそう、フランス帰りにサリュー君の元に一時帰還した時に起きたのです。
渡されたエルドラドの動向の中にそれは書かれていた!なんと驚くことにエルドラド最高戦力であるパーフェクトカスケイドことパーカスが既に完成&起動していたのだ!
ここで説明しよう!パーフェクトカスケイドとは、人間は非効率だから機械にサッカーやらせようぜというエルドラドの狂気の発想により生み出された悲しきサイボーグ集団のことである!物語後半に登場し、天馬たちをボッコボコにしたぞ!
奴らは今にでもサッカーを駆逐する気満々であり、今の天馬きゅんたちでは文字通り轢き殺されるので、早めにオーラを獲得するように仕向けたのだ!流石にアーサー王は無理だったけど!今頃それぞれがオーラを集めに勤しんでいることだろう!
因みにミキシマックスとか生活面とかはそれぞれの時代に助っ人デュプリを送り込んでいるから大丈夫!良い感じのその時代に馴染んでみんなを手助けしてくれることだろう。
これで我と黄名子ちゃんも合わせて各々最速を目指す!…ていう感じだったんだけど、ちょっと横槍が入っちゃったんだよねぇ。
「…無事か?」
「…うん、ウチは大丈夫やんね」
「僕も大丈夫だよ」
我と黄名子ちゃんの前にいるのはローブを被った白髭のおっさん!そう、奴こそは支援者X!フェーダに対して武器や食糧などを提供してくれる胡散臭くも優しいおっさんなのだ!
…っていうのは表向きで、実際はフェーダの内部に潜入してる儂の親父ィなんですけどね。ワタクシを心配してフェーダにまで取り入ったのだ。なんともまぁ泣ける話である。
んで、この我のとーちゃんがタイムホールへ落ちる最中、黄名子ちゃんと私を救出したわけなのだ。余計なことしおってからに…。
「…すまない。咄嗟のことで君たちしか助け出すことができなかった」
「…ううん、良いの。それより他のみんなはどこに行ったやんね」
「恐らくUSAGIが選んだそれぞれの時代に飛ばされたのだろう。…私も完全に予想の外だった。まさかUSAGIがあのような力を持っていたとは…」
まぁアレやりすぎたらSARUとかニケに怒られるから化身含めてあんま人に見せたことないんだよねー。ここで目撃できたのはスーパーレアと言わざるを得ないぜ!
でも実際この状況になったのも案外棚から牡丹餅である。こうして一家揃える機会は貴重ですからね!特に何か考えてる訳じゃないけど、黄名子ちゃんの意外なところ沢山見れるかもチャンスである!…まぁそんなわけだから、申し訳ないけどニケちゃんには拙僧の居場所に関してだけは、嘘の情報を渡しておいた。ごめんね!また埋め合わせするから許してヒヤシンス。
周りを見ると近未来的なビルやら車やらが飛び交ってる。ええ、とっても見慣れた光景。どうやらここはわっちの住んでいる時代のようですね!黄名子ちゃんからすれば二十数年後の未来だ。
よし、取り敢えず違和感を持たれないためにも仲間思いアピールをしとく必要があるので、早く仲間の元に合流したいという意を伝えましょう。
「ウチも早くそうしたい。皆んなが心配やんね」
「…わかった。だがその前に、君たち2人と少しだけ話をしていきたい」
そう言って親父ィは似合わない老人の真似事しながらこっちに振り向く。うわー、こうして見ると髭の作り物感半端ないなー。
「…黄名子」
「…!ここで、言うのね」
「ああ、次こうして話せる機会がいつになるかもわからない。…ならば今告白すべきだ」
「………」
おや、おやおやおやおやおやぁ?もしかして、ここで言っちゃうんですかぁ?あの衝撃的真実をぉ!!
「……フェイ・ルーンよ。お前には伝えないといけないことがある」
ん、なんぞや。言ってみるが良い。
それで徐に親父ィは顔を覆っていたローブを取る。あ、その髭ローブと一体化してたのね。今日一驚いたわ。
そんで中からちょっと老けたおっさんが出てくる。儂も歳とったらあんな感じになるのかなぁ。いやその前に死ぬんですけどね。
「…私はアスレイ・ルーン。お前の父親だ」
ナ、ナンダッテー‼︎ナンテショウゲキテキナジジツナンダー‼︎
「そして君の隣にいる黄名子が…」
「待って!……それは、自分で言いたいの」
「…わかった」
そう言って黄名子ちゃんは某の前に立って、両の手でわっちの手を包み込む。あっ、幸せ…優しさと包容力を感じる…。今私死んでも良いかも…。
「フェイ、落ち着いて聞いてね…」
はい落ち着きます。今の儂の心は悟りを開いた如来の如く。どんなお話も受け止めましょう。ばっちこいやー!
「ウチは…ウチはね……」
言い淀んでる!言うか迷ってる!きっと今黄名子ちゃんの心の中では果てしない葛藤が行われているのだろう!
頑張れ黄名子ちゃん!目の前にいる、幻想に過ぎないもののために全力を出すんだ!
「……貴方のお母さんなの」
うん知ってる♡
そして俺様は貴女の本当の息子でもありません。ぎゃぎゃぎゃっ★