菜花黄名子を曇らせたい!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・親を騙すは蜜の味♪
・ガニメテプロトンってかめはめ波だよね
・呪いのペアルックが完成する時…天国の扉が開く!




おきた

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、天馬が目を覚ました頃。

 剣城たちは目を覚まして早々、謎の青い羽織を着た集団に囲まれ、牢屋に捕えられてしまっていた。

 

「…ど、どうしてこんなことになっちゃうんだよー!」

 

「うるさいぞ狩屋、また隊士の人たちにどやされたらどうするんだ」

 

「…まさか飛ばされた場所が政府御用達の敷地内だったとはな」

 

 ここにいる面々は剣城、白竜、狩屋、倉間。マネージャーから水鳥。そして劉備、孔明の計7人。

 彼らは天馬たちと同じ幕末に飛ばされたものの、なんと飛ばされた先は新撰組の屯所の敷地内。剣城が目を覚ましてすぐに隊士たちに拘束されてしまい、全員まとめて牢屋に入れられてしまったわけである。

 

「いやぁ、孔明を追って入ればまさかこんな所に来ようとはな!ふと見た景色も秦とはまるで違う!これは思わぬ儲けだわ!はっはっは!」

 

「劉備、貴方の耳は空の洞穴ですか。少し黙っていなさい」

 

「むぅ…」

 

「…すみません、お二人とも。こんなことになってしまって」

 

「良いのです。私どもはこれが不幸な事故と理解していますので、特別に気にかける必要はありません」

 

「それよりも今この現状を打破する方が重要だ…」

 

「その通りです。今私たちは不法侵入者として囚われている。まずは自由の身にならなければ動くこともできません」

 

「でもそんなのどうすんだよ…。あいつら明らかにこっちの話聞かない様子だったぞ」

 

「い、今にも斬りかかられそうだったよな…」

 

「…っていうかさ、あの羽織もしかしなくても新撰組だよな!日の本を守ろうとした侍!」

 

「確かに特徴は一致するが…、そうなると俺たちが飛ばされたのは日本の明治時代ってことか?」

 

「なんで中国にいたのに日本にいるんだよぉ〜!」

 

「決まってる、あのUSAGIの仕業だ。ウルトラタイムジャンプだか何だか知らないがふざけたことをしてくれる…!」

 

「しかしそう考えると俺たちはあいつ個人の力でここに飛ばされたということか。USAGI…改めて考えるととんでもない奴だな」

 

「あんなのに本当に勝てるのかよぉー」

 

 そう弱音を吐く狩屋。

 しかし無理もない、あんなことができる化身など見たことも聞いたこともなかったのだから。あれもセカンドステージ・チルドレン特有の力とでも言うのだろうか。

 そんな彼らを横目に孔明が言葉を溢す。

 

「…貴方がたがあの存在に再び立ち向かうと言うのならば、気を付けておきなさい。アレは狂人です。倫理と言う言葉を嘲るほどに人としての在り方を放棄している存在…。あの手の者は死も恐れませんよ」

 

「……」

 

「…正直なところ、ワタクシはあの存在に立ち向かうことをお勧めしません。どれだけ策を弄し、巡らせても、気まぐれでその全てを悉く打ち砕く存在。あの手の人間は、戦場で最も恐ろしく厄介で、そして決して相手にしてはいけない存在です。…ワタクシは軍師としてそれなりの戦場と人を見てきたつもりです。…ですが、あれ程狂気に塗れた者はかつていなかった…」

 

「おい孔明、お前また顔色が…」

 

 USAGIは孔明が最も苦手とする人種だった。とても正常とは言い難い思考と、その非合理性を実行に移す行動力。

 きっと彼には何かしらの目的があるのだろう。だがその目的はきっと快楽と悦楽に満ちている。その手の人間はいつだって戦場を修復不可能なほどに掻き乱してきた。

 そして何より、かつてない吐き気を催すほどの異質なオーラ。人の雰囲気に敏感な彼女は一眼見ただけで心は折れかけた。

 

「………貴方がたはサッカーという一つのルールでの決着を望んでいるようですが、アレに必ずしもそれが通じるとは保証できません。相手にすらされず良いように弄ばれて死ぬかもしれない。…それでも行くのですか?」

 

 その問いに孔明の先にいる少年たちの目は、一切の迷いなし。

 先程まで弱音を漏らしていた狩屋でさえも強がりながらも決意を抱いた目をしている。それが回答だった。

 

 孔明は体から力が抜ける。…戦場で最も恐ろしいこと。それは何が起こるかわからなくなることだ。術理と策で全てを見通して来た孔明にとって分からないとは恐怖そのものだった。

 そんな不明瞭の具現体のような存在にこんな小さな子供たちが立ち向かう。なんと強やかなことか。

 どうやら孔明は彼らの決意を見誤っていたらしい。

 

「……そう、ですか。ふふ、貴方がたは、強いのですね…」

 

 叶うならば止めたかった。

 かつての自分のように、戦場に蔓延る一握りの狂気にその心を潰されて欲しくなかった。しかしそれでも止まらないらしい。それほどに彼らが守ろうとしているものは大切なのだろう。

 

「勿論儂も行くぞ!!関羽と張飛を取り戻さにゃならんからな!!」

 

「だから劉備さん声が大きい…!」

 

 その時、砂利を擦る音が聞こえる。誰かが牢屋の部屋に入ってきたのだ。特徴的な青の羽織。新撰組だ。

 うるさくしていたからまた怒鳴り声が響くかもしれない。そう思い身構えるが、檻の前に立った隊士は優しげな声でこう言った。

 

「やぁ、君らが屯所に急に現れた子ら?いやぁ、話聞いてた通り変わった格好しとるなぁ」

 

「え、えっと、貴方は…」

 

「ああ、堪忍な。僕は山南敬助。新撰組の隊士やらせてもうてるで」

 

(やっ、山南敬助!?ほ、本物なのか!?サインサイン…!!)

 

(落ち着け水鳥!…教科書に載ってる写真とは随分違う気がするな。なんて言うか、ガタイが良い?)

 

(諸葛孔明が女だったんだ。今更だろう)

 

(でも優しそうな顔してる…!やっぱ歴史通りに凄え温厚で穏健な人なんだよ!)

 

 新撰組の熱狂的なファンである水鳥の興奮を置いて、剣城は山南に疑問を溢す。

 

「…それで、俺たちに何か用ですか」

 

「いやな、命令兼興味本位で。君らの話聞いて怪しいとこないか調べてくれて局長に言われてな。ちょっと話聞かせてくれへんか」

 

「…わかりました」

 

 そうして剣城たちは山南の質問に答えていく。余計な混乱を避けるためにタイムルート云々の話は微妙にぼかしながら、うまく整合性が取れるように話を進めていく。

 一通りの話を聞いた山南は興味深そうに書いたメモを見直した。

 

「うん、まぁ解せへんとこは沢山やけど、今のところ敵対行動とかもないみたいやし、僕的には問題ないかな」

 

「ほ、本当…?」

 

「ホンマホンマ、それにこのサッカーって奴。結構面白そうやん。ちょっと実演できるように局長に掛け合ってみるわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 そこからはトントン拍子で話が進んだ。山南が新撰組の上層に掛け合ったらしく、剣城たちは自由に身とまではいかなくとも、指定された敷地でサッカーの練習をすることは許可された。

 

「はぁ、一先ずは牢屋からはおさらばできた…」

 

「山南さんに感謝だな」

 

「…しかし妙だなぁ。サッカーってこの時代の人から見ても明らかに異国の文化だろ?外国から幕府を守るために頑張ってた新撰組がこうもあっさりその文化を広めかねないことを許可するかって話だ」

 

「…言い得て妙だが、今は現状に甘んじるしかない」

 

「うむ!こうして外に出られただけでも進歩よ!ここからどうするかは、今から決めていけば良い!」

 

「劉備さん相変わらずの即決理論…。無茶苦茶だけどこう言う時は頼もしいな」

 

「ああ、それにもしかすれば天馬たちもこの時代にいるかもしれない。だったら、いつまでもこの屯所にいるわけにもいかないさ」

 

「そ、その前に山南さんにサインとか…」

 

「んなこと言ってる場合か!」

 

 その時、剣城たちのいる屯所の広場に誰かが入ってきた。2人分の影。1人は山南だ。もう1人は褐色肌に濃い紫の髪の男。

 

「やぁ、よろしくやってるかいな」

 

「山南さん、はいおかげさまで。…それで隣の人は」

 

「ああ、紹介するわ。この子は沖田総司、あんたらに用があって見させに来てん。…ほら沖田、挨拶」

 

「……沖田総司だ」

 

「…剣城京介です。よろしくおねがいします」

 

「……」

 

 沖田は非常に不服そうな表情をしていた。やはり敵かも知れぬ余所者をこの屯所に置いておくのは抵抗があるのだろうか。

 

「それで、用とは一体…」

 

「単刀直入に言うけど、この子にサッカー教えてやってくれへんか?」

 

「えっ、それは構いませんが…どうして」

 

「この子が興味あるからって話やからや!それに僕も興味あるし、ちょっと2人揃ってご教授願おうかおもてな」

 

 幕末の、しかも海外への警戒が強まっているこの時期に外国のスポーツの教えを乞うなど不自然極まりないが、しかしサッカーをやりたいと言うのならば、剣城たちに否定する理由などなかった。

 

「わかりました、では一緒にやりましょう!」

 

「うん、よろしくなー」

 

「……よろしく」

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 練習が始まって数分。2人の飲み込みは思いのほか早い。仮にすぐ実戦に行っても足を引っ張るようなことにはならないほどだ。

 一旦の休息をとっている白竜はボールを奪い合っている剣城と沖田を見る。

 

(…妙だな、沖田総司と言えば病弱で有名だったはずだが、そんな様子は見えない)

 

 それとも病弱という話自体が時代の流れで沖田総司の死後自然と噂されたものだろうか。あり得ない話ではないが、まぁこうして問題なく動けているのであれば特に気にすることでもないだろう。

 

「そこの貴方、確か白竜と言いましたね」

 

「孔明さん…はい、確かに俺は白竜ですが」

 

「…少し、話をしましょう」

 

 孔明に誘われ、白竜は彼女の隣に腰掛ける。

 

「それで話とは…」

 

「聞きましたよ、あなた方は私のオーラを求めてあの時代にでやってきたと」

 

「はい、俺たちの時代のサッカーを取り戻すために力を貸していただきたく」

 

「…これまで幾多の戦に参じ、絡まれを繰り返してきましたが、まさか未来の戦に巻き込まれることになるとは私も考えつきませんでしたよ」

 

 呆れたようにそう言葉を漏らす。

 思えば孔明はここまで散々な目にあっている。突然現れた謎の軍団に捕縛されるわ、気色悪いオーラを垂れ流すコスプレ男に変なところに飛ばされるわ、その先でまた捕まるわで、踏んだり蹴ったりである。

 いつかきっちりと、この事件の元凶に落とし前をつけてやろうと内心思いながらも、孔明は話を続ける。

 

「…白竜、私の力を最も効率的に使いこなせるのは、間違いなく貴方です」

 

「!」

 

「ですが貴方はまだ器が足りない。今の心持ちではワタクシの力を受け止め切ることはできないでしょう。貴方が自分の答えを見つけない限り」

 

「それは…」

 

 端的にいうと白竜はスランプに陥っている。

 白竜は究極という言葉に異様なこだわりを持っており、その実現に全霊をかけている。

 かつては強さと勝利の積み重ねだけが己の究極だと信じてやまなかったが、天馬たちとの出会いで自分の究極がそれだけではないと知った。

 そうして、フィフスセクターの解散後、自分だけの究極を探すために全国を放浪していたが、満足のいく答えが見つかることはなかった。その状態での現状。白竜は満足のいくプレーができなくなっていたのだ。

 

「…まぁ、それは貴方が今の仲間と共にいれば解決できる問題でしょう。それよりも疑問に思うべきはこの状況です」

 

「今の状況…?」

 

「…少し話はすり替わりますが、貴方はあのフェイ・ルーンという子を疑っているでしょう」

 

「!!!」

 

「試合中、あの少年を何度も貴方が目で追っていたことはわかっています。…貴方はあの少年が敵なのではと思っている」

 

「…はい、俺はフェイを信用しきれていません。突然未来から剣城たちを助けにきたあいつを…。ですが、何も確証はない。寧ろ話せば話すほどあいつが善良でサッカーが好きな奴にしか見えないんです」

 

「…確かに彼の善良さは遠目から見ても理解できました。しかし善良が必ずしも良いことに働くとは限りません」

 

「…どういうことですか?」

 

「彼にとっては善良でも、それが悪業につながることはある。…私はあの兎男を見た時、気色悪さと同時に既視感も感じました。…そう、あのフェイ・ルーンに」

 

「なんっ…!?」

 

「もしかすれば彼はあの兎男の手先の者かもしれません」

 

 そういえばUSAGIは洗脳を得意としていると言っていた。まさかフェイは洗脳されていて、彼の善意を操って良いように使われているのではないだろうか?

 シュウが感じた妙な匂いは気配は洗脳で強制的に善意をいびつに歪められた故なのではないだろうか?

 

「なる、ほどな、確かにそれなら筋が通る…」

 

 飽くまで予想。だが確かめてみる価値はあるだろう。

 

「…それと、あの山南という男も警戒しておきなさい。あの男からはあの兎男程ではありませんが、同種の気配がします」

 

「なんだと…?」

 

 そうだとすれば自分たちは常に監視されているということになる。

 考えてみれば元々ここはUSAGIが飛ばしてきた時代。監視をつけていない方が寧ろ不自然だ。しかも隊士に馴染み込ませることで、自分たちに信用と拘束の二つを課せて身動きを封じている。

 

「…もしかすれば、あの兎男は私たちの思った以上に頭の回る存在なのかも知れませんね」

 

 しかしそう思い至っても特別有効な手をすぐに打てるわけでもなく、その日の1日は山南と沖田の著しいプレー上達以外には特別収穫も無く終わった。

 

 そして次の日、仮捕縛として手足を拘束されながら寝ていた剣城たちは、徳川慶喜の下で天馬たちと再会することになる。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 息子とテレフォン会話を終わらせた我だよ!

 

 えー、白亜紀出張中のストロウくんと話しましたけど向こうかなりヤベェ事になってるみたいなので、ちょっと焦ってます。

 まさかベータちゃんが行方不明とはねぇ。話を聞くに飛ばされたその場から動こうとした時にはすでにいなかったとの話で、現在捜索中とのこと!

 てえむめしんはもう少しだけかかるみたいだし、取り敢えずストロウくんに具体的な命令出して終わったけど、いやー流石に不完全メンタルで放り込むのは不味かったかー。お付け目役のワタクシもいなかったし、まぁ仕方ない。さっさと行って回収しましょう!

 

 んでんでんーで、幕末の方は無事に雷門対雷門が行われてるみたいですね!

 試合にはちゃんと沖田くんと龍馬くんが参加してるを見るに、送り込んだマッチョスくんとウォーリーくんは無事にミッションを完了したみたいですな!

 え、なんでこの2人って?試合する時にキーパーいないからだよ!ピカチュウも三国先輩も白亜紀送っちゃったし…。

 

 ちなみにウォーリーくんは新撰組の山南敬助に偽装してるぞ!本物とは眼鏡くらいしか似てないけどそこは洗脳でチョイチョイってね。

 沖田くんにはやっぱり洗脳いまひとつだったので、一時的に病気を治してやる代わりに俺に協力しなBOY!って感じで勧誘してサッカーバトルの場に引き摺り出しました。はぁー、超能力様々だぜ!

 

 これで雷門合戦を行ってミキシマックスを誘発させようと思ったんだけど…、うーん、ミキシマックスする気配なし!3人該当者いるんだから1人くらいしても良いと思うんだけどなー。特に白竜くん!孔明お姉ちゃんとコミュ稼げたならとっととやっちゃいなさいよー!

 しかも沖田くんは坂本くんがボール取った瞬間に猪突猛進。こりゃ沖田くんからなんとかしないといけん感じかにゃー?

 

 とりあえず現状はお互い1点ずつ取った状況での後半戦開始直後。試合的には拮抗してるし、徳川慶喜的には結構満足してるみたいだし、まぁ斬首にはならんでしょ。

 つーか周りの隊士さん化身にめっちゃびっくりしてワロス。あーこらこら刀抜かないの。まぁ、刀鉄砲しか知らない時代に超次元見せられたらそんな反応にもなるわな。

 

 ま、ひとまずは見守りましょう。最悪分身デュプリ送ればいいし、雷門は何でもかんでも介護してあげるほど弱くもない。

 ここはハッピとハチマキつけて応援しようではないか!フレーフレー、ラーイーモーン!あ、どっちも雷門だわ!あはははははっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

「坂本ーーッ!!!」

 

「うわっと!?」

 

 刀のような足捌きでボールを奪いにかかる、いや龍馬を切りつけようとする沖田。それを龍馬は得意の身軽さで躱す。そしてそのまま味方へとパスを回した。

 

「チッ」

 

「ふぅ、危ねぇ。おめぇオレっちにボール回ったらいっつもそれだなぁ。そんなに首が欲しいかぁ?」

 

「…お前たちに勝てば貴様は斬首。この試合に勝つことで日本の未来は守られるんだ」

 

「おいおい、慶喜様はサッカーを認めてくだされば良いって言ってたじゃねぇか」

 

「関係あるものか!…俺は貴様らから幕府を、日本を守らねばならぬ!この勝負に勝てば貴様の首を貰えると確約した。例えそれが妖の誘いであっても、俺は止まらない…!!」

 

「な、何言ってんだ…。ちゅーか、どうしたんだおめぇ。前まではちょっと動いただけで持病でバテてたってのに」

 

「…ふん、貴様には関係のないことだ」

 

 沖田はチラリと山南…いやウォーリーを見る。全ては彼が与えてくれたもの。無論信頼など微塵もしていないが、この手で坂本を殺せるのならばなんでも良かった。

 その異常とも言える執念に坂本を含めて周りの人間は威圧される。

 

「この試合に勝ち、俺は日本を守る」

 

「…沖田さん」

 

 そんな彼の背中を剣城は懐かしさを、しかし同時に悲しさも孕んだ視線で見つめていた。

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 そこからも試合は滞りなく進んだ。

 

 何度か沖田がファウルを取る事件もあったが、技と技のぶつかり合い、凌ぎあう熱、そして未知の人の底力、化身。それらは慶喜に限らず他の隊士や大名をも大いに楽しませた。

 そして坂本と沖田、互いのシュートが同時にボールに当たり、弾かれた瞬間、試合終了のホイッスル。

 結果は2-2の引き分け。客観的に見てもお互いの全力が示された素晴らしい試合だった。

 

「良い試合だったね、剣城!」

 

「ああ。…思えばこうして練習以外でお前と鎬を削るのは初めて会った時以来だったな」

 

「あ、本当だね!こうやって考えればまだみんなとできてないことっていっぱいあるんだなー。また雷門に帰ったら皆んなで真剣試合やろうよ!またキャプテンやってる神童センパイとか見てみたいし!」

 

「ああ、それも良い……天馬、少し離れる」

 

「え…あっ、うん、行ってあげて」

 

 試合後の和やかな雰囲気。しかしそんな中、1人フィールドに蹲っている人物が。

 沖田だ。勝利を条件に坂本の首をもらうはずだった彼は、引き分けという中途半端な結果により、その権利を失った。

 

(不味い…!このまま仮に慶喜様がサッカーをお認めになられれば、幕府は…!)

 

「…沖田さん」

 

「………」

 

「沖田さん、慶喜公が謁見されます」

 

「…わか、っている」

 

「……沖田さんは、サッカーが好きですか?」

 

 剣城が問う。

 沖田がサッカーを始めた時から剣城が抱えていた疑問。剣城は沖田が坂本の首のみを目的にサッカーをしていることに薄々気づいていた。その上での質問。沖田は怒りを振り撒くように吠える。

 

「ッ!!好きなものか!!幕府を崩す忌まわしき文化など!!」

 

「俺もそうでした」

 

「何…?」

 

「俺もかつてはサッカーを楽しむのではなく、その先にある目的しか見ていなかった。それ以外に価値のあるものなんて無かった。…それさえ叶えられるのなら命だって賭けても良かった」

 

「……」

 

「そんな俺に今の仲間たちはサッカーの楽しさと言う側面を教えてくれた。仲間を受け入れ、楽しさを受け入れ、そうして俺は叶えるべき目的を持ったままより強くなれたのです。…あの時の出会いがなければ俺はきっと、一生前には進めなかったでしょう」

 

「………それになんの関係がある。お前の身の上話など──」

 

「日本も同じです」

 

「!!」

 

「今の時代、数々の外国が互いに交流して文化を深め合っている時代。…このまま日本が閉じこもったままではこの先何も成長することができない。…仮にこの先外で戦争が起きてそれに日本が巻き込まれれば、技術や文明、それらの違いによって日本は淘汰されるでしょう」

 

「そ、れは…」

 

「今すべきなのは、足踏みをして停滞するのではなく、他を受け入れて前に進むことだと俺は思っています。…幕府は崩れてしまうかもしれませんが、日本は死にません。絶対に」

 

「……ッ」

 

 その言葉に沖田は反論できなかった。

 沖田も馬鹿ではない。外国の力の脅威は噂程度には聞き及んでいた。真偽はともかくどれも今の日本では太刀打ちできないようなものばかり。

 そして今見せられたサッカー。あの力を仮に私兵が持っていれば恐ろしく脅威的。剣城の言う通り外国との戦争が起きれば蹂躙戦になることは目に見えていた。

 

(だがこれが、本当に日本のためなのか…?)

 

 まだ沖田総司は確信には至れていない。

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 その後の徳川慶喜の謁見により、異文化の価値が認められ、大政奉還は認められた。

 

「誠に見事な戦であった。見たこともない技と異能の数々、この徳川慶喜。確かに満足したぞ」

 

「ということは…!」

 

「うむ、大政奉還の件。我ら幕府が折れようではないか」

 

「はっ、ありがとうございますっ」

 

 畏まり首を垂れる坂本だが、その声色からは歓喜の色が滲み出ていた。天馬たちはひとまず歴史が変わらなかったことにほっとする。

 

「し、しかし慶喜公!それでは幕府が…!」

 

「…もはや侍が世を仕切る時代は終わりということだ。どのようなものにもいつか終わりが訪れる。時代が大きく動く今がその時だったと言う話よ」

 

「しかし…」

 

「私も危機感は感じていた。少なからずとも外国の文化が滲み出している今、それを堰き止めるのが日本のためになるのかと。…そうだな、近藤勇のように言うのならば、これも日ノ本を守るためだ。私はあの戦を見てそれが最善と判断したまでよ」

 

 そう断言する慶喜公に周りの大名も新撰組の隊士も、何も意見することができなかった。日本のためを思って幕府の上が決断したのならば、そこに異を唱えることなどできはしないのだから。

 

 そうして、坂本龍馬の目的を達成して何度か事を乗り切った天馬たちだが、未だ問題が一つあった。

 そうミキシマックスだ。未だこの中にいる該当者3人の誰1人もがミキシマックスを成功できていないのだ。それを達成するまではまだこの時代を離れるわけにはいかない。

 

 そんなことを考えているうちに慶喜の言葉も終わり、謁見が閉じられる。その時だった。

 

「……!!」

 

 神童は即座に違和感に気づいた。遅れて天馬、剣城。そして全員に。

 止まったのだ。慶喜公が。いや慶喜公だけではない。周囲にいる大名、新撰組の隊士、鳥の囀りや風の音でさえ、一切の無音となった。今この場で動いているのは天馬たち謁見者だけだ。

 

「ど、どうなっとるんじゃ…!妖術か!?」

 

「慶喜様!返事をしてください慶喜様!」

 

「落ち着いてください沖田さん!」

 

「落ち着いていられるか!一体何が…!」

 

 神童が近くにある葉に触れても、まるで溶接されたように全く動かない。自分たちの干渉を受けなくなっている。まるで時間が止まったかのようだ。

 

「へぇ、結構便利ね。このデバイスの新機能」

 

「!!」

 

 全員が声のした方へと振り向く。そこには橙色の髪の少女が立っていた。その手には見慣れたサッカーボール型のスフィア・デバイスが。

 

「プロトコル・オメガ!」

 

「あんな旧人類と一緒にしないで欲しいわ。私はニケ、セカンドステージ・チルドレンが結成した組織フェーダの一員…って言えばわかるかしら」

 

「フェーダ…!?それって…」

 

「USAGIの仲間か!!」

 

「…正直アイツと同類にはされたくないけど、まぁそうなるわね。本当、不服だけど」

 

 その瞬間、沖田が前に飛び出し、その刀でニケに斬りかかった。あまりの突然の行動に天馬たちは反応しきれない。

 ニケは自身に振り下ろされた一刀を念動力を纏った指2本で止める。

 

「なにっ!?」

 

「乱暴ね。品が無い」

 

「黙れっ!慶喜様を…近藤さんを元に戻せ!!」

 

「別に永遠に止めるつもりなんて無いわ。大人しく私の言うことを聞けば元に戻してあげる。…まぁ貴方みたいに棒切れを振り回すことしかできない能無しには無理な話かしら。貴方の上司はさぞかし粗暴なのでしょうね」

 

「なんだとッ…!!」

 

「おいおい、待て待て沖田!落ち着けって!」

 

「止めるな坂本!コイツは新撰組を、近藤さんを侮辱した!!」

 

「だあぁっ、いいから一旦刀納めろ!ちと冷静になれ!」

 

 必死に沖田を抑える坂本。

 それを見ながらニケはクスクスと笑っている。どうやら彼女は人をおちょくるのが好きなようだ。それを見た神童は表情を険しくする。

 

「…お前は何が目的だ」

 

「ちょっと遊びに来ただけ。それとちょっと会いたい人もいたんだけど……フェイの奴いないじゃない。あの馬鹿USAGI、デマカセ書いたんじゃないわよね」

 

「…!?どうしてお前がフェイのことを知っているんだ!」

 

「あら、これは失言。ま、貴方たちは知らなくても良いことよ」

 

 そう言うと同時に彼女の背後に10人の男女が現れる。皆、ニケと同じシャツとジャケットを組み合わせたユニフォームを身に纏っている。

 その中の数人には天馬たちにとって見覚えのある顔ぶれも数人いた。

 

「…あれって、プロトコル・オメガ?」

 

「えっ、フェーダとプロトコル・オメガって敵対してたって話だったよな!?なんであいつらんとこいるんだよっ」

 

 かつてのプロトコル・オメガ2.0のメンバー。

 しかし様子が変だ。表情はこちらを嘲笑うように薄ら笑いを浮かべていて、その目は真っ赤だ。そして首元につけられたチョーカー型の謎の機器。

 

「彼らは私たちの新しい同士…になろうとしてる人って言えば良いかしら。さてライモン、ちょっと私たちと遊んでよ。もし勝てれば、貴方たちの知りたいことをなんでも教えてあげるわ」

 

「…俺たちが負ければ?」

 

「そうね……じゃあそこの後ろにいる偉人たちを頂こうかしら。USAGIを釣る餌に使えそうだし」

 

「そんなことさせない!」

 

「試合は受諾ってことね。おーけー」

 

『フィールドメイクモード』

 

 そう言いニケはデバイスでフィールドを生成した。

 フェーダ。セカンドステージ・チルドレンによって作られた組織。そんな相手チームはプロトコル・オメガの面々が混ざっているとは言え、単純に考えてUSAGIが11人いるようなものである。

 天馬たちは警戒を最大限にまで上げる。

 

「うおぉぉ!!貴様ぁ!!」

 

「…いい加減五月蝿いわね」

 

『ストライクモード』

 

 いい加減煩わしさを感じたニケはデバイスボールを坂本と沖田のいる方へと蹴り込んだ。シュートは砂埃を巻き上げながら標的へと向かっていく。

 たかがボールと侮るなかれ。デバイスの対象撃退特化状態に加え、セカンドステージ・チルドレンの中でも上澄みのニケが放ったあのシュートは冗談なしで人体を破壊できる代物だ。

 試合のことに考えが寄っていた天馬たちは反応が遅れる。

 

「沖田さん!坂本さん!!」

 

 ボールが沖田の顔面に直撃する寸前、何者かが2人の前に躍り出る。

 

「モチモチ黄粉餅!」

 

 そのままその人物は手に持った餅を思いっきりボールに叩きつけた。数秒間ボールと餅が拮抗するが、最終的にボールはその人物の頭の上に収まる。

 

「ふぃ〜、間一髪だったやんね」

 

「黄名子!」

 

「チーッス、キャプテン!皆んな!そっちじゃ1日ぶりやんね!」

 

 現れたのは黄名子だった。

 つい先程、アスレイの用意したタイムマシンが間に合ったのだ。天馬たちは沖田たちが無事だったことに胸を撫で下ろすと同時に、黄名子の帰還を喜ぶ。

 

「よかったよ黄名子、無事で…」

 

「フェイも無事やんね!今は別の時代に飛ばされたみんなを助けに行ってる」

 

「そうか、他のみんなも無事なんだな…」

 

「うん、本当はすぐにでも通信機を使って話をして欲しかったんだけど…、なんだか大変なことになってる感じやんね?」

 

「…うん、あいつらはフェーダ。この勝負に勝たないと、劉備さんや坂本さんが奪われちゃう」

 

「本当に奴らは偉人を集めて何をするつもりなんだ…?」

 

「フェーダ…あの人たちが…」

 

 黄名子の視線の先にはフェーダの面々がいる。

 あれがフェイの仲間。同じ研究室で苦痛と憎しみを分かち合った存在。

 ニケはただ黄名子をじっと正面から見つめている。

 

「……そう、貴女が菜花黄名子。そっちから来てくれるなんて、探す手間が省けたわ」

 

「…ウチのこと知ってるの?」

 

「少しね」

 

 薄く笑うニケ。

 彼女はフェイのことを何か知っているのだろうか。…それも試合で聞き出す必要がありそうだ。

 緊迫する空気の中、雷門対フェーダの試合は始まった。

 

 

 

 

 







【今日の格言!】
・今すべきなのは、足踏みをして停滞するのではなく、他を受け入れて前に進むことだと俺は思っています


【フェイのコメント】
・よう言った剣城はん!それでこそ雷門の切り込み隊長やで!まぁ実際天馬きゅんたちと出会わなかったら✝️黒の騎士団✝️(笑)を拗らせてたかもしれないですからねー。説得力がある!兄に引かれる前に治療完了してよかったですよ本当に。



【おまけ】

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