【前回のあらすじ!】
・迷子の迷子のベータちゃん♪
・嘘とは、真実の下に隠れることで上質になるものである
・フェイ「…仮に死んでも天国の黄名子様に会えるから実質アドでは?(狂気)」
パーフェクト・カスケイドは現時点での未来の技術で出来得る技術的殲滅手段の全てを詰め込んだ真の破壊兵器。
プロトコル・オメガをはるかに上回る力を持ち、フェーダを破壊するように設計されている彼らは、一糸乱れぬ動きでベータを追い詰めていく。
「うぐッ!?」
『無駄な抵抗は止しておけ。パーフェクト・カスケイドはセカンドステージ・チルドレンを殲滅するために開発した兵器。USAGIに足蹴にされる程度の実力のお前では歯も立たんだろう』
「ハァ…ハァ…ゲホッ」
じわじわと身体にダメージが蓄積されていく。このままでは動けなくなるのも時間の問題だろう。
(逃げるのも…正直厳しそうね…)
ご丁寧に攻撃に参加している人員と逃がさないように見張る人員とで分けられている。このまま逃亡を図っても回り込まれてゲームオーバー。
サカマキが話した通りスペックに明確な差がある以上、正攻法では突破はできないだろう。
(……そもそもどうして私は、逃げようなんて思ってるの…?)
仮にサカマキたちから逃げてもどうにもならない。ただ自分の孤立した状況が明確になるだけ。ならいっそここで捕まった方が楽だ。
しかしそうは身体は動かなかった。彼らから逃げようと、足掻こうと必死こいている自分がいるのみ。一体なぜ?わからない。無気力で何もないと思っていた自分の中にはいまだに未練でもあると言うのだろうか。
その瞬間、パーフェクト・カスケイドの放ったシュートがベータに直撃する。
「ゴハッ!?」
情けなく地面を擦りながら、岩に激突する。地面に伏せた彼女を別の人員が数人がかりですかさず取り押さえる。
「ガハッ…、このッ…離せッ!」
『無駄な抵抗はお勧めしない。腕の骨を折られたいのならば話は別だが』
「ぐぅ…!」
ふと自分の腕を取り押さえている男の腕部を見る。黄色のバンドが巻いてある。どうやらこいつがキャプテンのようだ。
動くことのできないベータの視界に映像のサカマキが映る。
『ご苦労、パーフェクト・カスケイド。…さて、手を煩わせた分だ。帰還の後は相応の処罰を覚悟してもらおうか、ベータよ』
「……ッ」
映像の向こうでサカマキがウィンドウデバイスを操作する。おそらく強制送還の手続きだろう。理由のわからない悔しさに歯噛みする。
「グルアアアァァァァ!!!」
『何ッ』
その瞬間、横槍が入る。この白亜紀の王者とも言える存在、ロックスターだ。
ロックスターはなんの躊躇もなくサカマキを噛み砕こうと迫る。しかしサカマキは映像だ。攻撃はすり抜け、ロックスターの攻撃は外れる。
『現地の恐竜か、余計なことを…!』
「お前…なんで…」
「ラアァァァ!!」
ロックスターはパーフェクトカスケイドの人員をその巨大で容赦なく攻めていく。当たりこそしてないものの、十分な牽制になっている。その証拠にベータの拘束はすでに解かれていた。
「きゃうきゃーう!」
「きゃっ!?」
ベータは何かに引っ張られ体が浮く。
ビッグだ。どうやら彼はこの状況を知り、父親に助けを求めたらしい。ビッグはそのままベータを摘んだまま走り去っていく。パーフェクト・カスケイドが後を追おうとするが、ロックスターに阻まれる。
友人の友を痛めつけられた挙句、ナワバリまで荒らされ、怒らないはずがない。ロックスターはひどく不機嫌だった。
『…チッ、パーフェクト・カスケイド。まずはこの邪魔な蜥蜴から仕留めろ』
「了解」
ーーー
人気の無い岩場。パーフェクト・カスケイドは追ってくる気配はない。全身で息をしながらビッグはベータをその場に下ろす。
ベータは立ち上がる。全身が痛むが、動けないほどでは無い。
「……なんで私を助けたのよ」
「きゃうー!」
言葉は通じていない。しかし無意味とわかっていてもベータは言葉を続ける。
「アイツらはお前らなんかよりもずっと強いし怖い。なんで来たんだよ」
「ぎゃう!」
ビッグは吠える。その様子はどこか怒っているようにも見えた。
「親子揃って死ぬかもしれない相手にリスク背負ってまで来るなんて馬鹿なの?」
「…きゃう〜」
「…クソッ」
ベータは乱雑に髪を掻く。理由のわからないぐちゃぐちゃが心を支配する。
さっきからずっとこれだ。訳もわからない心の不調が精神を蝕んでいる。そのせいで普段は絶対にしないような行動に走ってしまい、酷く気分が悪い。
なんだ?自分は何かを見落としている?空っぽになったと思った自分の中にはまだ何かがあるとでも言うのか。思い詰めた所で答えは出てこない。
「本当…なんなのよ…」
「ぎゃう…」
限界が近すぎていよいよおかしくでもなってしまったのだろうか。何も成せない虚しさを浴びながら、ベータはその場に静かに蹲った。
その時、砂をする音が聞こえる。2人は飛び上がり、周囲を警戒する。もう奴らが追ってきたのか。そう身構えた先の岩場から影が現れる。
「やっほ、2人とも無事?」
「……フェイ・ルーン」
「きゃーうっ♪」
ベータは肩の力が抜けてビッグは嬉しさで跳ね上がる。
「落ち着いてビッグくん。今はロックスターが止めてくれるけどいつ奴らがここにくるかもわからないからね」
「きゃう…」
「ほら、ベータちゃんも立って」
「…はい」
フェイはベータの手を取って立ち上がらせる。その際に肘の裏にある発信機もしっかりと破壊する。これでエルドラドはベータの所在を見失ったことだろう。
「取り敢えず、こっち入って」
そう言い2人を岩場の目立たない陰に連れていく。そこに少し大きめのテントハウスが立っていた。中には生活必需品が完備されている。
「いつの間にこんな所…」
「ベータちゃんを探す時の拠点だったんだよ。オーラ遮断の機能もあるから一晩は持つと思う」
「……」
しかし一晩持った所で雀の涙であるのもフェイとベータは理解していた。パーフェクト・カスケイドは手段を選ばない。最悪周辺を手当たり次第に破壊して回るだろう。そうなれば岩の下敷きになって終了だ。
「…じゃあどうするんですか」
「決まってる、逃げるんだよ」
前提として今回パーフェクト・カスケイドはまともに相手はしない。スペック差は明確な上に、白亜紀にいるメンバーだけではサッカーをするに足りうる人数ではない。挑んでも蹴散らされて終わりだろう。
ならばさっさと逃げて三国たちと合流し、タイムマシンでこの時代からおさらばした方が速いわけだ。天馬たちと合流できればまだ戦うこともできる。
しかしすぐにも動けない。ご覧の通りベータは重傷。三国たちと合流するための連絡も考えると、一晩は待つ必要があった。
一先ずフェイはベータの傷を手当てしていく。全身に打撲や切り傷があるが、骨や神経までには達していないようだ。
「…よし、ひとまずこれでおっけーだよ。後は一晩安静にすれば良いだけさ。明日には最低限動けるようになる」
「…………その」
「ん?」
「……えっと…」
「………」
「………」
それ以上の会話は続かない。ベータはなんと言えば良いのかが分からなかった。
ベータはフェイを殺しかけた。そのか細い首を力一杯絞めて、その命を消し去ろうとした。にもかかわらず今も彼に助けられている。その事実にどう言葉をつければ良いのか、全く頭に浮かばない。
「…さっきのことなら気にしてないよ。急にあんなこと言った僕も悪いしね」
「……」
「それに僕は君たちの憎むべきセカンドステージ・チルドレン。君に殺されても文句は言えないよ。僕は君の敵だったんだから」
「それは…!」
それをお前が言うのか。敵である自分にここまで寄り添ったお前が。
ふつふつと湧き上がる怒りが漏れ出そうになる。
「きゅう〜」
「あ、ビッグくん。どうしたの?」
「きゅきゅう〜…」
「…?」
「…もしかして、ロックスターが心配なんですか?」
「ああ…」
ビッグはあの得体の知れない相手から無事に戻ってこれるかを心配してるのだろう。子が親のことを心配するのは自然なことだ。
いくらこの時代の王者であるロックスターでもパーフェクト・カスケイド相手では厳しいだろう。もしかすれば既に…
「大丈夫だよ、ビッグくん。君のお父さんは凄く強いんだからさ。あんな奴らあっという間に倒してくれるさ」
「きゅう…」
ビッグの瞼が徐々に降りていく。本来なら彼はとっくに寝ている時間。先程のトラブルもあり、ビッグの眠気は限界に近かった。
「そう、そう、大丈夫だよ。ここには彼らは来ないし、お父さんも帰ってくる。だから安心してね」
「……」
そうしてビッグは夢の世界へと旅立っていった。恐竜独特の震えるような寝息だけが空間を占める。フェイはビッグに毛布を掛けてベータの下に戻る。
「…残酷なこと言うんですね。ロックスターがアイツらに勝てて帰ってくる可能性なんて塵芥も無いのに」
「それでも言うべきだよ。言葉だけでも安心はするものだから」
「…その恐竜に言葉が通じてるかは知りませんけどね」
その言葉を最後に再び流れる沈黙。ベータの中に気まずい空気が再発する。
そんなベータの気持ちを他所にフェイは明日のために何やら荷造りをしている。いつも通りの優しい笑みを浮かべながら黙々と作業をしている彼を見ると、気まずさひとつで黙りこくっている自分が酷く滑稽に見えてきた。
「……」
気紛らわしに寝ているビッグを見る。果敢に立ち向かった父親の帰りを待っている息子。側から見れば親思いで感動的なことだろう。
(…馬鹿らしい)
しかしベータは親というものを信用していない。ビッグがこうして育てられてきたのも愛などではなく、ただの生存としての戦略だと思っている。
ただ無機質に、自身という種を残すための行動。親に捨てられたという事実を抱えているベータはそんな曲解を持っていた。
子は親を選べない。
当たり前だがこれほどに残酷なことはない。それは親の裁量次第で子供などどうとでもできるということに他ならないのだから。
事実自分は親が己を捨て置いたせいでルートエージェントととしての人生を歩かされることになっている。まともに幸せに育ててくれていたのならば今こんな状況に陥ってもいなかった。
彼女の周りに同じ境遇の人間が多かったことも彼女の親の悪印象に拍車をかけていた。
「……本当、親なんてくだらない」
「うん、僕もそう思う」
ハッと顔を上げる。そこには荷造りを終えたフェイがこちらに顔を向けていた。いつも通りの優しい表情でフェイは言葉を続ける。
「子供は親を選べないからさ。親の気分一つで人生が崩壊しちゃうんだよ。…生まれてすぐに大人になりたかったなんて夢想した事は一度じゃない」
「……貴方の親はそんなことをする碌でなしだったの?」
「うーん、碌でなしかもしれないけど、愛してはもらってるかな。嫌われてもないし、僕もそうは思ってない。僕がセカンドステージ・チルドレンじゃなかったら順当な家族だったはずだよ」
「はっ…」
なんだ、同じじゃないのか。落胆の感情がベータの心に落下する。
「でも前の親はとんでもないクズだった」
「前…?」
「……ちょっと事情があってね。今の両親に育てられる前に僕にはもう2人両親がいた。もう顔も覚えてないけど、俗物に塗れた人だったっていうのはよく覚えてるよ」
そう話すフェイの表情はベータが見たことがないほどに失意に塗れている。まるでどうでも良いこと、そこらにある雑草を見るような無関心な瞳は一種の冷たさすら感じる。
「病室のベッドで伏せている僕のことなんて存在しないみたいに扱ってさ。当然僕の前には一度たりとも顔なんて見せたこともない。その癖周りの目のために最低限金だけ出して僕の境遇を餌にして私腹を肥やしてた。そんな奴らだったよ」
「…ハッ、確かにとんだクズですね」
「だからかなー、今の親は本当の親としては見れないんだよね。前とのギャップが激しすぎて人の良い他人にしか見えない」
「今のご両親が聞けば心底悲しむでしょうね」
「かもね。でも仕方ないよ、僕にとって親って生き物はそういうものなんだから」
だったら親としてではなく他人として見た方がそりゃ楽だ。そう言葉をこぼしてフェイは椅子に座る。
諦観を極めたようなフェイにベータは親近感を覚えた。フェイはハッと表情を切り替える。
「………あー、ごめん。変な話しちゃった。できれば忘れてくれると…」
「……私も」
「ん?」
「私の親も碌でなしでしたよ。顔も覚えてないけど、ゴミみたいに捨てられたってことはエルドラドの人から聞いた。衰弱死寸前で偶然見つからなかったらそのまま死んでたかもって」
「……」
「私は親の価値が理解できない。信用もできない。いない方が楽だって今でも思う。…でもエルドラドから一歩出ると親に連れられて嬉しそうにしてる親子ばっかり。この恐竜だってそう。価値のないものに縋る意味が私にはわからないわ」
親子が嬉しそうに笑う場面を見るだけでベータは無性に腹が立つ。人は確かにいろんな人に支えられて育つものだが、その中に1つ親という存在が特別視される意味が理解できないのだ。血縁だから、その腹から生まれてきたから。そんなものはベータにとってなんの付加価値も無い。赤の他人同然の認識なのだ。
「…そっか。ならお揃いだね」
「……貴方とお揃いとか…、気分が悪いんですが」
「いいじゃん。2人だけの秘密って感じみたいでさ、僕は気分が良いよ!」
「………そうですか」
そう呟くベータは僅かな笑みが浮かんでいる。言葉に反して彼女はフェイとの細やかなつながりができたことを嬉しく思っているのかもしれない。
「親なんて碌でなしだー!」
「…ええ、親なんてクソッタレですよーだ」
●●●
「ギュルアアァッ…!」
「制圧完了」
パーフェクト・カスケイドの無機質な声が響く。
戦闘が始まって十数分。ロックスターは完全にパーフェクト・カスケイドに制圧されてしまっていた。流石に多数対1人は不利だったようだ。
ロックスターは身体中に打撲と切り傷を負って満身創痍だ。
『ご苦労。…さて随分と手こずらせてくれたな。おかげでベータを逃してしまったではないか』
パーフェクト・カスケイドたちのセンサーにも反応は示さない。そう遠くまでは行っていないはずなのだが、何かしらの隠れ家を用意していたと考えるのが自然だろう。
(それともあのセカンドステージ・チルドレンが何かしら手引きをしたか…)
どちらにしろ、これからすることに大して変わりはない。ベータを探し出し、そしてこの時代にいる雷門の連中を再起不能にする。それだけである。
『パーフェクト・カスケイド、そろそろトドメを刺せ。再び邪魔をしてくるかもしれんからな、息の根はしっかりと止めておけ』
「了解」
そう言い、チームのキャプテンであるレイ・ルクは一歩前へ出て、足元にあるボールをロックスター目掛けて蹴り込んだ。
放たれる岩をも抉る豪速。数瞬後には巨大なトマトの死骸がそこに横たわることになる。しかしその瞬間、何者かがロックスターの前に躍り出て、その脚でボールを蹴り返した。玉はレイ・ルクの真横を通過する。
「…何者だ」
「フェーダ」
パーフェクト・カスケイドたちが視認した姿は赤の髪とユニフォームを着込んだ少年だった。いや、彼だけでは無い。いつのまにかパーフェクト・カスケイドたちは囲まれていた。男女差こそあれど皆一様の容姿的特徴をしており、その総数7名。
少年の言葉を信じるのならば彼らは全員フェーダだ。
『フェーダ…!この時代にもいたのか!……まぁいい。良い実験台だ。パーフェクト・カスケイド、奴らを始末しろ!』
「了解」
命令と同時にパーフェクト・カスケイドは7人の殲滅に動く。
パーフェクト・カスケイド最大の長所、それは動きの統率性だ。知っての通り彼らはアンドロイド。人のように疲れたり、それによるミスも発生しない。全てはプログラム通り故に一糸乱れぬ動きとパワーを発揮できるのだ。
「ほっ、それっ」
「…!」
しかし相手はそれに対応している。人数はこちらが有利だというのに、彼らはパーフェクト・カスケイドと同等のチームプレーで翻弄していく。まるで彼ら自身が一つの意識で統一されているかのようだ。
それもあって実力は拮抗。決定打を与えようとするパーフェクト・カスケイドに対してフェーダはそれを飄々と躱していくだけだ。それを見てサカマキは驚愕すると同時に疑問を浮かべる。
(フェーダがここまでの統率力を持っているなど聞いていない…。奴らは基本的に一部を除いて流浪の集まり。統率など取れてないも同然だというのに…)
まさか新戦力か?フェーダは常に同志となるセカンドステージ・チルドレンを募っている。フェーダ以外にも叛逆を目論む組織があり、それらと合併したとしても何らおかしく無い。ならばここで徹底的に調べてデータを取る必要がある。
その時、パーフェクト・カスケイドとリンクしている情報が、サカマキのデバイスに送られてくる。画面に映るのは相手のデータだ。交戦しての敵の力やテクニック、オーラに至るまで現時点での情報が全て公開される。
そしてそれを見てサカマキはすぐに異変に気づいた。
『全てのオーラが同質…?まさか貴様ら、デュプリか!!』
「あ、バレちゃった!」
「流石パーフェクト・カスケイドだね。情報収集もお手のものか」
「ど、どどどどうしよう!お父様に怒られちゃうよ…!」
「落ち着いてスマイル。父さんはそんなことじゃ怒らないよ。それよりも相手に気を取られてやることを疎かにする方がいけない」
「あっ、そうだね!十分注意も逸らせたし、早くお仕事終わらせよう!」
そう言ってスマイルと呼ばれた少女はスフィア・デバイスを取り出し、そのまま封印モードを起動。寝て動かないロックスターへとシュートを放った。
そのままロックスターはボールに吸い込まれて封印される。
「よし、超強い恐竜さん確保!これで褒めてもらえるかなっ」
「うん、父さんもきっと喜んでくれるさ」
「ギギ…、そもそも父はボクたちのことは否定しない…」
「それもそうだね。…さて、皆んなそろそろ引き上げるよ」
「…!」
その場にいるフェーダ全員が撤退の意向を示す。しかし彼らをみすみす逃すわけにはいかない。
『パーフェクト・カスケイド!』
再び敵を屠らんと冷徹なアンドロイドが攻める。しかし超能力だろうか。全員が一瞬でその場から消え、近くの岩場に再出現する。
『…ッ、フェーダ…いやデュプリども。貴様らの主人は誰だ!その恐竜を使って何をするつもりだ!』
「そんなの言うわけないじゃーん。ましてやお父様のことなんて絶対に」
「その通り。敵に情報を売るバカはいませんよ」
「…ギギ、それにボクたちがここで言わずとも近いうちにわかること…」
「まっ、そう言うこった!結構楽しかったぜテメェらとの喧嘩!じゃあな!」
その言葉を最後に7人はその場からテレポートで消失した。
サカマキは敵を逃したことに歯噛みする。
(おのれフェーダめ…!デュプリを差し向けてくるとは…!)
人形化身であるデュプリは、そもそもセカンドステージ・チルドレンしか使用できない上に、使用者もかなり限られる。
しかしあれほどの高レベルの実力を持つ者となれば、自ずと答えは導けた。
(USAGIだ…!データにあるオーラも一致する。間違いない!あれ程のデュプリを隠し持っていたとは…!)
とびきりに厄介な存在がとびきりに厄介な手札を持っている。その事実はサカマキがこの白亜紀でパーフェクト・カスケイドたちの力の制限を取り払うには十分だった。
『…パーフェクト・カスケイドよ、次に任務を遂行する際はハイパーダイブモードの使用を許可する。如何なる邪魔が入ろうとも必ず任務を遂行しろ』
「了解」
●●●
眩しい朝日が大地を照らし、徐々に恐竜たちが活発になり始めた頃、ベータたち3人は出発の準備を終えて、拠点を発っていた。
結局、ロックスターが3人の元に帰ってくることはなかった。パッと周りを見てもそれらしい影は見えない。だからかビッグは酷く落ち込んだ様子だ。
「大丈夫だよ、きっと後で会える」
「きゅう…」
「…そんなに心配ならここで待っていれば良いのに。どうせアイツらの目的は私たちなんですからもう貴方は関係ないでしょうに」
「ぎゃうぎゃーう!」
「うっ、な、なんですか…」
言ってることはわからないが、ビッグはここで待つつもりはないらしい。それは王者の息子としてのプライド故か、それともただの優しさか。ベータにはわからない。
「よし、じゃあこの方向をまっすぐ行けばみんなと合流できるみたいだから、急ごう。パーフェクト・カスケイドがいつ追いついてもおかしくないからね」
道行も可能な限り岩場や森林など、平地を避けるルートだ。可能な限り見つかる可能性を削いだやり方だが、正直見つからないと言うことはないと思っている。
相手は最新機能を山盛りに積んだ破壊兵器だ。フェイが考えている以上の機能が搭載されていることだろう。そう例えば…
「標的発見」
(テレポート機能とかね。流石に速すぎワロスなんですけど!)
目の前に立ちはだかるパーフェクト・カスケイド、そしてサカマキ。拠点を発って僅か十数分後の出来事だった。いや寧ろ十数分も稼げたことを幸運に思うべきか。
しかし今フェイたちがいる場所は崖道だ。逃げ道は無いに等しいだろう。
『初めましてだな、フェイ・ルーン。フェーダの哀れな手足よ』
「こちらこそ初めましてサカマキ・トグロウさん。部下の尻拭いご苦労様だね。サッカー消去も他所でこんな事をするなんて、今のエルドラドはよほど暇に見える」
『ベータを回収し、サッカーを消去できれば本物の暇をいただけるのだがな。まぁ貴様ら人間擬きにはこちらから永遠の暇を与えるつもりだが』
「申し訳ないけど願い下げかな。こう見えても僕らは忙しいんだよね。歳臭いオッサンの有難迷惑を受け取るほど暇じゃないよ」
『ほぉ、フェーダの中に自殺志願者が居たとは驚きだ。その短い寿命をさらに短命にしたいと見える』
「あれ?もしかして苛立っちゃってる?青筋が隠しきれてないよー。イライラは短命の元なんだから、気をつけなきゃ僕らよりもオッサンの方がよっぽど早く死んじゃうよ」
『……餓鬼が』
サカマキの額の青筋が太くなる。サカマキがこの世で最も嫌うもの。それは生意気な子供だった。
『貴様もあの蜥蜴と同じ場所に送ってくれるわ。やれ、パーフェクト・カスケイド!』
命令と同時にパーフェクト・カスケイドが標的へと駆けていく。同時にフェイはベータとビッグを抱えて崖から飛び降りた。そうして真下の森林へと着地してそのまま姿を眩ませる。
が、パーフェクト・カスケイドも見ているだけでは無い。フェイが飛び降りたと同時に追跡を開始。統率された美しい動きで崖を飛び降りていく。
『…パーフェクト・カスケイドは無敵の軍団。逃げられるなどと思わないことだ』
ー
「ちょっとお前バカなんじゃないの!?あんな風に煽ったら怒るに決まってるじゃない!」
「いや、彼があのアンドロイド軍団のブレインだったみたいだからさ、冷静さを失ったら雑な命令出すかなって」
「それにしたって短慮が過ぎるわ!きゃっ!?」
「来たね」
木々を飛び交って現れるパーフェクト・カスケイド。相も変わらず統率された動きで着実に3人を追い詰めていく。
「目標を捕捉。これより許可された能力を全て使用しての殲滅に入る。───ハイパーダイブモード」
その瞬間、パーフェクト・カスケイドたちの様子が一変する。頬と目の周りが規則的に割れ、そのまま裏返り、バイザーのようなものが装着される。その様相はまさに機械そのもの。先ほどまで残していた人らしさはもはや残っていない。
これぞパーフェクト・カスケイドに搭載された最高殲滅機能、ハイパーダイブモード。標準リミッターを完全解除したその力は先ほどの比ではない。
その証拠にパーフェクト・カスケイドたちはものの数秒でフェイたち3人に追いついて見せた。そして一気に攻撃を開始する。
「…ッ!」
フェイはそれを超能力のバリアで防ぐ。しかしあまりの威力にバリアにヒビが入っていく。伊達にフェーダ殲滅用に作られたわけでは無いようだ。
この森を抜ければ他の雷門のメンバーたちがいる。予めに慶応に時代を設定したタイムマシンを使って一気に逃げられる。が、このままではその前にこっちがやられてしまう。
正直超能力の出力を上げれば対処できるのだが、パーフェクト・カスケイドにはオーラの識別機能がある。これ以上超能力のギアを上げればフェイ=USAGIだと超高確率でバレてしまう。それはなんとしても防がなければいけない事実だ。
「仕方ないかな…」
あまり使いたくないが、分身デュプリを使って場を凌ぐしか無いだろう。USAGIが現れれば流石に相手も意識を逸さざるを得ない。
フェイが分身デュプリを呼び出そうとしたその時、ビッグが彼らの前に躍り出て、相手に派手な頭突きをかました。
「!」
「ぎゃーう!」
頭突きを受けた1人は少しよろめくが、それだけだ。ビッグでは彼らを撃退するには圧倒的にパワーが不足していた。
もう1人のメンバーがビッグ目掛けてシュートを放つ。パーフェクト・カスケイドの手加減なしのシュート。当たれば恐竜と言えど肉を抉られることは避けられない。
「させるかぁ!!」
ベータはそれをビッグに届く前に脚で迎え撃つ。しかし高過ぎる威力を殺しきれず、そのままビッグと一緒に吹き飛ばされる。
「ぐぁっ!?」
「ぎゅう!」
地に伏せる2人。しかし当然パーフェクト・カスケイドの攻撃は止まらない。雨のように降り注ぐ攻撃。フェイは前に出てそれを全て防ぐ。
「ぐぅ…、きっつい…!」
「ハァ…!クソッ…」
まただ、またこれだ。体が勝手に動いた。守る必要性もないこの恐竜をあろうことか身を挺して守った。まるでバグのように自身の行動の原理が理解できない。
ふと、横に倒れているビッグが目に入る。痛みで起き上がれていないが、その顔は怒りの形相でパーフェクト・カスケイドたちを睨んでいる。
ビッグは怒っている。父を殺した目の前の存在たちを。原始の生き残ることだけが本能に刻まれている身で親の敵討をしようとしているのだ。
…正直、ベータ自身も悔しい思いはある。パーフェクト・カスケイドが存在してこうしてサッカー消去の任務に勤しんでいるということは、自分たちルートエージェントが不要と言われているようなものである。確かにそこに対しての怒りはある。怒りはあるが…ベータはそれを糧にして動ける勇気がすでに存在しない。
ベータは自分の為に動けない。と、その時。
「ゴホッ」
フェイの口から血が溢れた。
「!?おいテメェ…!!」
「…大丈夫、ただの超能力の使いすぎさ。それよりも早く逃げて。もう長くは持たない」
「待てよ、じゃあお前はどうするんだ!」
「頑張って逃げる」
「…ッ」
無理だ。フェイの表情からは脂汗が大量に流れ、いつもの笑みは消えている。限界ギリギリであることは誰の目にも明らかだった。
しかし敵も黙ってその隙を突かない訳はない。パーフェクト・カスケイドの2人が同時にボールを蹴り込んだ。単純に考えても先ほどの倍の威力を誇るであろうシュートがバリアに直撃した。
バリアに派手に亀裂が入り、張っていたバリアがついにに決壊する。シュートがフェイに当たるその直前──
「うおおぁ!!」
「ぎゃあぅ!!」
ベータとビッグが前に飛び出して同時に頭突きでシュートを迎え撃った。数秒の拮抗状態の末、ボールは上に弾かれる。
「…!計算外の防御。計算を修正、再度攻撃開始」
予想外の反撃だったようだが、それ一つで統率を乱すパーフェクト・カスケイドではない。
上に弾かれたボールをすかさずベータたちに再度撃ち込もうとパーフェクト・カスケイド2人が動く。
2人が綺麗な統率を成して同時に空へ跳躍。まるで星を落とすかのように同時にボールを蹴り落とす必殺技。
「「シュートコマンド20」」
『双飛遊星弾』
迫る殺人級のシュート。必殺技なだけあり、威力は先ほどの比ではない。先ほどのシュートを省くのに全力を使った2人は躱すだけの体力が無い。しかしそれが直撃する瞬間、小さな影が2人の前に飛び出す。
「ムゲン・ザ・ハンド!!」
西園信助だ。突如現れた化身アームドをした信助が必殺技でシュートからベータたちを守っていた。しかし相手はザナーク・ドメインよりも何倍も強力な存在。信助は徐々に押され始める。
「ぐっ…!不味い…!!」
「信助!そのまま立っていろ!」
背後から三国が信助向かって駆けていく。
巨大な黒のエネルギーを両手に纏い、そのままシュートにぶつけ、受け止め切る無頼の必殺技。
「無頼ハンド!!!」
雷門のダブルキーパーによる渾身のキャッチ技。それでも中々威力が抑えられない現状は、そのシュートの威力を物語っている。
2人はこれ以上のキャッチ続行は難しいと判断。三国はそのままボールを弾き、軌道を上にそらした。ボールは勢いを失わないまま明後日の方向へと飛んでいく。
「あ、危なかったぁ…」
「なんてシュートなんだ…、これがパーフェクト・カスケイド…」
どちらか1人では確実に突破されていた。その圧倒的力に2人は戦慄する。
シュートを凌いだ2人を見てフェイは安堵のため息を落とす。
「皆んな、何とか間に合ったんだね…」
「ああ、トーブの父さんがここまで連れてきてくれたんだ」
上を見上げると、巨大な翼竜が上空を旋回している。その足に掴まれた箱には他の雷門の面々もいる。彼らは随分なショートカットをしてきたらしい。
しかしそんな明らかな的をパーフェクト・カスケイドが見逃すはずはない。
「攻撃再開。対象をケツァルコアトルスに変更」
「させるかコンニャローッ!!」
「!」
パーフェクト・カスケイドの攻撃を阻止したのは翼竜から飛び降りたトーブだ。不意をつかれた行動に攻撃が中断される。
「テメェらだなぁ…、ロックスターに酷いことした奴らは…!」
「……」
トーブに続き続々と飛び降りてくる雷門の面々。ここにこの時代にいる雷門の全員が揃った。
しかしパーフェクト・カスケイドの脅威は変わりない。
「計算終了。人数が増えたところで我々に打ち勝つことは不可能。…そのタイムマシンで逃げることもな」
「……」
確かに。全員が揃ったは良いが、パーフェクト・カスケイドとは真っ向から対峙する形だ。フェイが持ってきたタイムマシンは時空のホールを開けて直接入るタイプになる。機器自体が小型なこともあって、ホールを開くにも2分ほどかかる。
早い話、2分の間彼らを足止めしなければいけない訳だ。
「いたた…」
(大丈夫、父さん)
(うん、大丈夫大丈夫。ってワォ、髪すごいことになってるぜストロウくん)
(いや、まぁ、少し色々あって…)
(なんだかんだでエンジョイしてたのね!良いことだ!…それよりさ、ちょっと貸して欲しいものがあるんだけど…)
ー
雷門の連中がパーフェクト・カスケイドと戦っている。タイムマシン起動までの時間稼ぎだろうか。だが圧倒的に地力が不足している。このままでは突破されて機械を破壊されるのも時間の問題だろう。
そんな様子をベータはただ静観している。
「…ねぇ、ビッグ」
「ぎゃう…?」
「私ね、ようやくわかったの。なんで今になってこんなに生き汚くなっちゃったのか」
情けなく地面に仰向けになっているというのに、ベータの表情は妙に爽やかだった。ビッグはそんな彼女をじっと見ている。
「私きっと、失うのが怖かったんだと思うの。…何もかもが」
「…きゅう」
「立場だって、オルカを助ける機会だって、フェイ・ルーンだって…貴方だって。臆病で手にあるものを取りこぼすのをどうしようもなく怖がってる。…それが本当の私だった」
自分の中に何もなくなって初めて気付いた自分の中での周りの人間の重さ。初めて周りの何かを失う恐怖を味わったあの夜。
溢さないように必死になっているのが今のベータだ。
「…ふふ、こんな姿を見たらオルカに笑われるわね…」
「きゅう?」
「…貴方もあいつらと会った時からずっと怯えていたんでしょう。その体じゃ震えもバレバレ」
「きゅ、きゅう…」
「それでも貴方は身を挺して自分と彼、どっちも守る選択をとった。傲慢不遜ね。王様にでもなるつもり?」
「ぎゃうっ!」
力強い返事は肯定の返事のようだった。弱さを克して前に進もうとするその姿に、ベータは少しだけ羨望する。
「…私はもう何も取り溢したくない。全部、全部私のものにしたい…。私は私のために他を掴んで離したくない…!」
「ぎゃーう!」
「でも私じゃ全然足りない…。力も、心も、弱いまま…」
「きゅう…」
「私も貴方みたいになりたい…」
弱々しく呟くベータ。そんな彼女を見てビッグは覚悟を決めたかのように目を釣り上げ、立ち上がる。
鼻息荒くパーフェクト・カスケイドを睨む。そして高らかに咆哮した。
幼くも張りのある力強さがある声。轟くようにあたりに響くその咆哮は、わずかながら空気を揺らしている。子供にしてこの気迫。ロックスターの息子は伊達では無いようだ。
そしてベータはビッグに摘まれ、無理やり立たされる。
「きゃっ、ちょ、ちょっと…!」
「ぎゃーう!!」
「……怖がりの癖に、案外強情なのね。…ええ、良いですよ、やってあげますよ。何もしないよりかはマシですからね」
全てを無くして目も当てられないほど弱くなった自分。今こそ、そんな自分を終わらせる時なのでは無いか。
勇気と思いやり。これまで自分が馬鹿にして嘲ってきたものが己に本当に必要なものだった。滑稽だが、受け入れて前に進もうとする姿は美しい。
ベータが自分に喝を入れて、走り出そうとしたその時、フェイの声が響く。
「ベータちゃん!ビッグ!こっち見て!」
「「?」」
響くフェイの声。瞬間、ビッグに照射される光のレーザー。これは見覚えがある。確かミキシマックスのオーラ抽出の光。
再びフェイを見ると、視界に入る自分に向けられた銃口。ベータは自分がこれから何をされるのかを察する。
「ちょっとフェイ・ルーン、まさか貴方…!」
「ごめん君しかいないの!ミキシマックス!!」
「きゃっ!?」
ベータに打ち込まれるビッグのオーラ。一瞬の痛みがベータに走るが、すぐに適応。青のオーラを吸収し、みるみる容姿を変貌させていく。
褐色気味の肌に、鮮やかな藍の髪。吊り上がった瞳は力強さと雄々しさを感じさせる。湧き上がる力を示すようにベータは咆哮する。
「うおぁぁぉぁぁぁ!!」
「よしっ!ミキシマックスコンプリート!」
時空最強イレブンその第8の力は本来の歴史と逸れて、ベータがその身に見事収めた。
そうして新たな力を手に入れたベータは果敢にパーフェクト・カスケイドへ……ではなく、フェイの方へと走り出した。
「え、ちょ…!?」
「何俺の了承なくオーラ混ぜてんだテメェ!!」
「ぎゃあ!?」
ベータの飛び蹴りがフェイに直撃する。フェイは派手に吹っ飛び地面に顔面を擦る。ベータはよほどイライラしてるのか容赦なく追撃を試みる。
「待って!あっち!敵あっち!どうどう!」
「誰が犬だゴラァ!」
蹴り込んだ地面が陥没して、派手に割れる。
「うわぁっ!ミキシマックスしたせいで凶暴さも一際だ!」
暴走気味のベータはジャンヌとビッグの2人がかりで何とか落ち着く。どうやらミキシマックスの影響で性格が荒っぽくなっているらしい。ある意味ベータにぴったりかも、とフェイは内心思う。
ベータは再度パーフェクト・カスケイドへと向き直る。
「ミキシマックスか。しかしその程度の力では我々には勝てない」
「ハッ、言ってろ!玩具を壊すのは昔から得意なんだよ。特に人形はな!!」
その瞬間、ベータは死角から飛んできたシュートを足で受け止める。鮮やかに踵に入ったボールを、足元に収める。
「…!」
「いくぜ、テメェらの中身纏めてぶちまけてやらぁ!!」
そこから始まるベータの猛攻。元々FWかつ攻撃的なプレーを得意としていた彼女はミキシマックスでさらにそれらに磨きがかかった。それに加えてビッグの持つ潜在的パワーと王としての威圧感。この場をその存在感で支配するのにそう時間はかからなかった。
タイムマシン起動まであと1分。
「…ッ!」
しかしパーフェクト・カスケイドも黙ってはいない。まずはベータを優先的に再起不能にすると判断した彼らは一気に連携でたたみ込んでいく。
流れるように誘導して連携シュートで一気に叩く作戦。何より脅威的なのはそのスピード。ものの数秒でベータは周囲を包囲される。そして2名が飛び上がり、シュートを繰り出す。
「「シュートコマンド20!」」
落とされる流星のシュート。逃げ場も無ければ味方もいない。しかし元からそのどちらも選ぶつもりもベータはなかった。
「虚空の女神アテナ!──アームド!」
化身を身に纏ったベータはそのまま上に飛び上がり、シュートの体勢に入る。
ミキシマックスで強化された自身のオーラを解放。現れる王者の幻影と共に、その雄々しき牙の一撃の如き藍の力を解き放つ原始の頂に立つ者の必殺技。
「王者の牙ッ!!」
その一撃は破滅的な威力を持つシュートを完全に蹴り返し、技を放った敵の1人に直撃し、派手に木々を薙ぎ倒しながら吹き飛んでいく。
「…ッ!計算外の威力」
「ハッ、ザマァねぇぜ!」
今までしてやられた分得意げに勝ち誇るベータ。
しかし今彼女は空中で落下するだけの状態だ。それをパーフェクト・カスケイドが見過ごすわけはない。
ベータの逃げ道を塞ぐようにアンドロイドたちが攻撃を開始する。流石にこの状態での回避は厳しい。
しかし見過ごすつもりがないのは敵だけではない。ベータの頭上にミキシトランスを完了した霧野が飛び出し、そのまま必殺技を放つ。
「ラ・フラム!!」
炎の障壁は迫る攻撃を全て防いで見せた。ベータは無事に地面に着地できる。隣に着地する霧野。彼はベータを訝しむように見る。
「…信用していいんだな」
「今更でしょう。こうしてあの人形共から狙われてる時点で私に帰る場所なんてないですよーだ」
「……フッ、少し見ない間に随分と嫌味っぽさが抜けたな」
「そういう貴方は更に女っぽくなりましたねぇ。いっそ性転換手術しては?良いところ知ってますよ」
「結構だ!」
同時にシュートを躱す。
周りを見る。各々が苦戦こそしているが、足止めはできており、順調にホールが開きつつある。全員が必死になって時間を稼ぎ、人生で最も長い1分が流れていく。そしてその時は訪れた。
「ッ!ホールが開いたぞ!全員入れ!」
「いやっ、ちょ、無理です!!こいつらしつこすぎ…うわっ!?」
「くっ、このままでは…!」
敵の猛攻は止まることを知らない。殆どが敵の包囲から抜けられず、抜けあぐねている。このままでは時間を稼がれ、タイムマシンを破壊されてしまう。
しかしその時、一陣の風と共に何かが迫る。
「えっ、トーチャン!?」
トーブの父であるケツァルコアトルス。彼がこちら目掛けて突っ込んできたのだ。その足には先ほど皆をここまで運んできた籠がある。
「…ッそうか!全員中心に集まれ!」
「え、嘘でしょ?マジでやるんですか!?」
「やるしかないでしょ!もうこれ以外方法ないし!」
「ベータちゃん僕怪我人だからもう少し優しく運んで欲しいな〜って…」
「うるせぇ!俺が連れてきてやっただけ有り難く思え!!」
「きゅうー!」
凄まじい速度でこちらに迫ってくるトーチャン。パーフェクト・カスケイドたちも何をするのかを察したのか、妨害に動く。
「させるかぁ!」
「トーブ!?」
「トーチャンの邪魔はさせねぇ!」
「ギャァーース!!」
風を纏ったトーチャンはパーフェクト・カスケイドの包囲を突き抜けて雷門メンバーを籠に回収。そのまま時空のホールへと一直線に向かっていく。
途中放たれる幾多ものシュート攻撃。しかしその全てをベータが弾き飛ばす。トーチャン含めた全員がホールの中へと消えていった。
「ふぅ、これで全員ですね」
タイムホールは長時間は開かない。ベータも入ろうと振り返る。
『ベータ!貴様ッ…!』
「…申し訳ありませんサカマキ司令官。これが私の判断です。エルドラドは今の私がいるには少しばかり狭くなりすぎました」
やりたいことができてしまった。あのお節介に妙な燃料を投下されたせいで、報復の炎が再燃した。そしてそれは束縛される立場のルートエージェントでは実現できないことだった。
「ルートエージェント、ベータ。誠に勝手ながら今日をもってルートエージェントを退任させていただきます。それじゃあさよなら、司令官様☆」
そう言い放ち、ベータはホールの中へと消えていった。同時にボールは役目を終えたかのように消失する。
パーフェクト・カスケイドはベータ及び雷門をまんまと逃してしまった。
ーーー
タイムホールの中。普段はイナズマTMキャラバンを使って通っている場所。生身のままこうして通るのは初めてなだけあって、雷門の面々は新鮮な反応を示している。
「な、生身で通っても大丈夫だったんだここ…」
「専用のタイムマシンを使えばね。仮にキャラバンで開けた穴にそのまま入ればその瞬間四散するよ」
「こ、怖すぎる…」
「てゆーかさ、良かったの?トーチャンともう一匹恐竜連れてきちゃったけど」
逃げるためだったとはいえ、白亜紀時代の恐竜を連れてきてしまった。こんな存在を現代に連れてくればパニック待ったなしだ。浜野たちはどうしたものかと考える。
「まぁそこは後で考えよう。今は全員無事なことを喜ぶべきだ」
「うん!このタイムホールを抜けたら天馬たちにも会えるみたいだし、それで全員集合だね!」
結局ここ数日はオーラ集めも滞っていた。こうしてる今でもサッカー禁止令のタイムラプスは確定しつつあるのだ。急がなければならない。
「それにフェイ。お前には色々言いたいことがあるからな!」
「そうだよ!僕らに隠し事なんて酷いよ!」
「うっ…、その言い草だと、アルノ博士あたりから聞いた感じかな…?」
「そうだぜ、本当とんでもないこと隠してたなフェイ。…まぁそりゃ最初から言われてても信じてたかわかんねーけどよ」
「あはは…ごめんね皆んな」
やいのやいのと全員に問い詰められるフェイ。そんな折、ベータがフェイたちに追いついてきた。既にミキシマックスは解除されている。
「あらあら、随分人気者になってますねぇ。フェイ・ルーン」
「あ、ベータちゃんお帰り。…なんかスッキリしてるね、良いことあった?」
「ふふっ、あのサカマキのジジィに一発かましてやったのよ。これが愉快にならねぇハズねぇぜ!」
高らかに笑うベータ。よほどサカマキに一泡喰わせたのが嬉しかったのだろう。もしかすればルートエージェントとは案外ブラックなのかもしれない。
そんな彼女に霧野が近づく。
「……ベータ、今一度聞くぞ。お前は俺たちの味方なのか?」
「はぁ?そんなわけないでしょう。これからも私は私のために動く。勝手にはやらせてもらうけれど、貴方たちと仲良くなる気なんてさらさら無いですよ〜」
「"不器用なところもあるけど、どうかよろしくお願いします"だって。やったね霧野くん、心強い味方ができたよ!」
「おい何ふざけた解釈してんだテメェ!!」
「…まぁ、危険はなさそうだな」
どうやらベータは今回の旅で心に大きな変化が現れたらしい。それが何かはわからないが、こうして愉快に話せるくらいには落ち着いたのも事実。…これ以上の疑いは野暮だろう。彼女がいれば心強いのは確かだ。ミキシマックスも成功させたようだし、大きな戦力となってくれるだろう。
霧野は小さく嘆息して言い合っているフェイとベータを見る。
「…あ、そういえばベータちゃんには僕の目的をまだ話してなかったよね」
「目的?」
「うん、僕は雷門にフェーダのリーダーの命令でサッカー消去妨害の為に接触したけど、僕個人の目的は別にある」
「……」
「…僕はね、フェーダの皆んなを解放してあげたい。力や支配に囚われるんじゃなくて、普通の人間として歩む人生を彼らに与えたい」
ベータは驚く。お人好しもここまで来ると気味が悪い。が、そこが彼の美徳でもあるのか。
もしかすればセカンドステージ・チルドレンも案外人間と大差が無いのかもしれない。少なくともこのフェイ・ルーンは。
「……できるんですかそんなこと」
「僕がお世話になってる博士が軽く作ってくれたのさ。普通の人間に戻す薬を。専門外なのに本当に凄い人だよ」
その話が本当なら、自分たちはフェーダとの争いを避けられるかもしれない。
元々は未来での大規模な戦闘被害を避ける為に考案されたサッカー消去計画。サッカーを消さずにフェーダを止められるかもしれない事実に信助たちは喜ぶ。
「…だから、皆んなを救う為に一緒に戦ってくれないかな。ベータちゃん」
「…………まぁ、借りのつけっぱなしは嫌ですからね。嫌々ですけど協力してあげますよ。あと何度も言いますけどちゃん付けはやめてください」
「うん、ありがとう!」
「話聞いてますか?」
「ぎゃーう!」
ー
ベータちゃんがなかまになった!
いやー、長かった!まるで張り付いたシールを破らず剥がすような作業!実に大変だった!
でもこれで僕の代わりの席は完全に埋まった訳だ!ビッグくんとミキシマックスしたおかげで自尊心も取り戻したみたいだし、あとは心置きなく溜めていたプランをぶちまけるのみだぜ!!キョーッキョッキョッキョッキョッ!楽しみですなぁ、黄名子様の絶望的な歪み顔がぁ!!
さて、その前に天馬きゅんたちと合流しましょう!今頃ニケちゃんたちに割とボコボコにされてると思うので。流石に今の実力じゃニケちゃんには勝てないでござるよー。
…え、パーカス?あー、あれなら問題なしだよ。あのアンドロイド共は小細工で天馬きゅんたちの時代には行けないし、足止めも置いといたしね。
「ん、皆んな!アルノ博士から通信だ!」
お、本当ですねぇ。色々疲れてるのにいち早く気づくとは流石三国パイセン!マジ憧れるッス!
えーと、映像通信だね。添付メッセージを要約すると、"こっちマジやべぇからはよ来いや!!"ですね。
おー、どれどれ…………あ?
「うっ、これは…!」
「黄名子ちゃんが…!」
「酷い…」
……あー、あーあーあー。
へーそういうことやっちゃうのね。あんだけ口酸っぱく言ってたのにやっちゃうのね。そっか。そっかそっか。
サッカーをするなら正々堂々と。
これはフェーダ設立時にワタクシがUSAGIとして決めたフェーダの唯一にして絶対のルールだ。簡単に言えばラフプレーとかは容認してもサッカーの範疇を出たらダメだよということ。つまりはいつものイナズマイレブンというわけだ。
これを決めた理由は至極単純で、俺様がフェーダと雷門の熱いサッカーバトルを見たかっただけって言うそれだけなんだけどね。基本みんなサッカールールは守るんだけど、本編のラグナロクの時みたいに超能力でプレー妨害とかあるしねー。拙者あれあんまり好きじゃないんだよね。悪にも美学はあるのだ!
でもそっかー、そろそろ誰か破る頃かなーって思ってたけどニケちゃんがかー。
これは粛清しないといけませんねー。ここでしっかり締めておかないと後から破る人が芋づる式に出てくるからね。断じて黄名子ちゃんをボコボコにされてチョー腹立ってるとかじゃないからね!さて、取り敢えずサリューに連絡しといてっと。
オラオラー!粛清の時間だオラー!!ニケちゃんの血液を一滴残らず搾り取ってやるじぇー!キェーッ!
●●●
『クッ、逃げられたか…!』
まさかベータがミキシマックスを果たすとは。瞬間的にパーフェクト・カスケイドたちの計算を上回ることで上手く撒かれてしまった。
『こちらの情報になかった子供もいた…』
もしかすればこちらの想像以上に雷門は力をつけてしまっているのかもしれない。未だ時空監視システムが復旧しない以上、こちらで手探りで探すしか無い。
『しかし、目の前でステレオタイプのタイムジャンプを行ったのは失敗だったな』
彼らの使ったもののように長時間かけてタイムジャンプのホールを開ける機器の場合。ホールが閉じた後でも多少の開け跡が残っていることが多い。タイムジャンプが行えた以上、それを再び開ければ、フェーダの妨害を掻い潜っての追跡は十分可能である。
『パーフェクト・カスケイドよ、今からホールを開く。そこから奴らを追跡しろ』
「了か──」
「そういうわけにはいかないんだよねぇ」
眼前の空間が歪む。景色が円状に湾曲していきながら、歪みが広がっていく。這い出るように現れたのはウサギの頭だ。そこから染み出すようにマントが落ちて、ずるりと身体が、全体が現れる。
「ほっと、や。久しぶりだね、サカマキのじっちゃん。みんな大好き!フェーダのヒーロー、ラビットマンだぜ!」
『USAGI…!!やはり現れたか…!』
「んふふ、僕ちんのデュプリがお世話になったね」
USAGIのデュプリがいた以上、本人も必ず姿を現すと考えていた。しかし雷門たちが去った後に現れるとは予想外だ。
『なぜこのタイミングで姿を現す。仲間のフェイ・ルーンを庇うか?それとも唯の気まぐれか?』
「むふふ…、さてどうでしょう」
無機質な瞳模様がサカマキを貫く。相も変わらず気味の悪いやつだ。こうして相対しているだけで気後れしてしまいそうになる。しかし今は絶対の信頼を置ける私兵がいる。
『…まぁ良い。貴様が現れたのはむしろ好都合。ここで貴様を仕留めてくれる…!元々このパーフェクト・カスケイドは貴様に対抗する為に制作したのだからな!』
「おー、そりゃ敵冥利に尽きるね。強敵に対抗する兵器とかロマンしかないからね!」
『そのような軽口を言えるのも今のうちだ。パーフェクト・カスケイド!』
「了解、ハイパーダイブモード。全リミッター解除」
パーフェクト・カスケイドは自身の性能を完全に発揮する形態へと移行。独特の駆動音が響く。しかしそれだけでは終わらない。
「──プラズマシャドウ」
メンバー全員から赤黒いオーラが現れ、化身を出した。人工化身プラズマシャドウ。オーラを人工的に生み出すことのできるエルドラドの技術が成し遂げた偉業。そのパワーは既存の化身の性能を大きく上回るものだ。そう、パーフェクト・カスケイドはメンバー全員が化身使いでもあった。
更には全員が化身をアームドし、より強化された状態となる。これこそパーフェクト・カスケイドの完全なる姿。この状態ならば並のフェーダならば一瞬で蹴散らせる。
相手はUSAGIだが、こちらは11人という人数の利がある。シュミレーションでは100%以上の確率で勝利を収めることができる。
「おぉー!凄い!最近の玩具はよくできてるなぁ。おじさんもうついていけないよ〜」
(パーフェクト・カスケイドにはUSAGIの超能力に対するメタファーを張っている。限界まで解放した基礎能力と特攻効果。これで貴様も終わりだ、USAGI…!)
「ところでさ、ビックリ箱って知ってる?そう、あの箱を開けたらビョーンて出てくるアレ」
『…?』
「アレって中に何が入ってるか分からないから、怖いんだよねー。…でもさ、中に何かが入ってるって分かってたら案外大したことないんだよ。どうとでもなる。…そう例えば、開ける前に中身ごとぶっ壊しちゃうとか★」
『…ッ!やれッ!パーフェクト・カスケイド!』
「了解。任務開s」
「ミキシトランス」
その言葉を最後に、サカマキから見た映像通信は断絶された。
ーーー
ーー
ー
時に。フェイは基本、必要以上に力を使用しない。
ラビットマンとして活動する為だったり、カモフラージュの為だったり、個人として動きやすくする為だったり、理由は様々だが、基本的に私情だ。
しかし1番の理由は、自身がラスボスとして100%活躍するためだろう。
フェイは力の本領は最終決戦にこそ発揮するのがラスボスの美学だと考えている。最初から全てを使っては魅力が半減だ。力を隠し、時がくれば解き放つそのカタルシスにこそ、フェイの求めるラスボス像はあるのだ。
「よくいう話だけどさぁ。機械って、機能以上の能力は発揮できないんだよね」
故に、フェイはただの一度もこの世界で全開で能力を行使したことはない。それはつまり、誰もフェイ・ルーンの実力を正確に把握していないということだ。
「限界を越えまくるこの世界においてそれは致命的だよねぇ。俺様専用対策も沢山積んでたみたいだけど…ま、これで懲りたでしょ。データなんて当てにならないってさ」
現時点でさえ、雷門も、エルドラドも、そしてフェーダも、動く異変と異常に気付いていない。
幾度と重なるタイムパラドックス、集められる歴史上の偉人、そしてその結果生まれる最高の舞台。着々と全てをひっくり返す準備は整いつつある。
「ニン…む、たい…ショウ…」
「ん、おおっ、ラッキーだね!あれに五体満足でいられるなんて!流石パーフェクト・カスケイドのキャプテン!他のメンバーとは違って特別製ってことかな?」
フェイはレイ・ルクを持ち上げて、目線を合わせる。が、レイ・ルクの視界は既に機能していない。
「よし、君は特別に見逃してあげる。なんか今後活躍とかできそうだし、本編でもそうだったしねー」
彼はバラバラに破壊された他のパーフェクト・カスケイドたちの体を踏み潰しながら歩く。
シナリオは少しずつ歪みを見せ、確実に最悪の結末へとその運命が曲がりつつある。正直なところ、どうなるかはフェイにもわからない。自身のシナリオを逸脱する可能性などいくらでもあるのだから。
だがそれでもフェイは信じている。雷門ならば必ずこれから起きる逆境を乗り越えて、自分を倒してくれると。
「さて、次はアーサー王だね!オーラ集めも最終盤。ここからもっと忙しくなるし、張り切って頑張ろう!!」
そう、遍く全ては推しの曇らせの為に。
【今日の格言!】
・フェイは信じている。雷門ならば必ずこれから起きる逆境を乗り越えて、自分を倒してくれると
【フェイのコメント】
・天馬きゅんたちは常に不利な状況から戦って戦って、限界を超えて戦って、自分たちのサッカーを守り貫いてきた。主人公補正だからとか、物語はハッピーエンドで終わるからとかなんて些細なこと!そう、イナズマイレブンは勝つのだ!最後には!儂がどれだけ過程をぐちゃぐちゃにしようと、どれだけ強大な力を手にしようと、どんだけ絶望的な状況にしようと、勝つ。持ち前のサッカー愛と絆の力で!!勝つ!!そしてハッピーエンドになる。絶対に。それがイナズマイレブンなのだからなぁ!
【おまけ】
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