透き通る世界にいました。
【前回のあらすじ!】
・USAGI WORLD!各所に点在しているUSAGIフラワーを取ることで不思議なギミックが発動するぞ!
・ニケ「フェイを理解らせる!」
・フェイくんは濃ゆい味の食べ物が好物★
目が覚めた時、真っ先に目に入ったのは溢れんばかりの笑顔の子供だった。
「や、やった…!成功だ!!漸く1人!やったー!やったー!バンザーイ!」
「………?」
気持ちのままに飛び跳ねるその人を私はただ見ていることしかできない。思えば、この時の私にはまだ自我というものはなかったのだろう。
しかし目の前の子供が自分の生みの親だと言うことは漠然ながら理解できた。
黙って見ていると親が足をつまずかせて顔から転んだ。
「…あっ!だ、大丈夫…ですか?」
「いてて…。ああ、ごめんごめん。つい舞い上がっちゃって」
あの子の背丈は私と同じくらい。側から見れば同じ年の子供に見えることだろう。
「うーん、それにしても髪が赤いなぁ。やっぱ僕の身体の中身が違うからかな…?」
「父さん」
「はいはいなんですかー…って、父さん?」
何か違うのだろうか。この人に私は作られた。ならばそれは父親と言うほかないと私は理解している。
父さんはやや不満げな表情をするが、直ぐに笑顔に戻る。
「……ま、いっか。今は成功を喜ぶべきだよね!よろしく我が娘よ!」
「はい、父さん」
「あー、そんな堅苦しくしなくていいよ。ほら親子なんだからさ!もっとフランクに」
「わかり……った」
「うんおっけー!じゃあついでに君に名前もあげよう!」
「名前…」
「色は違うけどやっぱり君の名前はこれ以外ないよね」
「……」
「君はマント!拙者の記念すべきデュプリ第一号!長女ちゃんだぜ!イェーイ!」
「マント…」
父から与えられたその名は、恐ろしいほどにすんなりと私の身体に染み渡った。マント。それが私に与えられた個体識別名。
この時初めて、私はこの世界に生まれ落ちたと実感した。
「これから弟妹たちがいっぱいできるからね!一緒にこれから頑張ろう!」
どうやら父さんはこれからも私のようなデュプリを生み出す予定のようだ。…この時に何故そこまで私たちを必要とするのかを問える自我があれば、何かが変わっていたのだろうか。今となれば全てが手遅れなことだ。
所詮産まれたばかりの私には黙々と父さんの後ろについて行くだけの自行能力しかない人形。表情筋だってまともに動かない。それでもそんな私を父さんは笑顔で手を引いてくれた。
「さぁ行こうマントちゃん!これから君の知らないことをいっぱい教えてあげる!」
(……眩しい)
私はデュプリ。父さんの人形。
父さんの命令を遂行して、父さんの望むままを捧げるオートマタ。最高の未来を父さんが望んでいるのなら、私たちは喜んでそこに辿り着くだけの道を用意しよう。例え最期に父さんが死ぬことになろうとも。
…でも、それでも、父さんと生きてる中で芽生えた家族としてのマントが、それを否定する。死んでほしくないと叫ぶエゴが私の中で五月蝿く木霊している。
私にはわからない。私はどちらの声に従えば良い。
***
さぁさぁさぁ、始まりましたよ!ワタクシが天塩にかけて育て上げたウサギーズ特戦隊と、雷門イレブンの伝説の試合がぁ!!
あ、どうも。実況のフェーダのヒーローラビットマンだぜ。いやぁ、やっとマトモに実況ができるものよ!このイナイレの世界に来てやりたいことNo.4くらいに入る項目だったから嬉しいですねぇ!
さぁ、両チーム相手を叩きのめしたくてウキウキしているぞぉ!早速雷門ボールからのキッキオフだぁ!!
「うわっ!?」
「なんだ!」
あーっと!ここで早速トラブル発生!
フェイくんを守っていたマスタードラゴンが突然サッカーフィールドに攻撃を開始したぁ!よくわからない魔法的攻撃が雷門を襲うー!!
「USAGI、お前…!!」
ほら話聞いてなかったー?勝利条件にはマスタードラゴンの撃退も含まれてるんだぜー?早くしないとサッカー以前に全滅だぜ!
…まぁ、絶対当たらないように調節してるんですけどね!要は一種のパフォーマンスってやつよ。悪役にはやりすぎない程度のラフプレー必要だからね。ほら出番だぞ王様。
「はぁっ!!」
「アーサー王!?」
「マスタードラゴンは私が引き受ける!君たちは試合を!」
「…わかりました!」
ゲームアニメでは瞬殺されたマスドラさんですけど、今回は拙僧のバフを盛りに盛っているのでそう簡単にはやられないでしょう!
さぁ出鼻をくじかれたものの雷門キックオフで試合スタート!
あーっと!開始早々神童きゅんがミキシマックスだ!いや神童くんだけではない!霧野きゅん、白竜くんと次々とミキシトランスをしていく!一体これはどう言うことでしょうかSARUさん!
「どうやらミキシトランスに慣れようとしているようだね。彼らはミキシマックスを成功させてから日が浅い。ミキシトランスは使いこなせばこなすほどコストパフォーマンスが上がるからね。おまけに相手の力は未知数の敵。早々に使って試合の流れを持っていこうと言う魂胆だろう」
なるほどー、しかし一歩間違えればスタミナ切れを早々に起こすことになる諸刃の剣でもありますね!これは雷門賭けに出ているのか!?
「はぁっ!」
「…!」
おっと凄いぞ雷門ー!吾輩のデュプリたちと互角のボール争奪戦を繰り広げているー!流石ミキシトランスのパンプアップは侮れないー!
「どきなぁ!!」
「うわっ!?」
あーっと!ここで前に出たのはザナーク様だぁー!!唯我独尊を我で行く彼は敵もろとも味方の神童きゅんを吹き飛ばしてボールを確保ぉ!
ぐんぐん上がっていくザナーク様ぁ!!そしてそのまま、上空に瞬間移動!マイナスエネルギー的なパワーを溜めて一気に解き放つ!!
「ディザスターブレイク!!」
放たれる豪速球!!以前までとはまるでレベルが違うシュートだぞ!この洞窟もブチ抜きそうだぁ!
しかぁし!ゴールを守っているのが一体誰なのか忘れたわけではあるまいな!あのマッチョスさんだぞ!デュプリの中で最も頼りになる見てくれをしてる男!!そして性格も豪快な男!!
背後に真っ赤な山の形のエネルギーを顕現!そのままエネルギーを身体に吸収!俺自身が山になることだスタイルでシュートを止める必殺技!
「クリムゾンマウンテン!!」
止めたぁー!!凄いぞーカッコいいぞー!!流石マッチョスさんだぁー!!
「チッ」
「おいザナーク!勝手に行動をするな!」
「フン、俺は俺のやるようにプレーする。お前らの指図で動くつもりなんぞ無い」
「なんだと…ッ!お前の荒いプレーについて来れてない奴もいるんだぞ!?」
「ついて来れない奴が悪い。いいか?俺がお前らに合わせるんじゃねぇ、お前らが俺に合わせるんだ」
「…ッ!!」
神童きゅんのストレスがマッハですねぇ…。一応胃薬鞄の中にこっそり入れておいたけど、しっかり飲んで安静にしておくれ。まぁ、俺様の曇らせラッシュが終わるまで休みなんてねぇんですけどねぇ!!
さぁゴールキックで試合再開!しかし再びザナーク様がボールをカット!ゴールに再度上がるぅ!
「テメェばっかボールを取んな!」
「あぁ?」
あーっと!ここで独断プレーに乱入してきたのはベータちゃんだぁー!ミキシトランスをしてボールを奪う!味方だぞ!?大丈夫かぁ!?
「邪魔すんじゃねぇ!!」
「こっちのセリフだ!」
凄いぞ味方同士のボールの取り合いだぁ!!エゴとエゴのぶつかり合い!いつからこの世界は青い監獄になったんだぁ!?
どさくさに紛れてベータちゃんがシュート!しかしまともに力が入っていないので、マッチョスくん難なくキャッチ!
「クソッ」
「ハッ、雑魚がでしゃばるからだ」
「私と違ってまともにシュートを打って止められた人に言われたくありませんねー」
「安心しろ、少なくともテメェよりはマシだ」
「……」
「…チッ」
うわー、超ギスギスしてる。
ま、だいたい予想通りですね。ワルワルマインドが抜けきってないザナーク様じゃ雷門とはミスマッチにも程がある。おまけに雷門にはまだ馴染みきってないベータちゃんもいるからねー。しゃーないしゃーない。
が、このままでも正直困るのでここは一つ我らがキャプテンに頑張ってもらいましょう!!
ーーー
(ど、どうすれば良いんだ…!?)
松風天馬は狼狽えていた。
現状は最悪と言っても良い。ベータにザナーク。あまりにも癖と我が強いメンバーが2人も入ってきたのだ。おかげでチームワークはガタガタだ。
(俺が…キャプテンの俺がどうにかしないといけないのに…!)
現状を打破する方法が思いつかない。
天馬にとってのキャプテンとはチームを指揮し、導く者だ。キャプテンである以上、相応の、導くサッカーをしなければならない。
しかしキャプテン経験のある神童や白竜にも手追えないこの状況。フェイを取り戻すためにも勝たなければならない試合だと言うのに、このままでは勝負にもならない。なんとかしてみんなの心を一つにしなければ。
(…でもどうすれば良いんだ。俺の声は2人には届かない…。どうすれば…)
そう考えている間にも試合は進んでいく。こちらの崩れかけのチームワークに対して、相手のチームプレーは完璧だ。まるでチームそのものが一つの生き物のように流れるようにボールがつながっていく。そしてキャプテンのマントがあっという間にゴール前に辿り着く。
ボールを上に打ち上げ、そのまま無数の紅の刃を撒き散らしながら跳び上がる。そのまま痛々しい殺傷を伴ったボールをゴール目掛けて放つ必殺シュート。
「ジェノサイドスクリュー」
放たれたシュートは信助のムゲン・ザ・バンドを切り裂いてゴールを撃ち抜いた。
相手と自分たちとの現状の差に天馬は打ちのめされる。
(やっぱり…やっぱり俺なんかがキャプテンじゃ…)
元から天馬はチームを率いて前に出るタイプでは無かった。彼に合ったキャプテン観はもっと別にある。しかし今の彼にそれを理解する術は無い。
(天馬!)
「えっ!?ふぇ、フェイ…!?」
それは1人だけならの話だが。
突如響き渡るフェイの声に天馬は困惑する。
(しっ、静かにして。…アーサー王がマスタードラゴンの気を引いているおかげでテレパシーで会話ができるんだ)
(な、成程…)
天馬は改めてセカンドステージ・チルドレンの力の凄さを認識する。確かにこれは未来で脅威にされる理由も少し理解できる。
(…ザナークとベータちゃんの対応に苦労してるみたいだね)
(うん…、どうやったらあの2人をチームとしてまとめられるのかわからないんだ…)
ザナークとベータと言う圧倒的個。それを引っ張り上げられる自信が天馬にはなかった。自身のキャプテンとしての資質を疑い始める天馬。非常に良く無い兆候だ。
それは今の出来事だけでは無い。戦国時代での蹴鞠戦から始まり、ザナーク・ドメイン、フェーダ、そして今のウサギーズ。それらの連戦の中、天馬がキャプテンとして特別何かをしたかといえば、何も無いと天馬は言うだろう。
天馬は本当に自分がキャプテンとして相応しいのかを疑問に感じていた。
(神童センパイや白竜の方がよっぽど上手くチームを纏められる…。あの2人だって最初からどっちかがキャプテンなら着いてきたかもしれない…)
(そうか…天馬、君は…)
だから今からでも神童センパイにキャプテンを交代して…
(すごく馬鹿なんだね)
「………えっ?」
あまりにドストレートな罵倒に天馬は一瞬唖然とする。思わず天馬はフェイのいる方向を振り向く。
(え、いや、馬鹿って…)
(馬鹿だよ馬鹿。いや阿呆か?)
(うぐっ、そ、そこまで言わなくても…)
(そこまで言うくらい馬鹿なの!いい?キャプテンっていうのは、神童くんみたいに指揮して引っ張るだけじゃないんだよ。統率者にもいろいろ種類がいるの)
(しゅ、種類?)
(そう、多様性だよ天馬。メンバーについて来させるキャプテンもいれば、自然と人が集まってくる歯車の核みたいなキャプテンもいる。…君は他のキャプテンの在り方を知らなさすぎる!)
統率者にだって個性はある。そしてその個性はチーム全体の特色としてそのまま現れる。その特色を活かして戦うことがチームプレーなのだ。
(君は自信がないだけだ。キャプテンとして消極的なだけだ!もっと獰猛に行け!ハングリータイガー…いやハングリーホースだ!)
(で、でも俺はキャプテンとして何も…)
(何もしなくていいんだ)
(えっ?)
(この雷門というチームは松風天馬っていう風があったから諦めなかった。これまでだってそうだ。僕も、皆んなも、松風天馬がど真ん中にいたから頑張って来れたんだ。自分の在り方を、サッカーを見失わないで!)
(……フェイ。でも、それでも俺には無理だよ。フェイの命だって懸かってるんだ。本当にそんな力が俺に合ったとしてもやっぱり確実にチームを指揮できる神童センパイの方が…)
(……ふーん、そんなこと言っちゃうんだ。──だそうだけど、どう思う神童くん)
「甚だ遺憾だな。俺はそんな指揮能力を期待してお前にキャプテンを任せたわけじゃないぞ」
「えっ!?し、神童センパイ!?いつから聞いて…」
「俺だけじゃない。皆んなだ。お前とフェイの話、全て聞かせてもらったぞ」
「え、え、えぇっ!?」
性格の悪いフェイの悪戯がクリーンヒットしてしまったらしい。
いつの間にやら天馬はチームメイトに囲まれていた。皆その表情は険しい。だが責めるような視線でもない。
「天馬、お前本当馬鹿だよなぁ」
「うん、馬鹿だ。サッカー馬鹿かと思ってたが本物の馬鹿だったとは」
「え、ちょ」
「まぁわかるよ。自分のことって案外わかんないもんだよな!」
「きっと天馬のことなら天馬よりも僕らの方がずっと知ってるよ!」
「俺たちはお前がキャプテンだからここまでついてきたんだ」
「で、でも…」
「でもも何も無いやんね!」
「うぶへぇっ!?」
黄名子に思いっきり頬を挟まれる。
「き、きにゃこ、いひゃい…」
「…キャプテンはウチが落ち込んでた時ずっと優しく声をかけてくれた。きっとキャプテンがいなかったウチはここまで来れてなかったと思う」
「試合だってそうさ。俺はかつてチーム・ゼロとしてお前と敵対した。そんな俺がこのチームで心置きなくサッカーができるのは間違いなくお前のおかげだ」
天馬、天馬、天馬!と声が集まってくる。皆が皆、天馬をキャプテンと認めていて、その在り方が正しかったと証明できる者だ。
これが総意。天馬の積み重ねてきたキャプテンは決して無駄じゃないという証。
(…天馬、あの2人をチームとして動かすには単純に力が足りない。もっと大きな風を吹かせる必要がある。…君ならもうどうすれば良いのか、答えはわかるでしょ?)
「…ッ!!うん!」
ー
「……あの少年、良い面構えになったではないか」
先程まで迷子の童のように飛び飛びだった視線は今やただ一点をまっすぐ見ている。周りにはたくさんの仲間がいて、皆が皆この極限の状況下でも希望を持った笑顔を浮かべている。
「私と在り方は異なる。しかし、あれもまた王の姿か…」
「グオォォォォ!!!」
「むっ…!」
咆哮と同時に魔法攻撃を仕掛けるマスタードラゴン。躱そうと身を構えた時、横から円型の機械が飛び込んでくる。バリアが展開され、マスタードラゴンの攻撃を防いだ。バリアは数秒で破壊される。しかしその前にアーサー王はバリアマシンを投げたアスレイの隣にまで下がっていた。
「すまない、助かったアスレイ殿」
「…USAGIの狙いは貴方やマスタードラゴンの可能性もある。いつ標的にされても良いよう、素人ながら私が援護しよう」
「ああ、頼もう!…が、その前に」
アーサー王は天馬たちのいるフィールドに顔を向け、声を張り上げた。
「松風天馬!」
「…!!アーサー王…!?」
「このアーサー王が認めよう!君は、王だ!民に愛され、民を愛し背を押す王だ!」
「……」
「私は君の中に私の望む王を見出した!よってこの力を君に預けよう!!──クマの御仁!ここに来るまでに話したアレを!」
「く、クマって…まぁ良い!行くぞ天馬!ミキシマックスだ!」
天馬は自身に向けられる銃口を見てこの上ない笑顔を浮かべる。
アーサー王のオーラか天馬へと打ち込まれる。髪は背まで伸びた黄金色になり、瞳に銀の力強い輝きが宿る。
「ミキシマックスコンプリート!」
黄金の輝きを放つキングオブミットフィルダーが今ここに誕生した。
ーーー
「ベータ!ザナーク!」
「「!!」」
その声はフィールドによく響いた。先程まで他人事であった2人の意識は天馬に集まる。あからさまな変化を見せた天馬にザナークが反応する。
「…随分雰囲気が変わったじゃねぇか。力も申し分ねぇ。だが俺はお前に従うつもりはねぇぜ」
「その必要はないよ」
「ほぅ…?」
「ザナークはザナークのプレーをすれば良い。俺たちはそれについて行く」
逆に無理やり指示通り動けなどと言う方が悪手というもの。
「ククッ、ようやく理解できたか。俺という人間を!!」
「うん。…それに、ザナークを越えられなきゃ、USAGIだって越えられない!」
「クク、言うじゃねぇか…!」
ザナークの表情が喜色いっぱいに染まる。ザナークは想像よりも現実主義者だ。だがその受け止めた現実を考慮した上で自身の理想を叶えんと現状を破壊する。
楽しければ全てよしの考えを持つザナークはこの勝負に勝ち負け以外の価値を見出しつつあった。
天馬はザナークの横にいるベータに視線を向ける。
「…ベータ」
「………」
「君は…フェイを助けたいんだろう」
「…………」
「フェイを助けたいからここにいるんでしょ」
ベータは何も答えない。しかしその張り詰めた表情は天馬の問いを答えているようなものだった。
「俺たちだってその意志は同じだ。…ベータが俺たちのことをよく思ってないのはわかっている。俺たちもそうだったから」
しかし今は啀み合っている場合などではない。フェーダという敵を目の前にして味方同士でぶつかり合う時間はもう無いのだ。
何よりザナークは兎も角、ベータの考えは天馬たちと同じはず。友人とフェイを助けたいその一心でここにいる。正直なところ、答えは決まっていた。
しかし彼女の中のプライドとも言えないでっぱりのような嫌悪感がそれを邪魔をしてなかなか答えを口に出せない。
「……」
「ベータ!」
(ベータ、お願い。皆んなと一緒に戦って!)
掛かる最後のダメ押し。それを最後に固く結ばれた表情は解ける。
「……はぁ、もう分かりましたよ。合わせれば良いんでしょう、合わせれば」
チョロい、とフェイは内心思う。
ベータのほんの少しの成長を娘を見守るような生暖かい目で見守る中、一旦の一致を見せた雷門。天馬が号令を出さんと叫ぶ。
「よしっ、皆んな反撃だ!」
ーーー
雷門の1番長けた能力は潜在性と、試合の中で大幅にその潜在能力を拡張できる精神性。何度もそう父に言われてきたことを今デュプリたちは痛感していた。
「オラァ!」
「…ッ、くっ!」
明らかに全員の動きが変わった。先ほどのひどい動きがまるで嘘のように一体感ある動きを見せる雷門。
「だがこれ以上行かせない…!」
マントは一気に前に出る。これ以上成長されては手に追えなくなる。今のうちに一気に点差をつけようという算段だ。
「行かせないやんね!」
「…ッ、邪魔だ!!」
「きゃあッ!?」
マントは先ほどとは打って変わった強引なプレーで一気にゴール前にまで立ち、再び点をもぎ取らんと必殺技を放つ。
「ジェノサイドスクリュー!!」
先程はゴールを許してしまったシュート。しかし2度も同じ手でゴールを許すわけには行かない。チームプレイで翻弄されていた先ほどとは違い、今は何の邪魔もない。
信助はオーラを解放する。途端信助の容姿が激しく変化する。髪は淡い青に、背も心なしか少し伸びる。
「ミキシトランス、劉備!!」
そのまま手を構える。墨絵の如き世界が描かれ、導くようにシュートが世界を謳歌する。それを山脈の頂点より大地の力を込めた一撃を地に叩きつける必殺技。
「大国謳歌!!」
ボールは熱の煙を立てながら止まる。その光景にマントは歯噛みする。
「ミキシマックス…!やはり予めしていたか…!」
「ナイスだ信助!」
「錦先輩!」
「おうぜよ!」
ボールを確保する錦。それと同時に雷門全員が前に上がっていく。それは明らかな攻撃体制。
これ以上攻め上げるわけにはいかないと、DFのウォーリーが錦の前に立つ。
「山南さん…いや、ウォーリー!そこは通してもらうぜよ!!」
「うん、やってみい」
「ミキシトランス!龍馬!」
オーラの奔流と共に錦の容姿が変化し、紺の癖のある髪、鋭くしかしどこか慈愛のある目つきになった。
「ほー、それが坂本龍馬のミキシマックスかぁ。男前になったやん」
「…なぁ、ウォーリー。おまんらはどうしてあのUSAGIの部下とかやってるぜよ。儂はおまんとは試合一つしただけの関係やけど、それでも儂はおまんが…いやおまんらが悪い奴らとは思えん」
「それは決めつけやで。君がどれだけ僕らの善性を信じて追求しても今僕らは敵対してる。それが全てや。…それに、USAGIは僕らにとって大事な存在や。あの人を裏切ることだけは、できひんな!」
「…だったら、USAGIを倒して考えを改めさせるぜよ!」
「…ホンマ、何も分かってへんな!!」
2人は同時に前に出て、必殺技を放つ。
荒ぶる龍の如き海の奔流と、たたき割れるように現れた紅蓮の大地が激突する。
「クロシオライド!!」
「グレンダンガイ!!」
競り合う互いの必殺技。しかし現れた岩の間を縫うように錦がウォーリーを突破する。
「っしゃあ!」
「やるなぁ…、ホンマこれやからやめられへんわサッカーは…」
錦は前に出ているザナークにパスを回そうとボールを蹴る。しかしその行動を読んでいたのか、ストロウが前に出てそのボールをカットした。
「行かせねぇっスよ…!」
「それはこっちのセリフだぞ!」
「ゲッ…」
ストロウの前に現れたのはトーブだ。野生児独特の動きでボールを取らんと踊り出る。
「うわっ、む、無茶苦茶な動きだ…!」
「おめぇ、何で敵のところになんかいるんだ!一緒に旅した仲間だったろうが!」
「…仲間だったのは、父さんに命令されてたからっスよ!好きでいたわけじゃ無い!」
「父さん?トーチャンってことか?それって誰だ?」
「…!」
しまったと言わんばかりにストロウが顔を歪める。完全に失言だった。しかしトーブは発言の意味がよく分かっていない様子。そこだけが幸運だった。
「…よくわかんねーけど、トーチャンはオイラに命令はしないぞ!なのにお前のトーチャンが命令したからそれに従うって、ぜってーおかしいぞ!」
「…ッ!!君に、何がわかる!!」
ストロウは一歩後ろに下がり手で大きく輪っかを作る。するとその輪っかが勢いよく前に伸び、空中に不規則な軌道でトンネルを形成する。その中に入り込み敵を突破する必殺技。
「ストロード!!」
「行かせないぞ!──ミキシトランス、トーチャン!」
トーブからオーラが噴出。肌は白く、紅色の髪、そして黄金色の恐竜の装飾が頭部に現れる。
ミキシマックス。自身の育ての親であるケツァルコアトルのオーラを取り込んだ姿。彼もまた時空最強イレブンの力を手にしていた。
トーブはそのまま風を利用し飛び上がり、トンネルを通るストロウを追う。
「待てー!!」
「くっ…!」
トーブの白亜紀で培われた圧倒的フィジカルと反射神経。それに加えてケツァルコアトルの風を支配する力で大空をもその機動力で駆けているのだ。機動性能という一点においてはこの場にいる誰よりもその能力を発揮していた。
支配した風が螺旋に渦巻き、強烈な勢いをつけた一撃がストロウを穿つ。
「古代の翼!」
「うわっ!」
ボールを確保したトーブは天馬にパスをする。それを受け取った天馬は一気に敵陣へと攻め上がる。
「行かせねぇ!」
「ボールはここでもらっちゃうよ!」
前に立ちはだかる3人の敵。まるで以心伝心のようにマーク外だった天馬を一瞬で囲うそのチームワークは驚異的という他無いだろう。先程までならば確実にブロックされボールを取られていた。
しかし天馬は止まるつもりは微塵もない。無謀から来る蛮勇ではない。突破できると確信している勇敢さ。フェイを助けたいというその想いで天馬は両の手を翳した。
ー
未だ暴れ狂うマスタードラゴン。まるで空腹で狂った獣のようなその様は普段のマスタードラゴンの知見の深さを知るアーサー王からは見ていられぬものだった。しかし知恵を失った代わりと言わんばかりの圧倒的なパワーはアーサー王と言えど冷や汗を流すレベル。
アスレイの用意したサポートマシンを悉く破壊しながら龍は前進してくる。
「今解放してやるぞ…!」
その時、マスタードラゴンが踏んた地面から拘束具が飛び出してきた。アスレイが仕込んだものだ。だがあのパワーの前では数秒ほどしか動きは止められないだろう。しかしそれで十分だ。
「…!アーサー王殿、今です!」
「うむ!」
アーサー王はマスタードラゴンの前に躍り出て、聖剣の力を解放する。
それに気がついたマスタードラゴンは魔法で迎撃を試みるが、剣から迸る光輪に全て叩き落とされる。
聖剣エクスカリバーの純白の光と共に、悪き心を浄化する聖剣に選ばれたもののみ許された王の一撃───、
ー
両手の拳を合わせ、引き抜く動作と共に光が迸る。現れたのは天馬の背丈ほどある剣。
この技こそ王の証明。松風天馬がチームを率いるリーダーとして一段階上のステージへと上がった証の技───、
「「王の剣!!」」
天馬は3人の敵を一気に薙ぎ払った瞬間と、アーサー王がマスタードラゴンを浄化するタイミングが重なった。一瞬だが、二重の光がこの洞窟を支配した。
敵が止まった。その瞬間を見逃さず、天馬は敵を突破してベータにパスを回した。
「ベータ、決めろ!」
「はいはいわかってますよ。──ミキシトランス、ビッグ!」
王者のオーラを纏い、ゴール目掛けてシュートを放とうとしたその時。ザナークが前に躍り出た。
「パスしやがれ腹黒女!」
「はぁ〜?こっちがシュートしてくれって命令されて……いや、ええ、良いですよ。受け取れるもんならなぁ!!」
ベータはザナーク目掛けて全力の王者の牙を放った。全員が面食らう中、ザナークはそう来ると思ったと言わんばかりにボールを躱し、その軌道上を追いかける。マッチョスは何が起きるかを察する。
(シュートチェイン…!)
「見せてやろう!この俺様の新たな姿を!!」
瞬間、風が巻き起こる。先程トーブが生み出したそれとは明らかに異なる荒々しさを孕んだ風。それがザナークを中心に巻き起こる。
同時にオーラがザナークから噴出し、容姿に変化が訪れる。より刺々しく、より荒々しく、白のアクセントを含んだ髪。さらに吊り上がった瞳へと姿が変わっていく。
「ミキシトランス、スーパーザナーク!!」
今ここに新生ザナーク爆誕。黄銅色の風がフィールドに吹き荒れる。これこそ超巨大台風クララジェーンとミキシマックスに成功したザナークの新たな力。
全員が呆気に取られる暇もなく、ザナークはついにベータのシュートに追いつき、シュートの体勢に入る。
「今ここに再誕する───!!」
ボールが台風の目の如くに黄銅色の風が集っていく。その一つ一つがザナークが手にした力の象徴。否、力そのもの。
吹き荒れる嵐ごとゴールに蹴り飛ばすザナークの新必殺技。
「グレートマックスな俺!!!」
シュートチェインによって絶大な威力となったそれはマッチョスの必殺技を破り、ゴールを決めた。雷門は同点に追いついた。
ーーー
フォーーーーーーーッ!!スンバラしい!!いややっぱりこれですよ!ピンチから立ち上がってパワーアップしていくっていう超王道展開!
いやー、現実でこれを見れるなんて何度考えてもこの世界は素晴らしいですね!!ワタクシの求めたロマンの全てがここにある!!
さてさてさて、一先ずザナーク様は無事ミキシマックスを習得してくれたみたいですね!いやー、原作では過程とか全然描かれてなかったからどうなることか不安だったけど無事成功したみたいでよかったよかった!
ちゅーわけで、時空最強イレブンも完成まで王手ですよ!あーと1人!あーと1人!そう、黄名子様だぁー!!!偶然とは言え黄名子ちゃんがラストになるとは、運命感じちゃう♡
さて、その為にも色々考えないとねー。アーサー王はちゃんとマスドラを倒してくれたし、後は黄名子ちゃんの気持ちの問題かな?
でもその前にウチのデュプリじゃこれ以上追いきれないっぽいんだよねー。流石少年アニメの主人公軍団!侮りがたしだぜ…!特にザナーク様。本当この人だけ出てくるアニメ間違えてるでしょ。下手したらこの男1人にチャートぶっ壊されかねんからなぁ。とんでもないやつですよ。
「マント!」
「菜花黄名子…!」
おーっと、黄名子ちゃんとマントちゃんが衝突!激しいボールの取り合いが勃発!これはどっちが勝つんだぁー!?
「ねぇ!貴方たちの言う父さんって誰なの!?」
「!!?」
「ずっと、ずっと聞いてたやんね!貴女たちはずっとその父さんのことを案じてた!言葉だけでも、理解できたやんね…!」
「…貴様には、関係ない!!」
「あるやんね!!……ねぇ、貴女たちはその父さんのために頑張ってるの?ここにいて、戦ってる理由も全部──」
「…ッ!ああその通りだ!私たちは父さんのために存在している!父さんの夢のために…!」
「いくら父親のためでも…、あんな奴らに加担するなんて間違ってるやんね!!」
「決め、つけるなぁ!!!」
うわぁ、女の争いだ。あまりに恐ろしい…。ああいう喧嘩にだけは巻き込まれたくないよねー。
「父さんの言うことを聞くことが私にとっての幸せなの!!部外者が口を出すなぁ!!」
「…じゃあ、じゃあ何でそんな辛そうな顔をしてるの!!」
「!!!」
「本当に幸せなら、本当に幸福なら、絶対にそんな顔はしないやんね!!」
「そ、れは…!」
おーっと!黄名子様のバブ味でマントちゃんの動きが止まるぅー!!いや、デュプリたち全員の動きが止まったぁ!!流石黄名子様!
その隙に雷門が上がる上がるー!!一瞬の隙を突かれてしまったぞ息子たちー!このまま逆転されるのかー!
あーっと!ここで前半終了のホイッスル!時間に救われたかぁー!?
ー
「お疲れみんなー」
フィールドから戻ってきたデュプリたちを出迎えるUSAGI。しかしその半数ほどは難しい顔をしていた。
「…父さん、私は…」
黄名子に指摘されたことは概ね事実だった。マントは現状に対して不満を持っている。理由は決まっている。他でもない父が死ぬからだ。
マントは彷徨っていた。かつてフェイは自らの死こそが幸福と言っていた。フェイの幸せの為に命令に従い続けるか、可能性が皆無に近くとも父の幸せを放棄して生きる方法を模索するか。マントだけではない、デュプリの殆どがその選択の中で揺れていた。
(…私は、私たちはどうすれば良い…?)
片方を選べばフェイは死ぬが幸福だ。もう片方を選べばフェイは幸福を失うが自分たちは希望を持てる。
フェイが生き延びる手段などあるかどうかもわからない。塵芥のような確率だろう。だがそれでもそんな幻想のような希望に手を伸ばしたいほどには彼らは父を愛していた。
揺れる。揺れる。揺れる。
(私たちはどうすれば───)
その時、USAGIがマントをそっと抱きしめた。
「…ッ!と、父さん…!」
「よしよし、わかってるよ。揺れてるんだね。菜花黄名子の言葉に、皆」
「………」
「確かにジブンはもうすぐ死ぬ運命だ。けどね、それを悲観しないでほしいんだ。遅かれ早かれ人は必ず死ぬ。儂は他人よりも少しそれが早かっただけ」
セカンドステージ・チルドレンが逃れることのできない寿命の問題。これを解決する為にはフェイの命が必須。
会話を聞いているSARUも少しだけ苦い顔をしている。
「…大丈夫さ。君たちは俺ちゃんの化身。死ぬのは同じ。ずっと家族一緒さ」
「う、うぅ、ううぅ…!!と、父さん…!」
誰かは泣き、誰かは俯き、誰かは悲壮に暮れ、デュプリたちはそれぞれ哀しみを表す。皆が皆、ここまでのフェイとの思い出は言葉に尽くせないほどにある。
生まれたその日を忘れたデュプリなど1人もいない。人格を設定していないはずのR-1とR-2でさえも生まれて名を与えられた時のことをはっきりと覚えている。
「…俺はこの作戦を必ず成功させないといけない。だからその為にもみんなの力を借りたい」
「…予定通りアレをするのね」
「うん。皆、ワタクシに全てを預けて欲しい。大丈夫!後はこのフェーダのヒーロー、ラビットマンにおまかせあれってね!」
その声にデュプリの誰もが安心する。
きっとマスクの下はとびきりの笑顔で満たされていることだろう。その姿はいつもデュプリたちの希望になっていた。
改めて思う。自分たちの父親はこの人しかいないと。
ー
そう、頑張ってくれたまえ!遍く全ては黄名子ちゃんの曇らせのために!!
うぅ…、わっちは今猛烈に感動しているぞ…!マントちゃんたちがあそこまで僕様のことを想ってくれていたなんて…!ありがとう!喜んで使ってあげるよホトトギス!
さぁ張り切って行こう後半戦!ここまで来ればあとは徹底的に雷門を追い詰めるだけ!叩けば叩くほど良いバネつきますからねー。ガンバロー!
さて、話は変わるけどワタクシ特製のデュプリは言わば俺様の分身。つまりはドーピングも結構自由にできちゃうのだ。
正直あんまりこういうことはしたく無いけど、今のみんなじゃこの辺りで頭打ちだろうし、もっともっと雷門に頑張ってもらうにはじゃんじゃんハードルをぶち上げないといけませんからねぇ!
ちゅーわけで準備はオッケー!?
(…うん、私はいつでも問題ない)
(ま、僕らが試合できひんのは残念やけどな)
(うん、いいよ父さん)
(あとは頼むぜ親父!)
(アタシらの分までアイツらとっちめてね!)
ウム!良い返事だ。いくぞ、みんなの見た目がちょっといかつくなっちゃうビーム!ちぇやーー!!
「うぐっ!?」
「…ッ!!」
「ああああッ!!」
突然叫ぶみんなに雷門の連中驚愕!うるさいと思うけどちょっと我慢してねー。
「な、なんだ!?」
「みんな苦しみ始めたぞ!」
…よし成功!皆んなスーパーサイヤ人みたいになれたね!ふふ、急激なパワーアップは悪役の華だぜ。
っと、みんなの異変に天馬きゅんたちが噛み付いてきましたね。
「USAGI!!彼らに何をした!!」
「えー、何をしたって。ちょっとお手伝い?ほら、よくあるじゃん。奥の手使ってパワーアップとかー、アレだよアレ。君らも一回くらい経験ないー?」
「自分を慕う部下になんて酷いことを…!」
まぁこれも曇らせのためや。別に特別致命的なデメリットがあるわけでも無いので我慢してねー。
吠える天馬きゅんに対してサリューくんが答える。
「ふふ、部下も何も、彼らはそもそも人間じゃないよ」
「…えっ?」
「彼らは人形化身デュプリ。USAGIが作り出した意志のある分身。彼らはUSAGIが手足とするためだけに作り出した存在なんだよ」
「そ、そんな…、じゃあさっきからマントたちが言ってる父さんって…」
そう!僕ちゃんのことでーす!びーすぴーす。まいふぁーざーだぜ!
「だから君たちがどれだけ彼らを解放しようと動いても無駄なわけだよ。彼らはただの化身なんだからね。……それに君もいつまであんな家族ごっこにこだわるんだい、USAGI」
いーじゃーん、可愛いんだもん!昔病院に住んでた猫を思い出しちゃうよ。テレテレ〜。
さ、それよりも試合の続き!後半戦の時間だぜー!ここからの相手はワタクシだよ。よかったね、皆んな念願の僕ちゃんとの対戦だよ!
「ッ!来るぞ、皆!」
ー
元々デュプリはフェイが原作再現という名目で作った自身の手足となる軍隊だ。なので、フェイは彼らに対してあらゆるチューニング手段を持っている。フィジカル強化に始まり、無尽蔵のスタミナ、オーラの貸し付け、傷の修復。それら全てをノーリスクで行うことができる。
前半戦での試合は天馬のミキシマックスを叩き起こす為に、敢えてそれを使わなかったに過ぎない。
現状のフェイの目的は飽くまで時空最強イレブンを完成させること。はっきり言って勝敗などどうでも良いのだ。むしろ勝って欲しいとすら思っている。と言うか勝ってもらわないと困る。
だからこそここからはフェイが全ての裁量を行うことにした。
今のデュプリたちはオート状態を全てロックし、全員をフェイが操作している状態になる。それに加え身体強化などの諸々のパンプアップでより本体であるフェイに近い力を身につけた。つまるところ、デュプリたちは文字通り身も心もフェイになったのだ。
しかしこの状態の1番のメリットはそこではない。
『亜神トリックスター!!』
「けっ、化身!?」
全員の背から現れる異形の道化の化身。
デュプリは人形化身。この現状は化身が化身を使っているということになる。通常ならばあり得ない挙動。これもまた、フェイが自身の特殊なオーラをデュプリたちに与えているが故に行えていることだ。
「USAGI!!」
黄名子がUSAGIに吠える。その表情は怒りに染まっていた。
黄名子は仮にも母親としての立場を経験している。子供に対する気持ちは人一倍強い。だからか父親を慕っているデュプリたちもどこか他人のような気がしなかった。
そんな彼らをまるで手足のように扱うUSAGIに黄名子の感情は爆発したのだ。
「こんな、こんな手段で勝って嬉しいやんね!?皆、歪んでいてもサッカーを楽しんでたのに!!」
「君がマントちゃんたちの何がわかる?家族の愛っていうのはね、家庭によって異なるんだよ。君はそれを理解してない」
「そんなことで納得なんてできない!そんな愛ウチは…!」
「これも愛の形さ。私の子供たちは皆拙僧に使われることを幸せに思っている。逆もまた然りだ。なら、それはたとえ歪んでいようと愛と言えるのじゃないかな」
「そん、な…」
「多様性だよ黄名子ちゃん。君がまだ自分の腹から産んでもいないフェイくんを愛するのを当然に思うように、僕らもこの関係性が当然なんだよ。ジブンが創って、そして家族になった。その関係性に誰が文句を言えようか!」
「………」
「それにね、デュプリだけじゃない。皆だってそうだよ」
「…どういうこと」
「ワタクシはね、デュプリのことも、フェーダのことも、そして君たち雷門も、みんなを愛してるんだよ」
「…何、言って…」
「こうして動いているのも全ては愛故なのだ。愛しているが故に崩したい、壊したい。そう思うことは人間として必ずどこかにある感情なのさ。儂はそれが他人よりもちょっとだけ大きいだけ。何もおかしいことはないのだよ」
「おかしいに、決まってるやんね!!その愛のためだけに何でもかんでも奪って良い理由にならない!」
「別に理解を求めてるわけじゃないさ!ただ、覚えておいて欲しいんだ。俺は、唯ひたすらに君たちを愛している。イナズマイレブンを愛している」
愛故に壊すのさ★
その言葉に黄名子はただ怒りに染まった表情を返すことしかできなかった。
【今日の格言!】
・愛故に壊すのさ★
【フェイのコメント】
・ワタクシの行動原理そのものですね!愛してるから、大好きだから、壊れて絶望してる様を見たい!人間が誰しも少なからず持っているもの。儂はそれが他人よりちょっぴり大きいだけなんですよねー。だから僕は健常者。Q.E.D