誰か黄名子ちゃん曇らせ書いてくれ(懇願)
自給自足じゃ足りないのじゃ…
【前回のあらすじ!】
・フェイ「アタァッ‼︎」天馬「タコスッ!?」
・カワイイよマントちゃんカワイイ
・デュプリ「俺自身が父さんになることだ」
無茶苦茶につぎはぎされた大地を練り歩く。時空が法則を失ったかのようにばら撒かれているこの異質な時代は何故今こうして形を保てているのかが不思議なほどだ。辟易とした表情を浮かべてニケはため息をつく。
(…十中八九USAGIの仕業でしょうね)
この時代に来た時は度肝を抜かされたものだ。ここまで時空をかき混ぜる行為は当然危険極まりない。本当に時空嵐を起こす気なのだろうか。
時空嵐はただ単に破壊を生み出すだけではない。時空嵐はあらゆる時空の断片がかき混ざった状態の大規模な因果的事象。時空が破壊されるという言葉さえもそう予想されているだけで、実際にどのような被害が出てくるかは誰にもわからない。ますますUSAGIの考えがわからなくなる。
(…まぁ良いわ。今はフェイの様子を見にいくことが先決。どの道この世界は長くはないでしょうしね)
セカンドステージ・チルドレンの能力でUSAGIたちの気配をたどり、嘆きの洞窟へとたどり着く。
中を辿っていくと、雷門たちが試合をしようとしている光景を見つける。得点が入っている。これから後半戦だろうか。相手になっている彼らは確かUSAGIのデュプリだったか。やたらとフェイを気にかけていた場面が印象に残っている。
しかし直ぐにニケの視線は試合の光景から移動する。
(フェイ…!良かった無事だった)
一先ずは死んではいないようだ。現状を鑑みるに、恐らく雷門たちはフェイを取り返そうと勝負をしているようだ。確かに雷門をステージに誘き出すには絶好の餌だろう。わざわざこんな危険な時代にまで来るとは相当フェイのことを大事に思っているらしい。
(けどそうはさせない…!)
フェイはフェーダのもの。あのような旧人類に盗られる訳にはいかない。
ふと、ニケはフェイが閉じ込められている檻の近くにいる人影を見つける。1人はこの時代の人間であろう西洋風の鎧とマントを着込んだ男。もう1人は、見覚えのある顔だった。
(…アスレイ・ルーン。エルドラドの元幹部にして、フェイの父親…!!)
何度も恨めしげに調べた忌々しい顔。死んだ母親の代わりも務められないような愚かな男。
2人はフェイに近づこうとしている。どうやらフェイを救出しようとしているらしい。一度もフェーダに訪れもしなかった男が、今になって親心でも芽生えたというのか。
許す訳にはいかない。ニケは2人の行手を遮るようにフェイのいる檻の前に降り立つ。
「君は…?」
「その服装…ザ・ラグーンか!」
「その通りよアスレイ・ルーン。それより貴方、一体何をしようとしてるのかしら」
「…決まっている、フェイを助け出すんだ」
強い眼差しでニケを見つめてくる。それが忌々しくてたまらない。
「フェイは私たちの家族になったの。もう貴方のものじゃないわ…!!」
「それでも、あの子が私のことを肯定してくれる限り止まる訳にはいかない」
「滑稽。滑稽ね。今更父親面?ふふ、流石元エルドラド幹部様、都合を勝手に曲げるのはお得意なのね…!」
「そう言う君はフェイにこっぴどく振られたと聞いたがね」
「…ッ!!!お前たちが、お前たちがフェイをおかしくした癖に!!」
怒り心頭になるニケ。
きっと彼らの仕業だ。悪い大人が自分たちの都合でフェイを操ったに違いない。許せない。許せない!許せない!!
「待ってニケ…!」
「ああ、フェイ。少し待っててね。直ぐに、直ぐに解放してあげるから…」
恍惚とした表情で語りかけるニケ。即振り返り、アスレイとアーサー王に恐ろしい程の敵意を向ける。同時に周囲の岩が重力に反して浮き上がる。
「…アーサー王殿」
「うむ。正直あのような幼子に剣を向けるのは憚られるが、そうも言ってはいられぬようだ」
●●●
「…ニケ、まさか部屋から脱走して来るなんてね。大した執念だよ」
「まぁ、フェイくん守ってくれてるからいいじゃん。それに舞台で踊る人は多い方が良いでしょ?」
「それも違いないね。…それよりよそ見なんてしていて良いのかい?君は今実質的に雷門と試合をしているようなものだろう?」
「んー、全然余裕ー。サリューもデュプリ作ってやってみたら?ゲームみたいで面白いよ」
「はは、遠慮しとくよ。君ほど器用じゃないしね」
2人の視線の先にはデュプリたちに翻弄されている雷門がいた。SARUはそれを見てほくそ笑む。
(やっぱりライモンも彼の敵じゃないね。ますますわからないよ、フェイ。君があのチームに何を期待しているのかが)
●●●
実力差が未だ在ることは理解していた。己は一度はUSAGIに叩きのめされている。ミキシマックスの力を馴染ませてなお余りある差があることは知っていた。
計算外だったのはその差があまりに大きかったこと。
ザナークや天馬などの一部を除いて、ほとんどが今のデュプリたちに追いつけない。単純な実力だけではない。全員が同一人物となったが故の更なるチームプレーの洗練、無尽蔵の体力、それに伴う化身の無制限使用。彼らの構成するすべてが今の雷門を上回っていた。
(デュプリ経由でもこの実力かよ…!)
『へいへーい、もっと気張ってよー?』
「おちょくりやがって!」
一般的にデュプリは本体よりもかなり弱いものだ。それはUSAGIも例外では無い。事実前半戦までのデュプリはUSAGIと比べれば月とスッポンだ。
いくら本人が操作しているとはいえ、今彼はデュプリという仮初の肉体を使っている。強化ありきとはいえ、普段の能力には及ばないはずである。にもかかわらずこの惨状。ベータたちは今まさに無情な現実を突きけられていた。
「つ、強い…!」
『そりゃそうさ!何せフェーダのヒーローだからね!強く無いとヒーローは務まらないのだよ!えっへん!』
「ぐっ、クソ…!」
『ほら頑張れ頑張れ♡ 後半戦も山場だよ?』
そう喋るマント。しかし言葉を紡いでいるのはUSAGIだ。
「USAGI!!」
『お』
立ち向かってきたのは黄名子だ。マントの持っているボールを奪うべく攻め入る。
しかし取れない。前半戦までの彼らとは違ってまるで弄ぶかのような動きは、きっとUSAGIが一から十まで体を操っている証拠だろう。
『ほっと』
「くっ…!この!」
『はいはい、こっちねー』
「待つ、やんね!」
『そう言って待つ兎はいないぜー』
「早く、マントたちを、解放するやんね!!」
もちもち黄粉餅。
四方に餅がまるで投網のように視界いっぱいに広がる。完全に包まれる前にマントは空中を蹴り、黄名子の必殺技から逃れる。
そのまま空中に跳び上がるUSAGI。黄名子はそれを目に追う。
ふと、空から何かが降ってきた。大きい2メートルはあるか。それは黄名子の隣に落ちてきて、ゴムボールのように跳ね飛んだ。
それは可愛らしくデフォルメされたウサギの顔だった。一つだけではない。大小様々な動物のキャラクターの顔が落ちてくる。
生み出したデフォルメキャラクターを雨のように落として相手を錯乱させる必殺技。
『カートゥーン★レイン』
「きゃあっ!?」
黄名子は大量の顔の雪崩に押しつぶされる。目を回している黄名子を横にマントは笑いながらディフェンスを抜けていく。
「USAGI!!」
『あ、天馬きゅん。ミキシマックスおめでとう!なれたんだな…キングに…!』
おちょくるような言い方に天馬は怒りを感じる。しかしガワはデュプリとは言え、相手はあのUSAGI本人。怒りは相手の思うツボだということもまた理解していた。
『聞いてたぜ〜?時空最強イレブン、あと1人なんだって?やったじゃないか、あと少しでこの時空の旅も終わりを迎えるという訳なんだからね!』
「完成して終わりじゃない…!お前に奪われたものを全部取り返して、サッカーも取り戻す!!それでようやく終わるんだ!」
『馬鹿の一つ覚えみたいに同じことしか言わないよね君ら。ま、直向きさの表れってやつなのかもだけど』
そうケタケタと笑うマント。先程までの彼女を知っているだけに非常に気味が悪い。
前に進もうとするマントとのボールの奪い合いとなる。跳ねるような独特な動きでなかなかボールをとらえることができない。
しかし天馬も伊達にここまで数々の時代を駆け抜けてきたわけではない。短時間で動きを見切り、一気に隙を突いた。
「そこだ!」
『はい残念、ハズレ』
「あれっ!?」
天馬の足元にあったものはボールではなくウサギのゴムボールだった。本物のボールはドリルに渡されている。霧野がディフェンスに回る。化身にミキシトランスをすでに発動しており、準備は万全だ。
しかしドリルも負けじと化身を出す。
『亜神トリックスター!』
「出たなッ…!」
この化身は言うならばフェイの化身の影。本物ほどの力はないが、近い能力を持つレプリカ。こうしてフェイが直接操っているからこそできる荒技だ。霧野は迎え撃とうと身構える。
次の瞬間、ドリルの姿が消えた。高速移動などではない。本当に何の前触れもなく消えた。
「なっ、どこだ!?」
『ここ』
声は真後ろから聞こえた。振り返る間もなく霧野は化身に呑み込まれる。次に写った場面は洞窟の真上だった。瞬間移動させられた。そのまま自由落下していく霧野を横目にドリルはゴール前に立つ。
身構える信助。目の前にいるのはドリルの姿だが紛れもなくUSAGI本人。怯えを押し殺し、真っ直ぐ敵を見据える。
『いくよ。──アームド』
「!!」
ドリルはその場で化身をアームドした。白黒の道化がその身に纏わり、アームドを完了させる。
そのまますかさずボールを上に打ち上げそのまま空中で一回転。オーバードロップをボールに見舞う不規則軌道の必殺技。
『クレイジーラビット!』
放たれたUSAGIの必殺シュート。その軌道は無茶苦茶だった。物理法則を完全に無視したゲームのバグのような挙動に信助は翻弄される。
だが信助は執念でそれを見切り、ためていた必殺技を打ち込む。
「大国謳歌!!」
ボールを捉え、そのまま地面に押し込む。しかし違和感。不規則な挙動がこの手で抑え込んで尚止まらない。そのまま赤いオーラが迸り、信助の必殺技を破りゴールを撃ち抜いた。
「うう…!さっきとは比べ物にならないくらい強い…!」
『そりゃデュプリたちのボスなんだから強いに決まってるジャーン!ほらほら頑張れ。今こそイナズマ魂見せる時だぞー?』
「クソッ…!」
天馬は歯噛みする。
後半戦が始まって既に15分が経つ。ここに来て1-2の状況。非常にまずいと言えた。いや、これでも幸運だろう。USAGIは遊んでいる。常に化身を出して使える彼らならば、その気になれば大量得点も訳ない。このままでは敗北は避けられなかった。
この状況を打破する方法はただ一つだ。時空最強イレブンを完成させること。
(大介さんも言ってた。時空最強イレブンは11人全員が揃ってこそ真価を発揮するって…)
最後の1人。それはマスタードラゴンと、おそらく黄名子だ。しかし今そのマスタードラゴンは湖の底に沈んでしまっている。これではオーラが取れない。
(それに…)
「………」
「菜花、大丈夫か?さっきから落ち着いてないみたいだが…」
「…うん、大丈夫やんね」
●●●
──時空最強イレブン最後の1人はお主じゃ黄名子!
──今は優勢だが奴らはまだ手札を隠しておる可能性が高い。
──何としてもこの試合の中でミキシマックスを完成させなければならん!心の準備はしておくのだ!
(……ウチが、最後の1人)
時空最強イレブンの最後のワンピース。それが自分。
自重の念はある。あるが、それ以上に今黄名子は力不足を痛感している。他のメンバー全員がミキシマックスで敵に対抗しうる力を得ている中、自分だけが明らかに力不足なこの現状。自分のせいでフェイを助けられないなど、そんな事実は耐えられない。
しかし当のマスタードラゴンは湖の底。マネージャーの3人が様子を見に行っているようだが、すぐにミキシマックスとはいかないだろう。
(…フェイを取り戻さないといけないのに!)
どうともならない現状に焦りだけが募っていく。
相手はこの上なく強大だ。今のザナークでギリギリついていけるレベルの相手。今黄名子を動かしているものはフェイを助け出すと言うその一心だけだった。
『わははははーっ!!』
「ッ!!」
大きな笑い声を上げながらUSAGIが操るマントが突っ込んでくる。ここを通すわけにはいかない。
「『もちもちきな粉餅!!』」
同時に技が放たれる。きな粉が舞い視界が塞がれる。が、かすかに見える影と足音で場所を突き止め再びブロックの体勢に入る。
『おっと、また会ったねー』
「…貴方には、ずっと聞きたかったことがあるやんね」
『にゅにゅ?ま、別に良いでしょう。他でもないフェイくんのお母様の頼みだからね!知りたいこと何でも教えてあげよう★』
「貴方たちの目的は何?」
『ほぉ?』
「サッカーを、皆んなを、フェイを奪って、貴方たちは何がしたいの…!」
『その問いの答えは既に言っているよ。それにベータちゃんから聞いてなかった?セカンドステージ・チルドレンの繁栄ってやつだよー。ほら儂ら寿命短いじゃん。尽きる前に世界征服してやろうかなーって』
「それだけじゃ説明できないことが多すぎるやんね!」
USAGIは敵対すると言う共通点があるものの、それ以外の行動はまるで理由が読み取れない。裏切り者のフェイを攫うならばともかく、なぜ時代の英傑や人物を攫う必要があるのか、なぜこうして別の時代の自分たちを相手取っているのか。
フェーダの中でもUSAGIは一際異質だ。1人だけ違う目的で動いているような、そんな気がしてならないのだ。
『えー言ったでしょ、愛。LOVEだって』
「そんな理由で納得できるわけないやんね!!」
まるで間隙を縫うように黄名子を躱していくマント。そのままノールックで後ろにパスを回し、それをキモロが受け取る。
「あっ!」
『残念!惜しかったねぇー』
キモロはそのまま敵陣へ上がり、必殺技の連打で次々とディフェンスを突破していく。このままでは先ほどの焼き直しになることは想像に難くない。
『…そう言う君もさぁ、別にそこまでする必要なくない?』
「…どう言う意味やんね」
『だってチミはフェイくんの未来の母親なわけでしょ?どこまで行っても今の君には他人同然。そこまでするなんてぶっちゃけ馬鹿らしい!とラビットマン思うわけ』
「そんなことない!!たとえ産まれるのがどれだけ先の話でもフェイはウチの子供!他人なわけないやんね!」
『他人だよ。家族だって血が繋がってる他人にすぎない。君が感じてる家族の絆とか想いとかってのは、ただの錯覚。そうあって欲しいって思ってるチミの押し付けがましい妄想なんだよ』
ズキリと胸が痛む。
まるで自分の中に隠しているものを言い当てられたかのような気分。一度はそうかもしれないと思った事柄。
『子供からすれば親ほど理不尽な存在はいない。フェイくんだって本当は迷惑って思ってるかもしれないぜ?』
「そんな、訳ない!!フェイは本心でウチとアスレイさんを認めてくれた!!他人の貴方が勝手なこと言わないで!!」
『ククッ、フヒュッ。…勝手なことねぇ、君はフェイくんの頭の中でも見れる訳?それは本当に本心?』
「本心に決まってるやんね!!ウチはフェイの言葉を信じる!!」
そう言うのを押し付けって言うんだよ。USAGIは冷めた心で内心そう呟く。
『…おっほん、ラビットマンの〜ドキドキ★未来予知コーナー!!』
「…?」
『このコーナーはワタクシが未来の君の姿をご教授してあげる大変ラッキーかつありがたいコーナーになっているぞ!』
そう言い間髪入れずUSAGIは黄名子に接近。ビシリと指を突きつけ、言い放った。
『予言しよう。君はこの先君自身の言葉に締め殺されるだろう!自責と後悔の濁流に呑まれて潰れる!それが君のディスティニー!いぇい!』
そうケタケタと笑うUSAGI。しかし当然そんなおふざけをまともに黄名子が信じるわけもない。今はこんな戯言に付き合っている暇はないのだから。
黄名子の冷めた目に気付いたのか、USAGIはそのまま言葉を続ける。
『あれれぇ?もしかして信じてない感じ?結構真面目に言ったんだけどな…』
「当たり前やんね。今は貴方の遊びに付き合ってる暇は無いの。ウチには信じてる家族もいるし、頼れる仲間もいる。貴方の言葉は信じない!」
弾けるような音が鳴る。どうやら信助が何とかシュートを止めることに成功したらしい。天馬と霧野を加えた3人がかりでだが。
黄名子は前に出るために走り出す。USAGIの言葉がいつまでも反響しているのを無視して視界の先にあるボールを追う。しかし、それをウォーリーが遮る。
『人の話ちゃんと聞いてよね…。ショラコくんに教えてもらわなかったぁ?人の話を聞かない子は立派な一年生になれないんだよー』
当然彼も中身はUSAGI。小回りを利かせて振り切る。
『全部忘れて元の生活に戻った方が、楽なんじゃない?それは君が背負う必要のない責任なんだよ』
「…ッ」
次はストロウ。身体の中に染みるような声色で甘言を差し込んでくる。
逃げるように背を向ける。しかしその先にも別のデュプリが。その先にも。その先にも。その先にも。
(早くみんなのところに行かないといけないのに…!)
何故かはわからないが彼の言葉を聞いていると固く結んだ決意が解かされそうになってしまう。不思議な魅力のある声。安心感とでも言えば良いのだろうか。
怖い。得体の知れない何かが心に染み込んでゆく。恐怖を振り切るためにただ走る。前でも後ろでもどちらでも良い。とにかく走ってこの恐怖から逃れたかった。
(逃げてばっかで良いのー?フェイくんを助けるんじゃなかったのー?)
「ッ!!」
頭に響く声。USAGIのテレパシーだ。フェイが使えたのだ、USAGIだって当然使えるだろう。
(こんな後ろにまで逃げてきてさー。敵前逃亡なんて恥ずかしいぜぇ?あははっ!)
「五月蝿いッ!!ウチの中に入ってこないで!」
(待って待って、某は聞きたいことがあるだけだよ。ほら儂も君の質問に答えたでしょ?1個くらい返してくれても良いよね)
(……何が、聞きたいの)
(君にとっての親って何?)
意外な質問だった。てっきり先程のようなおちょくったり小馬鹿にしたような質問が飛んでくるものかと思っていたから。
(はっきり言うと、俺様たちは親が大嫌いなんだよ。セカンドステージ・チルドレンはその能力のせいで親に捨てられたり蔑ろにされたりなんてことはザラにあるからね)
「…!」
それは確かフェイから聞いた。拉致され、捨てられ、社会から見捨てられた子供たちが作ったのがフェーダだと。
脳裏に浮かぶのは相対したニケの憤怒の表情。彼女もまた育ての親に見捨てられた存在なのだろう。
(僕も例に漏れず嫌いさ。正直顔も見たくない)
(……)
(だから知りたくなったのさ!親の気持ちってやつ。君たちは自分の子供をどういうふうに見てるの?)
(そんなの決まってるやんね。ウチにとってフェイはいつだって可愛い子供。親は子供のためにあるものやんね!大切な子供のために本気になれる!それがウチにとっての親!)
(傲慢だね。親は子供に自分の理想を映し出してるんだよ。君はそれに気付いてないだけ)
(そんなことない!ウチはありのままのフェイを受け入れる!どんなことがあってもウチは絶対フェイの味方!)
(歯に衣がつく台詞だねぇ!まるで舞台劇を見てるような気分だよ!そんな理想論が現実で罷り通るとでも!?)
(通してみせる!ウチは!フェイの!母親なんだから!!)
(あっははははははははは!!!じゃあやって見せてよ!今!ここで!!)
「うっぐ…!?」
頭痛が走る。恐らくUSAGIが何かしたのだろう。痛みで前すらまともに見れない。
だが前からボールを蹴る音と共に走る音が聞こえる。恐らく敵の誰かが来たのだろう。周りのメンバーが異変に気づいて焦りの声を上げているのが聞こえる。
(不味ッ…!はやく、動かないと…!)
(ほらほらはよぉ動かんとダッシュストーム受けた人みたいになっちゃ──)
(──離れなさい、穢れた者よ)
(えっ?)
声と共に何かが弾けた音が鳴った。その瞬間、黄名子が感じる全ての五感は、真っ暗な無へと落とされた。
ーーー
「──おっと」
焼けるような痛みがUSAGIの腕に走る。痛みが走った方を見るとその手はグローブを貫通して赤く爛れていた。
「USAGI、大丈夫かい?」
「うん大丈夫。それにしてもやるねぇ、マスタードラゴン。ちょっと侮ってたかも」
かなり弱っていたはずだが、湖で力を取り戻したのだろうか。
(端役でも伊達に物語上の伝説の龍ってわけかぁ。ま、もう1人の僕使う手間が省けたしいっか)
本来ならばあの場面でフェイを介入させて一人芝居をしながら自然にマスタードラゴンの意識へ誘導しようと考えていたのだが、どうやら余計なお世話だったようだ。
「…さ、頑張ってね黄名子ちゃん。これが最後なんだから」
●●●
そこは真っ暗な闇だった。何も無いし、何も感じない。ただ自分1人がポツンと立ちも浮いてもいない状態になっているだけ。しかし不思議と恐怖や寂しさは感じなかった。むしろ安心すらできた。先程USAGIから感じた不気味な安心感とは違う温かな安心感。
「ここは…」
『ここは私の意識の中です』
「えっ!」
突如黄名子の眼前に巨大な純白の毛並みを持った龍が現れた。その龍は色こそ違うが、見覚えのある顔立ちをしていた。
「マスタードラゴン…?元に戻ったやんね!?」
『はい。…ですが今私は湖から動ける状態ではありません。なのでこうして意識の中でコンタクトをとらせていただきました。丁度危ないところだったようでしたので』
「ありがとう!助かったやんね!」
マスタードラゴン。こうして近くで見ると洗脳前とは随分印象が違う。落ち着いた、まるで母のような暖かさを感じる。
『…先程は大変迷惑をかけてしまい申し訳ありません。意識を完全に支配されてしまい、抵抗すらできない状態だったのです』
「大丈夫!こうして元に戻って一安心やんね!」
『…あの道化の力は強大です。人々から賢獣と呼ばれている私ですらこの有様。貴女たちも強力なエネルギーを使って対抗しているようですが、それでもあの道化には届いていない』
「あっ、そうやんね!試合中…!」
『安心してください。ここでの時間の流れは現実よりもはるかに遅い。…ですがこのまま戦えば勝利は危ういでしょう。それは貴女も理解しているはず』
「………」
そう、このまま続ければ100%負ける。しかし今目の前にはその100%をひっくり返せる最後のピースがある。黄名子はマスタードラゴンに決意に満ちた目を向ける。
『……はい、私もそのためにここに来ました。あの脅威を排する手助けとなるために。貴女のフェイと言う子を守るその想いは十分伝わりました。貴女ならばきっとその賢さと獣性を使いこなせることでしょう』
「それじゃあ…!」
『ですが気を付けてください。あの道化が話したことも決して間違いではありません』
「えっ」
『愛情と独善は一つ間違えれば履き違えてしまうもの。貴女の親愛が偏愛とならぬことを私は祈っています』
「……うん、わかってるやんね」
黄名子は自分の体に力が宿っていくのを感じる。湧き上がるような力に、冴え渡る意識と視野。それと同時に視界が少しずつ白に染まっていく。
『貴女にはこれから数知れない試練が現れるでしょう。中にはきっと心が折れることもあるかも知れない。…ですがどうか諦めずに前を向いて進んでください。そうすればきっと彼は応えてくれるはずです』
いまだに残る執念の具現化とも言える洗脳の効力で、彼のことは最後までは言えない。
あれ程に強烈な狂気と悪意に満ちた存在はかつて見たことがなかった。何故あの少年があのような心に至ってしまったのかは想像に及ばない。しかし、それでも彼をあの煉獄から救い出すことができるのはきっと彼女だと確信している。だから願わずにはいられない、菜花黄名子という母の未来を。
『……どうか頑張って。貴女ならばきっとあの少年を──』
●●●
靡く純白の髪。溢れ出る力そのものとも言えるエネルギー。力強さと繊細さ、その二つを孕んだ瞳で目の前の敵を見る。
『やぁ、お帰り。黄名子ちゃん』
「……」
その表情に笑顔はない。あるのは敵を撃ち倒すと言うシンプルな敵意のみ。
母の強さ。自分の子を守り、取り返すための強さ。USAGIはそれをひしひしと感じる。
「…全部」
『ん』
「全部返してもらうやんね。ツケも含めて、皆んなから奪ったもの全部!」
『フフフフフ、その台詞はもう聞き飽きたかな!』
同時に衝突する2人。素の力は互角。このままでは先程の動きで翻弄されるだろう。しかし今の黄名子たちは、先程までとは違う。
「黄名子!」
『!』
タイミングをずらしたパスが天馬に通る。それだけではない。次々とチームにパスが通っていき、デュプリたちを抜き去っていく。
完成したのだ。時空最強イレブンが。バラバラだった個々の力は今円堂大介が描いた理想として一つの大きな力となった。その力はUSAGIたちにも何ら遅れを取らない。
「皆んな!行くやんね!」
ー
「彼らの動きが変わった…。成程これが…」
「完成したからね……最強が……っと。今…話しかけないでね……集中できなくなる…から!」
SARUは内心驚愕する。いくら本体より弱いとは言えあのフェイがここまで集中するなど見たことがなかったから。SARUの中で雷門の警戒度が一気に上がっていく。
(…やはり興味深い変化だ。君がご執心になる理由が少しだけわかったよ)
ー
「…ッ!これは…!」
「皆んな、敵の動きもどんどんキレを増している!気を付けて!」
この試合は時空最強イレブンを完成させるための試合。しかしUSAGIもタダで勝ちを譲る気などさらさらなかった。
サッカーをするなら全力で。ただのプレイヤーだった、視聴者だった彼がずっと憧れていたもの。茶番は終わり、ここからは全霊を尽くす。たとえデュプリという人形越しからであろうとも。
(伸ばすだけ伸ばしてやるぜ!イナズマイレブン!)
全てが噛み合い、最強のチームへと昇華した雷門。現状尽くせるあらゆる手段で強化したデュプリ軍団。両軍の激しい応酬が繰り広げられる。
「USAGI!」
『んー?』
「…ウチらはこのまま貴方に勝つ。フェイを人形を取り返して、フェーダも倒して、サッカーも取り戻す!」
『随分な理想論だね!そんな妄想の垂れ流しセットが現実になるとでも!?』
「現実にしたいことは、口に出したら、強い!!」
瞬間、黄名子の合図に従うように周囲の光景は幻想的な景色へと変化する。美しい湖。背後から現れるマスタードラゴン。
まるでアトラクションのように黄名子の四方八方に幻想的な火花にも似た魔法が散り、共に出てくる燦然と輝く星の粒子で敵を吹き飛ばす必殺技。
「キラキラ☆イリュージョン!」
『カートゥーン★レイン!』
互いの必殺技が衝突する。動物の顔面とキラキラ星で視界が埋まり、かなりカオスなことになる。これでは前に進むことすらままならないだろう。しかしそれでも黄名子は前に出ることを諦めない。
黄名子は動物たちを踏み台にして乗り越えるようにUSAGIを突破した。
『…さっすが★』
それに勢いつけられ、神童の神のタクトを駆使してぐんぐんと前に上がっていく雷門。前方に明確な道筋が見えたと同時に、黄名子は化身を出す。
「暁の巫女アマテラス!」
しかしこれだけでは終わらない。今の雷門は超高度成長期。乗算のように上昇していく強さと可能性は止まることを知らない。
「──アームド!」
その身に纏われる化身の力。黄名子は見事に化身の力を身に纏う技術をモノにした。そして前方にはすでに化身アームドを済ましている2人が。
「キャプテン!剣城!」
「「おう!」」
掛け声と同時に炎の螺旋を描いて飛び上がる2人。一瞬遅れ、黄名子も縦にバク転しながら飛び上がり、三人の軌跡が見事に一点に重なる。
黄名子が足で切り回転し、滞空させたボールを3人のシュートを叩き込んで放つファイアトルネードの終着点。
「「「ファイアトルネードTC!!」」」
化身アームド込みの出鱈目な一撃。しかしマッチョスは化身を出しそれをアームド。
マッチョスは腕を咥え、そのまま息を大きく吹き込む。すると不思議なことに腕が10倍以上に巨大化した。その剛腕を溢れんばかりのエネルギーと共にシュートにぶちこむ必殺技。
『カートゥーン★スマッシュ!!』
ボールを彼方にまで弾き飛ばさんと全力で殴るが、流石は化身アームド3人の必殺技。そう簡単に押し返してはくれない。
『しかし依然問題なし!』
拳を振り切りボールを吹き飛ばした。
勝ったッ!TC敗れたりッ!!
「何勝ち誇ってるんですかぁ?」
『あ、やば』
なんと打ち返した先にはベータがいた。どうやら神童の指示で予めにここにいたらしい。シュートを弾かれることも計算に入れられていたようだ。
この角度、この体勢。デュプリの体では反応しきれない。
(…いやー、まいったねこれは)
「王者の牙!!」
ベータの渾身のシュートが見事ゴールネットを撃ち抜いた。
ーーー
完成ッ!時空最強イレブン完成ッ!!時空最強イレブン完成ッ!!時空最強イレブン完成ッ!!
試合中での高速レベリングに、完璧に合致したチームワーク!前半戦の不仲がまるで嘘のようだ!
流石雷門と言わざるを得ないよね!!今私は主人公補正の嵐に晒されている!さながら気分は後半戦のザ・ジェネシスである!怖いよねあれ、想いの力とか言うヒロトくんたちからしたら意味不明な不思議パワーで超理論パワーをあっさり越えられたんだから!無茶苦茶である!だがそれが良い!!
この圧倒的パワーアップは世界の強制力的なアレなのか、それとも彼らの努力と想いの成果なのか。ワタクシは激しく後者を推します!!!
「はあぁ!」
『そりゃあ!!』
おっとシュートキックの衝突!天馬きゅんもだいぶ強くなったよねー。レベル50くらいは行ったんじゃない?
さて、取り敢えず現状試合状況はほぼ拮抗してますね。勢いついてるけど、それで俺様が怯む理由にもならないし、互角状態でボールの奪い合いって感じ。これ以上デュプリは強化できないし、この辺りが頭打ちかな?あとはなるがままになるだけっと。勝とうが負けようがやること変わんないからね。
「天馬!不味いぞ時間が…!」
「ぐっ…!」
あと少しだ!頑張れ雷門!いけー!押せーー!!
──っとあぁ!??あーくうぇいくぅ!!?
「な、なんだ!?」
「急に地面が揺れ始めたやんね!」
「いや、待て、これは…!!」
……あー、まじ?もう時間切れ?えー、サイアク…。これからだったのにー、空気読めよー。
「USAGI!何をした!」
何でもかんでも拙者のせいにするのやめません?いやまぁ我のせいだけどさ。
ほら、あれだよ。時間切れってやつ。こんな無茶なパラレルワールドの歪め方したんだよ?そりゃ崩壊まで時間の問題ってやつだよ。あーあ、決着つけたかったんだけどなー。そんな僕様とは真逆にサリューくんは大層喜んでいます。
「あぁ、ついに、ついに完成するんだね…!僕たちの栄光への道が!」
そうだね。一先ずはここまでくれれば安心ってところかな。ま、その前に早くここから避難しないとジブンらも巻き込まれて大変なことになっちゃうけど!
「ま、不味い…!どんどん世界が潰れていく!」
「キャラバンは向こうだし、もしかしなくても不味いかもぉー!?」
「落ち着け!兎も角、一旦ここから避難するぞ!」
「待って!まだフェイが!!」
「あっ、黄名子!」
もう試合どころじゃなくなっちゃった。仕方なし、決着が見れなかったのは萎え萎えきゅーんだけど、もうこのまま行こう!どうせこれも必要な工程だ。
さて、ワタクシやることあるけど、サリューくんどうする?
「そうだね…。見届けたいと言いたいところだけど、こうして完成した以上、向こうのメンバーを放っておくことはできない。悪いけど先に帰らせてもらうよ」
あら残念。ここからが本番だったのに…。
「最後の楽しみは取っておくんだろう?なら良いさ、その時には僕も一緒に彼らの顔を拝ませてもらうよ」
ーーー
「はぁ…!フェイ!」
地面が崩れ湖が割れる。空間そのものが収縮していくような異様な現象の前にフェイは晒されていた。
「黄名子!来ちゃだめだ!」
「ッ!!」
その瞬間、あたりに強烈な衝撃が降り注いだ。煙が晴れたところを見ると、それはスフィア・デバイスだった。しかもこの色はフェーダが作ったもの。
「黄名子!」
「黄名子殿!」
「アスレイさん!アーサー王!怪我してるやんね!」
「ただの擦り傷だ。それよりも…」
「あら、両親お揃いなのね」
聞き覚えのある冷たい声。そこにいたのはニケだった。あたりに無数の岩を浮遊させて完全な攻撃体勢。まるでフェイを守るように降り立つ。
「どいつもこいつも私たちの邪魔ばかりして…、いい加減辟易するわ」
「ニケ。どうしてここに…」
「どうして?決まってるでしょ、フェイの為よ。私が自分の家族を迎えにいくことになんの疑問があるの」
「…フェイはウチらの家族やんね。貴女たちのものじゃない!」
「そうだ。君たちの心情も察する。だがそれだけで私たちの息子は譲ることはできない…!」
「……はぁー、本当親って生き物は。…まぁ良いわ。私ももう貴女たちと付き合うつもりはないわ。これ以上はフェイが危険だもの」
そう言ってフェイの閉じ込められている檻を念動力で浮かせる。フェイを連れてここから逃げるつもりだ。そうはさせまいと黄名子は側にあったスフィア・デバイスを蹴り上げようと構える。が、その時。
「それはダーメ★」
「ッ!!?」
USAGIだ。一瞬でニケの背後に現れ体を拘束。フェイをあっという間に奪い取ってしまった。
「う、USAGIィ…!!」
「もーう、駄目じゃん、謹慎部屋から勝手に出てきちゃあ。ルールはちゃんと守らないと!」
ニケの恨めしげな視線をどこ吹く風と無視するUSAGI。フェイはそんな彼を表情を固めながら睨んでいる。
「USAGI!フェイを返すやんね!」
「それは無理!だってぇ、返すのは試合に勝ったらの話だったじゃん。ラビットマン約束は守る男なのだ!まぁフェイくんは次の試合でってことで★」
USAGIはそのままデバイスを取り出してこの時代から立ち去ろうとする。しかし黄名子はそれを黙って見るつもりなどない。即座にミキシトランスをしてデバイスを蹴り飛ばす。しかしUSAGIの右手にあっさりと止められる。
「くっ…!」
「迷いなく打ってきたね…。慈悲の心ゼロ!黄名子ちゃんが立派になって儂は嬉しいよ…!」
「フェイ!フェイー!!」
逃してしまう。このままでは逃してしまう。こんな目の前にまで来てもう悔しい思いはしたくない。今まさにUSAGIはデバイスの機能を発動しようとする。
その瞬間、USAGIの身体に四つの柱が突き刺さった。
「───あ?」
「えっ?」
「ん、あれ、何これ?」
『…漸く、一手遅れてくれましたね』
少しくぐもった通信越しの声。しかし聞き覚えのあるものだった。
「こ、孔明さん!?」
『驚かせてしまいましたね。ですが上手く策に嵌ってくれたようですね』
「策…?」
『ええ。とは言えあまりワタクシの好みのものとは言えませんが…』
「ちょ、何これ、めっちゃ動きにくいし、超能力も使えないんだけど」
「無駄じゃよ。その機械は君らセカンドステージ・チルドレンから発せられる特殊な脳波を無効化できる機能がある。簡単には出られん」
いつの間にか現れたアルノ博士。どうやらこの機械は彼の発明のようだ。セカンドステージ・チルドレンを人間に戻す薬を模倣したのだ。この手の発明品があってもおかしくは無い。しかしこんな土壇場で使ってくるとはUSAGIにとって予想外だった。
USAGIが博士に気を取られていると、背後から何者かに体を取り押さえられた。
「うわっ!?」
「よしっ!取り押さえたぞ孔明!」
「堪忍しろ!」
「うおっ…!コイツ結構力強いぞ… !本当にそのちょーのうりょくってやつは使えないのか?」
劉備、坂本龍馬そして沖田総司。この時代にいないはずの彼らが何故かUSAGIを抑えにかかってきた。
「うっそ、まじ?」
『そのまま彼の懐を探ってください。言っていた物があるはずです』
「…お、あった!これか!」
劉備はUSAGIのマント下の懐から、奪われていた円堂守のクロノストーンにフェイの檻の鍵、そしてウサギの人形を見つけ出した。
「あー!!それ大事なのに!」
「じゃんぬの嬢ちゃん!」
「は、はいっ!」
鍵を投げ渡されたジャンヌはそのまま牢の鍵を開け、人形とクロノストーンを持たせて、フェイを解放する。
「フェイ!」
「黄名子!」
即座に黄名子の方へと駆けていくフェイ。黄名子はフェイを抱きしめる。フェイが持っていた人形も一緒だ。
「良かった…、良かったやんね…!」
「き、黄名子。苦しい…」
感動的な家族との再会。確かな子への愛情を感じる涙。映画ならば涙腺に響くであろうシーンだ。それを見ながらUSAGIは諦観が滲んだ声色で言葉を発する。
「あーあ、成程。一杯喰わされちゃったワケね」
『……ええ、彼らがこの時代に来る前から貴方を捕らえる策を仕込んでいました』
今USAGIを拘束している4本の柱。何の前触れもなく唐突に目の前に現れた。これは過去からタイムジャンプさせて直接彼の目の前にまで送り込んだものだった。
この不安定の空間の中、正確に座標を設定して攻撃できる存在などアルノ博士しかいない。恐らく試合中に時代を往復してずっと準備を進めていたのだろう。しかし座標は直ぐには設定できない。10分、15分、時間が必要なはずだ。つまりこの機械はこの場所にあらかじめ仕込まれていたことになる。そうして複数の座標に機器を仕込んで誘導、捕縛する作戦。
この策の目的はUSAGIの無力化、及び奪物の奪還。USAGIがまともに約束など守るわけもないと考えていた孔明が考えた策。単純だが、効果はこうして結果を残した。
『狂人とあれど、必ず大きな道は通る。私はそこに転びやすい石を一つ置いたにすぎない。これで詰みですよ、USAGI』
黄名子たちは未だに状況は把握できない。しかしこうしてフェイが解放された以上あとは逃げるだけだ。いよいよ洞窟が崩れ始める。この世界そのものの形が崩れ始めたのだ。
「行くぞ!今は皆儂が運んできたタイムマシンに乗っておる!あとはお主らだけじゃ!」
「うん!行こうフェイ!」
「わかった!」
黄名子たちはキャラバンに向かい走り始める。グラウンドにはいつでも発進ができるキャラバンがあった。そこに向かってただひたすらに走る。
「行かせるわけないでしょう!!!」
「ニケ!?」
「フェイを、返せ!!!」
この状況で目の前に現れたのは拘束されていたはずのニケだ。彼女は執念で拘束具を破壊し、黄名子たちまで追いついてきたのだ。ニケは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
が、それを遮る影が一つ。ニケは咄嗟にガードの構えをとって攻撃を防ぐ。
「端役が出しゃばるんじゃねぇよ!」
「…ッ!!ルートエージェントぉ…!邪魔をするなぁ!!」
「嫌ですよバーカ。私貴女みたいな独善的な人が1番嫌いなんですから!」
「ベータ、君は…」
「……何ボサってしてるんですか。さっさと行けこの木偶!!」
「…ッ、恩に着る!!」
アスレイは黄名子の手を取って走り始める。いよいよ崩壊がピークに達してきた。あたりの空間が不自然に湾曲し始める。
極限ギリギリの状況。そんな中、フェイは強く握られている黄名子の手の感触を感じながら、言葉を紡ぐ。
「…黄名子、ありがとう」
「…えっ」
「USAGIとマスタードラゴンとの会話、ずっと聞いてたよ。あんな風に想ってくれて、僕はすごく嬉しい」
「…え、えへへ。フェイはウチの大切な子供。大切に想うなんて当たり前やんね!早く、帰ろっ。ウチとアスレイさんとフェイの3人で、また話したいやんね」
「……うん。ありがとう、かあさ」
ー
『貴方にはこれからワタクシたちと共に来てもらいます。奪われた他の時代の人たちの居場所も聞かなければいけませんからね』
「このたいむましん?ってのを使ってな!」
「………フフッ」
「…何がおかしい」
そう言葉をこぼしたのは沖田だ。
彼は怒り心頭だった。目の前にいるのは自身の仲間も支えるべき主人も、慕う隊長をも奪い去った忌々しい敵。そんな男が溢す嘲るような笑みは沖田の線に触れるには十分だった。
沖田は怒りの形相でUSAGIのマスクを見る。
「……その顔を、見せろ!」
そう言い沖田は勢いよくUSAGIのマスクを剥ぎ取った。
「…ッ!!何だと!?」
『これは…!!』
仮面の中にいたのはなんと先ほどまで試合をしていたマントだ。劉備と孔明は即座に中身が本人と入れ替わっていることに気づく。
マントは真紅に染まった目を開き三日月のように口角を上げる。
『残念ハズレ★』
(いつの間に。いえ、ならば本人は一体どこに───)
「バン」
赤い閃光とともに、フェイの頭が吹っ飛んだ。
「……え?」
首から上のなくなったフェイの身体が赤い液体をぶち撒けながら無造作に崩れる。生々しい液体の感触を伴いながらその手が黄名子から滑り落ちる。
「………ぇ」
全員が、何も言うことができない。黄名子もアスレイもアーサー王も、そしてベータやニケでさえも、その一瞬に何が起きたのかを理解ができなかった。
いや、理解はできる。しかし直視したくないのだ。たった数瞬前まで黄名子にはにかむような愛らしい笑顔を浮かべていた命は今ただの肉の塊になったというその事実に。
「あ、ゴメン手が滑っちゃった★」
横からUSAGIの声が聞こえる。手にあるオーラガンの煙を払い、適当に手で弄ぶ。
「まぁでも仕方ないよね。裏切り者なんだもん。情報漏洩とかしたら大変だ!しかもこのままじゃ確実に逃げられちゃうと来た!」
USAGIが飄々と何かを言っている。しかしそれがこの場にいる人間の耳に入ることはない。
「じゃあ殺すしかないよね」
ギャギャギャギャギャギャギャギャ!
愉快でたまらないと言わんばかりの声があたりに響く。
黄名子はおぼつかない足取りでフェイだった物の肉塊に近寄る。その場で膝をつき赤に彩られた身体に触れる。足がある。身体がある。腕がある。
頭が──無い。
グシャリ
黄名子の中にある大切な何かが粉々に潰れた音。それが空っぽになった心によく響いた。
【今日の格言!】
・親は子供のためにあるものやんね!大切な子供のために本気になれる!それがウチにとっての親!
【フェイのコメント】
・君が親であったおかげで、僕がフェイ・ルーンだったおかげで、今この状況は作られた。──今はただ、遍く全てに感謝を。