【前回のあらすじ!】
・バブみ(物理)を喰らえぇ!!
・二兎追うもの一兎をも得ず
・おお フェイよ 死んでしまうとは情けない
気がつけば黄名子は一面が赤い部屋に立っていた。四方八方どこを見ても赤、赤、赤。
黄名子の心は混乱を極めた。先程まで自分は部室でフェイたちと話していたはずだ。にも関わらず唐突にここにいた。
周囲を見渡す。部屋には何もないと言うわけではなく、規則的に並べられた複数のベッドにそれを区切るカーテン。幾つかの医療器具や本などの備品。まるで病室のような様相だった。しかし本来ならば清潔な白を保っているはずのそれは血のような真っ赤に染まっている。見ていると不安になる色だ。
ただならないこの状況。この状況で真っ先に己の頭の中に浮かんだものはフェイの無事だった。
「フェイ…?どこなのフェイ!?」
呼んでも返事はない。黄名子は病室を飛び出す。
その中に広がる廊下にもまた気持ち悪いほどの赤に染まっていた。当然のように人は誰もいない。
廊下を走る。行き先など無い。ただ虱潰しに病室を一つ一つ見てフェイを探す。すると、ふと耳に話し声のようなものが聞こえてきた。フェイの声では無い。まるで人同士が噂話でもするかのような声だ。
『…ねぇ、聞いた?例の男の子。…そうよ、あの301の病室の男の子』
『ええ、あの歳で難病だなんて…。寮長曰く助かる見込みも少ないんでしょう?』
『そうみたいよ、もう体もボロボロでろくに動かせないみたいで…親御さんも気の毒よねぇ。あんなに親身にしてくださってるのに…』
『それなんだけれど、実は私の同僚が聞いちゃったらしいのよ。病室の扉越しであの子に対する罵詈雑言を!しかも言ってたのはあの子の両親だそうよ』
『えぇ、なんて酷い。…でも気持ちはわからなくもないわよねぇ。生まれてからずっとここで入院してたんでしょう?お金も大層掛かるわよね。それなのに良くなるわけもなくて、金を食い潰してるって思われてもおかしくないわ』
『でもそれだけに気の毒よねぇ…。生まれつきの病気のせいで人生台無しな上に誰からも好かれないもの』
『私があの子と同じ立場だと思うとゾッとするわ。本当、普通の身体で生まれてきてよかったわ。そこだけは親に感謝ね』
『同情するなら私の当番変わってよ』
『嫌よ、あの子話しかけてもゲームやテレビばっかりじゃない。性格も気味悪いし…、やりがいも何もあったものじゃないわ』
『たまに話すこともよくわからないことばっかりだし、あの性格じゃなかったらマシなのにね〜』
『違いないわ』
『『アハハハハハハ』』
(何!何なのさっきから!五月蝿い!!)
廊下中に響く不快に余りある声を振り切って体を動かし続ける。
ふと並ぶ病室の扉の一つが白く光っているのが見えた。電気だ。あの部屋にだけ電気がついている。半ば反射的にその部屋の扉を開ける。
病室の中は先ほどのような赤とは違い、普段目にするような清潔感ある白の部屋だ。他の部屋とは違う様相に驚きながらもある光景が目に入る。
並ぶベッドの一つに何者かが腰を上げて窓の外を見ている。その後ろ姿は彼女が望んで探していた人物そのものだった。
「フェイ!!」
黄名子は内心ホッとする。今や黄名子にとってフェイは人生の全てだ。いずれ別れるその日まで必ず守り抜くと決めた愛おしい我が子。
「良かった…、無事だったやんね。早くここから出よう!それでみんなを探さないと…」
迷いなくその手を掴む。
──違和感。
「…?フェイ?」
感じる嫌な冷たさと液体の感触。半ば人とは思えないその感覚に黄名子は反射的に手を離してしまう。
自分の手は鮮やかな赤に染まっていた。嫌な汗が全身を伝う。その視線はいまだに微動だにしないフェイに集中していた。
「フェイ…?ねぇフェイ!?」
「……」
必死にフェイの肩を揺らし呼びかける。彼の着ている病院服に赤の手形がはっきりと写る。
唐突に怖くなった。この現状にも、何も答えてくれないフェイにも。焦りと妙な孤独感が喉に迫り上がってきて、それを打ち消そうと必死にフェイに掴み掛かる。
「フェイ!ねぇフェ──」
びしゃっ
フェイの首が溶けた。
「──えっ?」
まるで入れていた容器だけが消失してしまったかのように顔の輪郭が失われ、液体だけとなったそれは病室のベッドに鮮やかな色をぶち撒ける。
自分に倒れかかってくる頭の無いフェイの身体。どくどくと首から流れる血だけが黄名子の肩に流れている。
一瞬、何が起きたのかを彼女は理解できなかった。項垂れる彼の身体、視界に映る夥しい量の赤、どれだけ探しても無い首から先の感触。
「ぁ、あぁ……!ああああああああぁぁぁ!!!」
理解した現実が一気に体に突き刺さっていく。あまりにも認め難い事実が押し潰すかのような重量を伴って落ちてきた。
「フェイ!!フェイ!?ああっ!!そんな、嫌っ、フェイ!!!やめてっ!!」
黄名子はフェイの体を抱えながら必死に落ちた血をかき集め始める。元に戻る事はないと心底では理解していても、そう動かざるを得なかった。しかし当然血を集めても元の形に戻る事はない。指の間から血は流れ落ちていく。
それを見て黄名子は現実から目を背ける。
嗚呼そうか、これはきっと夢だ。慣れないキャラバンの中で寝たから見てしまった悪い夢だ。そう思ってフェイの体に顔を埋める。情けなくも、今の彼女にはそうすることしかできなかった。
「お願い…早く…!夢なら覚めてよぉ…!」
『夢じゃないよ』
聞こえるくぐもった声。反射的に顔を上げると、フェイの首から上に紅色の兎の被り物があった。忘れるはずの無い顔。そう、USAGIだ。
そこにいるはずの無い存在に黄名子は魚のように口を開閉させることしかできない。
「な、なん…」
『夢じゃない。これはれっきとした現実。実際に起こったこと』
現実?何を言っているんだ。こんな出鱈目な光景が現実なわけがあるものか。そうかわかった。これも目の前のUSAGIの仕業に違いない。彼ならば幻覚の一つや二つ見せられる手段を持っていたとしてもおかしくない。
「あ、貴方の、仕業だったやんね!こんな、こんなモノを見せるなんて…!!絶対に許さない!!」
『現実だよ。実際に起きたこと』
「嘘つかないで!早くウチを元に戻して!」
『嘘じゃないさ。君ははっきりとその目で見たんじゃないのかい?』
「うるさいうるさい!!」
ガンガンと頭が痛む。破裂寸前の溶岩のようなものが頭の中に迫っているような感覚が走る。
『君は助けられなかったんだよ』
「そんなわけない!!ウチは、フェイは、みんなと一緒に生きて──」
『フェイ・ルーンは死んだだろう?』
迫り混んでいたものが一気に決壊した。
濁流のように脳内を駆け巡る忘却していた記憶。助けようと、救おうと、後少しだったのに、フェイは死んだ。目の前のUSAGIのせいで。
かつてない感情が黄名子の中に生まれる。
「───ッ!!!!!」
黄名子は目の前のUSAGIを力のままに殴った。頭は拍子抜けするほどあっさりと飛び、病室の壁に当たった後に血溜まりに転がる。
「う、うぅぅぅ!!!───ッ!!!」
燃え上がるような感情はそれだけでは止まらない。近くにあったペンを取り、USAGIの頭を滅多刺しにする。
手を止めた頃にはUSAGIの顔は至る所に穴が空き、綿が飛び散っていた。
「ハァー、ハァーッ…!!」
『…そんなことをしてもフェイは戻ってこないよ』
「──ッ!!」
まだ、まだ言うのか。潰しても潰しても虫のように湧き上がる。悲しみと怒りがぐちゃぐちゃになって表に出てくる。
「お前のッ…お前のせいでぇ!!!!」
今度こそと、ドス黒い感情のままにUSAGIの顔を力一杯突き刺した。グチャリと肉の感触が伝わり、手応えとも言えるものを感じる。
ゴロリと、マスクの中から何かが出てくる。フェイの頭だ。
「──ぇ」
黄名子の突き刺した穴が至る所に空いていて、見るに堪えない姿となったフェイの顔面。片目が潰れ頬が陥没し、脳天に風穴が空いている、愛しい息子の頭。
そんな有様でもその目はしっかりと黄名子を捉えている。その哀しみに満ちた視線で。
『USAGIのせい?違う』
黄名子の心に持っていた全てが崩れ去っていく。震えることも声を出すこともできない。
『お前のせいだ』
ーーー
「ヒューッ、ヒューッ………!?」
黄名子はベッドから飛び起きた。尋常ではない汗を滴らせながら、肩で息をする。
ぐちゃぐちゃになった中身がそのまま心から迫り上がって来て、そのまま口からぶちまけた。
「うっ!?おっ、おえぇぇぇぇッ!!?」
最悪の刺激物が喉を通過する。心の腫瘍を吐いたような気分になるが、一向に気分は良くならない。
余りに、余りに最悪な夢だった。見たくないものの全てが詰まっていると言っても良い負の感情を煮詰めたかのようなそれは、黄名子の心をかき混ぜるには十分すぎた。
しかし、そんなことがどうでも良くなるほどの最悪な事実が彼女の目の前には残っている。
「………うぅ、フェイ…!フェイぃ…!!」
フェイは、死んだ。
USAGIに頭を飛ばされて、そのまま物言わぬ骸になった。その事実がどうしようもなく、今他の何よりも黄名子の心を締め付けていた。いっそ殺すほどに。
「黄名子!」
部屋の扉が開き、誰かが入ってくる。アスレイだ。彼は慌てて黄名子に駆け寄って優しく背中をゆする。
「……大丈夫か、黄名子」
「うぅ…、ううぅ…、ああっ…!」
黄名子の口からは嗚咽しか漏れない。吐瀉物に混じった虚しさと悲壮の味しか今は感じられない。
何もできなかった。何もしてやれなかった。目の前にいたのに、この手で掴んでいたのに、必ず助けると約束したのに、信じてくれると言ってくれたのに、守れなかった。
「黄名子…」
アスレイも同様の思いを持っていた。息子が死んだと言うその事実を受け止めきれなどできていない。しかし今自分までもが崩れるわけにはいかない。こうして今黄名子のそばにいてやれるのは自分だけなのだから。
アスレイは黄名子の口元を拭いて、そっと抱きしめる。
「あぁ、ああああぁっ、フェイ…フェイぃ!!!」
どれだけ渇望しても、もう元のフェイは戻ってこない。アスレイの服を乱雑に掴んで、喉が張り裂けるほどに絶叫する。無力感に打ちひしがれた黄名子の慟哭だけが部屋に響く。
2人で悲しみに暮れる中、棚に置かれた血まみれの兎の人形の瞳がきらりと光った。
●●●
あっ♡♡♡♡♡♡♡
良い♡♡♡
スゴく良いよ黄名子ちゃん!!!その顔が見たかったんだよぉ!!!
無力感に打ちのめされたその表情!!現実を受け入れなくて吐いちゃうその行動!!現実に耐えきれず泣き喚いちゃうあの情けなさ!!
今君は芸術的価値でモナ・リザを超えたぁ!!君は今最高に光り輝いてるよ!!あまりに美しい…!!素晴らしい…!!
もうね、コレを見るために分身デュプリを作ったと言っても過言ではないよ!!目の前で死ぬ我が子!これ以上に精神を破壊されるシチュは無いよねぇ!!はぁー、血液内臓諸々超リアルに再現した甲斐があったものよぉ!!!
あー本当良い、ホント良いぞぉ!!もっともっと見せて♡…ちょっと親父邪魔!
ふぃー、いやぁ良いもの見たねぇ!ロビンくんにカメラ仕込んでて正解だわコレ!ショックで夢見が悪いのもより曇らせ具合に拍車をかけて実に良いと言ったところダァ…!コレは永久保存ものですよ!
ささ、頑張って立ち直ってね!フェイくんの残骸は君らにあげたんだからさ!それに君がフェイくんに託された願いはまだ残ってるんだぜぇ?ギャギャギャギャギャ!!
さて!黄名子ちゃんの様子は後で録画でしっかり見るとして、これから最後の仕上げをしなければいけないからね!アジト到着!
はいただいまーっと!お、全員集合してるね!
「やぁ、お帰りUSAGI。ニケの捕縛もご苦労様。…随分怒ってるみたいだけど」
「──ッ!!ーーーーーーッ!!!?」
あー、気にしないで!唯の癇癪だから。ふふふっ!
「随分楽しそうだね。良いことでもあった?」
まぁこっちの趣味の話さ!それよりも今は大事なことがあるんじゃないのかにゃー?
そうだね、と一言溢すとサリューはみんなの前に立つ。この場にはフェーダのメンバー全員が揃い踏み!
こう見ると様になるよね。流石は未来の皇帝!カリスマ性は負けてないねぇ!
「さて、皆んなエルドラドの制圧ご苦労様。これで計画はいよいよ最終段階に入った。これが完遂されればいよいよ僕らの時代がやって来る。僕らセカンドステージ・チルドレンが支配する世界がね…!」
宿願が叶うとサリューくんはウッキウキですね。しかし現時点では当然のように他のメンバーから不満は出てくる。
まず声を上げたのはメイアちゃんだね!我らがフェーダが誇るバカップルの片割れ。なんか前世だとギリスと兄妹説とかあったよね。実際はどうか知らないけど。
「…ねぇ、いい加減私たちにもその計画とやらの全貌を話しても良いんじゃないかしら。はっきり言って私含めて他のみんなもかなり不満が溜まってるわ」
「ふむ、そうだね。ここまで来ればもう話しても良いか。…だよね、USAGI」
良いよー、もう完成した時点で手遅れだしね。
「…?」
「ふふ、じゃあ聞くと良い。僕らが画策しているのは───」
ーーー
ーー
ー
「───そんな、そんな馬鹿げたことができるわけがないわ!!」
「できるさ。USAGIの力を使えばね」
イェーイ。オイラ、ネガイ、カナエル。
「だからと言ってそんな…!無茶苦茶過ぎるわよ…!理解を超えている…!」
「けど、この計画がなければ僕らは20を迎える頃に死ぬ。君ももっとギリスといたいんじゃないのかい?」
「うぅ…!確かに、確かにそうだけれど…!」
メイアは呻く。
他のメンバーも同様だ。あまりにも無茶苦茶な話。しかしUSAGIの能力も彼らは十分理解している。何より自分たちも若くして死にたくはない。
「手段はこれしか無いんだよ。僕らは生きることができる。短命の脅威にもう怯える必要は無くなるんだ」
確かにそうかもしれない。どれだけ信じ難くとも、自分たちの死の運命を乗り越えることができるのならば…
「…僕は信じるよ」
「ギリス!?」
「僕は、もっと生きてメイアと共にいたい。長く生きたい!」
「ギリス…」
「お、俺もだぜ。例えどれだけ無茶苦茶で信じられねぇ方法だとしても、俺は縋るぜ!そのためにここに来てるんだからな!」
「私も…!ここまで来たんだから止まるなんて考えられない…!」
「僕も!」
「俺も!」
続々手が上がりますねー。みんな命は惜しいと言うわけなのだ。
フェーダの皆んなも何だかんだで生きるために動いて来たからね。短命は全員の悩み。生きて支配する!それだけが満足感よ…!
「じゃあ早速準備に取り掛かる。ザ・ラグーンのメンバーは一緒に来て欲しい」
「ちょっと待ってくれ。まだUSAGIに聞いてないことがある」
おやおやどうしましたギリスきゅん?知りたいことならなんでも答えて進ぜよう!
「フェイのやつはどうしたんだ。裏切り者の彼がここにいないのは僕らの情報が漏れる危険性があるんじゃないのか」
「…そうね。それにそもそもフェイを連れ帰ってくると決めたのは貴方だったでしょう、USAGI。どう始末をつけて──」
フェイなら殺したよ。
「……えっ?」
ちょうど崩壊寸前に逃げられそうになっちゃったからねー。頭吹っ飛ばして殺しちゃった★だから情報漏洩の危険性はないぜー。
「……そうか、なら安心だね。……フッ、ククッ、アハハハッ…!」
「ギリス、どうしたの?」
「だっておかしいだろう?勝手にあんな旧人類を信じて、その結果が大事な友達に殺されるなんて、滑稽以外の何者でもないじゃないか!はははははっ!」
友達……あー、そういえばそんな設定だったなー。
「フフッ、確かにそうね。前から馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまでだなんて。本当、いなくても変わらない存在で良かったわ」
「生意気だったんだよなぁ!いちいち無益な殺生はするななんてキザに決めてよぉ!」
「反りが合わなかったのよ。いなくなって精々したわー」
「違いないね。弱い癖に調子に乗っちゃってさ!SARUから重要な任務与えられたからってつけ上がって、挙句に裏切って、本当馬鹿だよねぇ」
「いっそ先に私たちで殺した方が楽だったかも!」
『ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!』
あらあら、ワタクシ嫌われてるねぇ。ま、フェーダから見たら結構変わり種な善人ムーブしてたし、碌に前線でも働いていなかったから納得だね。しかしこう見ると邪悪の温床だねぇ。自暴自棄も極まればこうなると教えてくれる良い例ですな。
って、うわ。サリューくん目が笑ってねぇ…。ほらほら落ち着いて、儂は全然平気だからねー。
「ゲラゲラゲラゲラ──ぎゃっ!?」
「!!?」
あ、笑ってた子が1人ミンチになっちゃった。壁で現代アートに成り果てている。可哀想に…、写真撮っとこ。
「フーッ、フーッ…!!」
「に、ニケ!?」
わーお、まさか自力で拘束具を破壊しちゃうなんて。いつから君はゴリラに転生したのだ?そしてニケちゃんの視線の先にはーーー、ワタクシ!
「うぅッ、USAGIイィィィィ!!!!!」
ソニックブームを伴って超速タックル!!もちろん左手を添えて優しく受け止めるぜ。僕ちゃんは紳士だからね!
ほらほらどうしたー?話なら聞くぜ。このフェーダのヒーローがな!
「お前!お前ぇ!!よくも!よくも殺したな!!フェイを!フェイを殺したなぁ!!!」
えー、だって裏切り者だったじゃん。情報は生命だよ?わっちらの技とか戦い方とか喋られたら嫌じゃん。
「うるさいうるさいうるさいッ!!!!お前は、お前だけは許さない!!お前も地獄に送ってやる!!!」
部屋にある小物やら本棚やらが殺意増し増しで浮き上がった。おまけに化身まで出してると来たものだ。うーん、殺す気だねこれ。仲間からこんなにも恨まれるなんて…私は悲しい…。
「死ねぇ!!!」
嫌です!!
イナバウアーからの無言の腹パン!無駄ァ!!(クソデカ大声)
「ごッ…、カッ……!?」
ニケちゃん。哀れな敵だった…。しかし問題ないぜ。これから君にはハッピーな人生が待っているのだから!さっさとフェイくんのことなんぞ忘れて別のやつと幸せな家庭を築くことだな!
あ、ニケちゃん反省部屋に放り込んどいて。
「わ、わかった」
さて問題児もいなくなったところで、いよいよ作戦開始だよーん。作戦のメインパーツは俺様だからみんな頑張って動いてねー。
作戦決行は事前の通り明後日!ちゅーわけで一旦解散!今日はゆっくり休んで英気を養ってくれたまへ!
ほとんどがいなくなった頃にサリューくんが近づいてくる。
「…すまないね。不快だったろう?」
いーよいーよ、さっきも言ったけどなーんにも気にしてないから!それに宿願達成に比べれば軽い犠牲というものでしょー?
「ふふ、そうだね。……そういえばUSAGI、雷門は?」
逃しちゃった。ちょっと乱入者がいてね。
「…エルドラドかい」
ソユコト。多分この都市のどこかに身を隠してるんじゃないのかな?
「…小賢しいね。でもまぁ良いさ。何をしたところでもう何もかもが手遅れなんだからね」
窓の外に見える分厚い暗雲を見て独白するみたいに呟くサリューくん。
ふふふっ、そうだねぇ。あともう少しだねぇ。ギャフッ、ギャフフフフフフッ。
●●●
現在未来都市は完全な機能停止状態だ。
フェーダによってエルドラドが落とされて早一日。この未来都市全域にも支配の手は及んでおり、次々と都市の区域は陥落。
強大な力を持つセカンドステージ・チルドレンに人間が敵うわけもなく、抵抗虚しく次々と侵略を許していく。
街の人々はフェーダに攫われ、どこかへ消えてゆく。どこに行ったのか、市民たちは知る余地もない。エルドラドの機能が完全に停止した今、この都市が完全に支配されるのも時間の問題…
「…これが今の未来の現状か」
神童は映像デバイスを閉じて、窓から外の景色を見る。深い暗雲が立ちこんだ空。数々の襲撃によって立てられた煙で作られたであろうそれは、今この都市にいる市民の心情と重なっている。嫌なことだが。
すると後ろから足跡が近づいてくる。霧野だ。
「…これが、未来の世界の姿なんだな」
「200年後の未来…、こんな形で来ることになるなんてな」
現在神童たちは訳あってここ未来都市セントエルダの外れの町に拠点を構えていた。
フェイから話だけは聞いていた未来都市。いつか皆で行こうと約束を交わした日もあった。お得意先の店を案内してあげる、と笑顔で張り切っていたフェイの姿が脳裏に思い起こされる。
「……クソッ、フェイ…!」
「……」
フェイは、死んだ。
USAGIの手で頭部を吹き飛ばされ、生命に最も関わる部分を根こそぎ奪われて死んだ。遠目だったが、その光景はいまだにはっきりと思い出せる。
「……皆んな、辛いんだ。俺たちまでもがいつまでも悲しみに暮れている暇は無い。誰かが、やらなきゃいけないんだから…」
「………」
フェイが死んだ後は、その場にいる全員が混乱状態だった。突きつけられる現実にまともな判断が下せず、脱出どころの状況ではなくなった。
特にあの時酷かったのが黄名子とベータだ。何をしても何を言っても動かない。開ききった瞳孔がフェイだったものを貫くのみで、まるでフェイと同じ死人になったかのようだった。かく言う神童も考えがまとまらず、声も上げられなかった。
しかしその状況を救ったのは3人だった。
1人はザナーク。悪態をつきながらもアーサー王と共に黄名子たちを回収してキャラバンに乗り込んだ。
2人目はマスタードラゴン。湖で十分な力を取り戻したマスタードラゴンはUSAGIからの追撃と、洞窟の崩壊を短時間だが食い止めてくれた。
そして3人目は──、
「神童、霧野。マスターがお呼びだ」
「…アルファ」
エルドラドのルートエージェント、アルファ。
タイムジャンプが間に合わず空間に押しつぶされそうになった時に、スフィア・デバイスを使って神童たちの脱出を手助けしてくれた存在。
天馬曰く一度戦ったらしいが、神童と霧野には面識はない。一応敵組織所属なこともあり、警戒を解いてはいない。
「…アルファ、だったか。感謝する、あの時は脱出を助けてもらって」
「いい、あれはマスターの指令でしたことだ。感謝ならばこれから会うマスターに」
「…ああ」
鉄製の古びた扉を開ける。そこには雷門のメンバー数人と見慣れない初老の男性がいた。
どうやら他の皆も自分たちと同じように呼ばれたらしい。
「よく来てくれたな。アルファよ、下がって良いぞ」
「イエス」
「………」
未来決定委員会エルドラドの議長トウドウ。アルファに命令を送って神童たちを救ったのは彼だった。
フェーダによるエルドラド襲撃。あの時己の終わりを悟ったトウドウだったが、乱入して来たレイ・ルクによって、サカマキ共々逃げることができた。
しかしエルドラドの殆どはフェーダによって制圧され、偶然合流できたアルファを除いてルートエージェントも壊滅している。都市の外れの廃墟に隠れながら現状を憂いている状況。彼らは最早後にも先にも行けなかった。…目の前の希望を除いて。
「……俺たちを助けてくれたことには感謝します。ですが俺たちはサッカーを消し去ろうとした貴方たちのことを信用していません」
「分かっているとも。だが理解して欲しいのは我々もあれ以外の手段がなかったと言うことだ。然しそれも虚しい抵抗だったようだ。……最早今の私にサッカーの有無を決めることのできる権利はない。権力も、組織も、全てはフェーダに奪われた」
どこか虚しげにトウドウは語る。神童は彼のその言葉に諦観の意も込められていることを察する。
「…ネットニュースの情報はやはり事実だったのか」
「ああ、我々は敗北した。エルドラドはフェーダによって完全に制圧され、今や象徴となるタワーも何の効果も発揮していない。こうしてここに来れたのは私とサカマキ、そしてパーフェクトカスケイドを含めたルートエージェントが2人のみ」
「……」
「だがだ。我々は諦めてはいない」
ギラリとトウドウに眼光が灯る。
「…こうして君たちを救出したことには理由がある」
「理由…」
「……」
「頼む、我々と共にフェーダを打ち倒してくれ」
そう言い深く頭を下げるトウドウ。元とは言えエルドラドのトップが頭を下げる。今の状況は彼らにとってそれほどに追い込まれた状況なのだ。
言いたいことはある。あるが、フェイが死んだと言う現実を受け止めきれていない者も多い。それにこの時代を守るためという言い分も理解はできないことはない。神童たちは返す言葉が見当たらなかった。
しかしそんな中普段通りに声をこぼす者が一人。
「ハッ、こいつは傑作だなぁ!あの頭のお堅ぇエルドラドの議長サマが綺麗に腰を曲げてやがるぜ!」
「ザナーク…」
「……我々には最早立てる顔すらない。ここにいるのは懇願することしかできない1人の老人だけだ」
「クク。…で、それで俺がはいわかりましたと了承するか?」
「…君は兎も角、彼らには理由があるはずだ」
「……」
そう、神童たちはまだこの旅の最もな目的を達成していない。サッカー禁止令は未だに施行されたまま。USAGIを、フェーダを倒さない限りサッカーが戻ってくることはないのだ。
「……我々には最早一刻の猶予も無い。このままでは未来もサッカーもどちらも潰えてしまう。なんとしても奴らを打倒しなければならない」
「だが…」
「俺は受けるべきだと思うぞ、神童」
「鬼道監督!豪炎寺さん!?」
「どうしてここに…」
「彼らに呼ばれたんだ。サッカーの未来に関わることとなれば、放ってはおけない」
「アルノ博士からお前たちもいると知ったからな。そんな状況で俺たちだけ現代で待つわけにもいかないさ」
鬼道は神童へゆっくりと近づく。
「……色々、あったようだな」
「……はい」
「…フェイ」
頼れる大人の存在が現れ、押さえていた感情が少しずつ決壊していく。守れたはずだった。救えたはずだった。今になってフェイとの楽しかった思い出ばかりが蘇ってくる。
決して長い時間一緒にいたわけでは無い。しかしそれでも確かに彼は雷門の仲間だったのだ。
「…神童」
フェイの死は雷門のメンバーに大きな傷跡を残した。信助や黄名子はまだその事実を受け止められていない。ここにいる神童や剣城だって、気丈に振る舞って耐えているだけだ。
仲間が死ぬ。その経験をしたことがない鬼道にはその気持ちは知るに余りあるものだ。しかし大切な者の死の重さは知っているつもりだ。
「……お前たちは今日はもう休め。今は整理する時間が必要だ。話は俺たちが聞いておく。また明日、まとまった話をするからその時にお前たちがどうしたいかを決めるんだ。飽くまで選択肢はお前たちにあるからな」
「…はい」
ーーー
現在拠点としている場所は廃墟といっても、水と電気はしっかりと通っているし、中に備えられた設備もしっかりとしている。あくまで管理が放棄され、誰も使わなくなった場所に過ぎない。セントエルダではこのような建造物が多々ある。それはザナークのようにかつて荒くれ者がここ一帯を支配していたからと言う理由もあるが、兎に角設備は使える。
天馬は薄く汚れた部屋へと足を踏み入れた。明かりはついているが、それは薄く鈍い光。少しだけ気味が悪く感じた。
この廃墟はかつて病院だったらしい。故に遺体の安置室も当然ある。
USAGIはフェイの遺体を持ち帰らなかった。いや、黄名子がザナークに連れて行かれる時に無理やり持ち帰ったといった方が良いだろう。頭部が丸ごと無くなったそれは、中学の学生が見るにはあまりに衝撃が大きかった。事実天馬もそれをみた時には言葉を発することができなかった。試合の時に話していたばかりの友がただの肉の塊になったと言う事実はどうしようもなく天馬の心を抉った。
しかし今こうして彼はフェイの遺体が安置されている部屋に来ている。理由は、彼自身もよくわかっていない。もしかすれば勘違いだったのかもしれない。そんな願望に近い希望を持ったのかもしれない。
「…あ?」
「ベータ…?」
部屋には先客がいた。
ベータは天馬が来たことに気づくと、慌てて目の涙を袖で拭いて、フェイが置かれているベッドから離れる。
「なんでここに…」
「…それはこっちのセリフですよ。態々遺体を見にくるなんて……物好きですね」
「うん、ちょっとね…」
「……」
…それ以上の会話は続かない。そんな余裕は2人にはないし、それに今ここで理由を聞いても一層気まずくなるだけ。そう直感で思った。
しかし考えてみれば不思議なものだ。ベータとはあれだけ明確に敵対していたというのに、いつの間にかこうしてサッカーを共に守る一員となっていた。これも彼女のことを親身に見てくれたフェイのおかげなのだろう。
天馬はフェイの遺体に近づく。頭の部分は配慮からか白い布で覆われていて、しかし明確に本来あるべき部位が無い。
肩で息を上げながらも、天馬は首にかけられた布を取った。当然現れる首から上が焼け焦げた跡から途切れた存在しない頭。
込み上げる吐き気を無理やり押し留めるのに必死でそれ以上の行動を取ることができない。妄想していたくだらない希望は粉々に打ち砕かれ、絶望的な事実だけが残る。これが、現実だった。
「………私は、いつもそうなんです」
ベータが震える声で言葉を紡ぎ始める。
「いつも、失ってから気づく。オルカがそうだったみたいに」
くしゃりとフェイの服を掴む。
「でも今回は、気づいていたのに…!知っていたのに…!わかっていたのに…!大事な人だってわかってたのに…!!絶対に離してやらないって思ってたのに!!」
「なんで、なんで死んじゃうんですかぁ!!」
ベータは情けなく泣き喚いた。幼子のようにびえびえと涙と鼻水を垂らしながら冷え切ったフェイの手を握りながらこの廃墟全体に響くのでは無いかと言うほどに大きく喚いた。
それに釣られてか天馬も我慢していた涙がボロボロとこぼれ落ちてくる。
「……フェイ。ごめん、ごめんよ。助けてあげられなくて、お礼も言えなくて…!!」
この時空の旅で最初に手を差し伸べてくれたフェイ。彼の存在はまだ誰の味方もいない天馬にとって何より頼りになる存在だった。これまでの旅でも窮地を何度も救ってくれた。デュプリたちとの戦いでも彼がいなければきっとミキシマックスは完成しなかった。
何も、返せていなかった。
「うぅ…、ううぅッ…!!」
泣いても喚いても死んだ人間は帰ってこない。そう理解しても涙は止まらない。
2人の泣き叫ぶ声だけが、フェイのいる安置室に木霊した。
●●●
いやー、一仕事した後のメロンソーダは格別ですねぇ!!やっぱコレですよコレ!ポテチも美味しい…、っぱうすしおだね!
さてさて、やることやったしあとは天馬きゅんたちが来るまで、ゆっくり録画した黄名子ちゃんのリアクションを鑑賞しておくぐらいだね。
え?天馬きゅんたちが立ち直れるのかって?大丈夫、大丈夫、雷門にはまだ打てる希望を用意してるからね!それを知ったら儂等の計画を止めようと動かざるを得ないし、モチベにもなる。フフ、我ながら完璧すぎる流れで思わず震えちまうぜ…!
「…ッ、ゴホッ…、ゴホゴホッ!!」
血だ。
……あー、いよいよかなこれは。先のデュプリの無理矢理な強化は流石にキツかったみたい。
でもまぁここまで来れば関係ないねぇ!!命燃やして突っ走ってやろうではありませんか!
正直に告白するなら、某はサリューくんの作戦に素直に従うつもりなんてこれっぽっちもない。ここまで用意したものは全部吾輩の人生最高のショーを行うためにしてきたこと。宿願とか、正直どうでも良いし、達成したとしても幸せになれないことは知ってる。
だから利用してやるのだ。フェーダのみんなの願いも、今まで手に入れてきたものも、雷門のサッカーを取り戻したい意志も、ぜんぶぜーんぶ、ぐしゃぐしゃになるまで使い倒してあげちゃうんだから!我の幸福のために!!
「……あははは、僕の人生最後のフィナーレなんだ。ズタズタのボロ雑巾になるまで最高に最低に振り回してあげるよ。イナズマイレブン★」
補足:黄名子ちゃんが見た夢は、前の試合でフェイが精神に干渉したせいで残ったフェイの記憶。それが黄名子の不安定な精神とフュージョンした結果だぞ!おぉ、怖い怖い。
【今日の格言!】
・お前は、お前だけは許さない!!お前も地獄に送ってやる!!!
【フェイのコメント】
・是非とも黄名子ちゃんの口から聞きたいです(真顔)